第175話 お祭りの終わりに片付けに奔走する件



 町中はお祭りと青空市の片付け作業に追われていて、あちこちで賑やかな作業音が響いている。小学校も臨時休業、お祭りの舞台の撤去作業でグランド内は立ち入り禁止なので。

 それを悲しむ小学生はおらず、香多奈も喜んで朝からハッピーオーラを振り撒いている。何しろ離れたお隣に、同い年の友達が2人も出来たのだ。


 今日も朝から何して遊ぼうかなぁと、張り切って家の中を走り回っているけど。家族の予定で協会に出向くのを知ると、そっちに思いっ切り方向転換。

 一緒に行くよと、さっさと支度をし始める始末。


「あんまり面白い話にはならないぞ……最後に出て来た探索者カードを、協会に持って行くのがメインだから。自治会の人とかも集まって、色々と情報交換とかもするらしいし。

 ちょっと長くなるかもだし、家か麓の友達と遊んでたらどうだ?」

「そうそう、お子様は外で遊んでなさい……友達も出来たし、丁度良いじゃん」

「遊ぶのは午後からでもいいよっ、一緒に行くのっ!」


 除け者にされるのが嫌いな香多奈は、頑固について行くとの一点張り。そんな訳で待ち合わせに遅れないよう、結局は家族で協会へと出発する。

 昨日のお祭り騒ぎの痕跡は、町中の至るとこに散見していて。そんな中、協会の駐車場には見慣れない車が何台か駐車していて。


 大半が軽トラなので、近所のおっちゃんだろうと推測は付くけど。恐らく他の場所での作業をしている業者が、簡易駐車場に使っているのかも。

 それから地元の自警団チーム『白桜』の、細見団長と自治会長の峰岸も既に来ていて。来栖家の到着に、気楽に挨拶しての話し合いの開始を促す構え。

 ただし、家族全員で来るとは思っていなかったようで。


「ここじゃあ少し手狭じゃな、隣の集会所を開けようか? 込み入った話もあるから、あんまり子供達には聞かせたくは無いんじゃが」

「子供たちは隣のブースに座ってて貰いますよ、自分らは奥の机を使いましょう。済みません、昨日の“キャンピングカーダンジョン”の換金と報告もしたかったんで」

「それじゃあ、そっちは能見に扱って貰いましょうか……我々はこちらで、青空市の報告と西広島の情勢の確認会と言う事で」


 そんな仁志支部長の言葉で、席分けは呆気無く決定して。子供の相手に指定された能見さんは、皆にお茶を用意した後は姉妹達と女子トークに熱中し始める。

 一緒に昨日の探索動画をチェックして、手強い敵と遭遇すると一緒になって緊張して。姫香や香多奈の注釈に、熱心に耳を傾けての視聴会に興じている。


 その隣では、4人の大人の真面目な話が始まって。まずは2日に渡って開催された収穫祭&青空市の報告会である。簡単に収支報告やら、上がった問題点やら次回への改善点やらを話し合って。

 協会と自治会と自警団の繋がりを、今後も密にして町の発展に貢献しようとの纏めでお話は終了。出来れば今後も続けて行きたいとの思いは、皆か持っている様子。

 何しろ地域の活性化と、儲けも結構出たとの事で。


 良い事尽くしには違いなく、そのお金は自警団の運営にも回されるそうだ。自治会が主導して頑張っている民泊移住のサービスにも、まだまだお金は必要だそうで。

 護人にとっても、それで来栖家チームへの比重が少なくなったり、移住者が増えて子供たちに友達が増えるのは大歓迎だ。

 姫香が唱えるギルド云々は別として、手助けはして行きたい。


 そっち系のお金の配分は、向こうで良い感じに行うそうだ。それは全然構わないし、来栖家も青空市で結構な額を稼がせて貰った。

 どうやって地域還元するかなと護人が悩んでいる中、話は西広島地区の情勢の報告に。来栖家チームも参加した大規模レイドのお陰もあって、西広島最大の広域ダンジョンのオーバーフローは阻止出来たモノの。

 吉和の“もみのき森林公園ダンジョン”のオーバーフロー騒動でチャラとなって。


「吉和の騒動で、この町も戒厳令的なモノを出すかも知れない事態になる可能性もありますね。不要な外出禁止とか、自警団のパトロール強化とか」

「いやしかし……冬場は火事も多くなるし、自警団での野良対策にばかりはかまけていられないですよ。自治会での民泊移住で、確かに稼働チームは多くなってはいますけど。

 今回募集で来たチームなんて、全員が未成年って話でしょう?」


 細見団長の心配はごもっとも、そして相変わらずゼミ生2人も経験不足で即時実戦投入は躊躇ためらわれるレベル。姫香とほぼ毎日、夕方の訓練は行っているがそれと実戦は別の話だ。

 それでも吉和の問題は、協会伝手づての話では広島市の探索者の手が空き次第に解決するかもとの事。A級ランカーの甲斐谷のチームが、今度こそ動いてくれると話は進んでいるそう。


