第207話 初の推定A級ダンジョンに潜る件



 ワープ魔方陣での広域ダンジョン潜入は、確か“弥栄やさかダムダンジョン”以来だろうか。奥が全くうかがえないのは、ちょっと怖くもあるけれど。

 子供達もハスキー軍団も、そんな事は全く関係ないって感じ。巨大なダンジョンゲート前には、既に6チームが勢揃いして突入の時を待ちびており。

 積雪に出来た足跡も、それに比例して幾何学模様を作っている。


 簡素なギルド『羅漢』のギルマスの、幸運を祈る的な言葉の後に。我先にと、ワープ魔方陣に突入して行く探索者チームの面々、別に競争でも何でもないのだけど。

 血気盛んなのは、ハスキー達も負けていなかった。潜った第1層の感慨も特に気にせず、早速モンスターの気配を探っている模様。


 子供たちは、雪が無いねと周囲の変化に素直に驚いている。気温も外より断然温かく、これなら活動に支障も無さそうで何よりだ。

 そして同時に潜ったメンツの中で、大騒ぎしているのは来栖家チームだけという。他のチームだが、岩国の『ヘブンズドア』はモンキーバイクで移動するらしい。

 それを見て、あれ良いなぁと呑気な姫香の感想。


「ルルンバちゃんに乗せて貰えば、姫香お姉ちゃん? 多分だけど、凄く似合うと思うよ?」

うるさいわね、香多奈……ダンジョンに入って早々に泣きたいのっ?」


 相変わらずの姉妹喧嘩を宥めながら、散って行くチームからの挨拶に応じつつ。どうやら作戦通り、中ではチーム別に好きなように動く算段で良いみたい。

 ハスキー達も偵察に出て、こちらも気を引き締める様にと子供達に通達して。今回は小型ショベル形態のルルンバちゃんに、しっかりと後衛の警護をお願いする。


 色々と考えた末、コロ助とルルンバちゃんの交代がベストの形だと落ち着いて。香多奈などは、ミケさんがいるから平気だよと言い張るのだけれど。

 ミケは小さいので、直接の壁になるのはどうやっても無理である。やはり安心と実績のコロ助とルルンバちゃんは、どちらか後衛にいて貰った方が安心する。

 そんな訳で、いつものフォーメーションでチームは出発。


 “もみのき森林公園ダンジョン”は、イベント広場も宿泊施設も備えた巨大な公園フィールド型ダンジョンだ。自転車レースも出来るように、コースもあるしキャンプ場だってある。

 その広さは400haと、東京ドーム換算で86個分らしいのだけど。実際には、ダンジョン内の広さはそこまで広くは無いとの事である。


 それでも広いのは本当で、ダンジョン内には幾つもオークやらの獣人の集落が散在しており。中型~大型の蜘蛛や蟲型モンスターが徘徊しているとの事。

 気を抜くと大変な事になるのは、どこのダンジョンでも一緒には違いなく。今回はA級ダンジョンだし移動距離は長いぞと、護人は子供達に一応の喝入れ。

 それに呑気な、は~いとの返事が響き渡る。


 一応の作戦としては、エースの甲斐谷チームがダンジョンボスを退治するのが理想ではある。ギルド『羅漢』の2チームは、今回はその為のサポート役に徹するそうで。

 残りの3チームは間引きがメインで、実力にあった階層をメインにと通達はされていて。一応渡されたデータ動画はチェックしたけど、どの程度降りるべきかは見当もつかない。


 結局は事前に渡された簡易マップを眺めて、どこを探索するかを家族で討論。他のチームに較べると、のんびりし過ぎている気もしなくもないけど。

 急いでも仕方がない、とか思っていたらレイジーが獲物を釣って来た。ゴブリンか3匹に、一番後ろの奴は噂のオークだろうか。何故か向こうも、チームを組んで移動中。

 護人は姫香と共に前へ出て、チームに戦闘準備を呼び掛ける。


 そして短い戦闘だが、ゴブリンはやっばりゴブリンだった。武器を持っていても使い方は稚拙で、動きは全く素早くない。そしてオークだが、意外とそれなりに強かった。

 体格は人間より上で、体力もパワーもありそうで倒すのに時間が掛かる。リザードマンより強いかも、コイツが砦を造ってたら落とすのに手古摺てこずりそう。


 などと思ってたら、続いてツグミが大蜘蛛を引き連れて戻って来た。コタツ程の大きさで、2匹が気持ち悪い動きでこちらに近付いて来る。

 護人は迷わず弓矢での遠隔攻撃を選択、あんな気持ち悪いモノに近付きたくない。とは言え、結局は盾役として接近戦に移らざるを得ず、しかもコイツも体力が意外と多い。

 さすがA級ダンジョン認定だ、手強い敵ばかり。


「ふうっ、ここって体力が高い敵が多いね、護人叔父さん……他のチームはもう散って行っちゃったけど、私たちはどうしよう?

