第235話 お墓ダンジョンに突入する件
日馬桜町には20以上のダンジョンがあって、その中にはクセの強い特徴のモノも数多い。今まで廻った奴では、半ば水没してたりとかゴミ集積場とか配送センターとか。
来栖家の敷地内のダンジョンなんか、まだマシな方って感じのタイプも数多くて。そんな目安で行くと、この“墓地ダンジョン”は結構な癖の強さだろう。
実は日馬桜町は大きな町では無いので、神社はあるけどお寺は存在しない。そんな訳で合同墓地も大きいのは無いのだが、実は小さいのはあったりして。
田舎のお墓事情は、昔から割と大らかである。自分の家の敷地の山の上の方に、何となく墓地を定めてお墓を設置して弔うと言う。
そんな訳で、先祖代々のお墓が乱立している墓地も当然あって。
そんな場所にダンジョンが生えて来ると、当然中もその影響を受けてしまう。生えて来るダンジョンに場所をわきまえろと言っても、当然聞き入れてくれる訳もなく。
そんな訳で、年明け1発目の自治会依頼がこの“墓地ダンジョン”と言う巡り合わせに。別に意地悪と言う訳でもなく、実際に魔素濃度も結構高くなっているらしい。
敷地内の住民も、当然不安に思いつつ生活しているのだ。これも治安維持の案件だと、姫香などは意気が高い。そしてその場所に近付くと、紗良もアレっと言う表情に。
どうやら昔の記憶で、この辺の地理に覚えがあるみたいで。
「この先って、岡野先生の家ですよね? ピアノと習字の教室をなさってて、私も子供の頃に週1で通っていた覚えがあるんですけど」
「ああっ、そうなんだ……さすが紗良姉さんは地元出身だよね! 護人叔父さん、今から行く場所はどこだっけ?」
「その岡野さんの家の敷地内だね、お墓の隣に出来たダンジョンだって話だよ。岡野さんの教室には、地元の子の半分はお世話になってたんじゃないかな?
姫香と香多奈にも通わせようか迷ったんだけど、ウチからじゃ少し遠くてね。その頃には、色んな事情で教室も辞めてしまったって話だったし」
そうなんだと、驚いた感じの香多奈のリアクション。ピアノは習いたかったかもと、姫香も話に乗って来る。紗良は月謝がたった2千円だったんだよと、変な情報を追加して。
それには安過ぎじゃないのと、やっぱり驚いた妹たちの大声。それに反応して、ハスキー軍団がどうしたのと子供たちに顔を近付けて来る。
そんな事をしている間に、キャンピングカーは田舎の家屋の前で停車した。今回から探索に参加する、茶々丸と萌が元気に車から飛び出して行く。
どうやら集団での狩りに、今から興奮している模様なのだが。その点、先輩探索者のハスキー軍団などは、風格たっぷりで落ち着いた感じを受ける。
最後に子供たちが車を降りて、周囲を覗ってみたり。
「ああっ、懐かしいな……あっ、岡野先生っ!」
「おっと、本当だ……それじゃあ、挨拶だけして行こうかな。姫香と香多奈は、ハスキー達を連れてダンジョン入り口で待機しててくれるかい?」
「了解、みんな行くよっ!」
そんな感じで、姫香はミケを抱っこしてハスキー軍団と一緒に裏の山へと一足先に登って行った。香多奈も茶々丸と萌を引き連れて、それに追従。
ちなみに茶々丸は、既に穂積そっくりに変身しており、黒装束に身を包んでいる。手には大振りの槍を持って、傍目にはいかにも不釣り合いなのだが。
お試しの探索ではその戦闘能力は、姫香に勝るとも劣らないのは実証済み。何故かは不明だが、身体能力の高さは恐らくは生まれつきなのだろう。
それから槍の扱いは、恐らくは所持していたスキルのお陰なのかも。ハスキー軍団の夜の訓練にお付き合いしていた為か、レベルも結構上がっていたし。
総合すると、足手纏いにはならないだろうと護人の太鼓判付き戦士である。
一方の萌なのだが、こちらも戦闘力の足しになるかは良く分からない。ただし、このチームで一番強い事が鑑定の書で判明した。それが竜種故のせいなのか、はたまた別の要因があるのか。
全く分からないのが、始末に悪いと言うか。元から高いレベルは、一体何故なのかも良く分かってないし。そもそも竜の姿なのに、大人し過ぎるのが変だとの意見も。
何にせよ、従順なのは助かるので、今回の探索の同行許可を出したのだけど。いきなりの活躍など護人も期待はしておらず、まぁ雰囲気に慣れてくれたらと。
