第237話 死霊の溢れるダンジョンを深くまで攻略する件



 姫香の最初の一撃は、呆気無く大鎌の振り払いでいなされてしまった。足元を狙ったレイジーの焔の魔剣の攻撃も、宙に飛ばれて効果は無し。

 ハスキー軍団に武器を持たせるのは確かに強力なのだが、口が塞がるのは考え物で。レイジーも『魔炎』を使う度に、剣を器用に地面に突き刺す動作を挟んでいる。


 コロ助も同じく、確かにゾンビやスケルトンを倒すのに白木のハンマーは超便利だけど。ずっと咥えている訳にも行かず、兄弟犬のツグミの収納に頼っている始末。

 工夫が無いと、そもそも犬が道具を使うのは大変なのである。


 いや、普通はこんな器用に道具を使う事自体が変だけど。ハスキー軍団に関しては、その位出来て当たり前って気になるから不思議である。

 人間の言葉もほぼ理解してるし、知能の高さは恐らく“変質”の良い方の影響なのだろう。科学者の中にも、“変質”は新人類への到達の絶対的手段と言う者も出始めているし。


 来栖家のハスキー軍団に関しては、他で良く聞く獰猛どうもう化が無いだけ有り難いと思っていたのだが。変に知能が発達して、最近では自主トレで夜中に探索を始める始末。

 今の所はその位で済んでるけど、主人との絆が薄かったら確かに怖かったかも。それから香多奈の存在も、地味に大きいのかも知れない。

 何しろ彼女たちの感情や言葉を、ある程度理解してしまえるのだから。


 とにかく姫香とレイジーのコンボ攻撃は、見事に空振りしてしまった。反撃の大鎌の横薙ぎを避けて、コイツ強いかもと戦慄する姫香。

 フォローのツグミの『影縛り』も、2度目は効果が及ばなかった様子。つまりは足止めはもう効かないみたいで、自由に相手に動かれるとピンチかも。


 果敢な茶々丸の突き攻撃も、軽いステップで簡単にかわされて。コイツは普通に浮遊しているので、上下左右に避ける事が可能なのだ。

 さすがゴースト、お返しの上段斬りを護人が突っ込んで盾でカバーする。ビックリ顔の茶々丸を小脇に抱えて、一旦離脱に入るチームリーダー。

 雑魚は消えたので、囲い込みは完成とは言え。


 いきなり絶叫され、その音波攻撃に一行は思わ揃って脳を揺らされる破目に。特に耳の良いハスキー軍団には、この攻撃は効いた模様で。

 レイジーとコロ助は、思わず咥えていた武器を取り落としていたり。


「ひあっ、今の声はナニっ……!? ああっ、コロ助が危ないっ!」

「うおっ、誰かっ……!」


 同じく脳を揺らされていた護人は、香多奈の言葉に反応し切れず腰砕け。敵の近くで同じく腰砕けのコロ助に、死神ゴーストの追撃が見舞われる。

 それを華麗にブロックしたのは、音波攻撃などお構いなしのルルンバちゃん。アームでのブロックに、しかし攻撃までには至らず牽制の動きのみ。


 その攻撃を担ったのは、後衛に控えていたミケだった。ウチの子たちに何すんのってな感じの、『雷槌』の魔法攻撃での畳み掛けに。途端に周囲に、焦げ臭いイオン臭が立ち込める。

 その攻撃は、死神ゴーストに割と致命的なダメージを与えた模様。さすが来栖家のエース、厄介な敵の足が止まった所に姫香の飛び込み様の一撃が見舞われて。

 粘った強敵だったが、召喚用の魔方陣と共に滅されて行く事に。


「ふうっ、レア種じゃないみたいだったけど手強かったね、護人叔父さん。やっぱりミケは頼りになるよね、さすがウチのエースだよっ!」

「本当だな、助かったよミケ……弱い敵ばかりで少し油断してたかな、この先も気を引き締めて進まないとな」

「あっ、ゴーストが何か落としてるよ、大きな鎌みたいっ!」


 喜んで駆けつける香多奈とルルンバちゃん、確かにさっきまで敵が使っていた大鎌が地面に突き刺さっている。これ魔法の鞄に収納出来るかなと、悩みながら紗良も近寄って来て。

 他のドロップは魔石(中)のみで、この層に他に目立った仕掛けや宝箱は無し。割とハイペースな間引き道中だが、取り敢えずは10層までにはさっさと辿り着きたい。


 そんな訳で8層を過ぎて9層へ、ここもお馴染みの陰鬱な雰囲気の空間だった。左右に並んだ墓石には、ちゃんと家名が入っていて香多奈がそれを読み上げて行く。

 姫香がその頭をごツイて、その件はそれにて終了の運びに。確かにジョークとしてはブラック寄りだし、聞いているこちらまで気が塞ぎそうではある。

 或いはそれが、このダンジョンの隠し効果なのかもだけど。


 とにかく9層も、敵のお出迎えは割と壮絶だった。ゾンビは腐敗と毒持ちが普通に混じってるし、スケルトンは職業が勢揃い。剣持ちと弓矢持ち、魔術師までバッチリ混じっている。

