第199話 日本家屋の仕掛けが複雑になって行く件
やっぱりD級ランクの仕掛けじゃ無いよねと、憤慨している姫香はともかくとして。追加でやって来た十手持ちヤモリ獣人は、余裕をもってチームで討伐し終わっての休憩中。
しかし軒下から不意打ちを喰らうとは、まさか思っていなかった護人である。いや、確かに田舎の家屋の軒下には野生動物が簡単に住み着くのだけれど。
それを言うなら天井裏だって、実は似たような環境には違いなく。イタチやらコウモリやら、はたまたスズメバチやらネズミやら……軒下にタヌキや蛇も、当然田舎あるあるとの噂も。
まさかそんなイベントを、ダンジョン内の家屋で思い知らされるとは。護人も子供達もビックリだが、備えていたお陰で怪我が無くて良かった。
この後の家屋内も、慎重に進んで行く事になりそう。
とか思っていた直後に、最初の部屋で妖怪系のモンスターに遭遇。視線が怖い一つ目小僧だ、ソイツと忍者ヤモリ獣人のコンボは油断すると怖い。
護人はすかさず弓矢で対処、近過ぎると視線の罠に絡め捕られてしまうので。ツグミもすかさず『隠密』での姿消し、視線に捕まったのは結果的に姫香のみと言う。
それもレイジーとツグミのコンビプレーで、無事に敵の攻撃を受ける前に解除され。てんやわんやの騒ぎの内に、最初の部屋の敵は全て処理し終わっていた。
ドロップした魔石を拾いながら、和風のお屋敷と妖怪は良く似合うよねぇと香多奈の素直な感想。そうなのかも知れないが、果たしてそんな感情がダンジョンにもあるのかは不明。
とにかく体制を立て直して次の部屋へと進む一行、ここは前の部屋と違って敵の姿は無し。但し何故か広い部屋の中央に、これ見よがしに飾られた花瓶と生け花のセットが。
それらは立派なお盆の上に置かれてあって、意図的に目を惹く仕掛けに見えて仕方が無い。護人は後衛に待機を促し、『硬化』を掛けて単独で前進する。
その途端、今度は畳の下から刀の剣先の襲撃が!
「うおっ、上と思ったらまさか下からっ……!?」
「すごいっ、何か時代劇みたいので昔に見た事あるかもっ!?」
興奮する香多奈だが、テレビ放映の無い時代によくそんな古い映像を観ていたモノだ。そう言えば、植松の爺婆の秘蔵のDVDに時代劇がたくさんあった気が。
虚を突かれた護人だったが、攻撃事態は『硬化』のお陰でノーダメージで済んだ。そして怒りの姫香の反撃で、
物凄い力技だが、そのお陰で畳の下にいた待ち伏せのヤモリ獣人たちは丸裸に。それに殺到するハスキー軍団、あっという間に血祭りに上げられて行く。
この部屋には、これ以上の仕掛けは無かったようだ。肝を冷やした護人だったが、何とか無事にクリア出来た様子。香多奈などはひたすら感心していて、姫香に拳骨を貰っている。
そして花瓶や剣山の類いは、ルルンバちゃんによって回収済み。
飾られていた花は、役目が終わった途端に不思議な事に枯れてしまった。これもダンジョンクオリティなのか、それをわざわざ庭へと捨てに行く香多奈。
その次の部屋も敵が数体いるだけ、妖怪続きで
レイジーの『魔炎』程では無かったが、幸い護人の盾が簡単に阻んでくれて。唐傘お化けの回転技も、それに対抗した姫香の『旋回』で逆にノックダウン。
それにしても、意外とバラエティー豊かな敵の揃えである。そしてドロップも個性豊か、何と提灯と雨傘が1つずつ回収出来た。
何故か無駄に高品質で、造りも立派である。
「わっ、何かこっちに小部屋があるよっ? 凄いね、畳の上にロウソクがいっぱい敷き詰められてるっ! 何だろうコレっ、奥の板の間に変なモノも置いてあるっ!」
「あっ、本当だ……行き止まりの小部屋なんて初めて見たね、置いてあるのは文箱かな?」
かなり立派な文箱が、ロウソクのバリアの向こうに置かれていて。何の仕掛けだろうと話し合う子供達だが、あれを取るにはどうしても大量のロウソクが邪魔である。
倒さず突っ切るのは無理だろうが、試しに香多奈が触るとグラグラして危なっかしい。ただやっぱり、板の間の黒くて立派な箱は気になる少女。
挙句の果てには、ミケさんにアレ取って来てと頼む始末。ミケは紗良の肩の上で、完全に知らんぷりでそっぽを向いている。そこに立候補したのは、空を飛べるルルンバちゃん。
華麗にロウソクの林を飛び越えて行って、お宝っぽい箱の上でホバリング。風圧でロウソクの炎が揺れるのを、危ないよと興奮してアドバイスを送る子供たち。
