第200話 日本家屋の仕掛けが意外と面白い件
休憩の後、何度目かの確認作業……とにかく不意打ちには、本当に各自で気を付けて行こうと。は~いと元気な返事は良いのだが、相手が狡いよねとの不満も漏れ聞こえて来て。
それはまぁ、確かに相手の不意を突いての攻撃は狡いには違いないけど。それを言ったら、ダンジョンに無断侵入して敵を倒したり、アイテムを回収して行くこちらも悪者と言われかねない訳だし。
そう言葉を返す護人に、そう言われたらそうかもとビックリした表情の香多奈。素直なのは良いけど、そのリアクションに家族全員が何となく和んでしまう。
そんな中、姫香は相棒のツグミと改めて体調チェックに余念がない。あちこち動き回って、改めてお互いどこも痛い所は無いよとリーダーに報告して。
それでようやく、探索の再開の許可が降りてくれて。
「それはいいけどさ、池の仕掛けはそれだけだったのかな……? あっちの石灯篭とか
「お姉ちゃんがすっ転んで気を失ったせいで、まだチェックは終わってないよ……痛いっ、何で私の頭を叩くのよっ!?
私まで気を失ったらどうするのっ!?」
元気になったらなったで、すぐに始まる姉妹喧嘩である。それより確かに、今までの層では鹿威しの仕掛けは無かったねぇと、紗良は護人に確認している。
護人も同じ意見で、後の問題は石灯篭である。前の層ではアレがゴーレムとなって、動き出して襲い掛かって来たけど。今回は大人しいモノで、ただの庭のオブジェだったみたい。
そして鹿威しの方は、仕掛けと言うか単にお宝の容れ物だったと言うオチ。動いてないなと思ったら、石の器の中にあった水は全てポーション薬だったみたいで。
おおっと感動する姫香と、それを持参の容器に移し替え始める紗良。香多奈も手伝って、その作業は数分で終了した。幸いにも、その間に襲い掛かって来る敵は無し。
後は屋内探索だ、護人を先頭に改めて進み始める一行。
縁側から入る間際に、何度も仕掛けがあったので護人も『硬化』スキルは忘れていない。しかし今回は待ち伏せも無く、普通に敵が出現するパターンだった。
この層は、妖怪系モンスターの中に猫又が混じっているようだ。一つ目小僧の特殊スキルがあるだけに、何かヘンな技を持ってないかと護人が用心した途端。
何故かミケが、『雷槌』スキルで周囲の雑魚と一緒に一掃してしまった。どうやらメンチを切られたのが気に入らなかったらしい、ミケは子供には甘いが御同輩には超厳しいのだ。
香多奈も容赦ないなぁと呆れ顔、さっきMP回復したばかりなのにとブツブツ呟いている。まぁ、ボス戦までミケが出張るような大物に遭遇しない事を祈ろう。
猫又に関しては、ミケの
「あれっ、こっちに閉まってる障子があるね……何でだろう、今までずっと
「アンタ、何気に姉使いが荒いわよね……あれっ、開かないや。護人叔父さん、何だろうこの仕掛け」
「何だろうな、おやっ……1か所破けて穴が開いてるな。ってか、穴を覗いても向こうが見えないのは何でかな?」
それは変だねぇと、近寄って来る紗良と香多奈。ミケが紗良の肩から飛び降りて、おもむろに下の段の障子紙を猫パンチで大穴を開ける。
ってか、普通に空いた穴にビックリ……そしてそこから、ドングリサイズの魔石が落ちて来た事に2度ビックリ! どんな仕掛けだと、香多奈はしゃがみ込んで穴を確認するけど。
やっぱり穴の向こうは見えなかったようで、不思議そうに首を傾げるのみ。それを見た姫香が、度胸一発と適当な場所に思い切って指を突き立てる。
そして絶叫、ナニかに指を掴まれたらしい。
「やだやだっ、何かが私の指を掴んでるっ! 護人叔父さんっ、助けてっ!」
「慌てるな、姫香……下手に慌てて引っこ抜いたら、本当に持っていかれるぞっ!」
子供みたいに泣き叫ぶ姫香を落ち着かせ、護人も同じ障子に指を突っ込んでの確認作業。確かに向こうに何かがいて、こちらの指を掴みに掛かって来る気配が。
