第238話 墓地ダンジョンの間引きが無事に終了する件



 ハスキー軍団とルルンバちゃんばかり活躍して、新人ズはあまり目立たなかった中ボス戦だったけど。ドロップはまずまずで、本日2枚目のスキル書を確認出来た。

 それから魔石(中)が1個と、魔石(小)が1ダース程度。賑やかしの護衛兵士たちも、実はそれなりの強さだったみたい。他にも、兵士たちは武器と装備を少々ドロップした。


 部屋の隅の宝箱は、形状は大きかったが中身はそうでも無く。鑑定の書(上級)が4冊に魔石(中)が4個、薬品はエーテル700mlに初級エリクサー500mlにMP回復ポーション600mlに浄化ポーション700mlと今回は多め。

 他にも禍々しい大槍と強化の巻物が2冊、そして毎度の小判の数十枚入った壺が。


 これを受けて、家族で軽く作戦会議……と言うか、もう少し探索を続けるかどうかの話し合い。香多奈はもう少し行きたいと駄々をこねて、姫香もそれに乗ったので。

 割と呆気なく、先に進む事が決定してしまった。まぁ、ペット勢はともかくとして、人間側には余裕があるのは確か。そして護人と紗良がチェックした限り、ハスキー達も平気そう。


 新人ズには多少の疲れが出ていたので、協議した結果次の層から後ろに下がって貰う事に。この辺の命令をちゃんとこなせるのも、試験の範囲だと護人が口にすると。

 香多奈はしっかり、茶々丸に側にいなさいと言い聞かせる素振り。萌の方は出しゃばる性格では無いので、その点は安心なのだけど。

 イケイケの性格の茶々丸は、言い聞かせないとちょっと危険なのは確かで。


「これが守れないと、次からは連れて行けないからな……しっかり言い聞かせるように。これは命に関わる事でもあるから、審査は厳しく行くからね」

「分ったよ、叔父さん……ちゃんと聞いてた、茶々丸っ? しっかり言う事聞いて、勝手に動いたらダメなんだからね?」


 当の茶々丸は、小首を傾げて要領を得ない素振りだったけれども。香多奈がしっかり手を握ると、笑顔でリラックス状態に。以心伝心は、どうやらしっかり出来ている様子。

 そして短い休憩の後、ハスキー軍団を先頭に11層へと進む来栖家チームの面々。その前に拡がるのは、またもや風変わりな風景だった。


 遺跡タイプは継続されていたけど、中身は何故か洋風へと変化しており。出て来る敵も、洋風ゾンビと狼男のセット。たまに骸骨と骸骨犬が混じるが、概ねそんな感じ。

 ゴーストも普通に出て来て、香多奈が張り切って水鉄砲で撃ち落としに掛かっている。何しろこの層から、姫香と護人が前衛に出ていたので。

 後衛の護衛役は、自然と茶々丸&萌となっていて。


 とは言え、紗良の肩にはミケも乗ってるし、紗良の《結界》や《氷雪》スキルはそれなりに強力だ。そんな訳で、洋風ゴーストがいなくなると、末妹も割と呑気モードに。

 スマホのカメラをあちこちに向けて、撮影&解説をし始める少女である。確かに外国の墓地と言うのは、日本のと違って雰囲気があってお洒落かも。


 周囲も蔦の絡んだレンガ造りの壁が続いていたり、重厚な大扉がはめ込まれていたり。それはどうやっても開かない仕様なのは、ルルンバちゃんによって確認済み。

 そんな11層の肝心の敵の強さだけど、ゾンビとスケルトンの強さは他の層とそんなに変わらず。狼男だけは、俊敏で結構強かったが数はそんなにいないみたいだ。

 そんな狼男、レイジーに倒されて皮素材をドロップ。


「狼の皮かな、これまたシュールなドロップだねぇ、護人叔父さん。ここのダンジョン、仕舞いにはお供え物のお饅頭とかが宝箱から出て来るかもよ?」

「それは嫌だねぇ、食いしん坊のコロ助が勝手に食べないように見てなきゃ」


 そんな軽口を姉妹で叩きながら、進んだ通路の先の広場には。何だか見慣れた魔方陣と、湿った嫌な空気が一行を待ち構えていた。

 前の層と違って洋風だけど、仕掛けは一緒らしい。チームが近付いた途端に、魔方陣に召喚されたのは3メートル近い巨人だった。


 こめかみからボルトが生えてるので、恐らくフランケン的な何かなのだろう。死体を無理やり動かしている点では、確かに死霊縛りの一員に間違いは無いけど。

 これは強そうだと、護人とルルンバちゃんの前衛陣で早速抑えにかかるけど。そのパワーは凄まじく、無手なのに殴られた護人は盾ごと吹き飛びそうに。

 その途端、チームに警戒の呼び声と緊張が走る。


 フランケン的な相手は、古びたスーツ姿でその暴れる姿は割とシュール。それでも実力は本物と、飛び込むアタッカーもカウンターを警戒しながらの削り作業。

 ルルンバちゃんもそうだが、向こうも痛覚の類いは無いらしく。少々切り裂かれようが燃やされようが、動きが鈍る事の無い強敵の出現に。