そんな感じで、茶々丸と萌を今回連れて来たのは、もちろん香多奈の我が儘による理由が大半である。ただし両者とも、良く分からないテンションでやる気は漲らせている。
その辺は、レイジーのサポートに期待だ。
それから護人と紗良は、岡野のお婆ちゃんに軽くご挨拶。向こうが宜しくお願いしますと、わざわざ家から出て来て探索前の声掛けをしてくれたので。
こちらも頑張りますと言うしかなく、それより紗良のお久しぶりですの言葉に。向こうも覚えていたらしく、軽く世間話が始まってみたり。
岡野先生のピアノ&書道教室は、自宅に子供達を招いてのお気楽な雰囲気の習い事教室で。田舎にはよくあるパターンと言うか、片手間の教室なのでお値段もリーズナブル。
そして同じく田舎にあるパターンで、習い事の教室など周囲に無いので。子供の半分が、岡野先生のお世話になっていた経緯があったのだが。
“大変動”以降は、そんな教室も辞めてしまったようで。
「何しろこんな家の近くに、ダンジョンが出来ちゃったからねぇ……でもあの大人しかった紗良ちゃんが、探索者をやっているとはねぇ」
「護人さんや家族のお手伝いに、付いて行っているだけなんですけどね。岡野先生と同じですよ、地域貢献に少しでも頑張っているだけです」
殊勲な紗良の言葉に、岡野のお婆ちゃんも感心した素振りを見せる。この日馬桜町では、既に来栖家が家族ぐるみでダンジョン間引きをしてくれているのは有名で。
こうやって感謝してくれる地域の住民も、青空市では結構多くって。声を掛けてくれたり、商品を買ってくれたりお菓子を差し入れてくれたりと。
岡野のお婆ちゃんも同じく、仕事終わったらお茶を淹れるねと言ってくれた。
それじゃあ仕事が終わったら声を掛けますねと、護人が口にしてから先行組との合流。裏山への細い道を上って行くと、程無く墓石が整然と並んでいる個人墓地が。
そこには確かに立派なダンジョン入り口が生えていて、香多奈がせっせと雪だるまを製作中。暇だったのか、その数は既に5個目に突入していて。
近くにあった南天の実を目玉にしたそれは、なかなかに愛嬌がある。茶々丸と妖精ちゃんも手伝っていて、突入前から結構な盛り上がりよう。
遅れた事を詫びながら合流すると、姫香は寒そうに早く中に入ろうと催促して来た。時刻はお昼だが、じっとしていると野外は晴れていても寒い。
そんな訳で、護人は探索の開始をチームへと告げる。
「おおっ、中は暖かいね……薄暗いけど灯りもあるし、外よりはずっといいね」
「でもここ、出て来るのはゾンビとかスケルトンとかの死霊系ばっかなんでしょ、紗良姉さん。ハスキー達の出番は少なくなるかも、武器はそれ系に変えた方がいいよね、護人叔父さん」
「そうだな、白木のハンマーに白刃の木刀に……魔断ちの神剣も出しておこうか、扱い慣れてないからかなり不安だけど。
折れちゃわないかな、シャベルと較べると随分と頼りないんだよな」
突入して早々、そんな事を話し合う来栖家チームの面々である。紗良は動画での予習をしていたが、資料動画は少なくて苦労したとの事。
ダンジョン内は丁度良い気温と湿度で、これは大抵のダンジョンに共通している点でもある。変な仕掛けのダンジョン以外は、割と中での探索は過ごしやすいのだ。
それから護人が取り出した死霊系の敵に効果のある武器は、効果的な攻略にとっても大事。何しろ来栖家チームは、かつてゴースト相手に酷い目に遭っているので。
その経験を活かせず苦戦などしてたら、何と言うか話しにならない。こちらも命が懸かっているのだ、生き延びる為には知恵を最大限に活かさないと。
そんな訳で、死霊に特効の武器の配分など。
姫香が真っ先に、白刃の木刀を選択する。理力を使う特訓で、割と使い慣れている武器なのだ。それから護人は、何となく魔断ちの神剣を選択する。
使い慣れているシャベルと較べると、刀身は細くて頼りないのだが。ゴーストを切るとなると、恐らくは一番頼りになる武器には違いなく。
それからコロ助が、香多奈に言われて白木のハンマーをホイッと咥えて持って行った。腐ったゾンビに咬み付くのは、バッチいからと言う理由らしいのだけど。
それもそうだねと、レイジーにも最初から
同伴した茶々丸と萌に、果たして出番はあるのだろうか?
