第183話 6層からの難易度が急に上昇を見せ始める件
幸いにも、追われる香多奈とその一行は杉林へと飛び込んで、大亀の追撃から無事に逃れられる事に成功。杉の木立の広さでは、巨大な甲羅を背負う大亀は侵入不可能なので。
そして振り返って見渡すと、どの局面もピンチと言うか攻めあぐねている状況みたいだ。これは大変と思いを巡らす香多奈だが、紗良は怪我を負った護人の回復に行きたい様子。
それは勿論大切だが、他の仲間の後押しも同様に大切には違いなく。短い時間で相談した結果、レイジーとルルンバちゃんのコンビにいち早くフリーになって貰う事に。
護人の力なら、あの狂暴な大亀相手に粘る事も可能だろうし。敵をさっさと片付けたレイジーが、加勢するまできっと持ち堪えてくれるだろう。
姫香の方は、何とも言えないが取り敢えずはまだ全然元気そう。
なので放っておいても、恐らくは支障は無い筈である。そして肝心の荒ぶる大亀だが、何と水流のブレスをこちらに向けて放って来た!
それも酷い奔流で、ミケなど思わず絶叫するレベル。
ちょうど紗良と香多奈が固まっている所だったのが、2人にとって不運だった。香多奈1人なら、護衛のコロ助が《韋駄天》で安全地帯に連れ去っていただろうけど。
激流に押し流される2人と、判断がつかずに結局は大亀の鼻先に噛み付いて技を潰しに掛かるコロ助。驚いた大亀はブレスこそ止めたモノの、それを浴びた2人は10メートル近く流されてしまって。
しかも浴びた水の効果なのか、身体は重く痺れたような感覚に陥って。これはピンチと慌てるが、とにかくソロで奮闘するコロ助も心配には違いなく。
無理して這って末妹に近付く紗良、ひょっとしたらダンジョンで負った初ダメージかも。それにもめげず、香多奈を『回復』してダメージ除去の急作業。
ふと見たら、護人もコロ助の隣で戦闘復帰していた。
恐らく手持ちのポーションで、回復しての慌ててタゲ取りだったのだろう。再び熾烈な攻撃が、護人の持つ盾に集中し始めている。その為コロ助はフリーになったが、そのまま戦闘に参加するようだ。
そして元気をようやく取り戻した香多奈、今度は針葉樹の林の端っこに墜落しているルルンバちゃんを見て絶叫する。どうやら着地に失敗して、ひっくり返って動けない模様。
紗良に声を掛けて、ミケを姉に預けて香多奈はそちらに猛ダッシュ。ちゃっかりブレスを避けていた妖精ちゃんも、それに追従して飛んでついて来る。
その少し先では、レイジーと大鶴の壮絶なバトルが繰り広げられていた。レイジーは必殺技の、炎での長大な刀身で敵に斬り掛かって攻め立てるのだが。
向こうも光る
香多奈はそれを横目で眺めつつ、何とかルルンバちゃんの救出に成功して。そして思わぬ妖精ちゃんのアドバイスに、そうなのかと驚きながらの仕込み作業。
魔玉には色々と属性があって、それには相性と言うモノが存在する。例えばあの大鶴が聖属性だとすると、闇属性には弱いと言う感じで。鞄の中を調べると、幸い黒い魔玉は幾つかストックが。
香多奈は魔銃を受け取って、闇色の弾丸をそれに込めて行く。
そして飛び立ったルルンバちゃんの動きに合わせて、香多奈も闇の爆破石を大鶴に向かって投げ付ける。背後の気配をしっかり感じ取っていた、レイジーも上手に気を惹いてくれ。
そこに復帰したルルンバちゃんの、連続発砲での追い込みは見事成功。ここまで効果が違うのかと、驚く香多奈の目の前でみるみる弱って行く5メートルの大鶴に。
最後の止めとばかり、レイジーが炎の長剣を見舞うのだった。
一方の姫香は、意外と素早い動きの大蛇に反撃の機会を掴めずにいた。ツグミも同じく、影伸ばしで捕まえようにも相手は大き過ぎるし素早過ぎるしで。
とにかく針葉樹を逃げ回りながら、何とか『圧縮』や『旋回』を利用して時間を稼ごうとする姫香。ツグミもサポートしてくれて、瞬時の足止め程度にはなっている。
しかし接近戦を挑もうとしても、相手に毒液吐きの攻撃が加わってそれも儘ならず。幸い範囲が狭いので、姫香の運動能力で避けれてはいるけれど。
その時、姫香の耳が末妹の声をキャッチした。幼い香多奈の絶叫は、本当に良く響く……それは戦闘アドバイスと言うか、相手の属性の情報だった。