 頑張れとの声援を貰ったコロ助のハンマー攻撃が、巻き返しの切っ掛けになった。何しろルルンバちゃんは、アームを引っ張られて端っこに引っ繰り返って身動き不能状態。

 護人も防戦一方で、四腕全開でも相手の攻撃を防ぐので精いっぱい。思えば今まで出遭った強敵に、ここまでのパワーファイターはいなかったかも?

 端っこで起き上がろうと藻搔くルルンバちゃんが、少し哀れ。


「もっと足を狙え、少しずつだが動きは鈍って来てるぞっ!」

「了解っ、護人叔父さんも無理はしないでっ!」

「ミケさんに応援頼もうか、叔父さんっ? それとも水鉄砲使ってみる?」


 フランケン的な何かに雷撃は逆効果な気がするが、どうなのかは不明。浄化ポーションに関しても、これまた微妙な効果しか上がらない気がする。

 そんな訳で、後衛組の参加は保留して備えていてくれと口にする護人。そんな思考と指示を出せる余裕が出て来たのも、相手が随分と鈍って来たから。


 どうやら足を狙う作戦は、段々と効果が得ら始めた様子。ツグミの足止めからのコロ助のハンマー攻撃で、相手の右足は粉砕されてしまっており。

 逆の足にしても、姫香とレイジーが刀でズタズタに切り裂いている。それでも動けている相手も凄いが、これなら護人も手を出す余裕が出て来た。

 そして魔断ちの神剣の横薙ぎの一撃で、ようやく敵の首を撥ねて活動停止に。


「やたっ、スキル書3枚目ドロップしたっ! お疲れさま、叔父さん……どうやってルルンバちゃんを起こそうか?」

「俺の“四腕”で、何とかなるか試してみようか……香多奈、ルルンバちゃんに大人しくするように言ってくれ。暴れ回られると、あぶなくて近付けないから」

「強かったねぇ、今の敵……魔石もやっぱりテニスボールサイズだよっ!」


 フランケン的な何かは、魔石(大)とゴツいナックルガードをドロップ。それからスキル書も1枚、香多奈がさっさと回収して回っている。

 それを手伝う茶々丸は、戦闘参加していなくても嬉しそう。そこら辺は、香多奈と思考回路が似ているのかも。大きな魔石を回収して、紗良にはいっと手渡している。


 そして褒められると、極上の笑顔になると言う。精神年齢的には、さすが去年の春産まれと言った感じ。ただまぁ、悪い子では決してないのは確かである。

 そんな中、ようやく自由を取り戻したルルンバちゃん。物凄く不本意そうで、機嫌が悪いのが丸分かり。こちらも幼さ的には、似たり寄ったりなのかも。

 とにかく12層への階段は、もうすぐそこだ。


 その前に再度の家族会議、魔石(大)を落とす敵が何度も出るとちょっと洒落にならない。ただしここでも、あと1層だけとの香多奈の我が儘が発動して。

 と言うより、ルルンバちゃんの機嫌が悪くって、活躍しない事には回復しそうにないので。可愛い家族のために、もう少しだけ探索を続けてと言われてしまったら。


 断る訳にも行かず、もう1層だけ潜る流れに。みんなでルルンバちゃんの機嫌を取りながら、妙な流れのまま12層へ。そして出て来る雑魚たちを、ミンチにして行くAIロボ。

 いや、ちゃんと潰れたら魔石になってくれるからグロ感は最小限に留まってくれて本当に助かる。ここも洋風のゾンビとゴースト、スケルトンの鎧もどこか洋風だ。

 ただし、やっぱり一番強かったのは狼男だったけど。


「こんだけ暴れ回ったんだから、少しは気も晴れたろう……これで戻っても、全然オッケーな気もするんだけどな。

 どうも奥の召喚用魔方陣は、また厄介な敵を呼び寄せそうだし」

「そうだね、護人叔父さん……でもついでだから、これを倒してから帰ろうよ」

「そうだよっ、まだスキル書が3枚しか集まってないんだから。強い敵が出るなら大歓迎だよ、やっつけてから今日は終わりにしようよっ!」


 そんな訳で、またもや子供に押される形で最後の戦闘に。張り切るルルンバちゃんだが、今度も洋風な死霊だった場合に備えて護人は子供達に前もっての指示を出しておく。

 特に強敵系のゴーストはヤバいので、念の為にツグミの《空間倉庫》に予備の水鉄砲を潜めておいて。その他の準備も滞りなく済ませて、護人を先頭に魔方陣の前へ。


 それに反応して、まず出現したのは立派な洋風の棺とそれを守護する2体のガーゴイル。左右に並ぶ石像の守護者は、それ程大きくないが石の剣と盾持ちだ。

 護人はそれを見てチームに指示出し、ルルンバちゃんはガーゴイルの相手をして貰う事に。もう1体は自分が担うとして、そうするとあのいかにも怪しい棺がフリーになる。

 不安に思っていると、その棺が開いて怪しい衣装の吸血鬼が出現!


