第225話 年越しに向けてようやく落ち着いて準備をする件



 何とか無事に戻って来れた来栖家チームは、いつものように日常の生活に戻って行って。考えれば、凄くハードだった遠征レイドは過去の記憶へと消し去って。

 何しろ既に年末が差し迫っている、イベントも割と盛りだくさん。お隣さん2家族は、この町に越して来て初めての年越しだしサポートは必要だ。


 それを踏まえての年越し作業と、それからその前の香多奈の小学校のクリスマス会とか。今回も保護者を招いての、発表会をやるそうなので。

 来栖家は総出で、それを見に行く所存。


「今年はもう探索依頼は来ないよね、護人叔父さん……凛香チームは、結構町のダンジョンにお試し探索に出向いてるそうだけど。

 ゼミ生チームも、林田兄妹とこの前出掛けたそうだね」

「そうなのか、他のチームも順調に経験を積んでるみたいで何よりだな。こっちはもう、出来れば無茶な遠征レイド依頼は聞きたくないよ。

 年末年始は、本当にゆっくりしたいな」


 そんな爺臭い事を口にする護人はともかく、子供達や凛香チームは超元気な様子。ギルドを作る話は、着々と形を整えていってる様子である。

 姫香も既に、陽菜とみっちゃんが遊びに来る話を護人に通達済みである。その時期を年末にするか、それとも年明けにするかは未だ協議中ではあるけど。


 ただまぁ、田舎と言うのは近場に遊ぶところが無いのが最大のネックではある。平和な頃なら、皆で宮島にお参りに行こうなんてイベントを画策出来るのだが。

 それか市内で遊ぶとか、選択肢は色々あっただろうに。今となっては市内の治安の悪さは、周囲の町の人々が警戒する程らしい。

 そんな場所に遊びに行くなんて、今や誰もが止める行為である。


 それでも何か企画はしたいかなと、今から再会を楽しみにしている姫香である。そんな訳で、呼ぶならクリスマスだが年明けでも町でイベントがある様子。

 護人伝いで、自治会で1月の青空市と町のとんど祭りを、また合体させようとの計画があるそうで。秋祭りの二番煎じだが、集客に効果があるなら贅沢は言ってられない。


 そっちの行事に合わせて、友達を呼ぶのも良いかも知れない。そしたら青空市のブースも手伝って貰えるし、終わったら幾らでものんびり泊って行ってくれて大丈夫。

 まぁ、年越しイベントを友達と過ごす魅力にも逆らえないのだが。彼女達も、年越しは家族と過ごす方が気が楽だろうとも思ってしまう。

 姫香はそう思って、そっちの方向で年始の計画を立てる事に。



 遠征レイドから戻って来て数日後に、香多奈の学校終わりを待って協会に報告に。今回は2つも大規模ダンジョンをはしごして、アイテム数も割と膨大に。

 売り物の魔石も結構多いし、依頼達成費用を別にしても凄い額になりそう。そんな期待を胸に、早くも車内で盛り上がりを見せる子供たち。


 今回はキャンピングカーじゃ無いので、騒がれると車内は大変なのだけど。何とか無事に、協会の敷地へと辿り着く事に成功。お供のハスキー達が、元気に車から飛び降りて行って。

 それに続く子供たち、今回は魔法の鞄がパンパンになるほどの回収である。それに期待しないってのも、無理はあるし浮かれるのも仕方がない。

 そんな訳で、護人も手伝って荷物を協会へと運び入れる作業。


「いらっしゃい、連絡を受けてお待ちしてましたよ……今回は、かなりの儲けが出たそうで本当に良かったですね。皆さんご無事そうですし、上級ランカーとのパイプもガッツリ繋げたようですし。

