第182話 罰当たりな事を考えつつ5層を突破する件



 3層には実は宝箱が設置されていて、その事実に関して香多奈は素直にゴメンなさいと神様に謝罪して。その宝箱だが、障子を開けた本殿の部屋の片隅にそっと置かれていた。

 中からは鑑定の書が5枚に魔石(小)が7個、木の実が4個にポーション600mlとまずまずの回収品が。その他に、おはじきや羽子板などの玩具もちらほら。


 その層にはそれ以上の物は無いみたいで、一行はレイジーが見付けた階段を降りて第4層へ。その頃には何となく、このダンジョンの仕掛けが分かって来た面々。

 恐る恐る神楽舞台を眺めて、仕掛けの作動が無いかご拝聴。


 その期待に応えるように、吊るされている鈴が派手に鳴り響いて。アレは本来、神様の気を惹くチャイムみたいな役割の筈なのだが。

 何故か敵の登場を告げる、効果音みたいな用途になっている不思議。それはともかく、今回神楽舞台に登場したのは子天狗と大カラスの群れだった。


 いや、子天狗は数体しかいない様だが行者姿で手には錫杖を手にして手強そう。大カラスはそれこそ10匹以上いて、それが飛び立った様は闇が訪れたかの如し。

 パニクる後衛陣だが、ハスキー達は冷静に近付く敵に噛み付いて対処している。姫香も敵の数の多さを見て、すかさず『旋回』での攻防一体技を披露。

 近付く敵は、これで薙ぎ倒すって寸法だ。


「わっわっ、叔父さん……建物の下から、また白ネズミが湧き出してるよっ? 後ろからも、パペット兵士が近付いて来てるっ、ピンチかもっ!?」

「爆破石で、何とか対処して時間を稼いでくれ、香多奈っ! 舞台の子天狗は俺が足止めする、とにかく囲まれないように防衛線を頑張ってくれっ!」

「了解、護人叔父さんっ……!」


 それを聞いた姫香も、下がって後衛陣の盾になってくれる様子。コロ助もいるので、これで変に挟み撃ちに遭う心配は薄れる筈だ。

 レイジーは集団戦が大得意なので、白ネズミや大カラスの殲滅に当たってくれた方が効率的。今も『魔炎』で白ネズミが3匹、纏めて血祭りならぬ火祭りに上げられている。


 そして護人は、恒例の神楽舞台での大立ち回りへの参加である。神楽の演者に選ばれた事は無いが、こんな気分なのかなと妙な感慨に耽りながら。

 相手の子天狗の錫杖には、案の定妙な仕掛けがあるようで。時たまスパークしたり毒霧を生じさせたり、厄介そうなギミックが手品のように発生する。

 それでも、本体の体力は思いっ切り低い様子で。


 護人のシャベル攻撃がヒットすると、ほぼ一撃で魔石に変わって行く脆弱さ。まぁ子供の体格なので、それは仕方が無いのだろう……敵に同情しても、仕方は無いけど。

 それでも最後の1体は、なかなか粘ってまさに天狗の身のこなし。それを背後からインターセプトするレイジー、戦いの情緒なんてまるで意識してないその潔さ。


 最後のタイマンで熱くなっていた護人的には、水を差された気分ではあったけど。怪我をしては元も子も無いなと思い直し、素直に相棒に礼を告げる。

 背後からは、香多奈が投げていた爆破石の音も止んでるし、向こうも一息ついた様子。視線をやれば、姫香が最後に残った大セミを一刀両断にしている所だった。

 これで4層の討伐戦は、終了とみて良い感じ。


 喜び勇んでこちらに駆けて来る香多奈は、もちろん障子の向こうに用事があっての事。しかしそこに何も無いのを発見して、明らかにがっかりした様子。

 護人は子天狗が落とした羽素材を拾って、ドロップあったよと告げるのだが。そんなモノの1枚や2枚では、目の肥えた少女を欺けはしない様子。

 ケチンボとの文句は辛うじて呑み込んだ様子だが、表情がそう思っているのは明らかである。次の層は中ボスの部屋なので、宝箱は確定している。


 それを口にして末妹を元気づけながら、一行は探し当てた階段を下って5層へと到達。ってか、階段の場所は本殿の向かって右側とずっと同じ場所である。

 意外と手抜きと言うか、やっぱり出迎えて来るのは白ネズミとパペット兵士と単調である。そして飛行する大カラスと大セミも、やっぱり変わらずのラインナップ。

 それをサクッと倒して、いざ全員で神楽舞台の前へ。


「ここに立つと、何かお賽銭あげたくなっちゃうよね、護人叔父さん」

「そうだな、靴を履いたまま板張りの舞台に上がるのも抵抗あるしな」

「えっ、ひょっとして……私たちがお賽銭あげなかったり、土足で舞台に上がってるからドロップ運悪いのかなっ!?」


 慌てる香多奈だが、果たしてダンジョンに裏金的な手段が通用するかどうか。土足の件にしても、こちらの安全上仕方の無い事である。

 それを言い含めて、護人を先頭に神楽舞台へと上がって行く。敵の姿こそ見えないが、今回は所定の場所に階段が無かったのだからここが本命の筈。


 つまりはこの神楽舞台を通って、本殿の扉奥が中ボスの部屋となっているとの読みだったけど。ってか、護人が足を踏み入れた途端に、神楽舞台がグワンッと数倍に広がりを見せ始め。

 そして鳴り響く鈴の音、広くなった板の間の上には2体の中ボスの姿が。


「わっ、強そう……神楽の大天狗と赤鬼の仮面を被ってる、中身は誰だろう?」

「中の人なんていないのよ、香多奈。だってアレはモンスターだもん」


 夢も希望も無い答えを返して、姫香が片手に持っていたシャベルを思いっ切り投擲する。併せて香多奈の爆破石と、ルルンバちゃんの魔銃での射撃の先制パンチ。

 驚いた事に、それらは全て大天狗の団扇の大振りで、綺麗サッパリ見当違いの方向へ飛ばされてしまった。そして大きな金棒を振り回しながら、派手な着物の赤鬼の突進。


 護人が進み出て、新品の盾できっちりガードするけれど。パワーは本物で、思わず腰が砕けそうな威力。そして後方に控える大天狗が、懐から奇妙な符のようなモノを取り出して。