その点は優秀なルルンバちゃん、《念動》を使って見事離れた場所から確保に成功。
そして喜ぶ香多奈の前にお宝持参で戻って来て、大威張りの様子を示している。末妹は褒めながら箱を開ける作業に忙しそう、隣の紗良も綺麗な文箱だねぇと感心している。
そして中からも、魔結晶(中)が3個とレターセットと万年筆が出て来て。なかなかの報酬に、姫香と香多奈もニンマリしながらルルンバちゃんの手際を褒める。
その後の家屋内の探索は極めて順調で、階段も10部屋目で発見に至った。これで次は7層目、今度も出て来たのは庭の一角の外れのほう。
見渡すと敵もぼちぼち散在しており、ハスキー達は慎重に前進し始める。勝手をしないのは、このダンジョンは基本待ち伏せが多いのを学習したから。
案の定、庭に設置されていた
その攻撃を軽々と躱して、レイジーは灯篭ゴーレムのヘイト取り。その隙を突いて、護人が近付いての『掘削』スキルでのシャベルアタック。
必殺技のように、それは軽々とゴーレムを貫いた。
その向こうでは、ツグミと姫香が池の大鯉を倒して回っている。姫香が釣り師のようにわざと池の淵に近付いて、それをツグミが『影操』で池の外へと引っ張り出す。
あとはピチピチと跳ねる大鯉に、止めを刺すだけの簡単な作業。大鯉は4匹で打ち止めだった様子、そして擬態を使う茶色い大カマキリも、確定してレイジーが倒してしまった。
本当に仕事が速くて助かる、そしてヤモリ獣人と一つ目小僧の群れも撃破は順調に進んで行って。その内に、香多奈が後衛で何やら騒ぎ出した。
どうやら今までしっかり閉まっていた、蔵の扉が開いてるのを発見したみたい。
「わおっ、それは中を確認しなきゃ……何か凄いお宝とか入ってそう、他人の家の蔵ってそんな気がするから面白いよね!」
「ウチには無いもんね……何で来栖家には蔵が無いの、叔父さんっ?」
来栖家が離れた山頂を切り開いて田畑を開墾したのは、そんな大昔では無いからなのだろう。特に貴重な保管品も無いし、大きな納屋さえあれば農家はそれで事足りてしまう。
ただ子供たちは、蔵に対する憧れみたいなモノを持っているみたいで。実際は使用率の低い物置としか使って無い家が大半なのに、期待値は物凄く高い。
敵の待ち伏せに警戒しながら、護人を先頭にその暗い敷地へと入って行く一行だが。幸い敵は全く見当たらない、そして探すまでもなく蔵の奥に千両箱のようなモノが!
テンション爆上がりの子供達だが、護人に制されて不用意に近付く事は無い。蔵自体も立派な造りなので、どこに敵が隠れていても不思議では無いのだ。
用心して単独で進み出る護人、そこにやっぱりあった待ち伏せアタック。
天井から忍者ヤモリ獣人が数匹、そして千両箱の奥から首を伸ばして襲撃するろくろ首が。ハスキー軍団が一斉に飛び出して、無礼を働く敵たちに噛みついて行く。
姫香も負けずに、護人の背後を取った忍者ヤモリ獣人を一撃で屠ってやって。短時間での激しい遣り取りで、何とか出現した連中は全て退治し終えた模様。
「あると思っても厄介だよな、待ち伏せの類いって……後はミミックの類いも、充分に気を付けて見て回ろうか」
「は~い、叔父さん……あっ、あれは持って帰れるかな、紗良お姉ちゃんっ!?」
香多奈が見付けたのは、壁際に置かれた大きな
鞄に入るかなぁと首をかしげる紗良だったが、紗良と香多奈の鞄では無理みたい。その代わり、護人の薔薇のマントが割と簡単そうに呑み込んでくれた。
凄いねぇと感心する子供たち、その間にもツグミやルルンバちゃんがあちこち嗅ぎ回ってくれていて。千両箱には普通に大判小判が入っていて、これには香多奈も大喜び。
紗良は箱ごとそれを回収、そしてツグミは
妖精ちゃんの鑑定では、残念ながらどちらも魔法アイテムでは無い様子。
それでも一応持って帰ろうと、青空市で売る気満々の姫香である。それから香炉やキセルの類いも、同じ長持に入っているのを発見。
ルルンバちゃんが見付けたのは、ある意味大物だった。蔵の入り口付近に、大きな酒樽やら味噌樽が幾つか置かれていたのだ。後はしょうゆ瓶の大も、数本専用ケースに入っている。
それを素直に喜ぶのは、普段から料理をする紗良だけだった。家で使えるかなと、それら全てを持って帰ろうと奮闘するけど。やっぱり大き過ぎるようで、彼女たちの鞄にはどう頑張っても入らないみたい。
