第184話 ダンジョン内で変な遊びに付き合わされる件



 さて8層だが、やっぱり雑魚は初っ端から湧いて出て、一同へと襲い掛かって来た。それを毎度の作業で蹴散らして行って、綺麗に掃除が片付いて境内にいったんの静けさが。

 それを破るように、やっぱり鈴が打ち鳴らされる。


「この層の狛犬は普通の大きさだったね、そしたら次は召喚かな……?」

「みたいだな、6層ほどの強敵じゃ無い事を祈るけど」


 護人の呟きに応えるように、神楽舞台に呼び出された巨大なイタチが顔を出す。今回は1匹だけと言う結果に、明らかに安心するメンバーたち。

 ただし、ソイツの敵を見定めての反応は割と熾烈だった。いきなり尻尾を立てて、それが急激にブレたかと思ったら。烈風が一同を襲い、思わず盾を掲げてそれを迎え撃つ護人。


 周囲の石畳が、恐らくさっきの敵の攻撃に酷い有り様に成り果てていた。鋭い風系の魔法攻撃に、アレってカマイタチかもと呟く紗良に。

 なるほど、再び妖怪カテゴリーの敵かと得心する前衛陣。ちなみに最初の風の鎌を防げたのは、全くの偶然と言うか翡翠水晶の大盾の魔法吸収効果が偶然働いたから。

 何にしろ、それで家族に怪我が無かったのは僥倖だった。


 再度の魔法攻撃を許すなと、ハスキー達が勇んで突っ込んで行く。神楽舞台を降りて来る大イタチは、ハスキー達より2周りは巨大サイズで接近戦も強そうだ。

 しかもカマイタチの象徴っポイ尻尾だが、モロに鎌の形をして凶悪そう。近付くハスキー達にそいつで斬り付けながら、威嚇の唸りを上げつつ噛みつき攻撃もして来ている。


 それでも数の優位はこちらにあると、護人と姫香も接近しての殴り合い。カマイタチの尻尾の鎌のブン回しは酷かったけれど、幸い素早いハスキー軍団は全員避ける事に成功して。

 そこからの反撃で、数の優位を存分に生かし切っての攻勢に。向こうは最初の勢いを完全に失って、最後はそのまま押し切る事に成功した。

 とどめはレイジーの噛み付き攻撃で、相手の息の根を止めるに至って。


「やったねレイジー、さすがウチのエースだよっ! それにしても、6層以降はやたらと強い敵ばっかり出て来ている気がするね、護人叔父さん」

「そうだな、確かに最初に測った魔素の濃度はかなり高かったけど……残り2層か、行けるかな?」

「頑張ろうっ、ちなみにさっきの敵がスキル書落としたよっ!」


 カマイタチが落としたのは、魔石(中)を1個とスキル書1枚と、中ボス仕様の豪華さだった。それから香多奈は、前の層みたいなご褒美が無いかと周囲を覗い始める。

 それに応じた訳では無いだろうが、再び鳴り響く鈴の音と共に。賽銭箱の前に、またもや出現する宝箱。しかも今度は金色で、それを知って大騒ぎを始める姫香と香多奈である。


 回収作業に近付く紗良も、同じくちょっと興奮している様子。神様のご褒美かなぁと口にしながら、中身の確認を姉妹仲良く行い始める。

 中からは鑑定の書(上級)が3枚と強化の巻物も同じく3枚、魔結晶(大)が5個に同じく魔石(大)も5個。それから宝珠が1個にスキル書が2枚、装備では赤いはかまが入っていた。


 それから武器では神聖そうな刀がひと振り、アイテムでは鳥居をかたどった置物が1つ。最後に古いお手玉が幾つかと、高級そうなお酒の瓶が1本。

 お手玉だけテイストが違うねぇと、紗良の言葉にそれを手にして弄り出す末妹。そして判明、1つだけやたら中身の詰め物がやたらとゴツゴツしているとの報告に、姫香がそれを調べてみると。

 大粒の宝石が、幾つも中から出て来る始末。


「うわっ、お手玉って全部中身がこんな宝石で出来てるの、お姉ちゃんっ?」

「そんな訳無いでしょ、おバカだねっ香多奈っ! ……うん、このお手玉だけが特別性だったみたい、ちょっと驚き過ぎてまだ心臓がドキドキしてるよ。

 本当に神様も、意地の悪い仕掛けをするよねっ!」


 姫香はおカンムリの態度ではあるが、顔は割とニヤケていて嬉しそうなのは隠せていない。紗良はその隣で、冷静に大粒の宝石の数を数えている様子。

 お手玉の中身は9割は大豆だった様だが、宝石入りのが1個だけあって。その中には大豆に混じって10個の大粒の宝石が入っていたようだ。


 香多奈もよく見付けたモノだ、また変なスキルが発動したのではないと良いけど。護人はハスキー達を休憩させながら、そんな事を思ってみたり。

 そしてMP回復ポーションを与えて、そろそろいいかなと紗良が苦心して作り出した果汁ポーションも服用する事に。前衛にはルキルの果汁ポーション(スタミナ&パワーup)で、後衛にはキャザムの果汁ポーション(MP50%上昇)を回して行って。

