第174話 ダンジョンの後始末とお祭りの後半を楽しむ件



 10層での壮絶な戦いが終了し、あちこちにドロップ品が散らばる簡素な部屋のステージだけど。不思議な事に、あれほど派手に壊れた鏡の破片は、どこにも見当たらず。

 しゃがみ込む護人の元へと駆け寄る姫香から、お疲れ様と元気な掛け声が。それに笑顔で答える護人だが、その手には壊れた盾の破片が寂しく握られていた。

 本当に強敵だった、壊れたのが盾だけで本当に良かった。


「レイジーもミケとのペアで、ゴーストをやっつけたみたいだよ、護人叔父さん。こっちも叔父さんのパスのお陰で、パンプキン倒せたし、本当に良かったよねっ!

 後はそこにある、ダンジョンコアを壊すだけかな?」

「わっわっ、ドロップ品が一杯……そこの部屋の端っこに、銀色の宝箱もあったよ! お姉ちゃん、一緒に開けに行ってよっ!」


 さすがにイミテーターだらけのこのダンジョンで、勝手に宝箱を開けてはダメだと護人に言われている手前。姉を誘っての開封作業、ちなみに散らばるドロップ品はルルンバちゃんが回収中である。

 手強かった護人のドッペルゲンガーは、魔石(大)とスキル書を1枚、それから真っ赤なマントをドロップしていた。コイツも勝手に動くのかと、恐る恐る手に取る護人だったけど。

 その派手なマントは無反応、薔薇の刺繍こそあるが偽物であるらしい。


 レイジーの倒したゴーストも、やはり大物クラスだった模様で。魔石(大)と手鏡みたいなモノをドロップしていた。よくペット勢だけで倒せたなと思うが、考えてみれば来栖家のWエースである。

 倒せない方が不自然なのかも、ちょっと言い方がヘンだけど。


 それからパンプキンヘッド3匹は、魔石(中)を3個と奇妙な形の杖と首飾り、それから巻物を落としてくれた。魔石のサイズから考えると、コイツらだけでも良かった感もあるけど。

 本当に盛大に出迎えて貰えた、まぁ最終層なので仕方が無いのかもだが。向こうでも香多奈が、姉の姫香と大盛り上がりで宝箱の中を確認していた。


 さすが銀箱との喝采と共に、まず香多奈が取り出したのは煌めくオーブ珠。ここで2個目で、確かに嬉しくはあるけど。秘密の宝物庫の後なので、さすがに大喜びとは行かず。

 贅沢には違いないが、その後の魔結晶(中)が4個とか中級エリクサー800mlや硬化ポーション600mlにも通常テンション維持の末妹である。

 隣の姫香も、同じくふ~んと言う微妙な表情。


 更にはその後の品も赤いカボチャが3個とか、白いカボチャが4個とか。どんどんと無表情になる姉妹に、追い打ちを掛けるようにトランプや花束、ボードゲームの類いが。

 そして最後に香多奈が取り出したアイテムは、ある意味衝撃的だった。古びた探索者カードが3枚、知らない名前が書かれてしっかり有効期限内である。

 そして思い至る、ここで出て来た3体のゴーストの正体に。


「ひえっ、じゃああのゴーストって……ええっ、そんな事ってあるの、姫香お姉ちゃん!?」

「しっ、知らないけど……ええっ、元は探索者がゴーストになったって事!?」


 揃って護人の方に顔を向けて、驚き顔を披露する姉妹だけど。護人だってそんな事は分からない、それよりツグミが部屋の端にワープ魔方陣を発見したと報告して来て。

 恐らくは帰還用の魔方陣なのだろう、至れり尽くせりは嬉しい限り。何しろ、予定の脱出時間を大幅に超えてしまっている。外で待つ者達も、きっと心配している筈。


 尚も呆然としている香多奈から、恐らく故人の探索者カードを受け取って。珍しく、護人がシャベルでダンジョンコアを破壊、小さな振動が周囲を束の間震わせる。

 紗良はハスキー達に怪我がないか、きっちりチェックし終わってくれていた。本当に頼もしい限り、それじゃあ戻ろうかとリーダーの護人がチームに声を掛ける。

 依頼は完全な形で果たした、これ以上ここには用が無い。




「護人……良かった、無事だったのか! 子供達も無事だったみたいだな、どうしようかと思って焦ってたんだが。さっき車が振動してたから、恐らくコアの破壊に至ったと気付けたよ」

