第211話 雪遊び広場の雪原でモンスターと戯れる件



 さて4層だ、来栖家チームが飛び出した場所はやっぱり体育館には違いなかったけど。そこには敵影は見当たらず、構えていた一行はホッと安堵のため息。

 ハスキー達が、さっそく建物の外を偵察に動き出してくれる。それに釣られて歩き出す一行、一番最後にルルンバちゃんがのんびりと続いて動き出す。


 そして周囲の変化に、ちょっと驚きの護人と子供たち。何と言うか、気温も前の層と違って随分寒くなっている。木々の葉も枯れ落ちて、まるで冬が到来したような。

 ダンジョンの層によって、四季が変化するなんて誰も聞いた事は無いのだけれど。階層の変化は、何度も中ボスを過ぎた後に味わった事はある訳で。

 それと似たような変化なのかなと、皆で話し合う。


「あっ、やっぱり寒いかも……ってか、駐車場の奥は雪が積もってそう。うへえっ、階層の違いがこんな時に出るなんてねぇ?」

「他のチームが中ボス倒したのかもね、それって近くにいても分かるモノなのかな?」


 香多奈の質問に、さあねぇと答えるしかない護人である。中ボスの討伐どころか、ダンジョンボスの討伐すらどうやって気付くのか良く分からないのだ。

 その時は、おそらく敵が全部消え去って地震に似た鳴動があるとは思うのだが。ひょっとして、全く別のアクションが起きても不思議ではない。


 ダンジョンって、それ程に良く分からない存在でもある訳だ。これが現代に現れて、まだたった5年……研究は依然として、進んでいない状況なのだ。

 異質に思われているペット同伴の来栖家スタイルも、数年後には普通になっている可能性もあるのだ。まぁ、無い可能性の方がずっと高いけど。

 そんな話をしながら、一行は体育館から外に出る。


 ハスキー達は既に敵の気配を察知したようで、何匹か間引くように本体まで引き連れて来てくれる。それを討伐しながら、チームは建物の前まで出て来た。

 建物と言うのは“もみのき荘”で、今回は見える範囲にオークの軍団もステージも無い様子。少し離れた場所から、レイジーとツグミがゴブリン兵を釣って来てるのが窺える程度。