 それらをいつものフォーメーションで倒しながら、茶々丸と萌も適当に戦闘に参加させつつ。厄介な敵をハスキー軍団の襲撃で倒しながら、雑魚は壁役の茶々丸やルルンバちゃんで倒して行く作戦で。


 それを理解し始めているのか、段々やたらと突っ込んで行かなくなった茶々丸である。成長著しいこのチビッ子だけど、それもレイジーの指導あってのモノかも。

 ルルンバちゃんのサポートもこなれて来た感じ、そして後衛は相変わらず暇と言うこの状況に。相変わらずお墓の並びが気になる香多奈が、1つだけやたらと古い型の奴を発見。

 アレはナニかなと、後衛に下がっている叔父に問い掛ける。


「古いお墓はあんな感じだよ、もはや墓標に書かれた文字も読めなくなってるね。硬い石を使って無いと、自然風化であんな感じになっちゃうんだよ」

「ほへ~っ、ウチのお墓とは違うねぇ……お墓って、そもそも何であるの?」


 少女の突っ込んだ発言に、大人の知識で頑張って対抗する護人。家族が亡くなってからの埋葬は、昔はこの地方も土葬が当たり前だったんだよと説明して。

 それが次第に火葬へと変わって、お骨を埋める風習が当たり前になったのだと。それを聞いた末妹は、だからここもゾンビとスケルトンの混合なんだねと腑に落ちた表情。


 紗良がお墓って怖いイメージだけど、土地によっては墓地で故人をしのんで踊ったり騒いだりする風習もあるんだよと蘊蓄うんちくを披露。

 実際、外国では公園みたいな施設になってたりと、故人への接し方は様々だ。


 そんな話をしている内に姫香も戦闘に参加して、9層の敵はほぼ壊滅し終わった。話の最中もどうにも古いお墓が気になる香多奈は、その裏側を覗き込む素振り。

 妖精ちゃんまでが参加して、家族が見守る中でのお墓チェックの果てに。墓石が動く事を発見してから、その下の隠されていた宝箱の発見までの一連の流れに。


 少女は大喜びしているが、家族の面々はまたかと言う微妙な表情。この能力は何なのかなぁと、末妹の不思議能力の開花に戸惑いを隠し切れない。

 いや、確かに子供と言うのは日常の遊びの中から聡い能力を垣間見せる事も多々あるけれど。少女は確かに探索を遊びと思っている節があるし、最初からスキルを持っていた。

 楽しむ事が能力の向上に繋がるなら、この少女はある意味無敵かも?


