第198話 奇妙な罠の多い家屋ダンジョンを進んで行く件



 3層に関しては、それ以上の待ち伏せ系の罠は無かったのだが。忍者風のヤモリ獣人が手裏剣をドロップして、それに香多奈が大いに興味を示して。

 忍者ごっこに興じ始めるのを、何とか制して屋内を進み始めて。そして再び、家具が置かれてある部屋を途中で発見。注意して調べた結果、鑑定の書を2枚とMP回復ポーション600mlをゲットした。


 薬品は今回急須きゅうすに入っていて、隣には香りのよいお茶セットも。これらも回収しつつ、売り物になりそうな品のゲットに、ニンマリしている紗良と姫香である。

 そしてまたもやある部屋の床の間で、ちょっと高級そうな壺と大皿を発見。それらを丁寧に回収して、やっぱり嬉しそうな姉妹である。

 青空市も終わったばかりなのに、何とも勤勉な。


「おっと、階段が見付かったな……何となくパターンは分かって来たけど、それを崩す仕掛けが無いとも限らないしな。特に待ち伏せの敵、これには注意しような。

 掛かるなら防御の高い俺が掛かるから、その後の対処は頼む」

「あぁ、確かに護人叔父さんは『硬化』スキル持ってるもんね……そっか、その方が逆に安全かも?」


 飛行モードでは、ルルンバちゃんも罠の発見は難しいみたいだし。罠があるのを前提に、護人が『硬化』を掛けて先頭を進む事に作戦が決定した。

 そして辿り着いた4層の景色は、やっぱり庭先と言うかどうやら屋敷の裏側らしい。屋敷の外塀と家屋の隙間は3メートルくらいで、雑多なモノが所々に置かれていて。


 洗濯物を干す場所とか農機具だとか、あれこれ散乱してはいるけど。生活臭には乏しくて、かと言って廃墟のようにも見えない微妙なラインである。

 そんな事に構わず進み始めるハスキー軍団、その進む方向に護人と子供達も自然と続いて進み始め。庭先に出た途端に、待ち構える敵との遭遇戦を繰り広げる。

 特に待ち伏せ系の敵は、念入りにあぶり出しての始末をして。


 これで安心かなと、周囲を覗って確認作業に余念のない子供たち。そこにツグミの呼び声が、どうやら蔵の裏で何か発見したらしい。階段だったら降りるつもりで、そちらに向かう一行だったけど。

 ツグミが見付けたのは、何と木製の宝箱と言うオチで子供たちは大喜び。褒められたツグミも嬉しそう、そして早速中身を確認する姫香である。


 中からはポーション600mlと解毒ポーション500ml、鑑定の書が2枚と魔結晶(小)が3個。それから剪定ばさみとノコギリなどの工具類、最後に何かの苗が2本出て来た。

 数こそ少なかったが、ようやくの宝物の発見に盛り上がっている子供たち。この調子で行こうねと、気を引き締め直して先を促す仕草である。

 ここまで既に1時間が経過、少々の休憩を挟んでいざ家屋内へ。



 そして有言実行の、『硬化』スキルを掛けての先頭を進む護人だけれど。今回は心配されていた、縁側での奇襲は起きなくてまずはホッと一息。

 ただし、部屋の中では定番のヤモリ獣人が数匹まとめてお出迎え。今回の衣装と言うか装備だが、十手を持っている奴に泥棒頭巾を被ってる奴とか、まるでコスプレ風の有り様。


 強さは大した事は無くて、不意を突いて天井から落ちて来た忍者タイプの方が、よっぽど厄介と言う。ただ、倒した獣人は手裏剣やら十手やら、泥棒頭巾やら変わったモノをドロップしてくれて。