 それじゃあ早速、査定と動画チェックからしましょうか?」

「お願いします……広域ダンジョン2つ分だから、魔石も多いけど平気かな?」


 護人と紗良と協力して、回収した魔石やポーションを次々と能見さんに渡して行くけど。2回分の探索結果は物凄く大量で、受け取る方も一苦労の有り様。

 特に“三段峡ダンジョン”の魔石(小)の数と来たら、魔石(微小)よりも多くて70個以上と言う。それから能見さんのお願いで、ポーション以外の薬品も少々売る事に。


 どうも年末で、色々とポイントを上げる必要があるらしい。こんな田舎の支部でも、ノルマがあるなんて大変だなぁと思いつつ。

 そこはお人好しの護人と紗良、あっさり余剰の薬品を売りに出す事に。


 まぁ、ポイントが過剰になってうっかりA級に上がらなければ何でも良いと。護人は気楽に考えて、初級エリクサーや解毒ポーションを売りの品に混ぜてみたり。

 それが変に作用したって訳では無いのだが、何と今回の売り上げ額は凄かった。“もみのき森林公園ダンジョン”の方が375万円、“三段峡ダンジョン”の方が390万円で。


 その額を聞いて驚き顔の来栖家の面々、それは仁志支部長も同じで慌てまくっている。そこまでの現金は、さすがに協会には無いそうで。

 後の振り込みで承諾して貰って、ついでに貢献ポイントも3人の登録者に均等に割り振って貰う事に。護人にしてみれば、うっかり昇級は何としても避けるべき事象なので。

 それにしても、たった3日と少しの遠征で何て儲け金額。


「すっごいね、過去にもこの位の儲けはあった気はするけど……2回分が重なると、何か大金持ちになった気がするね!

 帰りに何か買って、叔父さんっ!」

「まぁ、欲しいモノがあれば買い物に出掛けようか……それよりダンジョン産の正体不明のお肉、今回も結構取れたんですけど。

 良ければお裾分けしますので、お2人で食べてみて下さい」


 あ~っ、オーク肉とワイバーン肉だねと、香多奈の言葉にビクッと過剰反応する仁志と能見さん。食べたら味の感想お願いしますと、あらかじめ切り分けたお肉を渡す用意周到の紗良である。

 ついでに百合根やフキノトウなんかもお裾分けして、時季外れの山菜に再び驚いている2人だったり。後は一緒に動画チェックと、“三段峡ダンジョン”の魔法アイテムの鑑定をするだけである。



【巨大化ポーション】服用効果:巨大化付与・中

【猛毒薬】服用効果:猛毒付与・大

【強化の巻物】使用効果:武器強化(赤の魔石使用)

【飛竜の鱗】使用効果:防御up・永続

【トロルの茶髭】使用効果:魔力up付与・布素材

【ガマの油】使用効果:万能オイル・秘薬素材

【魔法の水筒】使用効果:保温&保冷効果・大

【硬化の鎧】装備効果:硬化&強靭&移動制限・中

【古代石の剣】装備効果:不折&攻撃&防御up・小

【魔法のリュック】特別効果:空間収納力・大

【竜爪の拳ガード】装備効果:不壊&防御&鋭刃・大

【硬化の指輪】装備効果:防御up・中

【劣化防止魔方陣プレート】使用効果:容器に劣化防止付与・永続

【巨人のリング】装備効果:装備者に《巨大化》付与

【マンドラの根】使用効果:魔法植物・秘薬素材

【月光シダ】使用効果:魔法植物・薬品素材

【ダイアの指輪】装備効果:防御&魔法防御up・大

【ルビーの首飾り】装備効果:魔力&魔法防御up・中

【飛竜の小剣】装備効果:不折&風属性&攻撃up・大


【耐の宝珠】使用効果:使用者はスキル《ブレス耐性》を習得




 今回も魔法のアイテムは豊作だったが、中でも素材系は凄かった。『ガマの油』と『マンドラの根』の2つの秘薬素材は、売れは物凄い大金になる筈。

 それから『月光シダ』と『トロルの茶髭』も、加工すれば良品になりそうな気配。後はポーション系だが、初見の『巨大化ポーション』はその名の通り巨大化出来る薬品みたい。


 どの位大きくなるのかは不明だが、香多奈でさえこれを飲んでみたいとは言って来ず。姫香が大きくなって服破けちゃうよと、脅したのが効いているのかも。

 それはともかく、他にも良品装備が結構な数回収出来たのは嬉しい情報である。中でも『巨人のリング』は、コロ助とかに装備させたら面白いかも?