 周囲が平和そうなのは良いけど、やっぱり前の層より格段に寒い。紗良が地図を取り出して、この先に“雪遊び広場”ってのがあるねと報告して来た。

 確かにそっちの方向は、断然に白くて冷気も凄そうだ。


 一行は、何となく導かれるようにそっちの方向へと進み始める。周辺を見渡しても、集落らしき場所が見付からないと言う理由もあったけど。

 そしてある地点から、突然に雪の積もるエリアへと変化。歩き難いけど、ハスキー達は元気にその雪を掻き分けて進んで行く。


 そして雪エリアの最初の敵は、真っ白な毛並みのスノーウルフだった。敵は半ダース以上いて、ハスキー軍団より確実に多いけど関係ない。

 キャタピラを駆使して前に出たルルンバちゃんが、積雪に関係なく大活躍をしている。それと反対に、出遅れた護人と姫香は待ちの姿勢で出番は無し。

 仕方無いので、護人は弓矢での援護に徹する事に。


「ああっ、雪が深くて動き辛いよ……ルルンバちゃんはいいなっ、キャタピラでズンズン前に出て行っちゃうんだもん!」

「まぁ、道を作ってくれると思えば有り難いよな。紗良と香多奈も無理せず、ルルンバちゃんの作った道を進むといいよ」

「ええっ、誰も通ってない所に自分の足跡つけるのが、最高に楽しいのにっ!」


 香多奈の気持ちは分かるが、体力の消費も恐ろしく激しいので。数分後には、少女は諦めてルルンバちゃんのキャタピラ跡を、紗良と進む事になっていた。

 そして次に遭遇したのは、雪熊とアイスゴーレムの混成軍。その奥に雪で造られたかまくらのような建造物が、このエリアの目的地のように建っていて。


 先導するハスキー軍団も、恐らくそこを目指していたと思われる。熾烈な遭遇戦だが、とにかく前衛に居座るルルンバちゃんは強かった。

 途中でスノーウルフの群れも襲撃に加わるが、護人が弓矢で片付けて行く。手強そうな巨体の雪熊も、ミケの『雷槌』で途端に腰砕けの憂き目に。

 モノの数分で、戦いの趨勢は来栖家チームに偏って行き。


 何しろ壁役の筈のアイスゴーレムが、ルルンバちゃんに簡単に壊されて行くのが酷い。ハスキー軍団も硬い連中には構わず、弱った雪熊や途中参加のスノーウルフを相手取り。

 結局は圧勝して、レイジーに限っては『魔炎』すら使っていない有り様だ。そして雪に埋まった魔石を、皆で苦労して集めて回ると言う。


 こればかりは、さすがのルルンバちゃんも無理みたいで、困った様子でアームを動かしている。香多奈が近寄って慰めて、そこは子供ながらナイスフォロー。

 そして一行は、ポコポコとかまくらみたいな建造物が建つ、奇妙なエリアへと足を踏み入れる。かまくらの横や上には、何故か可愛い雪だるまが作られていて。

 危険なダンジョン内だと言うのに、ちょっと和んでみたり。


 香多奈も熱心に撮影してるが、そんな虚をつくように思わぬところから襲撃が。何と雪の中から真っ白な蜘蛛が飛び出て来て、先頭のレイジーを巣に連れ込もうとして来たのだ。

 それを間一髪で避けるレイジー、驚きの悲鳴はしかし別の方面からも。完全にオブジェだと思っていた、雪だるまが雪のブレスを後衛に向かって吐き出し始め。


 パニックがチームを襲う中、ルルンバちゃんの周囲の構造物の破壊工作が始まる。紗良も咄嗟に《結界》スキルで安全地帯を構築、隣の香多奈ももちろん一緒だ。

 そして餌が来ないぞと、れた雪蜘蛛が色んな所から出現して来て。いつの間にやら、罠と待ち伏せの蜘蛛の群れに囲まれていた来栖家チーム。

 ピンチではあるが、護人は慌てず各方面に指示を出して行く。


「姫香、ルルンバちゃんに手伝って貰って、右側の拠点防衛をしてくれ! ハスキー軍団が前方をしてくれてるから、俺が後方を固める。

 ルルンバちゃんは、左から来る敵に備えて!」

「はいっ、護人叔父さんっ! お願い、ルルンバちゃん……あそこのかまくらの上に、私を運んで頂戴っ!」


 頼られたルルンバちゃんは、見事なアーム操作で姫香の身体を掬い上げ。アームで高所への橋を作り上げて、そこまで姫香をエスコート。

 踏み固められた足場を頼りに、近付く雪蜘蛛に鍬での一撃をお見舞いする。幸い向こうも、目立つ場所に居座った姫香へと殺到してくれ、敵は選び放題だ。


 護人も近場のトラップ雪だるまを、シャベルで粉砕しながら後方からの襲撃に備える。四腕を発動して、シャベルと盾を手に弓矢も扱えると言う高スペック振りを発揮して。

 雪の下で待ち伏せしていた雪蜘蛛の数は、意外と多かったようでその点は驚きだけど。スピード以外は、それ程の脅威も無かったようで次々と倒されて行く敵の群れ。

 幸い、ハスキー達にも被害は無かった様子。


「ふうっ、ビックリした……可愛い雪だるまだったのに、まさか敵に寝返るなんて」

「いや、別に寝返ったとかじゃ無いと思うよ、香多奈。元からトラップで、まんまと騙されたってだけの話でしょ?」


 姉のツッコミを聞き流し、香多奈は休憩中を良い事に小さな雪だるまを1個だけ製作して。それを作り終えると、さっさと魔石拾いへと向かって行った。

