第208話 モンスターのお祭りステージを目撃する件



「ここから南に行くと、グランドとかテニスコートがあるみたい。西の方は面白いね、“流れの遊び場”とかアスレチックコースがあるって書いてある。

 東はキャンプ場とか、湿原や湖があるのかな?」

「アスレチックコースは見てみたいなぁ……ここから近いの、姫香お姉ちゃん?」


 毎度の香多奈の我がまま発動だが、それをとがめる者は無し。行き先くらいはお安いモノと言うか、どの道決まっていなかったので一行はその提案に乗る事に。

 そんな訳で、休憩を終えて移動を始める来栖家チームである。ここまで約1時間、大きな戦闘こそ2度しかないけど、広いだけあって移動が大変なダンジョンである。


 何しろここは広域ダンジョン、しかもA級認定されている難易度高い敵の徘徊するエリアである。ただまぁ、今の所はそんなに苦労する敵には遭遇していないけど。

 較べるなら、“弥栄やさかダムダンジョン”の10層以降くらいだろうか。向こうの方が、中型~大型ボスが徘徊していたのを踏まえると大変だった気がするけど。

 こちらは今の所、噂の大蜘蛛の類いすら見掛けない有り様。


「う~ん、動画には結構映ってたんだけどねぇ? みんな退治されちゃったのかな、ゴブリンやオークの方が多い気がするよ。

 ちなみにオークって、やっぱりお肉は落とさないみたいだね?」

「あんな奴のお肉とか食べたくないよっ、姫香お姉ちゃんってば非常識っ!」


 非常識の先端を行くアンタには言われたくないよと、またもや始まる姉妹喧嘩を宥めつつ。それじゃあ行くよと、子供達を促しての移動の開始。

 外と違って温かな気候のダンジョン内を、しかも舗装の為された道路を進む。風変わりな探索には違いないが、敵との遭遇はそれなりに熾烈だった。


 例えば大猪に乗ったゴブリンライダーだとか、中型の大蜘蛛にもとうとう遭遇して。中型と言っても軽自動車サイズ、ハスキー軍団が噛り付くにも躊躇ちゅうちょする大きさだ。

 結局は姫香の斬撃と、コロ助の『牙突』で倒し切って、ソイツは魔石(小)と蜘蛛糸をドロップした。この大きさで魔石(小)なのかと、一行はちょっと腑に落ちない表情。

 奥の層に行くほど、恐らく蜘蛛は巨大になって行く筈。


 猪のゴブリンライダーも、3匹にしては手強かったけど。さっきの姫香の言葉に触発されたのか、コイツは猪肉を2塊もドロップ。3匹目はスキル書で、こっちは当たり。

 香多奈はお姉ちゃんが招いたと、恐々とこのドロップを拾い上げて眺めるけど。猪の肉と判明して、ホッとした表情に。さすがの食いしん坊も、妙な出所のお肉は嫌らしい。


 そしてスキル書の初ドロップには、やったぁと無邪気に喜んでいる。ようやく新造ダンジョンらしくなって来たが、敵の密度もそれなりに増えてきた気が。

 いや、どうやら向かう先に集落があるらしい。


「うわっ、どうやら“流れの遊び場”ってエリアがオークの集落になっているみたい。いっぱい出て来たっ、ルルンバちゃん前に出てっ!」

「香多奈、遠隔攻撃で数を減らすぞっ……向こうの勢いが減るまで、姫香もハスキー達も前に出過ぎないように!」

「「了解っ、叔父さんっ!」」


 そんな訳で唐突に始まる遭遇戦、オーク兵に混じってリザードマンも出没するのが気になるけど。更には連中の武器や装備も、なかなか上等で倒すのに根気がいる。

 ただしオーク兵たちは、突進するにも自重のせいで動きは素早く無いと言う。その間に護人の『射撃』と香多奈の爆破石で、無傷な兵隊はいないと言う有り様。


 ようやくルルンバちゃんの前に辿り着いた兵士たちは、無慈悲な彼のアーム振りで吹っ飛ばされる破目に。そうでなくても体勢が崩れた所に、ハスキー軍団と姫香の一撃が。

 流れるような殲滅作業に、心配な個所はどこにもない感じ。実際に敵の攻勢は、5分も経たない内に衰えて来る始末。それを感じて、ゆっくりと進み始めるルルンバちゃん。

 その姿は、まさに“動く要塞”に相応しいかも?