それで姫香は自由になれたが、今度は護人の指が何者かに捕らわれてしまった。ただしそこに薔薇のマントが介入、棘の束で
お陰で護人の指も、一応は無事に救出の方向へ。
そして
普通は向こうの景色が見える筈なのに、何故か真っ白で指を掴んだ奴の正体すら窺えない不思議。そして姫香の大騒ぎによって、続いて障子を破る勇者は現れず。
いや、ミケが続けて一番下の段の右端を破ったようだ。全く容赦のないミケは、この遊びがちょっと気に入っている様子。そして引き抜く前脚と一緒にこぼれ出たのは、今度はピンポン玉サイズの魔石だった。
思わずおおっと感動の声を上げる香多奈は、これが5万円の価値があると当然知っている。それに勢い付いて、自分も目の前の障子を指で破りに掛かってみる事に。
護人の制止も及ばず、破れた穴から零れ落ちるスライム。
「わっわっ、何でスライムが出て来るのっ? 紗良お姉ちゃん、スコップ貸して!」
「はいはいっ、どうぞ香多奈ちゃん……それより護人さん、これってひょっとしてランダムガチャみたいな仕掛けなんじゃ?」
なるほど、紗良は相変わらず冷静に物事を観察している。そしてその確率を素早く計算、今の所当たりが2つに外れも2つ……うん、危険すぎるのでこれ以上は止めておこう。
要するに、半分の確率で悪い事が起きている訳で。こんな分の悪いガチャを続けて回すなんて、ハッキリ言って正気の沙汰では無い。
ミケを抱っこしている香多奈にそう告げると、ミケさんなら平気だよと天晴過ぎる程に他力本願な少女の返答。確かにそうかもだが、万一ミケが傷付いたら洒落では済まない事態に。
何しろミケは体が誰より小さいのだ、しかもご老体だし誰よりも気遣うべしの精神が護人にはあって。そんな飼い主の気持ちも知らず、ミケは再度の障子破りを敢行。
そして転がり落ちる、丸くて光り輝くナニか。
おイタは駄目と、慌てて小さな暴君を抱き上げる紗良。それから背中の定位置に優しく降ろしてやっている間に、香多奈の騒々しい声が上がって来る。
その手には、ミケがたった今ほじくり出した宝珠が握られていた。
8層の探索も無事に終わって、今は9層の庭に居座る敵との戦闘中。待ち伏せモンスターに気を配り、とにかく慎重にお互いがカバーに入れるように気をつけつつ。
この層には、突然動き出す石灯篭も池の中に潜む水の妖魔もいない様子。ただし、奥の蔵の近くに建つ大きな銀杏の木が妙な動きをしているのが気掛かりで。
木枝のざわめきは、まさにこちらを誘い込むかの如し。そしてご丁寧に、太い幹の下には小振りの宝箱がこれ見よがしに置かれている。
これは不意打ちとかのレベルでなく、明らかな誘い込みだと結論付けて。取り敢えず護人がソロで、囮役に突っ込む事で作戦は決定した。
ただし、その相手だが護人の想像の斜め上の相手で。
何とつむじ風と言うか、小さい竜巻が意志を持った存在と言うか。実態があるのか無いのか、そんな奴が風の刃を護人に向けて放ち始める。
なかなかの暴力を浴びて、しかも魔法の攻撃に護人の『硬化』も余り役に立たない。辛うじて翡翠水晶の大盾が、ダメージを軽減してくれている様子。
レイジーの『魔炎』攻撃も、ダメージが少々通ったかなって感じ。逆に腹を立てた風の妖魔が、無作為な範囲攻撃に及び始めて。
それを避け切れず、前衛の戦士たちは切り傷を負ってしまう破目に。
「護人叔父さんっ、この敵ってば実体が無いよっ……どうしよう、物理攻撃も魔法攻撃もほぼ効かないかもっ!?」
「慌てるな、姫香……さっきの水のモンスターも倒せたんだ、コイツもきっと倒せる!」
そんならミケさんの出番だねと、香多奈のお願いに再び立ち上がる来栖家の裏エース。ところが今回の《刹刃》雷矢は、4本とも竜巻を通り過ぎて奥の土塀へと突き刺さるのみ。
