第209話 召喚されたデーモンと死闘を繰り広げる件
それは獣人の祈りと糧を得て、このダンジョン内で自由に動ける肉体を得ようとしていた。その圧倒的なパワーは、かなり離れた場所の来栖家チームにも分かる程で。
不味いと思った時には、既に儀式は終わっていて後の祭り状態。興奮するオーク兵団だが、その中心にいる召喚された存在は彼らとは似ても似つかなかった。
浅黒い肌に4メートルに達する巨体、顔には羊のような巨大な角を生やし尻尾は太く爬虫類を思わせる。毛深くもあるその肉体は、
紗良があれはデーモンなんじゃと、自信無さそうに小さく呟いた。煌々と赤く光る眼は、この地に降り立った瞬間からこちらを見据えている様子。
どうやら向こうは、とっくにこちらの存在に気付いている様子。
さっきの巨大蜘蛛からは逃れられたが、今度は逃げ切れそうも無いと踏んだ護人は。全員に果実ポーションを飲むように指示を出して、全力で奴を倒すぞと指示を出す。
途端に殺気を
それらを迎え撃とうと、勇んで前へと進み出る“動く要塞”ルルンバちゃん。
「ようっし、あの強そうなデーモンは俺と姫香で当たろうか……レイジー達は遊撃で、とにかく雑魚を減らして貰う事にして。
おっと、召喚はまだ終わってなかったのかな……?」
「新たに湧いたのはガーゴイルでしょうか、動く石像ですね……4体いますけど、オークより強い可能性があります。気をつけて、姫香ちゃん」
「任せておいて、こっちには1体も近付けないよっ!」
ハスキー軍団に負けずに気合いの入っている姫香は、果実ポーションを飲み干して気合十分。護人は既に、『射撃』スキルで敵の数減らしを敢行中である。
負けずに香多奈も、爆破石で戦闘参加を決め込んでいる。相手の勢いはあっという間に減じて行くが、そこにステージ奥から新たなゴブリンとオークの大量の混成軍が。
それを迎え撃ちに、進み出るルルンバちゃんとハスキー軍団。連中の儀式の為か、あちこちで派手に
それが勢い良く膨らんで、次々に炎の狼と化して敵の兵団へと突っ込んで行く。途端に周囲は阿鼻叫喚の地獄絵図、真っ先にペースを掴んだのはそんな訳でレイジーだった。
数だけは多い獣人軍は、新たな敵影に右往左往。
空は黒い稲妻を落として以来、厚い雲に覆われて嵐の前触れのような雰囲気。今にも大粒の雨が降って来そうだが、辛うじて天候は保たれている感じ。
先陣を切っていた、狂乱のオーク軍団はいつの間にか全滅していた模様。その代わり、ガーゴイルが宙を飛んでの戦闘参加。ルルンバちゃんだけでは止め切れず、護人と姫香も戦線維持に前へと出ている。
ツグミも影の従者を造り出して、舞台上で魔法を飛ばすオーク術者をけん制していた。この術者が厄介で、ひょっとしたらこの兵団の統率者なのかも。
一瞬は、レイジーの炎の軍団で押し返したかに思えた戦況だけど。どこにいたのか、新たなオーク兵団が増加中。更に南方面からも、ゴブリンの軍団が大集団で進行して来ているのが窺えた。
その先頭のゴブリンは、超巨大な猪に跨っていかにも強そう。
「叔父さんっ、下の道からまた敵が来てるっ! ゴブリンの群れが40匹くらい、どうしよう凄い数だよっ!?」
「そっちは私が行くよ、護人叔父さんっ……最初の計画と違って来るけど、すぐに倒して合流するから!
