第236話 ゾンビとスケルトンの大歓迎を受ける件



 続いての3層、ここもゾンビとスケルトンが大量に湧いていて。そして恐れていた事態と言うか、ゴーストも混じって来たと目の良い姫香が報告。

 その難敵を自分の白刃の木刀で攻撃した少女は、アレっと言う表情に。簡単に倒せてしまって、コロッと転がり落ちた魔石(微小)を拾って眺める素振り。


 ゴーストってこんなに弱かったっけと、護人に近寄って来て確認してみるも。護人にもその理由は判然とせず、弱いゴーストってのもいるのかもと推測を口にする。

 そして雑魚のゾンビとスケルトンは、ハスキー軍団と新人ズで順調に平らげて行く。ルルンバちゃんに限っては、完全にサポートに回って魔石拾いがメインに。

 何と言うか、お兄ちゃんスゴイって感じ?


 実際、前に出過ぎた茶々丸が囲まれないようにとアームでガードしたり。香多奈に咬み付きはしちゃダメと言われて、あまり活躍出来ない萌を慰め(?)たり。

 今も茶々丸を座席に載せて、何と言うかご機嫌な空間が出来上がっている。それは別にして、3層も割と順調で護人や姫香も出番が回って来ない程。


 姫香は油断せず、尚もゴーストの襲来に備えているけど。そして小部屋に向かった茶々丸とツグミが、土の中に半分埋まった壺を掘り出して持って来た。

 ちなみにこの壺の周囲にいたスライム、毒持ちだった様で茶々丸が不用意に近付いて、軽く怪我を負ってしまった。半泣きでツグミに連れられて戻って来た茶々丸を、よしよしと慰めて治療を施す紗良だったり。

