第230話 女子チームで年明け1発目の探索を行う件



 そんな訳で訓練も行ったし、探索準備はバッチリな女子チーム。ちなみに探索に出掛けるメンバーは、来栖家からは紗良と姫香とツグミとルルンバちゃん。

 それからお泊り組からは、当然の如く陽菜とみっちゃんと怜央奈と言う面々である。皆はヤル気に満ちていて、姫香の乱暴な運転に文句を言う者も無し。


 そして向かう先は、懐かしの“配送センターダンジョン”である。別に宝の地図だとか、秘密の宝物庫だとかの2匹目のどじょうを狙った訳では無いのだが。

 その下心が無いかと問われれば、実はそうでも無かったりして。何しろ出て来る敵は、厄介な硬さを誇るゴーレムやロックがメインのダンジョンなのだ。

 普通はもっと、楽な所を選ぶのが常識ではある。


 その点は、サポートにルルンバちゃんを招いて一応は万全の対策ではある。それから2段ほど強化を施した白木のハンマーと、予備のハンマーを武器に選択して。

 ルルンバちゃんの削岩機を合わせれば、まぁ苦戦する事は無いだろう。目安は3時間程度で、10層に到達出来るかどうかって感じの予定である。


 そんな年明け1発目のダンジョン探索だけど、強化した白木のハンマーが良い調子。出て来るパペットやゴーレム、ロックなどの硬い表皮のモンスターを軽々と粉砕して行く。

 それを持っているのは最初は姫香だったけど、途中から体格の良いみっちゃんが交代して。前衛を3人体制で進んで行き、念の為にと連れて来たルルンバちゃんの出番も無い程。


 ちなみに今回の彼は、ドローン形態で前衛能力はあまり無い。何しろ姫香の運転では、小型ショベルや乗用草刈り機を運べなかったのだから仕方が無いとも。

 それでも姫香とみっちゃんの頑張りで、硬いモンスターは退けられて行き。陽菜も新しい武器の、魔法付与された薙刀でそれなりの存在感を示している。

 後衛の紗良と怜央奈は、まだまだ出る番無し。


「割といいペースで進めてるね、ツグミが罠の場所教えてくれるのが大きいかな? 紗良姉さん、ルルンバちゃんが剥れないように機嫌取っといてね!」

「そうだね、香多奈ちゃんがいないから意思疎通は難しいけど。今の所はそれ位しかする事無いし、頑張るよっ!」

「紗良姉は、いてくれるだけで安心感があるからな……だから怜央奈が、せめてご機嫌取り位はするべきだ」

「ええっ、AIロボと対話とか出来るかなぁ?」


 とか言いつつ、ハーイとか始めるノリの良い玲於奈である。彼女も年の割には性格が幼いので、ルルンバちゃんとは気が合うかもと紗良は内心で思っていたが。

 どうやら本当に、この2人は相性が良い様子。数分もすると、玲於奈の合図で華麗に宙で旋回とか始める、お調子者のAIロボが出現する始末。


 その間も前衛陣は、一生懸命に戦っていると言うのに……ちなみに今回の撮影役は怜央奈なので、レンズの向いてる先は宙を旋回しているルルンバちゃんだったり。

 これには紗良も、さすがに忠告を飛ばす事態に。


 いつもは末妹の香多奈と後衛を組んでいるのだが、あの子はあれで突飛な事はしない。叔父さんや姉に我が儘を言う事は間々あるが、探索中は常に危機感を持っていると言うか。

 何かあれば連れて行って貰えなくなると言うのが、少女の中では最大の危機だったりする訳で。それを回避するために、探索中は極めて真面目な末妹なのだ。


 その点怜央奈は、探索開始から少々浮かれていてそこが心配な紗良である。まさか小学生の香多奈より、ぎょし難い人物がいるとは夢にも思っていなかった。

 ただまぁ、探索に支障が出ているかと問われれば別にそんな事も無いし。集中して行こうと、取り敢えずの声掛けで何とか手綱を操ろうと四苦八苦する紗良。

 これもある意味、即席チーム内での戦いだったり。



 そんなチーム内の事情を含みながら、探索は順調に進んで行く。2層をクリアして3層へ、敵の強さはそんなに変わらず密度も前回の探索程でも無く。

 それでも何となく、怪しい個所は地図が置いてないかとか探して時間を消費する一行だったり。その甲斐は無く、ツグミも何をしてるのってな感じで先に進むのを促す素振り。


 そして今回は、イミテーターを完璧に見破るミケがいないせいで。前衛陣ばかりでなく、後衛の怜央奈まで段ボール型の奴に引っ掛かる始末。