いや、多少はダメージが入ったのか少々苦しそうに回転が不規則になったけど。それをじっと最前線で観察していた護人は、ふとこの竜巻の中央下側に透明な核があるのに気付く。
それは他のメンバーには見えて無いようで、つまりは恐らく《心眼》の効果だと思われる。思わずシャベルで突き掛かったが、致命傷には程遠い様子。
本体の核もやはり、魔法だか理力だかを込めないとダメージが通らない模様。それならと得意の四腕を発動する護人だが、向こうも風のバリアを張り巡らせての魔法障壁で対抗して来た。
その時、不意にそいつをバリアごとぶった切るイメージが護人の脳内に。
閃きとはこの事かと、思わず盾を《奥の手》に預けて、薔薇のマントが取り出してくれたそれを抜刀して両手で構えてみる。日本刀など扱った事のない護人だが、不思議と型に嵌まった感覚が身体によぎった。
そして依然として中央に存在する、核へ向けて『魔断ちの神剣』を横薙ぎに振るった所。張り巡らされたバリアごと、風の妖魔は核を切られて消滅して行った。
後には魔石(中)と、スキル書が1枚ドロップ。
「やったぁ、護人叔父さん……何とか倒せたけど、その新しい刀を使うとは思わなかったよ!」
「いや、これを使った方がいいって不意に閃いてな……何だか《心眼》スキルが、勝手に正解ルートを脳内で教えてくれる感覚があるのかな?」
それは便利だねぇと、寄って来た香多奈はビックリしたように呟いている。紗良も忙しそうに、傷を負ったメンバーの治療に当たり始めて。
姫香とレイジーと、それからツグミと護人も切り傷を結構負っていて。長引けば、もっと酷い事になっていたかも。ポーションも使用しつつ、皆で回復に努めて行って。
その間に、香多奈とルルンバちゃんで宝箱の回収。強風で敵に近付けなかったルルンバちゃんだが、末妹に慰められてすぐに元気を取り戻していて。
役に立つぞと、少女のお手伝いを頑張っているいじらしさ。宝箱の中にはは、虹色の果実が2個と魔結晶(小)が5個、それから鑑定の書(上級)が2枚入っていた。
少々物足りないが、当たりも入ってたし箱の大きさからすれば上々だ。
それから一行は休憩を挟んで、再び探索を開始する。このダンジョンの印象だが、厄介な強敵が所々に潜んでいて気が抜けない感じだろうか。
家屋内の仕掛けにしても、階層が深まるごとに変なのが増えているし。そんな訳で9層の家屋探索も、存分に気を引き締めて向かうべし。
そして毎度の縁側からの屋内への潜入だが、不意打ちの類いは存在せず。その代わり、妖怪系のモンスターとヤモリ獣人のコンビが、結構な数出迎えて来た。
それを張り切って、殲滅に迎う姫香やハスキー軍団はまだまだ元気そう。提灯お化けや唐傘お化けは、特殊技も持っていてやや手強かったのだが。
関係ないねと倒して行って、あっという間に3部屋目まで進んで行く。
異変が起こったのは、その次の4部屋目だった。ここは何故か障子が閉じられていて、アレっと思わず立ち止まる来栖家チームの面々。
閉じてるって事は中ボスの間か、それとも何かの仕掛けの可能性が大である。試しに障子を開ける姫香だが、意に反してそれは簡単に開いて行く。
逆にビックリした姫香は、その勢いで中に一歩踏み込んでしまった。
その後の障子の動きは、やっぱり仕掛けだったのねって感じ。姫香のみを通したそれは、物凄い勢いでバタンと音を立てて閉じて行ってしまった。
ただ1人孤立した姫香、慌てて障子を開けようとするも当然ソレはびくともしない。そして振り返ると、さっきまで何もいなかった筈の和室の中央に。
何だか強そうな、鎧武者と和人形が1体ずつ佇んでいて。
「……わおっ、護人叔父さんの次は私の見せ場だっ!」
――勇ましい少女は、この危機にも武者震いで戦いに挑もうと構えていた。
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