期待の目で護人……いや、薔薇のマントを見る紗良の視線に耐え切れず。護人は薔薇のマントにお伺い、まだ入るかなと声に出して訊ねてみると。
何とか収納は出来たけど、心なしかマントに重みを感じるように。
「……ちょっとこれ以上は無理かな、マントが重くなった気がする。動きも鈍って来たら、ちょっと戦闘に支障をきたすかも知れないし」
「残念、探せばもっとありそうなんだけど……」
蔵には2階もあって、色々と雑多で大きな品々も仕舞い込まれてはいる感じ。例えばひな祭りのお人形セットとか、鯉のぼり一式とか。昔の懐かし家電とか、農機具とか。
全部探すのは、時間が掛かりそうだしちょっと無理と判断して。護人は通常探索に戻るよと、子供達に声を掛けて家屋へのルートへと進み始める。
そして待ち侘びていたヤモリ獣人や妖怪系のモンスターを撃破しつつ、次の層への階段を発見。ここまで既に2時間が経過、なかなかの労力を消費している。
少し休憩を多めにしようかと提案するも、ハスキーも子供達も全然元気っぽい。これもHPの恩恵なのか、それとも探索の繰り返しでスタミナがついて来たのか。
そこら辺は不明だけど、頼もしくは感じてしまう護人だったり。
そして降り立った第8層、今回は定番の蔵の裏側だったみたい。そこから庭へと出て、定番の待ち伏せを警戒しての雑魚の殲滅作業を始める一行。
そこで異変が、池の大鯉を釣ろうとした姫香が別の何かを釣り上げてしまった。それは水の塊で、中では小さな金魚が数匹、元気に泳ぎ回っていて。
そこだけ見れば綺麗なのだが、水弾を飛ばして周囲に凶悪な攻撃を仕掛けて来るに至って。改めて敵認定なのだが、水弾を喰らった姫香とツグミはその威力に吹っ飛ばされる始末。
これも待ち伏せの類いだろう、大鯉しかいないと油断させる二重の仕掛け的な。慌ててカバーに向かう護人だが、水弾の威力は岩をも削る程で侮れない。
香多奈があれは水の妖魔で強いよと、妖精ちゃんの言葉を翻訳してくれた。
「うおっ、盾の能力でも水弾を吸収出来ないのか……コイツ、本気で強いぞっ!?」
「ミケさん、やっちゃって……お姉ちゃんを早く助けなきゃ!」
転がったままの姫香を救出しようと頑張る護人だが、自慢の大盾でも水妖の水弾攻撃は完全に防ぎ切れない様子。これには敵の魔法を吸収する機能があるのに、どうやらそれを上回る魔力を秘めているらしい。
それでも何とか苦労して、横たわる姫香を大盾の影に隠す事に成功する護人。それと同時に、ミケの『雷槌』が敵を射抜いた。その数は4本で、何と本当に射抜いていた。
どうやらミケも、スキルの成長のさせ方を完璧に理解した様だ。水の妖魔を射抜いた武器は、矢先を《刹刃》で作製し、他を『雷槌』で作り上げた特別製の矢だった。
それが4本、思いっ切り水の本体を射抜いて、中から電撃を放っている様子。攻撃を完全にやめた水妖は、暫くフルフルとその場で震えていたのだが。
結局耐え切れなかったようで、弾けて消え去ってしまった。
それを見て、慌てて姫香に駆け寄って行く紗良と香多奈。ツグミは吹き飛ばされた場所で、伏せの状態で顔を上げて少し辛そうだか、意識はしっかり保っている。
レイジーが様子を窺いに寄って行くが、それより意識を失っている姫香が心配な護人。何度も声を掛けているが、反応が返って来ない。
紗良が必死で『回復』に務める中、香多奈が姉を大声で呼ぶ声が響く。ツグミも身体が辛いだろうに、這うように主人の元へと必死で近寄って来ようとしている。
その時、不意に姫香が
それから一言、あ~ビックリしたとの事らしい。
「ビックリしたのはこっちだよっ、全然返事しないんだもんっ! 大丈夫お姉ちゃん、どっか痛い所無いっ!?」
「特に無いかな……あっ、ツグミが大変っ! 紗良お姉さんっ、ツグミを診てあげてっ!」
そこから賑やかにひと悶着あったモノの、幸い姫香もツグミも後遺症の類いは全く見受けられず。念の為に上級ポーションまで飲ませて、ようやく護人も一安心。
休憩中にもう戻ろうかと提案するも、もうちょっとで10層じゃんと相手にして貰えない有り様で。転んで気を失った程度では、どうやら姫香の元気までは失われないようだ。
――そんな訳で、探索はもう少しだけ継続される模様。
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