 ここでようやく、紗良がチーム内に雷を落とす事態に。浮かれるのは探索中は厳禁、自分達はまだまだ未熟なのだからと。

 護人と同じく、叱るのは苦手な紗良だけど。


 これは命に関わる問題、怪我程度なら自分のスキルで回復は可能だ。しかしそれ以上ともなると、保護者のいない現状では最年長の自分の責任になってしまう。

 そんな理由での喝入れだったのだけど、それにはすかさず姫香が理解を示してくれて。この娘は本当にリーダーに向いている性格で、チーム内の空気が一瞬でシャキッとなった。

 チームで最年少ながら、その発言力は立派である。


「紗良姉の言う事は絶対だから、美味しいご飯を食べられなくなるよっ、怜央奈!? ルルンバちゃんも、しっかりと後衛の護衛役を頑張りなさいっ!」

「ゴメンなさい、紗良姉っ……真面目にやるから、夕ご飯抜きは勘弁して……」


 胃袋を掴むとはこの事かと、何となく呆れつつ少女の謝罪を受け入れる紗良である。ルルンバちゃんもしっかり反省したようで、今までより高度をキープして真面目モード。

 そして相変わらず順調な前衛陣、サクサクと敵を倒して罠の発見は完全にツグミ任せ。そして3層で、怪しい青ケースを発見して盛り上がってみたり。


 イミテーターでは無いのを確認後、代表してみっちゃんが中身の確認。洗濯ばさみや洗剤、それから洗濯籠などが複数個入っていてまぁ売れそうな品々ではある。

 そして4層では、似たような商品ケースを発見して再び盛り上がる女子チーム。何しろカップ麺がケースで置いてあったり、お醤油や料理酒がやっぱりケースで並んでたり。

 しかもよく見れば、ビールケースや塩の袋も奥に置いてある。


 それらを喜んで、魔法の鞄に回収して行く女子チーム。食料品や調味料の大量確保は、今の時代では割と貴重である。これで宝の部屋に辿り着けなくても、面目は立ちそう。

 戦闘に関しても、硬い敵をハンマーで粉砕しながら前衛陣の快進撃は止まらない。元々そんなにランクの高くないダンジョンだし、敵の密度もそこまででも無いし。


 4層も時間を掛けずに踏破して、5層の中ボスの扉前まで1時間半程度での道のり。全員特に怪我や疲労の影は無く、少し休憩を挟んで中ボス戦の開始。

 出迎えて来たのはお馴染みの大サイズのゴーレムで、足元には割と大量の大ネズミが。そっちの方に驚いた女子チームだったけど、紗良の《氷雪》が吹き荒れて。

 足元のネズミたちの、大半の動きを魔法の冷気で封じ込める。


 ツグミの『影縛』も作用している様だが、一度に10匹以上の足止めに成功している様子。凄まじい成長を遂げているスキル操作だが、これも日頃の特訓の賜物だろう。

 大ネズミの集団に驚いて、前に出ていなかった前衛陣。代わりに中ボスゴーレムが、大ネズミの集団を縫って近付いて来ようと奮闘中である。


 ただし、絨毯の様に敷き詰められた大ネズミに、その歩みも緩慢なモノに。それを見たルルンバちゃんが、飛行モードでゴーレムに接近を果たして。

 削岩機のアタックで、割と致命傷の一撃を見舞う事に成功。頭部分を破壊された中ボスは、フラフラと身を揺らがせて後ろに倒れ込んでしまった。

 大ネズミの大半を下敷きにして、魔石へと変わって行くゴーレム。


「やったね、ルルンバちゃん……残りの大ネズミは私たちで倒そうか、陽菜にみっちゃん。宝箱もあるし、スキル書もドロップしてるよっ!」

「いいっスね、ウチの地元じゃこんな爽快に探索出来るダンジョンはあんまり無いっスよ! 5層突破時間が2時間足らずって、何だか自分が強くなった気が」

「それは大いなる勘違いだ、みっちゃん……でもまぁ、お互いにやれる事はやってるし、チームには貢献出来てるのは誇っていいぞ。

 この調子なら、もう少し進んでも良いな、姫香?」


 そうだねと、皆で残った大ネズミを倒しながらの前衛での会話。そしてようやく、宝箱とご対面。中身は魔玉や木の実、それから鑑定の書とありふれた物の他にも。

 強化の巻物や瓶詰めの食品類、パスタや乾麺も少々。ここら辺は売らずに、家庭で消費してしまいそう。お金になりそうな魔法アイテムは無さげだが、まぁ良い感じ。