 なるほどそう来たかと、姫香がその青白い肌の黒マントの男に突っ込んで行く。これでフリーな敵はいなくなったが、大ボス相手の姫香が少し心配だ。

 武器と盾持ちの石像は、その扱い方も心得ているようで。愛用のシャベルに持ち替えた護人も、翼持ちのこの相手には手古摺りそうな気配。


 ルルンバちゃんも敵に上空を取られて、思うように戦果は上がっていない様子。ハスキー軍団はそれぞれサポートに当たっていて、今の所は姫香も相手を押し気味である。

 とは言え、この吸血鬼も霧になったり蝙蝠こうもりとなって分散したり、決定的なダメージは上手く避けている。ただし、ツグミが《闇操》スキルで姫香のサポートに抜群の安定感。

 それでも、吸血鬼を倒すまでの決定力には至っていない。


 吸血鬼の武器は、どうやらレイピアのような細剣だった。そこから繰り出す鋭い突きは、姫香の運動神経とツグミの闇のサポートによって全て阻まれている。

 ただし、白刃の木刀の攻撃も、ほぼ効果が上がっていない様子。愛用の鍬を持っていないので、得意技の《舞姫》からの《豪風》へと繋げられないのも地味に痛い。


 この辺は、スキル技と武器の相性がモロに出ている感じで仕方が無い事。ただし護人に限っては、敵が硬い石像だと分かって愛用のシャベルへと持ち替えた結果。

 『掘削』からの“四腕”での強引な畳み掛けで、何とか一番手で敵の退治へと漕ぎつけた。それを知ったルルンバちゃんが、自分もと強引に物凄い動きを発揮した。

 普通の小型ショベルが出来る動きじゃ、間違っても無いってな大ジャンプ!


 そして敵の石像を、まるでハエ叩きの様に壁に叩きつけて粉砕してしまった。どうやら新スキルの《限界突破》を使用した模様、恐らく無我夢中での発動だったのだろう。

 今は車体から蒸気を噴き出して、オーバーヒート状態だけど。どうもこのスキル、物凄いパワーだけあって反動もある程度覚悟が必要らしい。


 とにかくこれで、邪魔な護衛役の2体は始末出来た。肝心のボスの吸血鬼だが、何とハスキー軍団と姫香の猛攻に現在もたった1体で耐え切っていた。

 レイジーの炎の斬撃にも、ある程度の耐性があるようで霧と化して華麗に避ける吸血鬼。どうやらこの敵、前の層の奴と違って回避特化みたいである。

 姫香もいい加減、コイツには頭に来ている様子。


「お姉ちゃん、水鉄砲をまだ試して無いよっ! それから茶々丸にお札を持たせたから、それも試してみてっ……熱くなってちゃダメだよっ!」

「あっ、そうだった……香多奈の癖に生意気だよっ!」


 姉としては妹に指摘されるのは、こんな時でも腹が立つらしい。姉妹喧嘩に発展する前に、護人の取り成しとお札を持った茶々丸が戦線に登場。

 その茶々丸は香多奈に手渡された水鉄砲も持っていて、派手にそれを噴射する。霧と化してそれを避けようとした吸血鬼だったが、浄化ポーションはそれにすら反応して。

 派手な絶叫が、周囲に響き渡る事態に。


 そこに差し出された『聖なるお札』だが、これの効果は邪悪なる者の封印とかだった筈。試しに姫香が受け取ったそれを吸血鬼へと放り投げてやると。

 今度ばかりは、霧にも蝙蝠にも化けれずお札に本体を吸収されて行く大ボス吸血鬼。結局はその後の茶々丸のお札への一撃で、再度の絶叫と魔石(大)の出現。

 長かった戦闘は、ようやく終了の運びに。


 ついでにオーブ珠が1個と、表が黒で裏地が真っ赤なマントがドロップしてくれた。これは凄いねと、何とか終わってくれた戦闘を喜ぶ子供達。

 今回ちゃんとお手伝いが出来た茶々丸も、皆から褒められて上機嫌。そう考えると、今回の間引きも無理して12層まで来たのも悪くない結果だったのかも。

 それじゃあ帰ろうかと、リーダーの護人の掛け声に。





 ――は~いと周囲から、元気な返事が響くのだった。








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