安心して待ってて、私の分は残しておいてねっ!」
「済まん、姫香……ルルンバちゃんも向かってくれ、ここは俺1人で大丈夫だ!」
正直もっと兵力を回してやりたいが、ガーゴイルのパワーと機動力は相当に厄介で。2人と1機掛かりで、やっと2匹倒し終えた所である。
ルルンバちゃんも、この飛び回る敵には自慢のパワーも空回り気味で。ただし彼のお陰で、後衛まで素通しになる状況を何とか防いでくれた。
ここまで来れば、盾の『敵煽』効果で何とかなる。まずは翼を潰してやろうと、《奥の手》で叩き落とす構えの護人。向こうは爪の攻撃が厄介で、盾が無いとあっという間にズタボロにされてしまいそう。
その上、ステージの反対側から廻って来たオークが数匹。ハスキー軍団が幾ら優秀でも、10倍近い兵力差を抑え込むのは無理と言うモノ。
とは言え、今更戦線を下げても無駄だろうし。
足並みを揃えられて突撃されるのが落ちで、それをされても困ってしまう。とにかくこの場で踏ん張るぞと、気合を入れ直したその瞬間に。
優秀な薔薇のマントが、片方のガーゴイルの撃墜に成功してくれた。その隙を逃さず、すかさずシャベルで首を
これで風向きが変わってくれるかもと、敵の大将の方向を見遣ると。
その時彼の視界に、新たな召喚魔方陣が起動した光が映り込んだ。オーク召喚士の仕業らしく、新たな敵のお替わりが魔方陣から湧き出て来ている。
気付けば小柄なインプが、追加で半ダースほど宙を舞っていた。
それを目にしたのはハスキー軍団も同じく、そしてツグミは激しく悔しがっていた。つまりは影の従者を召喚して、ステージ上の敵にちょっかいを掛ける作戦は失敗に。
オークの召喚士はともかく、あの巨体なデーモンは明らかに格上である。『隠密』で近付こうにも、見破られて攻撃されてしまう確率がとても高い。
その上での影の従者の派遣なのだが、これも呆気無くデーモンに倒される始末。それでも敵の最上級の戦力の足止めは、作戦的には上出来の部類なのだが。
まさかその奥で、召喚士が新たに戦力を増やしていたとは。
敵の第二弾は、インプの群れらしかった。ハスキー軍団は母親のレイジーの大活躍で、建物の奥から次々と湧き出るオークとゴブリンの混成軍の封じ込めに成功している。
そこは素直に尊敬するツグミ、母ちゃんスゴイと興奮さえしていたり。何しろ召喚した炎の狼たちは、未だに倒されず5匹程度が稼働しているのだ。
MPも辛いだろうに、凄い根性だと思う。
兄弟犬のコロ助は、戦況など気にせずとにかく暴れ回っている感じ。最近ようやく護衛任務から解放され、とにかく浮かれているのが気掛かりだけど。
相棒から『応援』を貰ってパワーアップしてるし、オーク兵相手なら問題無いだろう。相手の兵士はまだまだ多く、ボスを相手取るにはもう少し時間が欲しい。
戦況を見極めながら、そんな事を考えるツグミであった。
姫香とルルンバちゃんは、初タッグを組んでゴブリンの群れに対峙していた。坂の上に位置する拠点で、1匹も通さないぞを合言葉にして。
敵で気を付けるべきなのは、大将らしき猪に乗ってるライダーと、術者タイプのゴブリンだろうか。敵の大集団は、現在ルルンバちゃんの威容にビビッて進軍を止めている所。
それをチャンスと先制に打って出る姫香、何しろ向こうは密集しているのだ。しかも陣形も何もあったモノじゃ無く、姫香から見たらボーリングのピンにしか見えない。
後は威力のある弾を撃ち込めば、勝手に倒れてくれそう。
やった事は無いのだが、出来そうな気がした彼女はそれを実行に移す。まずは『旋回』での回転運動、その場で独楽のように回り始める姫香である。
敵の軍団は、何が始まったのかとフリーズ状態。それを幸いにと、回転を維持したまま敵陣に突っ込んて行こうとする姫香……だったが、ここで思わぬイレギュラーが。
何と特殊スキルの《豪風》が発動したようで、カッター状の
ところが相手の陣営は、いきなり被害甚大で阿鼻叫喚のパニック模様。《豪風》の風の刃に切り刻まれ、その後に回転する鍬をもつ少女が突っ込んで来たのだ。
揃って反撃も
それに慌てたのは、ルルンバちゃんも同じく。手柄を独り占めされちゃうと、姫香に遅れて突っ込んで行くのだけれど。残ってるお仕事は、地面に転がる負傷兵に止めを刺すのみと言う。
姫香の回転は尚も収まらず、何と言うか芸術的に安定して綺麗に中心を保つ暴風の如し。組織立って反撃も出来ず、正面から薙ぎ倒されて行くゴブ兵士たち。