 茶々丸も戻って来て、古びた宝箱の中身検証。まず目に付くのは、大判小判の金色の煌めき。それを楽しそうに触る茶々丸、萌も興味深そうに覗き込んでいる。

 他には骨で出来たゴツい壺と、骨の矢尻の矢弾が20本ほど。何故か頭蓋骨の形の水晶も出て来て、姫香が昔流行ったねぇとオーパーツ的な発言。


 それじゃあコレって価値あるのかなと、盛り上がる一部の子供達だけど。空中で片を竦める妖精ちゃんの態度から、どうやら魔法のアイテムでは無い模様。

 それよりこの層、支道の小部屋からも宝箱が回収出来ると言うプチハプニングが。木製の普通サイズながら、中には割と豊富なアイテムが入っていた。

 ただまぁ、木魚とか数珠は洒落が利き過ぎている気も。


 他は普通で、鑑定の書が3枚にポーション700mlと解毒ポーション800ml。魔石(小)が5個に魔玉(土)が4個、それから骨素材が少々とカップ酒が数個出て来た。

 お供え物なのだろうか、これも洒落が利き過ぎて持って帰るべきか悩む子供たち。結局は近くのお墓へとお供えし直して、この件は有耶無耶に。


 そしてしばらく進むと、またもや地面に大きな魔方陣が。今度は何が出て来るのかと構える一行の前に、出現したのは大柄な鎧を着込んだスケルトン戦士だった。

 体型も2メートル超えと立派で、コイツは腕が4本もあって普通に強そう。護人も“四腕”を発動させて、前に出て盾役を久々に演じてみる。

 相手の4本の腕に持つ武器が、護人に目掛けて殺到され。


 それを盾で何とか反らしながら、相手の注意を自分へと惹き付けると。その隙にレイジーとコロ助の攻撃が、敵の鎧の塞いでない箇所へとヒット。

 それから止めとばかりに、姫香の白刃の木刀の突きが敵の眼窩へと吸い込まれる。この流れるような波状攻撃で、ボス級の仕掛けは簡単に撃破されてしまった。


 そのフォーメーションにすら入れなかった茶々丸は、ビックリした表情で先輩たちを見ている。確かにこの半年、チームの戦術は大幅に上昇したと護人も思う。

 それこそ新人の茶々丸が驚くほど、スムーズな役割分担からの敵の撃破はこなれて来ている。それにいきなり混ざろうってのは、さすがにムシの良い話。

 これもレイジー主導で、徐々に慣れて行くべき課題かも。



 9層はそれ以上のイベントは無し、そしてようやく10層へと辿り着いた来栖家チーム。ここの中ボスが物足りなければ、もう少し進もうよと姫香からの提案に。

 時間も3時間足らずで、まぁ良いペースではある。遠征と違って地元なので、終わり時間はさほど気にしなくて良いのは気が楽である。


 香多奈もすかさずそれに賛成して、そして中ボスの部屋前までは割とあっという間だった。張り切っての雑魚退治から、恒例の部屋前での休憩の流れに。

 この層は妙な仕掛けも宝箱の設置も無し、それでもボス戦を前に興奮する新人ズ。香多奈も一緒になって、今回も頑張るよと2人を励ましている。

 ただまぁ、相手が強敵なら護人や姫香が前に出るけど。


「家から持って来た聖なるお札とか、全然使って無いけど大丈夫かな、叔父さんっ? まぁ、まだ敵はそんなに強くないから仕舞ったままで良いかな?」

「そうだな、浄化ポーションだけは用意しておいてくれるか、香多奈。水鉄砲もまだ今回は、一度も使って無いけどな。

 ゴーストがあの強さなら、使う必要も無いかもだけどな」

「ポーションは使ったら減っちゃうからね、奥の手で丁度いいんじゃないかな、護人叔父さん。今回は、コロ助のハンマー攻撃が良く利いてるよね。

 ボス戦では、応援の巨大化も使ったらいいよ、香多奈」


 了解っと、元気に返事をする末妹の香多奈だけど。別にコロ助を嫌いになった訳じゃ無いからねと、先輩のコロ助を立てるのも忘れない。

 ここの所、ずっと茶々丸と萌ばかり構っていたから、確かに普通の子だったら拗ねる案件だが。コロ助は別に平気なようで、軽く尻尾を振ってクールに応えるのみ。


 実際は、群れが大きくなるのは彼も大賛成なので、文句など無いコロ助である。楽が出来るし狩りの効果も上がるし、更には生存率も上がるし言う事無しだ。

 どちらにしろ、母親のレイジーが指揮を執るのだし彼の役割は変わらない。むしろ最近は前に出れるようになって、暴れるのが大好きなコロ助は、この傾向を保っておきたい思いが強いみたい。

 その為には、やっぱり人数の増加は大歓迎なのだ。



 そして休憩を終えて突入した中ボス部屋、迎え出たのは大柄な骸骨馬に乗ったスケルトン騎士だった。鎧を着込んだ骸骨兵士も10体いて、更には魔術師や弓兵も後ろに。

 全部がスケルトンだが、それなりの大兵団だ。広くない部屋なので、余計そう感じるのだけれど。お陰で馬の機動力も、相手は使えないと言う有り様で。


 ルルンバちゃんが中央を受け持って、まずは戦闘は開始された。遊撃に突っ込んで行くハスキー軍団たち、護人と姫香は伏兵のゴーストがいないか慎重に確認している。

 ルルンバちゃんの影から戦闘参加する茶々丸は、さすがに相手の数に突出は控えている様子。萌も同じく、今回は姫香がサポートに入っての戦闘参加。


 香多奈も今回は、コロ助に『応援』を飛ばして2発ほど魔玉でのサポート攻撃を繰り出して。水鉄砲の出番がないかと、集中して戦闘に参加出来ている様子である。

 その隣の紗良とミケは、相変わらず積極的に戦いに加わる事は無し。彼女たちの護衛役の護人も、狙いどころの少ないスケルトン兵相手に、『射撃』スキルで器用に数減らし。

 特に相手の弓兵と、魔術師は素早く倒してしまわないと。


 そんな中、やはり小型ショベル形態のルルンバちゃんの突進は破壊的なパワーを秘めており。敵のボス騎士もお馬さんも、ほぼ活躍の場も無いままにぺしゃんこに。

 彼のアームは、その後も無慈悲に敵を魔石へと変えて行って。何しろ矢弾に撃たれようが、魔法を浴びようが鉄のボディは痛痒すら感じないのだ。

 茶々丸のお手伝いも、ほぼ必要ない程だった。





 ――そんな訳で、10層の中ボス部屋も無事に制覇終了。








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