 それによって、すぐに笑顔を取り戻す茶々丸。


 ちなみに壺の中には鑑定の書が4枚に魔玉(闇)が4個、ポーション500mlに骨素材が数個入っていた。それを見て喜ぶ香多奈、喜んでる香多奈を見て喜ぶ新人ズ。

 良く分からないが、テンションが高いのは結構な事だと。護人も敢えて問題にせず放置、とにかく探索に慣れて貰うのが先決である。


 それによって、今後探索チームに招き入れるかどうかを決定する感じだろうか。香多奈は一緒に探索して回る気満々だけど、強引に連れ回すのも可哀想だし。

 気乗りしない態度なら、例え戦闘能力が高くても探索同行はさせるべきでは無いだろう。何しろダンジョン探索は命に関わる問題だ、無理やり引き連れるには抵抗が。

 その辺は、末妹も話せば分かってくれる筈。


 そんな事を考えている内に、3層を踏破して一行は4層に。ここでも出て来たゴーストは姫香が退治して、他のゾンビやスケルトンはハスキー軍団と新人ズが片付けてくれた。

 この層のスケルトンは、弓兵の他にも鎧装備の剣士も混じっていてやや難易度アップ。とは言え、武器を咥えたハスキー軍団の勢いはその位では止まらない。


 4層の日本の墓石が並んだ本道も、モノの10分で討伐は終了。そして支道を覗いた姫香が、スライムの他にも大きな動く骨のモンスターを発見した。

 特にレア種とかでは無さそうなので、軽くゴーサインを出す護人。コロ助がハンマーを咥えて部屋に入って、大柄なスケルトンは一撃で粉砕される破目に。

 つまりこのダンジョン、難易度は本当に低そう。


「至って順調だね、護人叔父さん……香多奈、そこに宝箱が置いてるわよ」

「あっ、本当だっ……ツグミ、罠が無いか調べてっ!」

「1層15分ペースだな、これなら10層程度までは行けそうかな?」


 10層は確実に行こうねと、子供たちはノリノリな様子。新年早々の家族での探索にも、特に気負った風でも無い。いつもと同じノリで、間引きを行う気構えの様子。

 そして回収した宝箱からは、太骨素材が2本に魔石(小)が4個。それからMP回復ポーション600mlに木の実が3個。MPの回復は、今回はまだ必要無さげ。


 これだけ順調な道のりも珍しいが、これが人数が増えた恩恵かはまだ分からない。ハスキー軍団も新人ズもまだ元気で、それじゃあと取り敢えずは中ボスの間の前まで行く事に。

 そんな感じで4層を突破して5層に、ここからスケルトン兵士に魔導士が混じって来始めた。とは言えたった1体だし、レイジーが接近戦で片付けて終了の運びに。

 茶々丸はゾンビを槍で倒して、前衛での活躍を見せている。


 姫香もこれには驚き顔、戦えるとは聞いていたけどここまでだとは思っていなかった様子。最初から持っていたスキルらしく、その相性が抜群なのだろうけど。

 運動能力もずば抜けていて、特に跳躍して敵の視界から消え去っての一撃は見事。ヤギって自然界では捕食される側のイメージなのだが、考え方が変わりそう。



「これでチーム員になる試験は合格かな、叔父さんっ? これだけ強いんだもん、これからも一緒に連れて行ってもいいよね?」

「確かに強いわよね、ただまぁ落ち着きが無いってのがねぇ……言う事聞かないで前に出られても、こっちが迷惑ってのは分かるわよね、香多奈?」

「確かにそうだな、今の所はレイジーが睨みを利かせているけど。途中からルルンバちゃんもフォローしてくれてたし、それが無いと危ない場面もあったかもなぁ」


 子供だから仕方の無い事だけど、敵は子供だからと容赦などしてくれない。これは香多奈にも言える事なのだが、それに触れないのは優しさと言うか。

 そんなこんなで、簡単には合格は出せないと言う事で話は落ち着いて。むしろ暴走しなくて『頑強』スキル持ちの萌の方が、扱いやすいよねって話に及ぶと。


 それじゃあ今回からのスキル書の相性チェックに、2人を混ぜてよとの我が儘に。それ位はいいんじゃないとの、姫香の援護射撃も加わって。

 何しろ最近は、スキル書のドロップが青空市で売れ残る程に多いのだ。売れ残る位なら、茶々丸や萌に回したって全然構わないとの姫香の言い分なのだが。

 護人も身内のパワーアップ構想には、特に反対は無し。


 そんな話をしながら10分ちょっとの休憩を終え、いよいよ5層の中ボス部屋に。作戦は特に立てず、強そうな奴がいたらスキル全開でサクッと倒そうと護人の言葉に。

 強くない奴は、新人ズに任せていいよねと香多奈の我が儘が発動して。そうは言ってもスケルトン相手では、槍持ちの茶々丸は割と不利である。


 そしてゾンビ相手では、咬み技を封じられた萌は戸惑うばかりと言う。相性ってのを考えなさいよと、姫香は妹に説教をかますのだけど。

 そして中ボスは案の定のスケルトン、しかも3メートルを超す大きさで割と強そう。構わず突っ込んで行く茶々丸は、鎧装備の標準サイズのスケルトンに阻まれる。

 ソイツは3体いて、中ボスを護衛している模様。


「あっ、敵の数は少ないけど……これは手伝った方がいいかな、護人叔父さん?」

「そうだな、俺たちも前に……いや、コロ助とルルンバちゃんがサポートに出てくれているみたいだな」

「心配し過ぎだよ、2人ともっ。ミケさんなんか、今日1回も戦闘してないよ?」


 確かにミケは、今回の探索で全くスキル技を使っていない。後衛組に関しても、ほぼ後ろをついて来ていただけで、支援や回復スキルをちょっと使っただけである。

 そして中ボス戦も、槍を棍棒のように使い回した茶々丸と、尻尾撃でスケルトンの脚を破壊した新人ズのお陰で優勢に。護衛3体はいつの間にか姿を消し、中ボスもボロボロ。


 コロ助の咥えている武器はスケルトンに特効だし、ルルンバちゃんのパワーは言うに及ばず。最後は茶々丸に手柄を譲る余裕も見せ、5層は完全制覇の運びに。

 槍の穂先で敵の骸骨を粉砕した茶々丸は、飛び上がって喜んでいる。ボスのドロップは、魔石(中)とスキル書が1枚。それを拾って、香多奈とワイワイ騒ぐ子供たち。

 ただし、この場ですぐに相性チェックは始めない様子。


 隅っこに置かれていた宝箱は銅色で、中身も割とショボかった。鑑定の書が3枚に、ポーション400mlにエーテル700ml。それから木の実が4個に骨製の指輪が1個のみ。