 その雪だるまの顔は、少しだけ拗ねてるように姫香には見えたのだった。




「ねえっ、あの人影……ヒバゴンじゃないかな、あの丘の上を歩いてる奴!」

「バカね、香多奈……ヒバゴンは比婆山にいてこそでしょう、庄原のマスコットキャラクターが吉和にいたらおかしいでしょうに」

「……マスコットキャラクターとは違うと思うぞ、姫香」


 雪蜘蛛からの襲撃後の休憩を終え、再び出発しようとしていた一行だけど。香多奈が左にこんもりとそびえる雪の丘の上に、人影のようなモノを発見して。

 アレはヒバゴンだと騒ぎ立てての、現在の顛末である。実際このヒバゴン騒動は、広島では新聞やらニュースやらで超有名にはなった過去があるのだが。


 山で出逢うのならば、絶対に妖精ちゃんの方が格式が高いよねと、末妹は妙な対抗意識を燃やしている様子。何となく意味は分かるが、同意するのも変な気分。

 取り敢えずは、その未確認生物を確認しに行こうとチームの意見は一致して。進行方向を変えて歩き出した途端に、その異変は地面を揺らした。

 一瞬、護人はダンジョン停止を疑ったが違った様子で。


 ただ単に、雪の丘だと思った存在が立ち上がっただけだった模様。それは8メートルを超す巨人で、青い肌に雪豹の被り物と言うスタイルをしていて。

 まるで中ボスのような出現方法だが、ここはまだほんの4層と言う中途半端さ。とは言えあの巨体で暴れられたら大変だ、木をへし折られて投げ連れられただけで、こちらは被害甚大の目に遭ってしまう。

 そんな訳で、護人はすかさずミケとレイジーに本気モードの指示を出す。


 姫香も紗良の元まで下がっての、シャベルの受け取りを秘かに行っている。向こうの雪巨人は、その巨体を起こしてようやくこちらを見据えた所。

 身体の大きさに比例して、その動きはあまり俊敏では無いのは確か。それに思いっ切り付け入って、先制打を浴びせ掛ける来栖家チームである。


 その所作は、すっかり手強い敵に慣れていて淀みは無い。レイジーの『魔炎』とミケの『雷槌』と同時に、香多奈の『応援』を貰った姫香のシャベルが飛んで行く。

 避ける事もブロックも出来ない雪巨人、思いっ切り立ち上がりにホームランを打たれた投手の如し。しかも3者連続のつるべ打ち状態で、立ち直る機会も与えられず。

 哀れな中ボス級の雪巨人、出現が派手だっただけに本当に哀れ。


 最終的には、そのダメージの蓄積で真正面へとノックダウン。物凄い地響きの音と共に、雪原へと倒れ伏して行く哀れな雪巨人である。

 おおっと、その結果を眺める子供たち。もうもうと立ち上がる雪の煙が、晴れたその瞬間にもう一度驚きの声が上がった。そこには雪の台座に乗った、金色の宝箱が。


 派手な演出だが、どうやらその奥にはワープ魔方陣も湧いている模様で。とにかく良かった、あの巨人はそれなりの強敵だったかは別として。

 一応は魔石(中)とスキル書と雪豹の毛皮装備もドロップしているし、中ボスクラスの敵だったのは間違いない。得意の速攻が決まらなければ、こちらも被害甚大だっただろうし。

 そう思いつつ、一行は宝箱前へと進んで行く。


「うわっ、金の宝箱だっ、きっと凄いお宝が入ってるよっ! あの巨人はそんなに強くなかったのに、太っ腹だよねぇ」

「それは言わない約束……まぁいいや、罠とか無いなら開けちゃおうか」


 姫香がそう言って近寄って行き、ツグミの確認が一度入ったモノの、反応は特に無かった模様。そんな訳で開封からの、中身の確認で盛り上がる子供たち。

 そしていきなりの宝珠の出現に、歓声が沸き起こっての大盛り上がり。続いてスキル書が1枚に、虹色の果実が2個とさすが金箱クオリティ。


 更には魔結晶(大)が4個に水晶のような宝石が7個、薬品は中級エリクサー1200mlにエーテル1500mlに上級ポーション1800mlと、これまた太っ腹。

 装備もナックルガードと毛皮風のマントが、妖精ちゃんが興味を示したので魔法の装備っぽい。それから最後に、良く冷えた重い石が3個に球根が3つ。

 これも妖精ちゃんによると、魔法アイテムらしい。


 かなりの報酬で、まだ中ボスも倒していないと言うのに、魔法の鞄の中身は凄い事になっている。そう報告する紗良は、何とも嬉しそうではあるけど。

 MP回復を含む休憩を取りながら、さっきのヒバゴンどこに行ったかなぁと香多奈の呟き。もしいたとしても、巨人が立ち上がった騒動で酷い事になっている筈には違いなく。


 比婆山に帰って元気にやってるよと、いい加減な姫香の予想の言葉に。きっとそうだねと、良く分からない姉妹のコントみたいな会話は続く。

 どうでもいいけど、ダンジョンに突入して既に3時間を超えている。そろそろお腹空いたねと、そんな言葉はやっぱり末妹の香多奈から。

 それじゃあ、ワープ移動したらお昼休憩を取ろうかと。





 ――護人の提案に、元気に頷く子供達だった。









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