いつの間にか主導者のゴブと猪も倒されて、魔石と化していたっぽい。それを回収しながら、後に続くルルンバちゃん。自分も活躍したいのにと、アームの動きが少し寂しそう。
モノの数分でゴブリンの兵団は半壊状態、“暴風”の姫香の誕生の瞬間だと彼が思ったかどうかは定かでは無いけど。生き残ったゴブの始末をしながら、ルルンバちゃんも自分も機体を旋回させてみたり。
ちょっと楽しい、新技に取り入れようかなと画策するルルンバちゃんだった。
ステージ周辺の喧騒はそのままで、護人はやっとガーゴイルを全部やっつけた所。これで敵のボスとの間の厄介な敵は、片付いて視界はスッキリした。
後ろからは香多奈が、前に進んで良いかとのお伺い。確かに護人と離れ過ぎると、いざという時に駆けつけられないし危ないのだけど。
今は前衛が、護人たった1人しかいない状態なのが何とも。
このままあの強そうなデーモンに、たった1人で特攻するのはいかにも不味い。しかも取り巻きに、宙を舞うインプの群れが半ダースもいるし。
チラッと戦況を見極めると、右手の姫香とルルンバちゃんは、何とゴブリンの軍団を既に半壊に追い込んでいた。ステージ上のボスが動かないと仮定するなら、あっちに紗良と香多奈を合流させるべきかも。
それならば、護人が危険を冒してボスに突っ込める。
ステージ周辺にはハスキー軍団もいて、オークの兵隊を片付けて回っている。その数もかなり減っていて、さすが優秀なハンターたちだと感心する護人。
そんな訳で、一旦姫香たちに合流するべく後衛に移動の指示を出す。ルルンバちゃんがその動きに気付いてくれて、こちらと合流する素振り。
ただし向こうもそれに気付いて、インプの群れが一斉に護人へと殺到して来た。黒球の魔法を放つ奴もいて、その防御に対応しながら。
四腕を発動しつつ、毎度の盾役をこなしながら全員が揃う機会を見計らう護人。レイジーも心得ているようで、じっとご主人の合図を伺っている。
彼女もボスの強さを理解していて、単独でなんて無理はしない様子。
「叔父さん、ハスキー軍団もMP辛そうだし、補給しに行きたいんだけどっ? ルルンバちゃんに護衛して貰って、向こう側に廻って行ってもいいかな?」
「そうだな……紗良も付いて行ってくれ、いざという時は香多奈を頼む!」
「分かりました、護人さんっ……それじゃあルルンバちゃんと行って来ますねっ!」
四腕の猛攻と盾の《魔法吸収&敵煽》効果で、6匹のインプとも互角に戦う護人。後衛にも指示を出し終え、そのタイミングで一気に攻撃へと転じる。
インプも手強く、空中から切り裂くような鉤爪攻撃は何度も護人の頭防具を傷付ける。『硬化』スキルのお陰で、致命傷を避けつつ《奥の手》で攻撃の隙を突いて叩き落として行き。
そしてシャベルでの止め差し、この方法で既に2匹を退治し終える事が出来た。薔薇のマントはもっと酷くて、棘付きアッパーで彼方へと吹き飛ばしている始末。
そして最後の1匹は、戻って来た姫香が颯爽と鍬の一撃で仕留めてしまい。満面の笑顔でのVサイン、見渡せば雑魚の姿は周囲から消え去っていた。
戦い開始から30分以上、ようやくと言った所か。
「向こうで香多奈たちがハスキー軍団にMP補給させてるよ、護人叔父さん。私たちもMPポーション飲んでから、ボス退治に行こうっ!」
「そうだな、怪我は無いか姫香……念の為にエーテルの方を飲んでおきなさい」
2人して薬品での回復作業、レイジー達も無事に香多奈と合流してMP回復を終えた様子。それでもステージ上のデーモンに動きは無し、ただし召喚士はまだ何か唱えている。
また何か召喚されたら厄介だねと、姫香が他人事のように呟いている。確かにガーゴイルやインプならまだしも、再びあのデーモン級を招かれたら嫌過ぎる。
その時、レイジーの炎の狼が2匹ほど時間差で、敵の召喚士へと突っ込んで行った。他の従者は長い戦いの内に送還され、生き残った精鋭たちの最後の仕事である。
その妨害工作だが、何とデーモン1体に簡単に返り討ちの憂き目に遭ってしまった。振り回す黒い槍は、紅い雷光を纏って物凄く強そう。
そして同じく、紅く光る瞳がこちらを見据えている。
――バッチリ喧嘩を売られて、冷や汗しか出ない護人だった。
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