 オークの集落は、ダムダンジョンで何度も見た集落に較べても貧相だった。木造など無く土壁なら良い方で、ほとんどが布で張られた住居ばかり。

 そこへ進み入りながら、たまにある残兵の襲撃を跳ね返して進む一行。取り敢えず集落の探索は、敵を全滅させてからと子供達に言い含めて。


 ここは“流れの遊び場”と言うだけあって、小川が集落の中央を流れている。そこにいる大アメンボ達を退治して、周囲の敵の掃除は大体は終わった感じ。

 どうも川辺だけあって、仲良くリザードマンの集落も併設されていたらしい。そこも今では全て倒し終わり……と思ったら、残りの兵隊が襲い掛かって来た。

 どうやら岸の反対にも、集落は広がっていた模様。


「下手に出ないで良いぞ、さっきと同じくルルンバちゃんが壁になってくれるからな!」

「は~い……ツグミは後ろの、あの弓矢使いの始末だけお願いっ!」


 集落攻めもすっかり慣れてしまった来栖家チームは、残兵の処理もスムーズにこなして行く。この集落で倒した敵は、ゆうに60匹以上と結構な激しさだったけど。

 気が付けば2つの集落を攻略完了、宝箱も2つあるかなと香多奈はウキウキ模様みたい。ところがオークの集落の宝箱には、それを護るようにゴーレムの姿が。


 今までにない仕掛けに、驚く一行だがやる事は一緒である。ってか姫香が紗良に近付いて、金と銀のシャベルを催促している。3メートル近いゴーレムが動き出すより、彼女の『身体強化』込みの投擲の方が速かった。

 それを胸のど真ん中に浴びて、思わず動きを止める敵のゴーレム。下手なダンジョンでは中ボスクラスの敵なのだが、もはや新人の域を抜け出した来栖家チームには関係ない。

 ってか、何度も遭遇してやり慣れた敵でもあったりして。


 ルルンバちゃんが近付く前に、もう1本のシャベルがほぼ同じ個所に突き刺さる。射撃系のスキルを持っていないのに、何と言うコントロールと護人が呆れる中。

 最後はルルンバちゃんのアームの一撃で、簡単に宝箱の守護兵は倒されて行く。その跡には、魔石(小)とまたもやスキル書が1枚転がっていた。

 ここに来ての連続ゲットに、子供たちは大喜び。


「よっし、宝箱を開けようっ……えっと、ツグミにお願いすればいいんだっけ?」

「ああ……知らなかったけど、ツグミにそんな能力があったんだなぁ」


 呑気に応じる護人だが、姫香は相棒に期待の眼差しで開封のお願い。とは言っても、この宝箱に鍵だか罠だかがあるかすら不明なのだけれど。

 それでもツグミは、影を伸ばして宝箱をいったん覆い尽くす仕草を見せ。それからひと吠え、これで開封作業を行ってもオッケーらしい。

 試してみると、確かに大きな箱はスンナリ開いてくれた。


 そして中からは鑑定の書が3枚と木の実が3個、ポーション800mlに解熱ポーション500mlが出て来た。それから革の装備が数着、妖精ちゃんの反応では魔法の品は無さそう。

 武器も小剣やナイフが数点、こちらも掘り出し物は無い感じ。そして最後に、数枚のなめし革が乱雑に畳められて入っていた。

 こちらも価値は不明だが、素材としては使い道はありそう。


 それらを鞄の中に放り込んで、さて次はどこの確認に向かおうかと話し合う一行。実を言うと、ゴーレムの破壊されたすぐ側にワープ魔方陣が出現していて。

 3層に向かおうと思えばすぐ行けるけど、リザードマンの集落にも宝箱が隠されているかも知れない。そんな子供の主張が通るのも、来栖家クオリティ。


 そんな訳で、粗末なオークの集落を横切って川辺の方向へ。区分はハッキリ分からないが、同じく粗末な集落を嗅ぎ回るハスキー軍団。

 そしてツグミが発見、2つ目の宝箱は立派な漆塗りだった。これは期待出来ると、大喜びの子供達である。そして中からは、大き目の鞄と鑑定プレートらしき板版が。

 どちらも魔法の品なら、両方とも百万円を超える価値である。


「わっわっ、鑑定プレートと魔法の鞄が一緒に出て来ちゃった! ってか、コレって本当にそうだよね、妖精ちゃんっ!」

「うわ~っ、さすがA級の新造ダンジョンだよねぇ……信じられない事が起きるなぁ、これだけで2百万円以上の価値になるの?