 そして余力もあるので、もう2~3層潜ろうと言う話に。3時間程度を目安に進んで、無理をせず戻る感じで元々計画を組んでいるのだが。

 つまりは後1時間は、進んでも平気って事でもある。もう1個くらいは宝箱か商品ケースを見付けたいねと、賑やかと言うか意気盛んな雰囲気は変わらない。


 6層まで来ると、宝の地図の発見は既に諦めてしまった一行だけど。敵を倒せば魔石の稼ぎも自動的に追加されるので、フロアの敵は全部倒す勢いでの進行。

 中ボス部屋を過ぎての階層の変化も、以前と同じでそれ程には感じられず。飛行ドローンや歩行ドローンタイプの敵が増えたくらいで、それも強敵って感じでも無く。

 サクッと倒して、そして問題は7層で起こった。


 ここでも発見したのはツグミで、何度か騙されたイミテーターでは無いと確認して。開封してみると、耳かきや爪切り、消毒液やマスクやガーゼと簡易医療品のセット。

 他にもタオルやらウエットティッシュ、避妊具まで出て来て。それを見たみっちゃんが、興味津々でこれは各々で持って帰るべきかと問うて来る。

 その顔は真っ赤で、皆の彼氏事情に興味あり気な模様。


「そっ、そんなの持って帰っちゃダメだよっ! 置いて行きなさい、みっちゃんってば!」

「ええっ、だっていざと言う時に必要じゃないっスか! 女性は妊娠すると大変な立場なんだから、嗜みとして持っておいた方が良くないっスか?」

「何だ、みっちゃんはそう言う相手がもういるのか……?」


 いないっスけどと、途端にモジモジし始めるみっちゃん。それを冷めた目で見ながら、欲しい人はこっそり持ち帰れば良いだろうと発言する陽菜である。

 あの~、動画回ってますけどと、紗良の余計な忠告で更に場はカオス状態へ。わちゃわちゃと赤くなりつつ議論する姫香とみっちゃんを、ツグミも呆れて見ていたり。


 陽菜は照れもせずそれを手に取ると、しげしげとその商品を眺めて効能を読み始め。それから紗良姉も必要だろうと、箱を手渡す素振り。

 紗良は動画をいったん止めて、多少照れながらもそれを受け取って。紗良姉はちゃんとした相手がいるのかとの問いに、思わずプイッと横を向く紗良姉であった。

 つまり女子チーム全員、浮いた話が無いと言う。


 そんな結果に特に危機感は無いけど、まぁ好きな人の1人や2人はいた方が健全だなと。今日は探索から帰ったら、夜通し女子トークをしようと提案する陽菜。

 思わぬ人物からのキラーパスに、思わぬたじろぐ姫香とみっちゃん。そんな恥ずかしい話をしなきゃならないのと、夜の到来に戦々恐々としてみたり。


 ある意味中ボスやレア種より怖いよねと、話は変な方向に転がるモノの。招くからヤメテとの姫香の制止だったが、幸い8層までにその影は窺えずホッと安堵のため息。

 追加の宝箱や商品ケースは見当たらなかったけど、良い時間になったので一行は帰路へと付く事に。年明け1発目の探索行動だったけど、まずまずの手応えを掴みつつ。

 一行は無事に、地元ダンジョンの間引きを終えたのだった。




 その夜は探索から戻っての、女子チーム揃っての入浴時間から既に騒がしかった。無理やり全員で入ったモノだから、風呂おけが壊れるかって程の喧騒の中。

 予告通りに、誰か意中の想い人がいるかなんて甘い話に。


 ……は、香多奈も一緒にお風呂場にいたので、残念ながらならなかったけれど。女子チームの結束の固さは、割と揺ぎ無いレベルになっているような気も。

 向こうだけ盛り上がってズルいなと、香多奈などは不平をこぼしていたりも。それはまぁ仕方がない、研修旅行で知り合ったと言う縛りが存在するのだから。


 そんな少女は、みっちゃんに髪を洗って貰いながら何かを思い付いた表情に。いつも末妹の髪を洗っている紗良姉は、今回は怜央奈の髪の毛を洗わされていたり。

 姫香は湯船に浸かりながら、末妹の行動を先読みするように言葉を掛けている。要するに、護人叔父さんの迷惑になるような事はするなとの牽制なのだが。

 陽菜はちょっと思う、姫香の想い人は分かり易いなと。





 ――この愛だか恋だかは、果たして女子チームで応援して行くべき?









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