 香多奈が再び、きゃいきゃい言いながらコロ助相手に遊び始める始末。頭巾を被って手に十手を持ち、御用だを連呼する少女は傍目から見ると変ではあるけど。

 本人が楽しそうなら、それでいいかと護人辺りは冷めた視線。


 もっともコロ助は対応に困ってたし、姫香は真面目にやりなさいと盛大に雷を落としていたけど。そんなやり取りを挟みつつ、段々と慣れて来た屋内探索を続けて行くと。

 今回も板の間に大きな掛け軸が、目立つ位置に飾られていて。今回は水墨画で霧の竹藪の絵が描かれていて、上の方に“五里霧中”と達筆で書かれてあった。


「うん……味があるねぇ?」

「アンタ適当に言ってるでしょ、香多奈……これも売れるかなぁ、紗良姉さん?」


 欲しがる人はいるかもねとは、これも適当な紗良の返答。嫌な予感はするモノの、それなら回収しなければと歩み寄る几帳面な性格の護人である。

 そして今回も驚きの仕掛けが、どうやら掛け軸の後ろには通り穴が開いていたようで。そこから大イタチと忍者衣装のヤモリ獣人が、雪崩を打って飛び出て来た。


 ただし今回は、警戒もしてたし『硬化』スキルもバッチリ掛けていた護人。慌てず一歩引き下がりつつ、展開した四腕で出て来た敵を捌き始めて。

 ポイポイと壁に投げられて行く大イタチを、ホイ来たと始末して行くハスキー達の手腕の見事さ。これも連係プレイの1つ、見事な敵捌きに不意打ちの甲斐は全く無かった様子。

 気付けば今回は、ノーダメージで待ち伏せの罠を回避に成功しており。


 そして無事に大きな掛け軸も回収に成功、そして隣の部屋にはちゃぶ台の上に竹の編み籠が置いてあって。中身は木の実が4個に、和紙に包れた魔石(小)が4個。

 その3つ奥の部屋で、次の層への階段を無事に発見した来栖家チーム。ここまで順調に進めており、次はいよいよ中ボスの待つ第5層である。


 ここもやっぱり、庭の端に出てからの探索スタート。敵の駆逐も待ち伏せの敵の見極めも、段々と慣れて来た来栖家チームである。

 そして庭に特別な仕掛けが無いのを確認して、一行は家屋の調査を開始する。敵は相変わらずのヤモリ獣人の混成軍で、ドロップで手裏剣のストックがちょっと増えてくれて。

 気付けば一行は、固く閉ざされた襖の前へ。


「おっと、これは明らかに中ボス部屋だな……それじゃあ少し休憩して、準備をしたら一気に中の敵を片付けてしまおうか」

「は~い、叔父さん……ねえっ、今回は爆破石の代わりに手裏剣を投げて良い?」


 いい訳無いでしょと、綺麗に突っ込む姫香はしっかり金のシャベルを紗良から受け取って臨戦態勢。ハスキー達も手馴れたモノで、MP回復ポーションを飲みながら闘志を燃やしている。

 そして休憩も終わっての中ボス戦、しっかり護人を先頭に和室から敷居をまたいで和室へと入って行く。違和感はバリバリあるが、ちゃんと中ボスは待ち構えていてくれた。


 しかも2メートルを超すヤモリ獣人で、将軍風の装備を着込んでとっても強そう。お供のヤモリ獣人は小柄だが、兜を被ってたり忍者衣装だったり様々だ。

 ただしその数は6匹程度で、ミケの『雷槌』と香多奈の魔玉投げであっという間に駆逐されて行く。中ボス将軍も、姫香の強化済みの投擲攻撃をその胸に思いっきり喰らって。

 耐え切れなかったようで、早々に沈んで行ってしまった。


 張り切っていたハスキー軍団は、出番の無さにアレッと言う顔付き。ルルンバちゃんも同じく、寂しそうにその辺を滑空して渋々ドロップを拾い始める姿には哀愁が漂う始末。

 姫香も同じく、たった一撃で終わって次に手渡されていた銀のシャベルを手にモジモジ。出番が無かったのは護人も同じくで、勇ましく構えた盾に触れる敵も無い状況に。

 何となく、後ろを振り返ってご苦労様と子供達に声を掛けてみたり。


「うん、まぁ……やっぱりこのダンジョンD級なのかもね、護人叔父さん。中ボスなんだから、もう少し手応えがあると思ってたよ……」

「そうだな、ここも不意打ちさえ気を付けてれば、確かにそこまで強い敵は出て来てないかもな」

「ようやくスキル書ドロップしたっ、宝箱は……やったっ、銀色だよっ!」


 敵の強さには何の関心も無い香多奈は、ルルンバちゃんと一緒に回収作業を楽しそうに始めている。中ボスのドロップは魔石(中)が1個とスキル書が1枚、それから立派な兜が1個と数だけは多かった。