 他にも色々入ってるね、紗良姉さん」


 他は強化の巻物が2本に、中級エリクサー800mlにエーテル800ml、木の実が4個に魔結晶(中)が6個とまずまず。あとはバケツや柄杓が、数セット一緒に出て来た。

 魔法の鞄に関しては、来栖家チームはツグミが《空間倉庫》を使えるので、実は有り難味は余り無い。それでも隣家チームか教授ゼミチームに貸し出すなど、用途は存在する。


 嬉しい悲鳴を上げつつ、一行は回収作業も終わって何となく一息ついて。他のチームは今どの辺りかねぇと、のんびり会話をしながらどうするべきか話し合う。

 まぁ、結論はこのまま進むの一択なのだけれど。他のチームがダンジョン奥に進んでいて、階層更新が滞っていたとしたら少し不味いかも知れない。

 つまり、来栖家チームが先に最深層に到達とか有り得るかも?


「ああっ、それは確かに不味いねぇ……護人叔父さんがA級ランカーより目立ったら、一気に世間の人気者になっちゃうよ」

「いや、そんな事には万が一にもならないから、姫香。取り敢えずは3層に出て、それからペースを落とすかどうか決めようか」


 護人の言葉に、素直に返事を返す子供たち。そして魔方陣で移動した先は、集落の気配の無い“流れの遊び場”だった。散在する敵を、早速狩り始めるハスキー軍団。

 そして本隊の護人と子供たちは、どっちへ進むかの議論を始め。今回も香多奈の意見が通り、やっぱり“アスレチックコース”を見に行く事に決定。


 位置的にはそんなに離れておらず、出現するゴブリンや大蜘蛛を蹴散らして進む事約10分。そして辿り着いた場所だが、確かにそれらしい遊具は存在した。

 そしてそれ以上に、巨大な蜘蛛の巣に一同は唖然としてその素のぬしを見上げる。それは一軒家の大きさはありそうな、超巨大な大蜘蛛だった。

 残念ながら、何の種類かは誰も分からなかったけど。


「……あれが毒蜘蛛だったら、ちょっとズルい位に手が出なくないかな?」

「う~ん、例えば有名なタランチュラとかは、蜘蛛糸で巣は作らない筈だけどな。巣を作るタイプの蜘蛛も、獲物を逃がさないための麻痺毒とか持ってた気もするなぁ。

 糸を作ったり毒を作ったり、蜘蛛って多芸だよなぁ」

「蜘蛛って、なんであんなに気持ち悪い外見をしてるんでしょうね……」


 敵を眺めているだけの紗良の顔色は、傍目に分かる程に蒼褪めている様子で。ここはキッパリ、攻略を諦めようとの護人の提案に。

 子供達も賛成して、一行は反転して元来た道を足早に進んで行く。結局はあの巨大蜘蛛の実力やドロップは、そんな訳で分からず仕舞いの結果となって。


 それでもそんな事は、全く構わないと出現位置まで無事に戻って来た来栖家チーム。それから安どのため息、それから自然に逆方向に全員で歩き出して。

 敵の出現は、相変わらず定期的にやって来て密度は濃いかなと感じる程度。この巨大なダンジョンからすれば、遭遇率は高い方に思える。

 まぁ、間引き目的には適うからそれも良いのだけれど。



 そんな感じで戦闘を挟みながら、“もみのき荘”方面へと進んでいると。不意にハスキー軍団が耳をそばだて、何かを感じ取ったような仕草を見せた。

 何だろうと進んで行くと、建物の前の広い駐車場の辺りで。さっきの2層には無かった、野外イベント用ステージがこちら側の端っこに建っているのが確認出来て。


 それは本当にステージで、野外で何かコンサートとかする時用の仮設会場みたいである。意外と立派なのだが、今はそこを占領しているのはオーク獣人たちのよう。

 術者の姿のオーク獣人が数名、何か祈りを捧げているように窺える。さっき聞こえて来たのは、ステージ上で粗末な太鼓を叩いている連中の儀式の音だったみたい。

 戦士の姿のオークたちも、ステージ下で踊り狂っている。


「何だろう、アレ……オークたちがお祭り騒ぎしてるね、楽しいのかな?」

「お祭りと言うより、何かの儀式に見えるなぁ……少なくとも、楽しむための太鼓やお祈りじゃ無いと思うけど」

「あの……ひょっとして、黒魔術的な生贄とか召喚の儀式じゃ」


 紗良の言葉に、来栖家の面々はビクッと一瞬身を竦める破目に。超巨大な蜘蛛の巣から逃げて来たと思ったら、こちらでは生贄の儀式とか冗談ではない。

 いやしかし、確かにステージ上では奇妙な肉の塊がセットされている気が。儀式は終盤に差し掛かっているようで、太鼓の音は今までにない高まりを見せている。

 瞬間、天から一条の黒い雷が降って来た。





 ――そして受肉したナニカが、召喚主の期待に応える様に動き出した。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る