第226話 学校と家で盛大にクリスマス会が行われる件



 クリスマスが近づくにつれて、子供たちのパーティへの熱気は抑え切れない程となっており。そこは“大変動”以降も変わらない、学校がある限り行事も行われるのだ。

 何故なら生活して行く上で、潤いやイベントはとっても大切な区切りだから。それが無いと、学校はただの知識を詰め込む工場に成り下がってしまう。


 そんな訳で、来栖家もクリスマス会に向けて色々と準備が始まっていて。A級ランカーの甲斐谷が置いて行ったクリスマスツリーは、とっくに出されてリビングに飾られている。

 遠征レイドで入手した素材系は、ほぼ全て配ったり家族内で調理したりして消化されていた。例のワイバーン肉然り、行者ニンニクや自然薯やフキノトウ然り。

 それはもう、あっという間に消え去る始末。


 お肉系は、特にハスキー達もかなり気に入った様子で食欲も凄かった。お祭り気分に関しては、特に乗って来ないハスキー軍団ではあるけれども。

 とにかく家の内外は子供たちによって飾り付けられ、見た目も賑やかな事この上ない来栖家である。そんな中、探索関係での変化が少々あったので報告など。


 まずはスキル書とオーブ珠の、毎度の相性チェックの結果だけれど。“もみのき森林公園ダンジョン”のドロップ品では見事にゼロだったのに、今回は2つも当たりが。

 1つ目はスキル書で、何と末妹の香多奈が引き当ててしまった。アンタ幾つ目のスキルよと、姉の姫香の呆れ声もてんで意に介さず喜ぶ少女。

 ちなみに6つ目のスキル取得、大半は使いこなせていないと言う。


 香多奈が積極的に使うのは、支援スキルの『応援』くらいのモノ。そして妖精ちゃんによると、今回覚えたのは『叱責』系のスキルだそうで。

 『応援』が味方の強化だとすると、『叱責』は敵の弱体だろうとの説明を受け。私って凄く無いかなと、調子に乗って舞い上がる小学生である。


 そんじゃあ精霊出してみなさいよと、すかさず姫香の意地悪発言が飛び出して。毎日お風呂場や訓練場で頑張って練習してるけど、未だに上手く行かないこの特殊スキル。

 痛い所を突かれて、グッと黙り込む立場の弱い末妹。結局は、お姉ちゃんのバカといつもの口喧嘩に移行するのだが、この日だけは違った様子。

 何とそのののしりに、スキル効果が乗っかってしまい。


 弱体効果をモロに受ける姫香、それには知らずに使った香多奈もビックリ。挙句の果てには叔父の護人に、こっぴどく叱られる香多奈であった。

 それは仕方がない、何しろ姉妹喧嘩にスキル使用はやり過ぎだ。下手したら命に関わるぞと、叱られた香多奈はションボリ。ただまぁ、妖精ちゃんにもその通りだと同意されて。


 さすがにやり過ぎたと、大人しく姉の姫香に謝る素直な少女。向こうも今度使ったら承知しないよと言いつつ、口喧嘩出来ないのはちょっと寂しそう。

 ミケさんがした事なら怒られないのにと、ちょっと不満気な末妹。当のミケを膝に抱いて、その辺の愚痴を色々と呟いていたりして。

 捕まったミケは、ちょっと迷惑そう。


 ちなみにもう1つはオーブ珠で、射止めた相手はルルンバちゃんだった。周囲を駆け回って喜ぶルルンバちゃん、そんな彼が得たのは《限界突破》系のスキルらしい。

 これは凄そうだねと、ようやく衰弱状態から回復した姫香の言葉に。メカが限界突破したらどうなるのかなと、期待に満ちた香多奈の追従の呟き。


 それからついでに、宝珠《ブレス耐性》と虹色の果実×2個を誰が使うかの話し合いに。果実は前回、後衛が使ったから今回は前衛が良いだろうとの話で。

 《ブレス耐性》も同様で、やっぱり一番危険なのは前衛だとの話し合いの結果。果実は護人とレイジーが食べる事に、それから《ブレス耐性》は姫香が使用する事に決定。

 これに加えて、後は強化の巻物の使用などを少々。


 “もみのき森林公園ダンジョン”のと合わせて、今回は攻撃力強化の巻物が大量に入手出来た。これなら予備の武器を含めて、前衛陣の武器の強化が出来る。

 埋め込み型の『飛竜の鱗』も2枚ゲットしたので、ハスキー軍団の装備もグレードアップ可能だ。遠征の最後に、甲斐谷から今回の遠征が実はB級昇格試験だとか言われたけれど。