「あぁ、先輩……遅れてしまってすみません。経過報告の仕様も無いし、戻るには半端な階層だったんで。ただ、お陰でコアの破壊まで辿り着けましたよ。

 これでこの移動ダンジョンの処理は、当分の間大丈夫でしょう」


 それを聞いて、明らかにホッとする細見団長と護衛の若い衆。彼らもお祭り2日目だと言うのに、寝ずの番などさせられて本当に気の毒だ。

 お互いを労って、それじゃあこっちは青空市に途中参加しますと告げると。向こうは呆れたように、元気だなと揶揄からかい混じりに言って来る。


 何にしろ、日馬桜町の行事に水を差されなくて本当に良かった。午後からになったけど、こちらも楽しもうと姫香は既にお祭りモード。

 釣られて香多奈も、売れそうなモノ一杯入手出来たねと、今回の回収品を物色している。確かに家捜しに似た回収品は、過去のダンジョンよりは多いだろうけど。

 魔素の数値によっては、売りに出さない方が良いだろう。


 それを聞いて、慌てて自前の鑑定装置で計測に掛かる香多奈。紗良も手伝って、多分高いんだろうなぁとか思って2人で結果を眺めるけど。

 思ったよりも高くなくて、カップ麺もカボチャも充分に基準値内と言う。いや、基準値なんて特には無いのだが、数日間放置の数値と似たような感じには違いなく。


 この程度なら大丈夫だろうと、細見団長も請け合ってくれた。その言葉に大喜びの香多奈と、一応はダンジョン産を強調して売りに出そうかと慎重論を提案する紗良。

 それから皆で来栖家のキャンピングカーに戻って、着替えを済ませたり荷物を整理したり。食品や日用品もそうだが、今回はスキル書が5枚にオーブ珠が2個も入手出来たのだ。

 新たな目玉商品としては、充分な見栄えである。


「それにしても、朝から結構疲れたねぇ……香多奈ちゃん、体力は大丈夫? お店はこっちに任せて、キャンピングカーで休んでてもいいよ?」

「大丈夫だよっ、そんなに疲れてないし……夕方まで頑張って、神楽も全部見るもんねっ!」


 そう発言する香多奈だが、ダンジョンの中でちょっと残念な事があったらしい。今回も鬼の子に会えるかと思ってたのに、会えなかったそうで。

 再会用にお菓子をボッケに忍ばせていたのに、結局は全部妖精ちゃんに食べられてしまったそうな。お陰でボッケの中は、お菓子のクズだらけと憤慨する少女である。


 それより今回も大量の、スキル書とオーブ珠の相性チェックをしようと騒ぎ出す末妹。車内を子供たちに明け渡して、着替えを諦めていた護人も緊急招集されて。

 実に7回の相性チェックは、ペット勢のも含めてそれなりに時間は掛かったけれども。何と全てが空振りと言う、大いなる時間の無駄遣いの結果に。

 それには、さすがの元気少女もグッタリ模様。




 それでも何とか気を取り直して、一行は昨日の位置へとキャンピングカーでの移動を果たして。今日の朝から販売ブースを守っていてくれていた、凛香チーム&ゼミ生と合流を果たす。

 彼らはいかにも安堵した表情で、来栖家チームの無事な帰還を祝ってくれて。


「ああ良かった、無事にみんな戻って来てくれたよ。野菜も漬物も全部売れたから、今は開店休業中だよ、護人ちゃん。こんなお婆ちゃんを担ぎ出さなくても、若い連中がいっぱいいるってのに。