つまり相手の属性には、闇属性を施したこの鍬は良く効く筈だと。
その言葉に勢いを得た姫香、香多奈がこちらに加勢して来ようとするのを目敏く察知して。自分の獲物を取られてなるモノかと、何とか鍬の一撃を敵に放り込む術を考え始める。
とにかく相手の素早い動きに、負けない勢いを自身で創り出さなければと。相手に回り込みながらとにかく『旋回』を掛け続ける。その勢いは、徐々に小さな台風さながらに進化して。
頭から突進して来た大蛇の突進を、何と弾き返してしまう程の勢いに。いつの間にやら《豪風》も発生しており、大蛇の鎌首が知らずに
その敵の姿勢を、しっかりとツグミが『影縛』でサポートして。えいやっとの掛け声と共に、『身体強化』と『旋回』込みでの闇属性の鍬が大蛇の首を切り落としに掛かった。
その一撃は、ものの見事に決まって戦闘を終焉に導いたのだった。
目の前の大亀は、どうもダムダンジョンで出遭った奴らとは勝手が違うようだ。凶暴さも使う技も、そして巨体の使い方も理に適っていて手強いレベル。
その上あの甲殻の硬さである、比較的柔らかそうな顔の部分も狂暴な牙でガードされており。護人の攻撃を、器用にそれでブロックして来る始末。
時折混ぜて来る突進は、何とか“四腕”でブロックが出来るようになっていたけど。その巨体の攻撃を、全て吸収には至らずにダメージは少しずつ溜まって行く。
コロ助とミケが、時折気を惹くように攻撃を加えるのだけど。防御力と体力に秀でている敵は、ほとんど気に掛けずにその動きは鈍くなってくれない。
何と言うか、間違いなくコイツは中ボスより遥かに強敵である。
とは言え、泣き言ばかりも言ってられず、護人は反撃のプランを脳内で練り上げる。香多奈の大声のアドバイスは、護人の耳にもしっかりと届いており。
つまりは、闇属性に強化した愛用のシャベルはコイツに特効らしいのは間違いなさそう。道理で必要以上に、牙でのガードを多用して来ると思った。
敵もこちらの観察に余念が無いようだ、そして再度の水流ブレスが見舞われるけれど。薔薇のマントの見事なブロックで、護人は流されずにその場に留まる事に成功。
ただし、《奥の手》の反撃の斬撃は盛大に空振っての勇み分け。相手の防御意識は相当に高いらしい、硬い甲殻頼りで無いのが腹立たしい程度には。
ってか、大亀の癖に頭を殻に引っ込めての完全ガード状態。
珍しく怒り頂点の護人は、闇雲に甲殻に殴り掛かるも。全くダメージは通っていない様子で、逆にこちらの手が痺れ始める始末。そこである作戦を思い付いた護人、巨大な甲羅の上へと四腕のパワーで一気に駆け上がる。
これで、向こうが頭を出した瞬間に首の根元を狙える筈だ。首引っ込めの防御技は強力だけど、後の事を考えれば愚策だと護人は確信するも。
ただしここでも誤算が、コイツは土系の魔法も使って来るようだ。
石礫どころか、拳大の岩が混じって地面から護人に襲い掛かって来た。紗良が慌ててリーダーの安否を窺うが、それに混じって戦いを終えたレイジー達も戻って来る気配が。
護人も薔薇のマントでのガードで踏ん張って、大亀との根競べである。早く首を出しやがれと、その目は必死に敵の動向を探る作業に忙しい。
そして第二の誤算が、護人の体内を巡って能力となって開花した。恐らく覚え立ての《心眼》スキルだろうか、敵の巨体の力だか魔力だかの流れが浮き上がって見えて来て。
甲羅のある1点に、経脈の合流地点のような箇所があるのを発見。それが或いは経絡秘孔的な弱点なのかとか思い至る前に、護人の身体は動いていた。
『掘削』&《奥の手》スキルで、大亀の甲殻が貫けるなんて考えもせずに。
しかしその後のモンスターの絶叫と、腕に染みる感触は本物の様で。いつの間にかあの巨体の大亀の姿は、幾ら見回してもどこにも存在せず。
へたり込みそうな程の疲労は、理力を使い過ぎたせいかも知れない。そこに飛び込むように抱きついて来る姫香、紗良と香多奈も幸いにも無事だった様で本当に何よりである。
そしてハスキー軍団も3頭とも元気、ルルンバちゃんの飛行はやや与太っていたけど。妖精ちゃんの小言を聞いて、香多奈が文句を言い返している。