 適当に歩いて、下に続くワープ魔方陣を探すでいいのかな?」

「そうだな、ここはまかりなりにもA級認定だからな……無理せずゆっくり進んで行こう。まずは慣れなきゃ、このダンジョンも広そうだからな」


 護人の言葉に了解と頷く子供たち、ハスキー軍団も同意したようにゆっくり索敵に散って行く。子供たちは公園の地図を眺めながら、あっちに建物があるみたいと方向指示。

 それならそっちに進もうかと、チームの方針は一応決定して。途中に人が乗れるほどの大きさの大カラスの襲撃に遭いつつ、アスファルトの道路を進んで行く。


 徘徊しているゴブリンの群れは、それなりに多いようだが脅威ではない。ハスキー軍団が釣って来るそいつ等を退治して、たまに混じるオークたちを慎重に屠って行く。

 ドロップは最初から魔石(小)が混じっており、そこはさすがA級ダンジョンと言った所。マップを見ながら進む一行の前に、やがて広い駐車場が見えて来る。

 その奥には、大きな平屋の建物が。


「あっ、発見したけど……蜘蛛とオークもいっぱいいるね、他のチームはここには来なかったみたい。うわぁっ、あんな拓けた場所だと敵に見付かり放題だよっ!」

「確かにそうかもねぇ、戦い始めたら敵がどんどん集まって来そう……」


 珍しく紗良も戦闘に口出しと言うか、余り無茶はしないようにと一行を窘める仕草。とは言え突入から20分、まだ碌に戦闘もしていないしそろそろ貢献しなければ。

 甲斐谷のチームがコアを破壊してくれれば、1層の間引きに意味は無いとは言え。数の多過ぎる敵を倒して行けば、少なくとも地上に溢れる措置にはなる筈。

 ひょっとしたら、ボすを倒すまで数日掛かるかもだし。


 色んな場面を想定して、最善の行動を導き出すのはなかなかに難しい。香多奈の発案で、取り敢えず紗良の遠見能力で周囲を確認する事に。

 その結果、建物の入り口に宝箱が置かれているのを発見。あの建物は“もみのき荘”と言うらしい、近くには体育館や研修棟などの建物も隣接しているよう。


 それから目的のワープ魔方陣だけど、集落では無いけど恐らくランダムに発生していた奴を発見した。建物同士の間に発生していたようで、ここにも獣人の群れが多数。

 言ってみれば自然の要塞みたいな感じで、どちらにしても周囲の敵は倒さないといけないみたい。そんな訳で、宝箱の回収と次の層へのワープ目的で戦闘開始。



 なるべくこちらの有利な地点での殲滅戦、動く要塞のルルンバちゃんを前面に押し出して。護人の『射撃』と香多奈の爆破石で、駆け寄って来る敵を減らしつつ。

 辿り着いた敵には、ルルンバちゃんの容赦ないアームアタック。吹っ飛んだ敵に、ハスキー軍団が止めを刺して行く。周囲は途端に騒がしくなり、敵はどんどん集まって来る。


 最初はゴブリンとオークがメインだったけど、大蜘蛛や大カラスも混じるようになって来て。どこから来たのか、羊のようなモンスターも加わって来る始末。

 後衛を護衛していたコロ助が、即座にこの闖入者に対応している。香多奈の応援を受けて、体格を倍加させたコロ助はほぼ無双状態。

 数匹いた白い大羊の群れを、次々に始末して行く。


 前衛もルルンバちゃんの活躍で安定しており、こちらに向かって来る敵の群れはようやく沈静化。オーク獣人にはやや手間取ったが、こちらに大きな被害は無しの結果に。

 護人は自分が射手のこの陣形も良いなとか思いつつ、残党狩りに意識を集中。ハスキー軍団も本隊から離れ過ぎず、その仕事に従事している。


 終わってみれば、心配したほども無く戦闘は終了していた。駐車場を無事に制圧した来栖家チームは、用心しながら転がってる魔石を拾って行く。

 それから建物の前に移動して、あれこれチェックに時間を掛けて。取り敢えず建物の扉は、何をやっても開かない事が確認出来た。中に敵影も無く、完全にオブジェみたい。

 後はお楽しみタイム、宝箱は木製だけど大きさはそれなり。


「わっ、ボールがいっぱい入ってる……コロ助が喜びそうっ!」

「本当だ、バスケットボールも1個入ってるね。近くに体育館があるらしいから、その関係なのかもね?」