 本人が気に入るかどうかは、まぁ別として。


 逆に『硬化の鎧』はかなり強い装備だが、移動制限と言うマイナス効果が付くようだ。これは素早い動きが出来ないペナルティが付与されていて、強力だけど使いにくい装備品と言うのは意外と多いみたい。

 それでも一定数の需要もあるそうで、売れないって程では無いらしい。そもそも付与が幾つもある魔法アイテムは、それだけで価値が跳ね上がるのだ。


 そう言う意味では、今回の魔法装備はどれも当たりっぽい。来栖家で使っても良いし、ギルドのメンバーに配布しても良いし。お金に困っていないので、売るのは少々勿体無いだろう。

 『巨大化ポーション』と同じ効能の『巨人のリング』は、何度も使用可能でこれも売れば百万を超えそうな魔法アイテムとの事。これもペット行きかなと、巨大化したミケさんを夢想する香多奈だったり。

 ミケは恐らく、全力で嫌がるだろうけど。


 それより紗良が飛び上がる程に喜んだのが、『劣化防止魔方陣プレート』である。妖精ちゃんの説明によると、これはポーションの保存瓶に魔方陣を焼き付けるプレートらしく。

 それによって、その容器に入れた薬品の劣化が1年程度延長されるらしい。現在のポーション類の保存期間が同じく半年~1年なので、約倍に延長される計算だ。


 今は来栖家でも結構な種類の薬品を管理しているので、この魔法のプレートは有り難い事この上ない。さっそく戻って、全ての瓶に魔法を施す勢いの紗良である。

 ただそれをするには、自身か魔石の魔力が必要になるらしく。そんな細々とした説明を、根気よく香多奈の通訳を通して聞いている紗良だったり。

 何にしろ、これも売りに出せば数百万の値が付く魔法アイテムとの事。


「凄いね、三段峡の魔法アイテム……そう言えばもみのき森林公園のドロップも、凄いアイテムは幾つかあったよね。プレートは効果が被ったけど、あれも売れば凄い額なんだよね?

 儲かっちゃうなぁ、お小遣い上げて貰おうかなぁ?」

「アンタ、この前上げて貰ったばっかでしょ……お年玉も全部貯金してる癖に、これ以上貰ってどうしようってのよ、香多奈っ」


 貯まって行くのが楽しいんじゃんと、お金大好きな末妹の反論に。変人を見る目の姫香には、その楽しみが全く伝わっていない様子。

 それはともかく、魔石と薬品を大量に売って貰った仁志支部長はとっても嬉しそう。これで増員をプッシュ出来ると、協会の発展に意気揚々としている感じ。


 来年早々にも、ひょっとしたら願いは叶うかもと。田舎町の協会の増員を夢見て、動画視聴を始める子供達を頼もしい目で眺める仁志である。

 思えばこの支部の発展は、この子供たちの働きに掛かっているとも言える訳で。仁志も特に協会を大きくしたいと思っている訳では無く、人員の増加で運営が楽になればとの思いの方が強かったり。

 何しろ今の3人体制では、連休もろくに取れないのだ。


 動画はダンジョン2つ分あって、なかなか視聴も終わりそうになく。賑やかに能見さんを交えて、ここは大変だったとかあの敵は強かったとか。

 子供たちの燥ぎ声が、協会のブースに響き渡って騒々しいレベルではあるけれど。そこは町一番の稼ぎ頭と言うかお得意さん、仁志も涼しい顔で受け流している。


 護人も心苦しくはあるが、元々子供を叱るのが苦手な性格なので。声を抑えなさいと、たしなめるにとどめては~いと姫香と香多奈から聞き分けの良い返事を貰って。

 それも結局は、5分と持たなかったりする平常運転。


 それでも確かに、動画の中の自分達はまるで別世界の住人の様でもあり。苦戦してたら思わず応援し、調子が良ければ褒めたい気になるのは良く分かる。

 そんな良く分からないまま探索者の登録をしてから、たった半年と少しで既にB級ランカーである。ハスキー達の貢献が多いとは言え、信じられない思いの護人。


 出来れば今後、こんな大規模なダンジョン遠征の話は引き受けたくなど無い。それでも断り切れなくて、結局は駆り出されるんだろうなぁと苦い気分で思いつつ。

 それまでに、せめてもう少し苦難を切り抜ける力を蓄えたい。今回の遠征でも、危険なシーンは多かったし強敵はそれこそたくさん出て来た。

 それを退ける力を、護人は痛烈に欲するのだった。





 ――理由は明快、ただ家族を守る為だけの力があればそれで良い。








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