第210話 A級だけあって続々と大物に遭遇する件
最初の作戦は無効になったが、来栖家チームでステージを囲む態勢には持ち込めた。これなら敵が強かろうと、被害も少なく倒せる可能性は高い。
それでもデーモンと、その所有する武器はかなり厄介そうだ。護人が全力で抑え込んで、その隙に姫香かハスキー軍団に倒して貰う作戦が一番効率が良さそう。
そう思いながら、護人を先頭にステージに上がって行くメンバーたち。強敵を前にしても、全員の意気は高くヤル気は充分に
そして護人が、まずは綺麗に組まれたステージと上がって行く。敵の数は5体で、デーモン以外はオーク召喚士とその護衛が3名といった感じ。
まずはその護衛が、護人へと殺到する。
「奥の大きいのはまだ手を出すな、俺が抑え込んでから一斉に殴り掛かろう!」
「了解、護人叔父さんっ!」
巨体のデーモンは、そこに立っているだけで不気味でその波動の強さと来たら。とは言え、やっぱり召喚を始めているオーク召喚士くらいは仕留めておきたい。
デーモンの護衛を抜けて、それを行うのは至難の業ではあるけれど。とか思ってたら、姫香の金のシャベル投げが見事に炸裂すると言う結果に。
いきなり不意を突けたのは、ツグミとレイジーのフォローのお陰だろうか。デーモンの気を惹いて、フェイントの襲撃を仕掛けていたのだ。
ただし、続いての銀のシャベルはデーモンによって跳ね返されてしまった。しかも召喚士を失っても、デーモンは元の世界に帰ってはくれない様子。
決戦は、どうやら避けては通れなさそう。
護衛役のオーク兵も、守り手を失ってもそれなりに奮戦していた。そこに乱入して来るデーモン、相変わらず黒い槍は不気味な光を放っている。
護人が積極的に、デーモンに《敵煽》を撃ち込んでのタゲ取りを行う。その盾に撃ち込まれる突きは、《不壊》の筈の盾を壊す勢い。
焔の魔剣を装備して、それをフォローするレイジーの鋭い太刀筋も物ともせず。逆に槍の一閃で、周囲に紅い雷光が鞭のようにうねりながらばら撒かれる。
それを強引に盾で抑え込む護人と、回避が間に合わず吹き飛ばされるツグミ。慌てたように叫び声を上げる姫香と、ステージの下を移動して回復に向かう紗良と香多奈。
ステージに上がれないルルンバちゃんも、アームでデーモンに殴り掛かる。
その攻撃は簡単に躱され、逆に怒りのあまり突っ込んだ姫香がデーモンの蹴りの餌食に。黒い槍は護人の四腕を防御中で、使えなかったのは幸いだったけど。
これまた悲鳴を上げて、紗良と香多奈が回復に向かう破目に。忙しないステージ上の乱戦だが、幸いにも来栖家チームに致命傷を負った者はまだいない。
ただし相手の強さは本物で、盾役の護人も押し込まれて防御が精一杯。『硬化』スキルを切らさないでの攻防も、四腕でのちょっかい掛けも長くは持たないかも。
それに気付いて、一家の護衛猫のミケが動いた。オーク戦では働いてなかったので、休養はバッチリだ。最近覚えた、《刹刃》と『雷槌』の複合技でデーモンを射抜きに掛かる。
さすがにこれは避け切れず、5本の雷の矢に射抜かれる敵のボス。
それでも動きは衰えず、コロ助の『牙突』にも一向に怯まないタフな相手である。挙句の果てには、回復っぽい光に包まれるデーモンに慌てる来栖家チーム。
全員でも押し込めない強敵に、それでも落ち着くようにリーダーの護人の指示出し。敵の黒い槍での一撃はやたらと鋭く、下手に突っ込むと危険なのは既に分かった。
それなら向こうが疲労するまで付き合って、無理やりにでも隙を作り出すしかない。その間の被害は、自身で受け持つつもりの護人である。
ところがその考えの、文字通りに上を行く者がチームの中に存在した。それに気付いたのは治療を終えたばかりの姫香で、咄嗟に護人へとそれを大声で告げる。
それと同時に、姫香の得意のシャベル投げが炸裂。
それに気を取られたデーモン、シャベルを撥ね退けた隙に護人が後退しているのに気付いて。何事かと身構えるも時既に遅く、真上から強烈なプレッシャーと共に何かが降って来た。
それは圧倒的な重量と熱を兼ね備えており、逃げようにも身動き出来ない有り様。レイジーの得意の『魔炎』ブレスは、地獄の戦士もひれ伏せる勢い。