どうやら理力の使い過ぎを注意されたらしい、これはMPなんかと違ってなかなか復活しないそうな。他にももっと強くなれとか、戦い方に関しては及第点は貰えない生徒たちである。
小さな淑女は、魔人ちゃんよりも時には辛辣な教官なのだ。
「それにしてもさ、今倒した3匹ってレア種並みに強く無かった? このダンジョン、一体どうなってるのよっ!?」
「確かに、入る前の魔素は高かったな……“キャンピングカーダンジョン”の接近で、魔素が変な数値を示してるって自警団チームにも注意されてたし。
或いは、そっちの影響も強くあったのかも」
「うわっ、ルルンバちゃんの集めて来てくれた魔石見て、叔父さんっ! テニスボールの大きさだよっ、最大サイズだ……オーブ珠とスキル書もついでにドロップしてたっぽいね」
香多奈の報告は本当で、ルルンバちゃんは魔石(大)を3個とオーブ珠を1個、それからスキル書を2枚集めて来てくれていた。他にも大鶴から羽根素材を、大亀からは甲羅素材と大蛇からは牙素材のドロップが。
そして何となく集まって参道で休憩している所に、再び参拝場所から大きな鈴の音が。ビクッとなって思わず身構える面々だが、今度出て来たのは何と宝箱だった。
それは賽銭箱の前に鎮座していて、ルルンバちゃんの鑑定では開けても問題なさそう。姫香と香多奈で中を調べると、薬品のポーション900mlと初級エリクサー900mlと浄化ポーション800mlが徳利の中に。
それから鑑定の書(上級)が3枚と魔結晶(中)が4個、
何だかお供え物チックな中身に、持って帰るのも
子供たちは特に気にした風も無く、お酒は青空市で売れるかなぁと楽し気ですらある。お餅は自前で消費する気らしい、抱える程にはあったと言うのに。
まぁ、近所に配ればあっという間に無くなるかも、取り敢えずは宝箱のお礼をニ礼ニ拍手一礼で神様に告げて。休憩を終えて、次の層へと向かう一行。
実を言うと、ここで引き返す案も休憩中に出たのだけれど。頑張って10層までは行こうとの、子供たちの熱烈な意見が通ってしまった形での探索続行である。
そして7層も、似たような雑魚の群れのお出迎えからの戦闘スタート。慣れてしまった来栖家チームは、得意な役割分担で敵を蹴散らして行く。
数も強さもそう変わらない雑魚たち、5分後には全て駆逐されて行き。
「……何だろう、ここまであからさまだと逆に感心しちゃうよね、護人叔父さん。この狛犬、絶対に動き出すの確定だよね?」
「いやまぁ、確かに乱戦中も注意は払っていたけど……でも結局は、動き出さなかったな」
姫香の視線の先には、明らかにどの階層よりも大きな型の狛犬2体が。いかにもガーゴイルの仕掛けっぽく、こちらを睥睨して石像の振りをしている。
そこに案の定の、何度目かの鈴の音が本殿から。さあ来たぞと構える一行、おもむろに動き出す狛犬2体だが、待ち構えられていたハンデは如何ともし難く。
ってか、コイツもどうやら聖属性だったらしいのは、大いなる不運だったかも? 護人のシャベルでの『掘削』と、姫香の鍬での『旋回』での容赦の無い攻撃に。
狛犬たちは、その硬い外皮と攻撃力を披露する間もなくお亡くなりに。魔石(小)を2つと、ついでに平たい石素材を2つドロップしてくれた。
それから属性の相性って、なんか凄いねぇと改めて感嘆の声。
それじゃあ次の層に向かおうと、話し合っているとツグミとコロ助が手水舎へと向かって行った。お水が欲しいのかなと、香多奈がお世話をしにそちらに続いて。
数秒後には絶叫を上げて、家族の皆を呼び寄せる仕草。驚いた残りのメンバーは、敵でも待ち伏せていたのかと緊張の色を浮かべるも。
どうやらそうでは無くて、手水舎の水が全てエーテルだったと言うオチ。これに一番喜んだのは、実は紗良だったのは意外だったけど。
とにかく持ち帰れるだけ瓶へと汲んで、ハスキー軍団もMPと体力回復に、遠慮なくお皿の薬品を飲み干して行く。護人や姫香も、ここまでの激戦の疲れを癒そうとそれに口をつけて。
ツンとしたスパイシーな味に、2人して変な顔に。
――とにかくこれで、あと残り3層頑張れそう?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます