第231話 茶々丸と萌が初デビューする件



 今回も毎度の香多奈の我が儘が発動して、叔父の護人に喰って掛かるには。お姉ちゃんばっかりが、友達とダンジョンに行くのは不公平だとの切実な訴え。

 どこかで聞いたフレーズだが、アレは確か去年の夏休みの頃だったか。あの時も紗良と姫香が広島市に研修旅行に行って、置いてけ堀の香多奈が不満を口にしたのだったっけ。


 それは仕方が無いよとか、ダンジョン探索は遊びじゃ無いよとか。そんな常識など、子供の感覚には通用しない。姉が遊ぶなら自分も、大事な焦点は公平さのみ。

 そして少女の計画は、今回に限っては物凄く精密に計算されていた。つまりは茶々丸と萌を、一緒に連れて行ってチーム戦闘デビューさせてあげようと言うのだ。

 何と壮大で、ありがた迷惑な計画だろうか。


 そもそも茶々丸はともかく、仔ドラゴンの萌は戦闘能力は備わっているのかも不明である。ところが香多奈は、働かざる者食うべからずだとの論法を振りかざし。

 新参者の萌も、自分で働いて家族に貢献すべきだと言って来る始末。当の仔ドラゴンは戸惑っている様子、そもそもこの仔は大喰らいでは決して無いのだ。


 何なら、数日全く食べなくても平気そう。出されれば、新鮮な牛乳を飲んだりパンに噛り付いたりもしているけど。生態は全く不明のまま、護人もその点は戸惑っていて。

 考えた挙句、家族に不都合が無ければいいかなってファジーな結論。身体が大きくなれば、外で飼うって事は既に香多奈に言い渡しているし。

 それまでは、愛情を持って家庭内で飼育する事に。


 もっとも、当の香多奈は割とスパルタでの育成方法に転じている様だけど。ドラゴンだから強いでしょ的な感じで、今回も探索に狩り出した模様。

 産まれてまだ数週間だと言うのに、何と言うか哀れに感じなくも無いけど。萌の態度から察するに、構って貰えて嬉しそうな雰囲気も感じられたり。


「仕方ないな、ちょっとだけだぞ……麓の学校前ダンジョンに行こうか。基本は俺とレイジーとコロ助が前衛で、大丈夫そうなら茶々丸と萌も戦闘して貰う感じかな。

 無駄に深く潜らないし、茶々丸達にも無理はさせないからね」

「それでいいよっ、叔父さん! 多分たけど、茶々丸も萌も強いと思うのっ! だって鑑定の書の結果とか凄いもん……何でこの子たち、最初から2人ともスキル持ってるのかな?」


 それは護人だって知りたいし、意味が分からない事象でもある。茶々丸のレベルは、恐らく夜のハスキー軍団の訓練について行った結果なのだろうけど。

 産まれて来たばかりの、萌のスキルとレベルの高さは本当に不明。



【Name】茶々丸/Age 1/Lv 07


HP 40/45  MP 22/36  SP 20/32

体力 E+  魔力 E   器用 D-  俊敏 C+

攻撃 C+  防御 D   魔攻 F   魔防 D-

理力 E-  適合 D- 魔素 D  幸運 D+

【skill】『跳躍』『角の英知』

【S.Skill】

【Title】《逃亡者》



【Name】萌/Age 1/Lv 27


HP 220/235  MP 412/488  SP 205/234

体力 B  魔力 A+  器用 B-  俊敏 C+

攻撃 B  防御 A+  魔攻 C+  魔防 B

理力 C  適合 C   魔素 C-  幸運 C+

 

【Skill】『頑強』

【S.Skill】《宝石魅了》

【Title】《意志ある宝石》




 しかも2匹とも、無駄に称号持ちだと言う事実。茶々丸の《逃亡者》はその通りで、恐らくは『跳躍』と言うスキルの仕様で、柵を軽々と突破していたのだろう。

 『角の英知』の方は、どんなスキルなのかは良く分からないけど。どうも槍を持たせたら、かなり上手く使いこなす事が可能だと、妖精ちゃんが香多奈に入れ知恵してくれたそう。


 そして萌に関しては、何と言うか滅茶苦茶である……レベル27って何だ、《意志ある宝石》ってのも意味が分からないし。ステータスなんて、Bが平均値と言う凄まじさ。

 特殊スキルの《宝石魅了》も訳が分からないが、額の宝石が関係しているのかも。そしてスキルで最初から持っている『頑強』はとにかく有り難い。

 これなら前衛に出しても、簡単に倒される事は無い筈。


 それにしても、香多奈の思いつきの2匹の鑑定結果を見ただけで、既にクタクタの護人だったり。浮かれて探索準備をしている香多奈は、本当に元気で参ってしまう。

 取り敢えず、ダンジョン探索はレイジー達に頑張って貰うとして。遊び感覚の香多奈のお守りを、自分が請け負う形で丁度良いのかも。


 そして茶々丸と萌が、本当に探索に順応してくれるなら、来栖家チーム的にも将来助かるかなって考えもある。高ランクのダンジョンで怖い目に遭った事もあるし、戦力補強は積極的に考えるべき?

 いやしかし、仔ドラゴンはともかく仔ヤギに期待するってのも変な話だ。当の茶々丸は、穂積の姿に変身済みで物凄くヤル気をアピールしているけど。

 その点を含めて、心配の尽きない護人であった。




 そしてやって来た“学校前ダンジョン”は、やっぱり周囲に雪が降り積もって人影も見当たらず。ランドクルーザーを近くの空き地に停めて、一息つく護人。

 護人も香多奈も既に探索着に着替え終わっていて、準備は万端である。出発の際にも、紗良と姫香には子供の我が儘に付き合うのも大変だねと同情されたけど。


 その末妹が上機嫌なので、まぁ良い事にしようと気持ちを切り替える護人。同じく茶々丸と萌も、今からダンジョン探索をするのだとちゃんと理解している模様。

 ちなみに今回は、レイジーとコロ助、それからルルンバちゃんもしっかり同伴している。しかもショベルカー型で、これだけで反則級の前衛能力かもと思うけど。

 ミケは寒さが堪えるかもと、今回はお留守番である。


 それからきっちり、妖精ちゃんも香多奈の頭の上に乗っかっていてそれ行けみたいなポーズを取っている。護人には分からないが、末妹とこの妖精は異界の垣根を超えた友達なのだろう。

 その隣の穂積の姿に変身済みの茶々丸だが、『上忍の忍者服』を着ており手には『黒雷の長槍』を持って上機嫌。この武器は、“もみのき森林公園ダンジョン”のデーモンがドロップした超一流の武器である。

 効果は《黒雷》を呼び、体力&魔力を大きく増幅する優れモノ。


 香多奈も同じダンジョンから仕入れた『召喚士の杖』を手に、今日こそ精霊召喚を成功させると大張り切り。ちなみにこの武器の効果はMP量&召喚力を中位にアップしてくれる。

 そして末妹は、毎度のように撮影準備もバッチリだ。


「いつでも探索準備オッケーだよっ、叔父さん。あっ、萌に『巨人のリング』を渡しておくの忘れてたっ!」

「ああ、確かに萌を巨大化させて前衛役にする手は使えそうだなぁ。本人が承諾するかは別として、頼りになりそうではあるかな」


 萌に関しては、首輪代わりの可愛い紐を首にしているだけで装備の類いは一切無し。香多奈でも抱きかかえられるサイズ感で、強そうってよりは可愛いが先に立つ感じ。

 ところが香多奈が『巨人のリング』を与えた瞬間に、そのサイズは急激に一回り以上膨らんで凄い事に。このスキル相性の良さは、やはり潜在能力の高さなのだろうか。


 驚き感心する護人を前に、何故か得意満面な様子の仔ドラゴンの萌。今や香多奈ほどの背丈に成長を遂げ、その体格はハスキー軍団にも負けない感じ。

 噛みつかれたら痛そうと、その姿に上機嫌な香多奈だけど。確かに強そうだ、まるっきり獰猛そうな気配を発散していない仔ドラゴンだとしても。

 問題は、これで敵を倒せるかどうか。



 茶々丸も暴走するかと思ったが、レイジーに睨まれて意外と大人しい。リーダーが誰かハッキリ示すのも、チーム探索では確かに大事ではある。

 頼もしいレイジーに先導を任せ、一行は“学校前ダンジョン”へ突入する。何度か探索した事のある場所なので、それ程に緊張する必要も無い。


 ランクも低いし、探索の頻度も高い場所だし。ハスキー達の足取りも軽快で、ここに突入した目的も良く分かっている感じ。茶々丸に手柄を譲る感じで、時折出て来た雑魚モンスターをお裾分けしている。