 宙へとばら撒いた途端に、そこから生まれ出る子天狗の群れ。


 驚く来栖家チームだが、対応は割と素早かった。レイジーを始めとするハスキー軍団が、そいつ等に好き勝手させるものかと突っ込んで行く。

 中央では護人が、赤鬼の仮面モンスターと派手に一騎打ちを繰り広げており。その周辺では、素早く動き回る子天狗を大人しくさせようと、姫香とハスキー達が奮闘している。


 その隙を突こうとして、空中からルルンバちゃんが大天狗へと射撃を行うけど。またもや団扇の逆襲に遭い、ドローン形態の彼は壁に激突してしまう結果に。

 追撃を許さずと、立ちはだかったコロ助は大天狗の掌から発射された蜘蛛の糸に絡まれて移動不能状態に。好き勝手する中ボスに、レイジーと姫香の奇襲が襲う。

 いつの間にか、お札召喚の子天狗の群れは全て片付いており。


 姫香の上段への攻撃と、レイジーの『魔炎』からの炎の剣での下段への斬り掛かり。一瞬の躊躇で、バックステップか団扇を使用するか迷った時点で、勝敗は既に決していた。

 哀れな大天狗は、最後は派手に切り裂かれて没。


 その頃には、四腕モードに移行していた護人も、赤鬼のパワーを何とか退けており。自分では秘かに必殺技と決めている、《奥の手》の斬撃モードを今回は成功に漕ぎつけて。

 前回は薔薇のマントに止めを掻っ攫われてしまったが、今回はバッチリと目論見通りの結果に。ドロップも上々で、魔石(中)が2個とスキル書が1枚と天狗のお面が1個ずつ。


 そして障子を開けた本殿には、祭壇の代わりに大きな宝箱と下へと降りる階段が。喜び勇んで宝箱に駆け寄る香多奈、宝箱は木製だがしめ縄が巻かれていてちょっと立派だ。

 その中からは薬品が3種、白い徳利に入って出て来た。内の2つはMP回復ポーションと浄化ポーションらしいが、後1つは不明である。

 家に帰って、鑑定プレートで調べる案件が1つ出来た。


 他には変なお札が4枚と、空の白い徳利やらひょうたんが幾つか。盃も金のやら朱塗りのやら、それから最後にまた大振りのお札が1枚。

 和風な感じで纏められていたが、まぁそこは仕方が無いのかも。それよりやっと出て来たMP回復ポーションで、MPの回復作業を進めつつ。


 幸いにも、さっきの中ボス戦での負傷者も出なかったと紗良の報告に。ホッと胸を撫で下ろして、休憩しながら本殿で寛ぐ自分達に居心地の悪さを覚える護人。

 とは言え、ここまでまだ2時間に満たない程度の探索業。子供達ももっと潜る気満々で、この位のドロップでは帰れないよと息巻いている。

 確かに最近の探索を振り返っても、ドロップに関しては物足りないけど。


 それを神様のせいにするのも、いかにも不敬で浅ましい感じもする。取り敢えずは10層を目安に探索しようと、最近の決まり事でもあったりするし。

 そんな訳で、折り返しての後半戦の始まりである。




 6層の風景も今までとそれほど変わらず、玉垣に囲まれた清浄な雰囲気の境内が拡がっている。ただし、参拝客の代わりにいるのはモンスターの群れで。

 白ネズミの体格は1サイズ大きくなって、中には双頭の手強そうなのも混じって来ており。大カラスも同様で、3本足の奴は羽飛ばしスキルでの遠隔攻撃がウザい。


 パペット兵士に限っては、ゴーレム染みた体格の奴が混じって来る始末。武器もハンマーや槍を手にしていて、浅層より確実に殺意は高くなってるのが丸分かり。

 ただまぁ、この程度の敵には既に慣れっこになっている来栖家チームの面々である。ルルンバちゃんも空中戦に慣れて来たのか、大カラスの群れと充分互角に遣り合っている。