「MP回復ポーションも入ってるみたい、良かった!」


 チームの体調管理隊長の紗良が、そう言って薬品を回収し始める。薬品はポーションとMP回復ポーションが、それぞれ800mlでペットボトルに入っていた。

 他にも鑑定の書が4枚に木の実が4個、魔玉(風)が12個に鉄の矢弾が20本。何か金属の延べ棒が2本にガラス細工が少々、後はバスケットボールやテニスラケットやボールが幾つかって感じだった。


 回収品のチェックをしながら、その場で暫くの休憩タイム。まだ序盤だとMPを保存している面々は、薬品での回復はまだ必要はない様子だ。

 それでも敷地の広さには面食らいつつ、他のチームはどこを彷徨ってるのかなとお喋りしてみたり。奥の方には湖や湿原もあるので、ひょっとしてそっち方面にまで向かっているのかも。

 特に機動力のある、岩国チームなどはあり得そう。


「ウチらは入り口付近の探索でいいよね、護人叔父さん? あんまり奥に行っても、戻るの大変だもんね」

「そうだな、俺たちのチームが一番探索者歴が短いし、それ位は許されるだろう。ボチボチ進んで、5層に到達出来たらめっけモノな感じで行こう」

「は~い、今回もお宝たくさん期待出来るかなっ?」


 ここは新造ダンジョンらしいが、何度かオーバーフローで敵が放逐されているそうなので。そこまでドロップ率の上昇に、過度な期待は出来ないかも知れない。

 それでも普通のダンジョンよりはいいでしょと、末妹の期待は爆上がり。そして休憩も終わって、紗良の案内で発見済みのワープ魔方陣まで進んで行く一行である。

 もちろん先頭はハスキー軍団、抜かりなく周囲に気を配りつつ。


 それから残党を軽く片付けて、2層へとワープ移動を決め込む来栖家チーム。大蜘蛛の類いは、建物の影に隠れる習性があって侮れない。

 そして飛び出た2層も、場所は同じく建物に挟まれた中庭のような場所で。敵の気配に関しては、割と近場から漂って来ている様子である。


 ハスキー軍団は緊張気味だし、こんな場所に攻め込まれては立ち行かなく恐れもある。取り敢えず紗良の遠視で偵察して貰って、ルルンバちゃんを前面に表の駐車場に出る作戦に。

 そしてやっぱり、その広い駐車場にたむろしている獣人たち。


 まるでコンビニ前の駐車場に、意味もなく居座るヤンキーみたいである。もっとも、日馬桜町にはコンビニなんて洒落たモノは1軒も存在しないけど。

 とにかくこれも殲滅案件、さっきの成功体験に味を占めて同じ戦法で挑む事に。勇ましくアームを振り上げ進み出るルルンバちゃんと、それを盾に遠隔攻撃に励むチーム員。

 局地戦は始まり、途端に怒声を上げて集まって来る獣人の群れ。


 今回はレイジーの『魔炎』も炸裂、範囲攻撃であっという間に敵の数を減らして行く。香多奈も補充した魔玉を惜しみなく投入、命中率は試す度に上がって良い調子。

 そんな感じで、10分程度で40匹以上は敵の群れを倒しただろうか。途中で割り込んで来る大羊や大カラスに気を付けて、どうやら周囲の敵はほぼクリアした模様。


 そして何故か、1層と同じく建物の入り口に設置されていた宝箱。今回も木箱だが、この繰り返しに関しては子供達も大歓迎で嬉しそうな声を上げている。

 そして中身の確認、魔石(中)が5個にエーテル700mlと解毒ポーション600mlはまずまずの当たりだ。その後の木工細工や彫刻刀セットは、まぁアレだけど。


 他にも木彫りの指輪や木のブーメラン、木の矢弾が40本と微妙な内容ではあったモノの。連続してゲットした宝箱に、子供たちのテンションも高い。

 この調子で進もうねと、建物の前で休憩しながら話し合って。さて次はどっちに進もうと、地図を開きながら話し合う一同。

 ここは“森林公園”だけあって、どちらを向いても樹木だらけだ。





 ――だからこそ、建物や駐車場のアクセントはたまり場になるのかも?







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