そんな心配をしつつ始まる、“お墓ダンジョン”の探索なのだけど。紗良の情報通りに、出て来るのはゾンビとスケルトンが大半で戦力的には雑魚である。
そしてダンジョンの構造は、驚いた事に遺跡型と言うサプライズ。てっきりフィールド型かと思っていたけど、密封された空間に墓石がズラリと並ぶ異様な空間で。
基本は洞窟のような感じなのだが、墓石と卒塔婆と提灯の並びはスタンダードらしい。途中の支道に、和風の休憩所のような小部屋が幾つかあって。
そこにはスライムが数匹いる、古井戸の設置された不気味な空間だったり。
「うわっ、これは怖いねぇ……古井戸は駄目だよ、そこからお化けとか出て来たら気絶しちゃうかも」
「スライムしかいないから、無視して進んでも良いけど……そうだっ、茶々丸と萌に退治して来て貰おうか?」
そんな訳で、間引きはしっかりとこなす来栖家チーム。雑魚退治を頼まれても、嬉々として真面目に対応する新入りの2人である。
何しろ彼らには、人間の持つ「幽霊コワい」って感情も無いのだし。古井戸もチェックして、何も無かったよと少女に報告して来る。
相変わらず、香多奈としか意志の伝達が取れないのは不便ではあるけど。探索自体は順調で、ほんの15分で次の層への階段に到達。
薄暗いのは嫌なので、灯りは魔法のを含めてつけまくっている一行。そのまま灯りと勢いを保持しながら、次の層へと突入して行く。
新入りの2匹も、特に緊張もしてなくていい感じ。
もっとも、護人にしてみればより子供たちの引率感が強くなっている気もする。だからと言って気は抜けない、この層からはスケルトンの弓兵も混じって来て。
こうなると盾の出番、もっともルルンバちゃんは平気な顔で間を詰めて進んで行くけど。それからアームの一振りで、簡単に敵を倒して新入りにドヤ顔をして来る。
その感情は、残念ながら仔ヤギと仔ドラゴンには通じてないのがアレではあるが。チーム内競争の波乱も含みながら、来栖家チームの探索は今の所スムーズに進んでいる。
途中にゾンビ犬が数匹出て来たが、レイジーに細切れにされて燃やされて速攻で退場して行った。その魔石を拾うルルンバちゃんは、仕事をこなしてとっても幸せそう。
何しろ、茶々丸が拾おうとするのを邪魔する徹底振りで。
「こらこら、ルルンバちゃんったら! 仲良くしないとダメでしょ、お兄ちゃんなんだから。もう1回言うよ、ルルンバちゃんは探索のお兄ちゃんなんだからね?」
「あらら、いつの間にかルルンバちゃんはお兄ちゃんになってたんだ。それは弟たちに優しくしないと駄目だねぇ……だってお兄ちゃんなんだから」
「そう言うお姉ちゃんは、妹に全然優しくないけど……痛いっ、わき腹を抓らないでっ!」
相変わらずの姉妹喧嘩の中、ただ1人ルルンバちゃんだけはお兄ちゃんと言う言葉に感動なんかしていたり。ライバルだと思っていたのに、何とお兄ちゃんだったのだ。
この言葉が、彼の心の中に重々しく響き渡る。
それを機に、すっかり素直になったルルンバちゃんである。茶々丸と萌のサポートもしっかり行って、お兄ちゃんとしての役目を果たす素振り。
それを見た香多奈もニッコリ、そして2層も
いかにもお墓な回収品に、何となく眉を
そして降り立った3層、ここも結構なゾンビとスケルトンの混雑振り。何しろかなり間引きの期間が空いていて、いかにも敬遠されていたダンジョンだったので。
最初の魔素鑑定でも、割と高めの数値だったのだ。
――雑魚の密度だけで済めば良いが、果たしてこの先に何が待ち受ける?
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