 それを所持した槍で、簡単に片付けて行く茶々丸。そして得意満面の表情で、護人の方を振り返って来る。どうやら彼に関しては、人間の型でも動きに不自由は無い様子。

 それどころか、槍捌きも素晴らしく見惚れる程。


「おおっ、これもスキルの恩恵なのかな……槍の使い方が、まるでベテラン探索者みたいだ。下手したら、俺や姫香より武器の扱いは上手いかも」

「本当だねぇ、茶々丸ってば思ってたより凄いかもっ! ひょっとしたら即戦力になってくれるかもよ、叔父さんっ!?」


 浮かれている香多奈だが、確かに戦力的には申し分は無いかも。とは言え、相手をしているのは兎とか鶏型の弱っちい敵でしかない。幼さ故の、落ち着きの無さも気になる所。

 一行はレイジーの先導で、どんどん層を降りて行く。そこまで深く潜る予定は無かったのだが、敵の姿が意外と少ないので仕方がない。


 何しろ念の為にと同伴したルルンバちゃんも、張り切って敵をやっつけているのだ。それを止めてと言う訳にも行かず、気付けば5層の中ボス部屋前に。

 ドロップはほぼ魔石の微小サイズだけで、ポーションが落ちてたのを1度拾っただけ。そして萌の出番だけど、ここに来るまで辛うじて何度か敵と戦う事が出来て。

 何と言うか、全く危なげの無い完全勝利。


 こちらもまるで、歴戦の勇者と言う戦い振りと言うか。戦闘種族は伊達じゃ無いねって感じで、尻尾の一撃や噛み付いての敵の破壊はハスキー達並みかそれ以上。

 このパワーで産まれて数週間とは、本当に末恐ろしい限りだけれど。本人は至って呑気で、特に自分の手柄を誇る訳でも無し。


 それでも良くやったねぇと、香多奈に頭を撫でられると嬉しそうな表情に。この辺は年相応かなと思わなくも無いが、育成的にはどうかなと思わなくもない護人。

 他のメンバーの、例えばレイジー辺りは、なかなかやるなと新入りを見直す素振り。ルルンバちゃんなどは、負けてたまるかとライバル心を剥き出しにしてるけど。

 彼も精神年齢は幼いので、それは仕方が無いとも。


「さて、新入りの2人の戦力はだいたい把握出来たけど……せっかくだから、中ボス退治して行こうか。ここまで1時間も掛かって無いしな」

「そうだねっ、叔父さん。せっかく来たんだから、もうちょっと探索したいよっ!」


 その辺の気持ちは護人も分かるので、もう少し探索を続けるのもやぶさかでは無い護人。何しろ本人は、今日は一度も戦闘をこなしていないのだ。

 そう言う意味では、香多奈も召喚には成功していないけど。いや、何だかそよ風っぽいモノを一度だけ、自分の周囲に出現させる事には至ったのだが。


 命令も何も出来ないまま、その朧げな存在は通り過ぎて行ってしまうと言うオチ。香多奈と妖精ちゃんはひたすら残念がっていたが、まぁ一歩前進と前向きだった。

 そのうちもっと、凄い精霊を呼べるよと超ポジティブ。


 そんな事をしながら、突入した5層の中ボスの間だったけれど。これもレイジー任せの護人は、茶々丸と萌に手柄を譲ってやってねと無茶振りオーダー。

 当のリーダー犬は、それでも少しも困った風でも無く果敢に真っ先に突進して行き。どうやら自分とコロ助で弱らせて、新入りに止めを譲る戦法らしい。


 中ボスの間にいたのは、軽トラサイズの有角ウサギが1匹だった。お供に眼つきの悪いバランスボールサイズの有角ウサギが5匹いるが、まぁ楽勝だ。

 レイジーもそう思ったのか、中ボスを軽くいなしながら茶々丸と萌が護衛を倒すのをじっと待つ素振り。コロ助はそのサポート、ルルンバちゃんは動かず。

 戦力過多と判断して、護人が待ったを掛けたのだ。


「ルルンバちゃん、拗ねないで……ほら、一緒に宝箱を開けに行こっ?」


 お陰で拗ねてしまったらしいが、何とか香多奈のフォローで事なきを得たらしい。一緒にドロップ品を拾って、それから宝箱を開けて末妹と一緒に騒いでいる。

 戦いを終えた一行は、楽勝だったとリーダーに報告に戻っていて。護人はレイジーとコロ助を撫でるついでに、茶々丸と萌も良くやったと褒めてあげて。


 今回の結果を分析するに、つまりは戦力としては全く問題は無いとの判断は下せるけれど。香多奈と同じく、調子に乗り過ぎるのを抑える役目が必要かなって感じ。

 つまり自分やレイジーが側にいて、しっかり指揮を執ってやればそれなりに働いてくれそう。これまた幼い子供を、危険な探索に連れ歩く問題は発生するけど。

 とは言え子供と言っても、仔ヤギと仔ドラゴンである。





 ――果たしてこの新戦力、喜び勇んで迎え入れるべき?








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