 それを見学するミケが、たまに手助けの『雷槌』を落とす程度。


 幸いにも、敵の数はそれ程には増えてはいない様子でそれは有り難い。殲滅速度もそれほど変わらず、6層も楽勝かと思えたのだけれど。

 やっぱり気になるのは、鈴を鳴らしての仕掛けの作動で。そう思った途端に、ガランと周囲に鳴り響く無情なモンスター召喚音だったり。

 そして今回出て来たのは、3方向に展開する魔方陣だった。


「ありゃ、今回は神楽の舞台からじゃ無いんだ……うわっ、どいつも大きいね護人叔父さんっ。あの大蛇は、相性的に私が相手をするねっ!」

「そ、そうか……それじゃあ俺は、あの硬そうな大亀にするかな。残った大鶴は、レイジーに頼む事にしよう」


 任せとけと、風を纏って大鶴に突進する来栖家エースのレイジー。後衛陣はミケを抱いて、不利な組み合わせに駆けつける気満々で待機中。

 姫香はツグミを引き連れて、うねうねと地を這う大蛇の気を惹いてのアタック開始。向こうの全長は15メートルは確実にありそう、人間も一呑みの超ビッグサイズである。


 それを言うと、大鶴も何と言うか酷い。首の長さを入れれば、5mを優に超すそのサイズ感と来たら。優雅には違いないが、大亀を含めてまるで中ボス戦の再戦のような有り様。

 ただまぁ、護人的には大亀の相手はダムダンジョンで何度もこなしていて慣れたモノ。ソロでの討伐も可能かなと、ちょっと思い上がったりもしていたのだが。

 まさかあのサイズ感で、突進技を仕掛けて来るとは。


 思い切り吹き飛ばされて、その勢いのまま杉の木に激突する護人。慌てた香多奈が、ミケを抱いてサポートに駆けつける。しかしミケの『雷槌』で、こちらがタゲを取る破目に。

 慌ててミケを抱いたまま逃げ始める香多奈、壮絶な追い駆けっこの始まりである。律儀に一緒に並走する紗良と妖精ちゃんとコロ助、妖精ちゃんに限っては楽しんでる風だけど。



 一方の姫香も、実はいきなり苦戦していた。大蛇など、噛み付きだか丸呑みを『圧縮』でガードしてしまえば、後は廻り込んで首ちょんばで終了だと軽く考えていたのだが。

 大蛇の口が、まさかあんなに予想より大きく開くとは考えてもいなかった姫香。危うく大きな牙で串刺しになりそうに、それは辛うじて横っ飛びで躱せたのだが。

 その後の胴体の絡み付きに、危うく絡み取られそうに。


 血の気の引く思いを味わう寸前に、何故か地面の底に落っこちる姫香。そして気付けば、ツグミの側に召喚されたように地面から生え出る格好に。

 いや、どうやら影を渡ってツグミが回避行動を手伝ってくれた模様。凄いこの子と心の中で感嘆しつつ、言葉では反撃するよと威勢の良い掛け声を発して。

 姫香とツグミのコンビは、再び大蛇と相対するのだった。



 そして最後の大鶴も、その見た目に反して難敵だったと言うオチ。レイジーの噛み付き攻撃には、その細い脚で鋭過ぎる蹴りを放って反撃して。

 業を煮やしての『魔炎』ブレスには、翼のはためきで風を起こしての対応をして来る始末。ルルンバちゃんも魔銃で牽制するが、この華奢な体格の敵は体力も意外と高いようで。


 魔玉の1発や2発では、全く揺るぎもしない様子。逆に鋭いくちばしの攻撃で、ルルンバちゃんは木々の間に墜落に追いやられる始末で。

 この即席タッグも、敵の陥落には苦労しそうな雰囲気。





 ――ってか、レア種並みの難敵の出現にピンチな来栖家チームだったり。




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