実際、その十秒以上続いた紅い炎の奔流は、デーモンに致命傷レベルの打撃を与えていた。それでも倒れない敵ボスは、逆に天晴かも知れないけれど。
最後に護人の《奥の手》の斬撃は、どうやっても防げなかった模様で。派手な黒い光の奔流とドロップを残して、無念そうに消え去って行くデーモンであった。
その結末を見て、思わずその場に座り込む護人。
正直、いつその槍先が自分の身体を貫いても、不思議では無かった攻防戦だったと。安堵する護人の隣に、シュタッとレイジーが舞い降りて来る。
子供達も近付いて来て、その笑顔にようやく安堵の感情が湧いて来たのだろう。護人は姫香に手を借りて、立ち上がって伸びを一つ打つ。
それから盾のチェック、自慢の魔法の盾は結構ボロボロに。
「ああっ、《不壊》の魔法掛かってるのに、当てにならないな……どうしよう、予備の盾は持ってないのに」
「叔父さん、こっちに宝箱あったよっ! ってか敵のドロップにオーブ珠とか混じってた!」
「あの厄介だった黒い槍もドロップしてるよ、護人叔父さん。魔石も一番大きいサイズだったし、さすがにA級ダンジョンだよねぇ……」
恐々と、デーモンの扱っていた黒い槍を手にする姫香。その強敵を召喚したオーク術者は、変わった形のネックレスをドロップしていた模様。
魔石もそれなりに大きくて、よく倒せたなぁとは護人の正直な感想。この先にもこんな強敵がいるのなら、進む歩調も鈍ろうと言うモノ。
子供達に限っては、宝箱を喜んで深くは考えていない様子だけど。
ちなみにこのステージは、どうも音楽用だったみたいである。宝箱と言うか道具箱から、トランペットやクラリネット、ギターや楽譜数冊が出て来たのだ。
他にも工具箱やギターアンプ、魔結晶(小)が11個に鑑定の書(上級)が4枚、薬品ではMP回復ポーション700mlにエーテル700mlが入っていた。
それを早速、家族で回し飲みし始めながら。今日は消費も多くなりそうかなぁと、紗良は心の中で独りごちる。でもまぁ仕方がない、何しろ広域難関ダンジョンなのだから。
ステージの周辺で休憩をしながら、魔石の拾い残しが無いかチェックするルルンバちゃん。周辺の敵は掃討し尽くしたようで、敵の姿は全く見当たらない。
そこだけ見ると、本当に自然公園そのものである。
人が全くいないのも、多少の違和感はあったりするけど。そしてあれだけの激闘で、どこにもワープ魔方陣が湧いてないのに騒然とする来栖家チームだったり。
ほぼ2つの集落を潰した労力は、何の為だったのよと憤慨する姫香であるが。香多奈は呑気に、もう1個宝箱が拝めるかもと嬉しそう。
突入から既に2時間、最初は階層更新も楽かと思われていたけど。3層で思わぬ足止め、他のチームは今何層なんだろうねとか話し合いつつ。
取り敢えず休憩は終わったし、ワープ魔方陣がある場所を探しに再出発の一行である。前に見付けた建物裏から行こうと、香多奈の発案に特に反対の意見も出ず。
アッチは確か、オーク兵士の増援がやって来た方向である。つまり敵は残っていないだろうと、その予想は大まかに当たりだった。
静かな中庭に、しかしワープ魔方陣は見付からず。
「ああっ、2回目はさすがにダメだったみたい。いざ見付けようと思ったら、なかなか探し出すのは大変だよねぇ」
「そうだね、あれだけ敵を倒したのに……あれっ、あっちは体育館だっけ? 何か凄い音がするね、建物が揺れてるきがする」
確かに姫香の言う通り、体育館の中に何かが巣食っている気配が。どの道ワープ魔方陣を湧かすために、もう一戦は必要になって来るので。
取り敢えずは敵のいる方向に進もうかと、家族での話し合いは簡潔に決定する。そして慎重に移動して覗き込んだ体育館の中、つまりこの階層の体育館は入場可能だった模様で。
中には何と、オーガが数匹暴れ回って酷い様相を呈していた。どうやら大蜘蛛が巨大な巣を作っていて、そこに嵌り込んだおバカさんがいた模様である。
局地的に、大蜘蛛と4メートルを超すオーガが暴れ回って酷い様子なのを入り口で観察する来栖家チーム。大蜘蛛はオーガの倍、つまりは8メートルサイズ。
ただまぁ、脚を含めてなので本体はオーガと変わらない大きさか。
「大怪獣バトルが起きてるね、叔父さん……仲よくすればいいのに」
「バカね、香多奈……大チャンスじゃん、あの敵倒せば多分ワープ魔方陣は湧くよっ! 暫く待って、漁夫の利を狙うんだよっ!」
なるほどと、姉の悪知恵に感心する末妹であった。その間も、大蜘蛛とオーガの戦闘は続いていて、空間を自在に行き来する大蜘蛛がやや有利か。
オーガは数的有利を活かせず、1匹蜘蛛糸に巻かれてお持ち帰りされそうに。それを眺めていた香多奈は、何故かオーガたちを応援し始める始末。
スキルまでは飛ばさないようにと、末妹の『応援』スキルを知る護人は厳重に注意を飛ばすけど。少女の願いは叶わず、何と2匹目のオーガも巣に絡まって行動不能に。
知能はあまり高くないねと、冷静な判断を下す紗良だけど。ハスキー軍団は暇そうに、まだ突入しないのと催促の甘えた鳴き声を漏らし始める。
確かに、このまま敵の仲間割れを眺めていても
そんな訳で、姫香のお得意の遠隔速攻を作戦のベースに始動する一行。残ったオーガも度肝を抜かれただろうが、姫香の狙いは大蜘蛛だった模様で。
巨大な蜘蛛は、為す術もなく2本のシャベルに撃ち抜かれる破目に。そして体育館のフロアに、力なく落ちて行く巨体の大蜘蛛。
ところがあんなに憎み合っていた、オーガのタゲは呆気なく来栖家チームに移行した様子で。床が抜けるんじゃないかって勢いで、こちらに殺到するオーガ2匹である。
ちなみに、もう2匹は蜘蛛の糸に絡まって既に戦闘不能。
護人の盾のスキルで、2匹のオーガは護人のみへと向かって行く。その隙を突いて、まずは姫香がオーガの脛を切り裂いて。巨体を誇る敵も、この攻撃に呆気なくスッ転ぶ破目に。
残った1匹のハンマーの攻撃を、ガッシリ盾で受けた護人。反撃の四腕の攻撃は、相手の丸盾でこれまた受け流される。知能は低いが、戦闘の動きは洗練されている戦闘民族。
姫香によって転んだオーガは、ハスキー軍団にたかられて割と悲惨な運命に。そして無理やり体育館の中に入って来たルルンバちゃんに、止めを刺されてご臨終。
チェーンソー攻撃は、さすがの戦闘民族でも致命傷になった模様。
護人の前の敵も、結局は数的不利を覆せずに同じパターンへ。姫香の一撃を脛に受けて、派手に転がってのルルンバちゃんの止め差しの一撃である。
床に落ちた大蜘蛛と捕獲されたオーガ達は、レイジーの『魔炎』に焼かれて仲良く魔石に変化して行った。呆気なく倒されたモンスター達だが、ドロップはきっちりしてくれて。
それには香多奈も、大喜びでルルンバちゃんと拾って回っている。
「おっ、何とかワープ魔方陣も湧いてくれたな……オーガも、ちょっと前は苦労してた相手だったのに、割とあっさり倒す事が出来たし。
俺たちも強くなってるのかな、そんな感じはしないんだけど」
「最近は積極的に、みんなのレベルチェックとかしないからね、護人叔父さん。そろそろ誰がしてもいいのかも、ここの探索が終わったら一緒にしようよ」
それじゃ私もすると、元気な香多奈は姉によってスルーされるも。ドロップはオーガのハンマーや丸盾、大蜘蛛の蜘蛛糸と割と豊富だった。
そしてツグミが、人も入れそうな巨大なボール篭を倉庫から発見。その中に魔法アイテムが入っていて、どうやらそれは簡易宝箱だったらしい。
喜びながら、その中身を確認する紗良と香多奈。中にはバレーボール数個と一緒に、鑑定の書が4枚と魔玉(炎)が4個、魔石(中)が5個入っていた。
これら小物は律儀にシューズ袋に入っていて、他にもスキル書が1枚と木の実4個を獲得。他にも、ポーション700mlとMP回復ポーション800mlがドリンクボトルに。
がめつい香多奈は、ボールもせっせと魔法の鞄に入れて行く。
それを生温かい目で見つめる紗良、青空市で売るか年少組での遊び道具にするか。まぁ、持って帰っても損は無いとそれを手伝うけど。
取り敢えず、この宝箱の回収を終えたら次は4層だ。
――そこも恐らく、相当な波乱に満ちていると思われ。
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