 これらの効能は1時間に伸びて、液体になったお陰で随分と使いやすくなった。


 味も悪くないし、香多奈も文句を言わずに飲んでいる。末妹の『応援』も、地味に戦闘の明暗を分ける事もあるので使用回数アップは侮れないのだ。

 姫香も素直に、紗良姉さんって凄いよねぇとその手腕には感嘆し切り。護人もそう思う、時代が平和だったら大学で研究職を目指していたかも知れない。



 とにかく休憩も終わって、次はいよいよ9層だ。今度はどんな強敵がと、チーム一同気合いが入りまくりで階段を降りて行って。そして見渡すも、何故か雑魚すら寄って来ない。

 アレッ、と不思議がりながら周囲を見渡す子供たち。ハスキー軍団も、あちこち匂いを嗅ぎながら敵の気配を探している。護人もきっちり嫌な予感、このパターンはひょっとして?

 いやしかし、6層より強いレア種とか手に余りそうな気配が。


「護人叔父さん、敵の気配がどこにも無いんだけど……ひょっとして、また鈴の音で何か出て来るパターンなのかな?」

「それでもさ、雑魚が1匹もいないのはヘンだよねぇ? これってアレかな、物凄く強いレア種が出るパターンとか?」


 香多奈も同じく、その予感を脳裏に思い返している様子。そこに鳴り響く無情な鈴の音、ビクッとなりつつ来栖家の面々が、思わず神楽舞台に視線をやるけど。

 出現しているモンスターはいない様子、ってかいつの間にかチーム全員が参道のど真ん中に集まっていて。巨大な鳥籠に閉じ込められて、移動不可状態に。


 驚く一同だが、仕掛けはそれだけでは無かった。小柄なモンスター達が、鳥籠の周囲をいつの間にか取り囲んでいて、一斉に時計回りで歩き始める。

 モンスターは一つ目小僧やのっぺらぼう、子天狗やろくろ首などの妖怪系の奴もいれば、鶴や亀やイタチ、タヌキや狐も混じっている。どのモンスターも均一の動きで、視線だけはこちらを向いていて。

 そして鳴り響き始める、“かごめかごめ”の祭囃子のメロディ。


「ええっ、敵との戦闘が無いって思ったら、いきなりお遊戯させられるのっ!? ダンジョンってどんだけ自由なのっ、信じられないっ!」

「わわっ、首が回らないし身体も動かなくなってる……金縛り状態だ、これじゃあズルして後ろを覗く事も出来ないよっ!」

「う~ん、ズルは良くない気がするなぁ……私も遠見の魔法アイテムの使用は止めておきますね、しっぺ返しがあると怖いから。

 頑張って順番覚えて、自力でゲームに勝とうね、香多奈ちゃん!」


 張り切る紗良だが、自信は結構ある様子。自らも歌を口ずさみながら、必死になって前を過ぎ去って行く個性的なモンスターの姿を覚える作業に必死。

 その隣では、いつしか香多奈も夢中になって記憶作業に頭をフル回転させていた。遊びも探索も、何事も全力が少女の信条でもあるのだ。

 両者の表情は、時間が過ぎる程に段々と自信に満ちて来て。


 そして音楽が終わった途端、モンスター達の奇妙な行進もピタッと止まった。目の前の鳥籠の隙間から顔を出しているのはタヌキで、その右隣は亀である。

 その隣がのっぺらぼうと言う所までは分かるが、首を巡らせない状況ではそれ以上の確認は無理。ところが紗良と香多奈は、自信に満ちた声音でゴニョゴニョと相談を交わして。

 それからせーのの合図で、大声で答えを口にする。


「「……一つ目小僧っ!!」」


 その途端、鳥籠の仕掛けは光となって消えて行き。周りを囲んでいたモンスター達も、魔石へと変わって行った。それから清浄な光が、チーム全員に降り注いで。

 その光だが、どうやらヒール効果があったらしい。降り注ぐ光に包まれながら、正解を導き出してやったぁとはしゃいでいる紗良と香多奈である。


 今回は力になれなかった姫香もその輪に入って、一緒になって喜んでいる。ハスキー達も謎の金縛りから解き放たれて、ホッと一安心している模様。

 それから再度の鈴の音は、恐らくはご褒美タイムだと既にパブロフの犬状態の子供たち。今度の宝箱は、本殿の右側にそびえ立つご神木の木の根元に出現していた。

 喜びながらの開封作業、今回も中身は豪華だった。


 数こそ少ないモノの、まずは魔結晶(特大)が5個。それから中身が未特定の薬品が、白い徳利に入って2本ほど置かれてあって。何となく高級っぽい雰囲気、子供達も喜んでいる。