 あんだけ弱かったのにねと、良く分からないクレームを入れる姫香だけど。末妹の回収作業には、しっかり手伝うつもりで宝箱に歩み寄って。


 順番に中身の確認作業、中からは魔結晶(中)が4個と鑑定の書が4枚、エーテル500mlと初級エリクサー600mlが陶器の水差しに入って置かれていた。

 それから木の実が3個に綺麗なかんざしが3つ、後は折り紙セットとか手毬とか毬の飾りが数個入っていて。

 まずまずの収入に、喜びを共有している姉妹である。




 ただまぁ、肝心な中ボス戦で出番の無かったハスキー軍団やルルンバちゃんは。早く次の層に行こうと、暴れ足りなさをアピールして来る始末で。

 MP回復休憩もそこまで時間を取る訳でもなく、ハスキー達に急かされるまま6層への階段を降りて行く一行。そして出た先は、やっぱり庭の一角で。


 ってか、モロに敷地の門前で驚いて周囲を覗う子供たち。ここからの景色は確かに素晴らしいのだが、見晴らしが良い分敵に発見されやすいと言う。

 案の定、上空を大コウモリの群れが、それから地上をパペット兵士たちがこちらを見初めて集まって来ており。それを迎え撃とうと、来栖家チームも散開して行く。


 パペット兵士は、手に剪定ばさみやら斧やらノコギリを持ち、こちらを剪定対象か何かだと思っている模様。ただしその実力は、何度も戦って来て分かっている。

 まぁハッキリ言って雑魚だ……そして大コウモリに空中戦を挑んでいるルルンバちゃんも、以前とはまるで違っていて。『器用度上昇』で振るう竜髭の鞭は、物凄い威力で敵を叩き落として行く。

 何と言うか、“空の王者”ルルンバちゃん爆誕! って感じ。


 調子に乗った彼は、何と半ダースもいた大コウモリを全て撃沈してしまった。そして地上のパペット兵士も、同じく主にハスキー軍団の活躍で駆逐されて行って。

 5分も掛からず、最初の襲撃の撃退に成功した来栖家チーム。香多奈は魔石を拾いながら、ストレス発散だねぇと呑気なセリフを呟いている。


 何しろ今回は、護衛役のコロ助も飛び出してしまっての戦闘参加である。香多奈は特に気にした風は無いのだが、護人的には直接の護衛がいなくなるのはちょっと心配。

 ただまぁ、紗良が《結界》スキルを順当に使いこなせるならば、そこまでの心配は杞憂に終わる可能性も。このスキルでの透明な力場での防御壁は、強力だしモンスターの体当たりにも耐えれる硬度を誇るのだ。

 問題は、紗良がこのスキルにまだ慣れていない事くらい。


 MPコストも地味に掛かるらしく、長時間の運用も大変ではある。護衛される側の香多奈は、そこまで心配は無用といつも口にするのだけれど。

 保護者の身としては、万全の護衛体制は敷いておきたい所。


 家族と共に暴れたいコロ助の気持ちも分かるだけに、叱るのも後味の悪い行為ではある。コロ助はまだ若いだけに、忍耐に関しては苦手な部分は確かにあって。

 だけど香多奈とコロ助のペアは、これから徐々にこなれて行くのも事実。コロ助をきつく叱るより、香多奈に主としての統制力を論じる方が良い結果になる筈だ。


 その辺は、またダンジョンを出てから考えようと護人は思い直し。近くには姫香とツグミと言うお手本もあるのだ、まぁ紗良が《結界》を使いこなし始める方が早い気もするけど。

 要するに、護人は誰かを叱るのはとことん苦手なのである。



 そんな思考の最中にも、ハスキー軍団の庭の見廻りは終了して。何も無かったよとの報告に、毎度の家屋へと殴り込みの開始である。

 慎重に先頭を歩く護人だが、今回も縁側に近付いた途端に待ち伏せの罠が作動した。何と今度は上と下の挟み撃ち、天井板を剥がしての忍者ヤモリ獣人と、軒下の隙間から大蛇の襲撃が。


 驚き声を上げる護人だが、バッチリ『硬化』は掛けてあった。襲撃と足元の噛み付きダメージは問題無いが、噛まれたままでは気持ち悪くて仕方が無い。

 姫香が迷わず、大蛇の首を斬り飛ばしに鍬を振るっている。ハスキー軍団は落ちて来た忍者ヤモリ獣人の相手を始めるが、板張り廊下を十手持ちヤモリ獣人の群れが駆けつけて来ており。

 その数は半ダース、このままだと乱戦模様になりそうな気配。


 その時、後衛から蓋をしちゃえと何かの掛け声が元気に響き渡った。そして慌てる紗良の気配と、《結界》スキルを使いますとの承諾を得るような掛け声。

 何事かと追加で落ちて来る大イタチを相手取っていた護人は、その瞬間をバッチリ拝む事が出来た。縁側の廊下をやって来るヤモリ獣人の一団が、不意に出現した力場に正面衝突して。


 慌て驚いているのは、どうやら向こうも同じらしい。なるほどこんな使い方もあるのかと、護人はスキルの柔軟性に改めて感心する次第である。

 そんな事を考えている内に、実は合計3匹もいた大蛇を姫香がようやく片付け終わって。ようやく自由になった下半身を動かして、縁側の戦場を確認したら。

 ハスキー達も、いつの間にか忍者ヤモリ獣人の群れを全滅に至らせており。





 ――お替わり頂戴と、通せんぼされてる新たな獲物を眺めているのだった。









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