 それでも嬉しそうな子供たちは、さあ次へ行こうと意欲は高めをキープ。


 それを宥めつつ、それでも休息を入れるほど実はMP消費もしていないので。短い休憩後に、チームに出発を告げる護人だったり。

 紗良が6層以降は、ほとんど情報が無いと告げて来るので。用心しつつ進もうと告げるけど、ハスキー軍団はあまり意に介していない様子。


 確かに6層の雰囲気は、今までと変化をしているように見受けられた。具体的には遺跡タイプの通路の幅が広くなって、卒塔婆の林のような場所が追加され。

 左右は相変わらず墓石のオブジェと提灯の薄明りで、ほとんどが苔むしたような古い墓石ばかり。支道の小部屋も古井戸があったり、埴輪はにわが並べられていたり。

 ゴーストの出現も、ほぼ弱いタイプの奴ばかり。


 卒塔婆の林では、土から蘇るゾンビの演出とかもあって驚いた一行だっけど。出て来たゾンビの強さも程々で、レイジーの『魔炎』で半壊してしまった。

 弱った連中をコロ助とルルンバちゃんで退治して行き、それを茶々丸と萌もお手伝い。何となく形も出来て来た感じもするが、それを完全に信用する訳にも行かず。


 とにかく6層からの変化を、皆で気を付けての探索の続行。この層は造りも微妙に変わっているけど、出て来る敵もゾンビ型の大鳥とか毒持ちゾンビとか多少の変化が。

 毒持ちのゾンビは一層の酸えた臭いで、近付くのも躊躇われる感じ。レイジーの『魔炎』でさっさと燃やすのが一番良いが、コロ助やルルンバちゃんも容赦は無い。

 お陰で姫香や護人まで、出番が回って来ないと言う。


 このお気楽さは何だろうと護人は思うが、考えてみたら先月は高ランクのダンジョンを立て続けに探索してたのだ。それに比べるとこのランクは、ぬるく感じても仕方ない気がする。

 気を抜く訳では無いけど、茶々丸と萌の経験値稼ぎには丁度良いかも。死霊系の敵には辟易するけど、今回の間引きを丁寧にすれば半年は次まで持つ筈。


 そんな感じで6層もクリア、探索範囲は多少広がった気はするのだが。そこまで劇的な変化は見受けられず、その点は安心して良いのかも。

 支道も変な仕掛けは無くて、スライムやシャドウ族がいる程度のモノ。コロ助やツグミが同伴して、茶々丸が倒して回るパターンで今の所は全部屋制覇している。

 そして7層の支道で、ようやく宝箱を発見。


 そこは毬灯篭まりとうろうが派手に灯りを提供している部屋で、宝箱も小振りだったけど。中から魔結晶(小)が4個とMP回復ポーション600ml、再びのロウソクとお線香セットが出て来た。

 それから土と闇の属性石が6個ずつと、スキル書が1枚回収出来て。難易度に比例して回収品もショボかったけど、ようやく2冊目のスキル書ゲットである。


 喜ぶ香多奈は、今日の目標は4冊だからねとハスキー軍団と新人ズに言い渡している。そんな目標を掲げたって、上手く行くかは全くの不明ではあるのだが。

 ただ、香多奈の勢いと妙な能力が、或いはそんな未来を引き寄せそうで何となく怖い。飾りの毬灯篭も、珍しいから幾つか持って帰ろうかと姫香も妹と話している。

 陰気な場所でも、この姉妹は何と言うか元気である。


 そんな“墓地ダンジョン”の仕掛けがいよいよ牙を剥き始めたのは、8層の途中の広場に一行が踏み込んでから。やけに広くて、中央に召喚用魔方陣が見えるなと思ったら。

 そこが途端に青白く光ったかと思ったら、周囲に生温かい風が吹き始めて。これは何か大物が来るかなと一行が思った瞬間に、火の玉が空中に数個出現した。


 それに気を取られている内に、メインの敵が魔方陣の真上に現れていた。そいつは死神風の黒装束のゴーストで、手には大鎌を持っていて。

 ソイツの鎌の一振りで、火の玉はゴーストに早変わりして。驚く一行に向かって、襲い掛かって来た。姫香と護人が、それを迎え撃つべく前へと出る。

 これは探索前に、あらかじめ決めてあった約束事で。


「ツグミ、あのボスっポイの何とか抑えておいてっ! 無理はしないでいいよっ!」

「お姉ちゃん頑張れっ、火の玉ゴーストは4匹いるよっ!」

「了解っ、こらっ……茶々丸は下がってなさいっ!」


 調子に乗って前に出て来た茶々丸を叱りつつ、姫香は近付いて来たゴーストを白刃の木刀で切り伏せる。今度も手応えを感じて、ゴーストは一撃で昇天。

 ところが茶々丸の持っている黒雷の長槍も、並みの武器では無かったようで。その穂先に触れたゴーストは、黒い雷光を浴びて霧となって蒸発して行く破目に。


 それに驚く姫香だが、ツグミが推定ボスの召喚ゴーストを『影縛り』で抑えてくれてる間にと。《豪風》混じりの剣先で、黒装束の敵へと接近して行く。

 ちなみに残りのゴースト2匹は、最初の接近で護人の魔断ちの神剣の餌食に。こちらの剣の能力も伊達では無い、それぞれ一太刀で簡単に切り伏せられてしまっていた。

 残りは魔方陣から動かない、死神風のゴーストのみ。





 ――姫香の繰り出す切っ先に、ゴーストの大鎌が反応した。








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