 そして9層は、それ以上の仕掛けも敵も出て来ない模様で一安心。短い休息を取って、いよいよ一応の目標階層である10層へと進んで行く。



 そしてお待ちかねの10層、ここまでたっぷり3時間は掛かってしまったけど。フィールドは狭かったけど強敵も多かったし、そこは致し方の無いところだろう。

 ここは普通に雑魚の群れは湧いていて、果汁ポーションでのパワーアップの効果が体感出来た。そして敵の群れは、5分余りで全て駆逐されて行って。


 いざ準備を整えて、一行は揃って神楽舞台へと上がって行き。一応速攻の準備は整えてあるけど、それが叶うかどうかは不明と来ている。

 先頭の護人が足を踏み入れた途端に、やっぱりあの感覚が襲い掛かって来た。拡張を始める舞台と、急に出現を果たす中ボスの群れ。

 今回は、神楽の龍とお面の天狗と鬼の3体セットらしい。


「わおっ、あの龍強いのかな……張りぼてっぽいから、レイジーの炎で簡単に燃えそうだけど。中の人とか、いたら面白いのにねぇ?」

「面白くはないでしょ、いたらそいつは確実にモンスターだよっ、おバカっ! でもどうしようか護人叔父さん、レイジーの焼き払い作戦は良さそうな気もするけど」

「そうだな、それじゃあ速攻にレイジーのブレスも追加で行こうかっ!」


 拡張のエフェクトが終わるとともに、護人の号令と共に先手を取っての中ボス戦の開始。張りぼての神楽龍は、香多奈の言う通りちっとも強そうではないが、動きはスムーズで。

 なんと姫香の金のシャベルの投擲を、軽々躱して接近して来た。それを迎え撃つ、レイジーの『魔炎』とミケの『雷槌』のダブル魔法攻撃。


 さすがの中ボスも、これには距離を取って離れて行くみたいだ。ただし炎で張りぼてが燃え尽きる事も無く、ダメージも程々な感じみたい。

 護人は四腕を展開して、『射撃』スキルでお面の3体を威嚇している。一斉に近付かれたら、こちらはそれだけで不利なので。それを感じて、ハスキー達が迎撃に出向く構え。

 ただしその前に、派手に香多奈の爆破石が炸裂したけど。


 その威力はかなりのモノで、どうやら闇の魔玉と炎の魔玉をミックスして投げ付けたらしい。張りぼての神楽龍も地味にダメージを受けていて、効果はなかなか。

 更にレイジーが『魔炎』で畳み掛けて、お面の天狗達は武器を振るう暇もない有り様である。赤鬼と青鬼は重そうな金棒を、天狗は錫杖を持ってそれなりに強そうなのだけど。


 何気に学習能力の高いハスキー軍団は、何度か対面した敵の特性は覚えて対処してしまえるみたいで。普段はボーっとしている印象なのに、戦闘に関しては頭の回転が素晴らしい。

 姫香も負けてはいられないと、9層で活躍出来なかった鬱憤を晴らすべく中ボスの龍へと向かって行く。その斬撃は鋭くて、張りぼてはあっという間に削られて行き。

 何だか押せ押せムード、6層の手古摺り具合がまるで嘘のよう。


 相手の逆襲は、あると思っていた蜘蛛の巣散らしの捕獲技と、それから張りぼての神楽龍のブレス技だった。香多奈と散々、ブレスをマントと『圧縮』で躱す特訓を続けていた姫香は、それを見事に防いでみせ。

 そしてそれが終わった隙を突いての、『身体強化』と香多奈の『応援』込みの鍬の一撃。それが見事に神楽竜の脳天に決まって、それが止めとなった模様で。


 光と共に魔石に変わる中ボス、その奥ではレイジーが赤鬼を炎の斬撃で見事仕留めていた。それに勢いを貰って、天狗と思い切り距離を詰める護人。

 四腕の薔薇のマントが敵に反応して、お得意のチョッピングライトを見舞う態勢に。その体積は、薔薇のマント(偽物)を喰っていつの間にか倍化している始末。

 そして見事に決まる、巨大な真っ赤な振り下ろしの右ストレート(棘付き)。


 その効果は言うまでも無く、相手が少し可哀想なレベル。そして残った青鬼も、ルルンバちゃんの射撃とツグミの『隠密』襲撃によって退治されて行き。

 意外とスムーズに、10層の中ボス戦は終了の運びに。





 ――途中の険しいイベントはさて置き、取り敢えずの目的の達成だ。






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