 そんな事は全く関係なく、むしろずっとC級で良かった護人としては。余計なお世話と面と向かって言わなかっただけ、社会人として立派だったのだろう。

 それはともかく、たくさんあった回収品が青空市での販売品とか家使いとかで分別されて行く。主に紗良の手腕なのだが、武器や高級そうなアイテムは護人に相談して。

 今回も結構あるので、後から増える資産も多そうな気配。


「叔父さんっ、妖精ちゃんが勝手に金の王冠を持ってっちゃったよ! コラーって叱って取り戻さなきゃ、ずっと戻って来ないかもよっ?」

「いいじゃん、王冠くらい……いつもタダで鑑定とかして貰ってるんだし。アンタも大概、勝手に持ち出してる魔法のアイテムあるの知ってるんだからね?」


 ギクッと身を竦ませる末妹の香多奈、どうやら図星だったらしい。そして秘かに金の王冠も狙っていたようで、妖精ちゃんに横取りされたのを腹を立てての密告か。

 逆に藪蛇となって、叔父の護人に睨まれる始末。巻貝の通信機くらいならともかく、危ない効果のアイテムは駄目だぞと念を押されて。


 そんな訳で、香多奈が今回持って行って良いのは“三段峡ダンジョン”で入手した『メダカの大瓶』と『異界の絵本』2冊のみと言う結果に。

 それを家から持ち出して、和香と穂積と一緒に眺めて楽しんで。メダカは暖かくなったら用水路に放とうと言う事になって、それまでは室内で育てる事に。

 何しろ外に置いておくと、寒さで水が凍ってしまうので。


「これって本当に絵本なのかな、香多奈ちゃん……確かに絵だけで、文字とかは無いけどさ」

「色が綺麗だね、見てて楽しい……多分これ、花と鳥の絵でしょ?」


 穂積が示したページを、女の子2人は熱心に眺めるのだが。色は確かに綺麗だが、抽象的な絵柄はどこをどう見て良いのかサッパリな部分もあって。

 穂積はその点、何故か異界の抽象絵画とピントが合っている模様。これは森の中の家の絵だよとか、これは竜と戦っている騎士の絵だとかコメントに迷いが無い。


 そしてその本をとっても気に入ったみたいで、香多奈はそれじゃあクリスマスプレゼントにそれを進呈する事に。末妹の香多奈は、実は弟分を持つ事が生まれて初めてで。

 穂積に対して、和香以上に甘々なのだった。




 そして12月の冬休み前の週末の金曜日、香多奈の小学校で行われるクリスマス会。保護者も参加しての、古い体育館で歌や劇などが披露されるとの事で。

 父兄の集まりも上々で、熱心に練習を重ねて来た子供達もテンションは高い。特にプレゼント交換会とか、今年は父兄の用意した品も貰えるそうで。


 つまり子供同士の交換品に加えて、2つ以上は持って帰れるとの事。来栖家もこの催しに、ダンジョン産の品々を大量提供した次第である。

 具体的には魔法アイテムの『浮遊の風船』やら、入手したての便箋セットや絵葉書セットやら。テニスラケットやボール、折り紙セットや毬の飾りもプレゼントに織り込んで。

 挙句の果てには、高価なお香も提供する始末。


 子供へのプレゼントにしては高額だが、一欠けだし良いだろうと護人の判断。それから紗良のお手製の縫いぐるみも、子供へのプレゼントに紛れ込ませて。

 それを父兄で手分けして、透明なビニール袋にラッピング。子供たちが欲しいモノを選べるようにして、クリスマスツリーの周りに配置する。


 ツリーも立派で、父兄の前準備は浮かれてるのかって程に過剰気味な気も。それでもお祭り騒ぎを、子供達と過ごせる幸せに後押しされて。

 この騒ぎには凛香チームとゼミ生達も乗っかって、地域の催しに積極的に参加する構え。もっとも和香と穂積は、学校の雰囲気にひたすら舞い上がっているけど。

 教師陣から粋な計らい、プレゼント交換に混ざって良いよとの事。


 それを聞いて再び舞い上がる子供達と、慌てて2人のプレゼントを用意する大人たち。クリスマス会の主役は子供たち、大人は黒子に徹してやれば良いと。

 そんな心構えで臨んだ会だったけど、やっぱり子供たちの演じる劇を見たり歌を聞いたりするのは大いに和む。香多奈の学年は今回も劇を用意していて、そして香多奈は相変わらず王子様役を担っている模様。


 劇はそれなりに盛り上がったが、それより安ど感が大きかった。何しろ前回は、オーバーフロー騒動で最後まで見れなかったのだ。

 ちゃんと最後まで見れた喜びに、湧く父兄席である。


 それから子供たちのプレゼント交換まで、約1時間ちょっとのクリスマス会は大成功に終わって。嬉しそうな笑顔の子供達が、父兄の元へと散って行く。

 香多奈と和香と穂積も、家族と集合して貰ったプレゼントを自慢している。こんな平穏な日常も、ある意味探索者チームが増えたお陰なのかも。


 姫香にそう指摘され、嬉しそうに胸を張る凛香たちとは対照的に。複雑な心境の護人ではあるが、確かにその通りなのだから反論のし様も無いと言う。つまりしばらくの間は、地域貢献に奔走する立場を逃れられそうにないって事で。