 荷物預かりサービス? ってのも、あの若い子が全部やってくれたよ」

「ありがとう、いや済まなかったねお婆ちゃん……みんな販売ブースは初心者だから、信頼出来る大人のお手伝いが欲しくって。

 ダンジョン産の雑貨や食料品で良ければ、何か貰って行ってよ」

「婆ちゃん、私も活躍したんだからね? 日馬桜町の平和は、私とお姉ちゃん達とハスキー軍団で守ったんだからっ!」


 カナちゃんは偉いねぇと、植松のお婆は孫にはとことん甘い様子。それから席を立って、爺のお昼の面倒があるからと歩いて帰って行ってしまった。

 車で送るとの護人の言葉にも、近いからねと全く意に介さず。せめて送って行くよと、姫香がカボチャを2玉持っての送迎を買って出てくれて。

 それはお婆的にはアリな様子で、姫香に礼を言って歩き去って行く。


 そんな訳で、2日目の販売ブースは紗良の細腕に掛かる事になってしまい。慌しくポップを作りながら、仕入れたばかりの商品を机の上に並べ始める。

 日用品はともかく、食料品は魔素の関係で2~3日間隔を置いてから口にした方が安全性は高まる。その旨をポップに記入しつつ、凛香や小鳩に指示を与える紗良。


 青空市の人通りは、昨日にも増して多い気がするのは錯覚では無い筈。現に並べられた商品に、既に人だかりが出来始めるこの状況。

 そして早速、レトルト食品やらカップ麺やらが飛ぶように売れ始め。それを見た客が更なる客を呼び、来栖家の販売ブースは、一時戦場と化す破目に。

 気付いたら、カボチャを始めとした食料品は全て完売の運びに。


 それから姫香がお婆を送り届けて戻って来るまでに、映画のDVDやら音楽CD、それから電池や果物ナイフや栓抜きなどの日用品も順調に捌けて行き。

 姫香が戻って来てからは、売り子姉妹の勢いは更に増して行き。お祭りなのだからと、赤字覚悟のくじ引きを急遽きゅうきょ作製する事に。


 畳んだ紙切れを50枚作って、その中に特賞を2枚に2等を3枚、3等を5枚ほど混ぜ込んで。500円で1回、千円払えば3回引けると言う遊び方に決定。

 外れても大量にある金貨や銀貨を貰えるけど、枚数は毎回リセットされる。同じ人が続けて挑戦するのは、従って3千円で9回までと調整して。

 これなら相手からも、文句は出難いだろう。


「面白そうっ、私もやってみたいなぁ……!」

「アンタがやっても意味無いでしょ、それより商品を並べるの手伝って、香多奈」


 そんな訳で特賞(1等)の設定には、魔法アイテムの『武将兜』やスキル書、それから上級ポーション200mlを置いて。どれも20~30万円の価値があるので、確実に客引きに役立つだろう。

 2等賞には、同じく魔法アイテムの『木独楽』や『浮遊の風船』、それから換金性の高そうな金の燭台や小粒の宝石やポータブルCDプレーヤーを設置。

 3等賞はポーション200mlや白木の椅子やボードゲーム、その他雑多な防具や日用品を混ぜて置く事に。話し合った結果、子供もやるくじに武器の類いは混ぜない方が良いと決定して。


 そんな訳で始めた“お祭りくじ”は、最後の追い込みに大いに貢献してくれた。最初こそ興味本位での参加が目立ったが、子供が2等を当ててポータブルCDプレーヤーを獲得すると。

 人が人を呼んで、結構な大盛況振りで割と長蛇の列に。確率的に、どんどん捌けていく金貨やトランプや花札の残念賞。売れ残った映画DVDや銀の皿やフォーク&ナイフも消えて行き、こちら的にも大助かりだ。

 なによりくじ引きって、当たり外れでお客も大盛り上がりだし。


 結局はどっかのおばちゃんが特賞の上級ポーション200mlを、小柄な親子連れが『武将兜』を引き当てて。その時点がくじ引きのピーク、まぁ盛り上がりがあって良かったとブースの姉妹は一安心。

 2等や3等もそれなりの確率で捌けて行って、日用品のお椀や箸や売れ残り大王の照明器具が意外と人気。蔦のブーケ(実は不枯&良香の魔法アイテム)も2個ともお持ち帰りされ、これも売れ残りの3段ラックと積み木セットも持ち主を得て。

 気付けば、くじだけで売り上げは10万円を突破していた!


 そして残念賞の金貨と銀貨が全てなくなった時点で、このお祭りくじは終了の運びに。その頃には3時を過ぎていて、人の流れも随分と穏やかに。

 お祭りのメインイベントである神楽舞が、小学校のグランドで催されるとの通知が行き渡って。そろそろ場所取りに向かおうかと、開演の4時を前にして人の流れが定まって行く。


 来栖家もそっちは、当然の如く見学に行く予定である。何しろ植松の爺が、裏方のお手伝いで参加するらしいので。後半は太鼓を叩くかもとの事だし、こちらも撮影案件である。

 そんな感じで販売ブースを片付けている間にも、お客の大移動は目に見える程に。これは確かに神社の狭い境内には入らないねと、香多奈は驚きを通り越して呆れている感じ。

 ただまぁ、これは小学校の校庭でも完全収納は難しいかも?


「早めに行ったら、豚汁とかの配布サービスにありつけたのにねぇ? 場所取りとか意味あるかな、ルルンバちゃんに行って貰おうか、叔父さん?」

「そこまでしなくていいよ、香多奈……後ろの方からでも、撮影出来て雰囲気が味わえれるだろうしな」

「そうだね、撮影はルルンバちゃんに頼めばオッケーだし。昨日の子供神輿もそうすれば良かったのに、護人叔父さん」


 その手があったかと、今更ながら天を仰ぐ護人である。肝心のルルンバちゃんは、青空市の現場では目立たないよう言われていて、それが裏目に出たのかも。

 とにかくこれで撮影の手段は確立出来た、ルルンバちゃんもようやく出番を貰って超嬉しそう。そんな訳で、家族と凛香チーム大揃いで小学校方面へと移動を始めて。


 気が付けば、厳島いつくしま神社のお正月の参拝もかくやとの人混みの中、小学校まで誰も逸れずに辿り着いて。犬達も無事みたいで、オーラを放って自分たちの領域を主張している。

 さすが護衛犬だと感心しつつ、何とか位置取りもひと段落。目を向けると、即席で造ったにしては立派な舞台が校庭の奥にデンと設えてあって。

 祭囃子まつりばやしが、賑やかに鳴り響き始めた。





 ――どうやら神様のお持て成し準備は、存分に整った様子。





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