 そんな覚悟を決めながら、自宅に向かって帰りの運転をする護人だった。




 それから無事に、香多奈の冬休みが始まったその日の午後に。来栖家では、盛大にお隣さんと合同のクリスマス会が開催されたのだった。

 とは言ってもお食事会パーティみたいなもので、子供たちが積極的にお膳立てをしての行事である。それでも律儀に、大人たちはプレゼントを前もって用意して。


 ここでもやっぱり、主役は子供達と言うのは当然でもあるのだけれど。そこは探索に携わっている者も多いお陰で、プレゼントは余り悩まずに済むのが有り難い。

 特に護人が凛香チームにプレゼントした、チーム運営用にと装甲された白バンは波紋を呼んだのだけど。8人乗りのこの中古車、生活に必要なのは本当で。

 今も来栖家の車を借りてる状態なので、マイカーは是非とも欲しい所。


「本当にいいのか、護人のおっちゃん……中古車と言っても、装甲もしっかりしてて立派な奴じゃん。こんな高価なモノ、ホイホイ貰えねぇよ」

「そんな事言っても、田舎じゃ車が無いとどこにも行けないのは、今までの生活で分かったでしょ? ちゃんと仕事して貰うためにも、これを受け取って隼人は馬車馬のように働きなさい」

「相変わらず隼人にはきついんだな、姫香は……」


 呆れた感じの凛香の返答だが、その表情はどこか浮かれている。何しろ初めてのマイカーだ、キャンピングカーで出勤している来栖家チームを、羨ましがっていた身の上としては。

 とうとう我が家にもって喜びの感情の方が大きくて、文句より素直な感謝の方が先に立ってしまう。年少組はもっと素直で、はしゃぎながら車内を検分している。


 そんな年少組には、紗良のお手製の縫いぐるみとか冬服とか、護人が苦労して造ったソリとかをプレゼント。ソリは工夫すれば、ハスキー軍団やルルンバちゃんが曳いてくれる優れモノだ。

 それらの贈り物を喜ぶキッズたち、もちろん来栖家の子供達にも護人は個人的にプレゼントを用意していて。特に姫香に贈ったのは、何とギルト『日馬割』の名刺である。

 ちゃんと姫香の名前も、サブマスの地位で刻まれている。


「やった、ありがとう護人叔父さんっ! これでギルド『日馬割』は、たった今から大きな躍進を遂げる事になるよっ!」

「何だ、結局ギルドの名前は『日馬割』になったんだ……そんじゃはそっちは、来栖家チームになるのか? それとも、護人チームって呼んだ方が分かりやすいのか?

 俺たちは凛香チームでも、『ユニコーン』でも好きなように呼べばいいけどよ」

「あっ、私の分の名刺もあるんですか……あららっ、私はサブマス兼薬品管理担当なんですね。えへへっ、何だか偉くなった気分ですねっ!」


 姫香と同じく肩書き付きの名刺を貰った紗良は、満更でも無さそうな表情に。それを見て騒ぎ出す香多奈にも、護人は仕方なく作ってあった名刺を渡す。

 こうなる事は織り込み済みと言うか、極端に仲間外れにされるのを嫌う末妹用に。念の為にと、10枚だけ作っておいて貰ったのだ。


 それを渡された少女は有頂天に、恐らく大人の気分を味わっているのだろう。和香と穂積に見せびらかして、いつものテーブル席できゃいきゃい言っている。

 場は車のキーの受け渡しを来栖家の玄関先で行ってから、一転してリビングへと移行していて。そこには恒例の、紗良や美登利が用意してくれた御馳走が並んでいて。

 パーティ気分を、いやがうえにも盛りあげている。


 誕生日会みたいな時の飾りも、ツリーも煌びやかな来栖家のリビングでは。御馳走やケーキの魔力も相まって、どこもかしこも嬉しそうな笑顔が花咲いていて。

 その他のプレゼントも好評な模様で、あの小島博士でさえちゃんと用意している周到振りで。もっとも、彼のは古い本や参考書ばかりだったけど。


 そこは他のゼミ生が気を利かせて、ノートや文具を買い足して何とか贈り物の体裁を取り繕っていたりして。彼らも本当に大変だ、半数以上は子供に戻りたいと内心で思っていたに違いない。

 それはともかく、大いに盛り上がって歌など披露し始める一団も現れる中。懐かしのクリスマスソングを歌う子供達を割って、ルルンバちゃんが香多奈の元へと飛んで来た。

 どうやら何か、異変を知らせに来た模様。





 ――それはとびっきりの出来事で、つまり卵が孵ったとの報せだった。








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