 有名チームって、本当にあちこちに駆り出されて大変そうである。護人としては、自分達のチームはそうならないように気を付けようって感情しか無く。

 その広島市の現状だが、なおも海からの野良の到来は治まっていないそうである。ただし大物モンスターはある程度片付いたので、随分と楽にはなっているとの事。

 今月か来月辺りには、上位ランカーが動けるのではと予測は立っている。


 他人任せだが、この町の探索者は割とこの町の治安維持で精一杯なのだから仕方が無い。手伝いを頼まれたら考えなくも無いが、こちらからしゃしゃり出るのも違うだろうし。

 そんな訳で、西広島の地域の情勢確認は一応終わって、次はこの町の民泊移住者の確認へ。その途端に、ソワソワし始める峰岸自治会長。


 どうやら神崎夫婦のおめでたからの出産が、もう間もなくとなってるみたいで。何しろ日馬桜町の出生率の低下は深刻レベル、去年もようやく1人とかなのだ。

 そこに来て、考え抜いて行った民泊移住者の初の出産である。自治会長が浮かれるのも、まぁ無理の無い事なのかも知れないけど。

 護人にまで、早く相手を見付けて結婚しろと矛先が回って来る始末。


「神崎の妹さんも、最近は自警団の若いのと良い雰囲気らしいぞ? 護人もさっさと相手を見付けて、所帯を持って子供を作ってくれ。

 このままじゃ、小学校も数年後には廃校じゃわい」

「ああ、若いのって国岡の事か……アイツは仕事も真面目だし、顔も割と良いしな。この縁談も上手く行けば、民泊移住の別の成功パターンになってくれるな」


 好き勝手な事を語り合う、峰岸自治会長と細見団長ではあるけど。確かに町の少子化問題は深刻だし、何かの対策は必要には違いない。

 そんな訳で、今回の儲けで町の空き家の修繕を、もう何軒か行う予定だと峰岸自治会長が報告する。護人の役割的には、10月に増えた移住者の取りまとめと探索力の底上げらしい。


 その辺は、姫香がギルドを作ると豪語した手前、仕方の無い役割だと割り切って。粛々しゅくしゅくと了解したと返事をして、どうかこれ以上の厄介事は割り振らないでアピールに余念のない護人である。

 こちらは農家の仕事もあるし、生活をこれ以上乱されたくないと言うのが本音である。それぞれの方針も決定して、今回の情報交換会はこれにて終了。

 仁志支部長は、良い情報を提示出来ずに済みませんと、ひたすら恐縮してたけど。




 一方の能見さんと子供たちの会話は、探索の動画を観ながら結構な盛り上がりを見せていた。このゴーストが実は的な盛り上がり方は、傍から見ているとアレだけと。

 3時間も連続で視聴するのは大変なので、休息やら家捜しのシーンは早回しをして。今はどうやら、5層の中ボスとの戦闘場面らしい。


 そこに会合が終わって、護人がそちらへと合流して来た。それから能見さんに、魔石とポーションの販売をお願いする。今回も結構な豊作で、何と魔石(大)が4個も混じっている。

 香多奈からは、この後が凄いんだから早く戻って来てとの催促の言葉。それから後をついて来た仁志支部長には、例の宝箱から回収した3人分の探索者カードを渡す。

 これがひょっとして、あの奇妙な移動ダンジョンの謎解きの鍵になるかも?


 子供たちは能見さんが戻って来るまでに、魔法アイテムの鑑定をする事にしたようだ。秘密の宝物部屋の発見を、一緒に見て興奮を共有したいのがモロ分かり。

 そして妖精ちゃんに、選り分けをお願いしての鑑定の書でのチェック大会に。今回も鑑定の書が足りなかったけど、家にあった余りの数枚を融通して。

 何とか魔法のアイテムに関しては、全て鑑定をする事には成功。



【強化の巻物】使用効果:防具強化(青の魔石使用)

【南瓜の置物】設置効果:ヒーリング効果up・中

【スキルの巻物】使用効果:炎の玉付与(朱の魔石使用)

【強化の巻物】使用効果:闇耐性強化(黒の魔石使用)

【翡翠水晶の大盾】装備効果:不壊&魔法吸収・中

【魔導の発電機】設置効果:家屋用発電機(魔石使用)・大

【薔薇のマント】装備効果:偽物

【魔法の鏡】使用効果:予知能力up・小

【カボチャの杖】装備効果:回避能力up・中

【カボチャの首飾り】装備効果:回避能力up・中

【強化の巻物】使用効果:スキル能力強化(橙の魔石使用)

【虹色の果実の種】育成効果:虹色の果実収穫・中


【心の宝珠】使用効果:使用者はスキル《心眼》を習得

【心の宝珠】使用効果:使用者はスキル《心頭滅却》を習得



 ただし、やたらと重い鉄板の素材とか、良品っぽい小手とブーツの鑑定には至らず。やたらと豪奢な細工の細剣も、妖精ちゃんは無反応だったので換金アイテムなのかも。

 少なくとも、実戦で使うのは明らかに勿体無い細工品ではある。


 今回も強化の巻物が結構出たし、それに対応する魔石や魔結晶も入手出来た。それでチームの強化が進むのは嬉しいが、それより一大事なのが秘密の宝物庫から出た宝珠である。

 しかも2つも、これは誰が使うかで家族内でひと悶着ありそう……仁志は逆に、初めて見たとやや引き気味だけど。売るって話が出ないだけ、潤っている証拠かも。


 何しろ他の魔法アイテムも凄い、『翡翠水晶の大盾』は護人の新しい盾として使うとして。『魔導の発電機』は、仁志に言わせれば数十件の家屋の発電も容易に可能な性能なのだとか。

 他にも『虹色の果実の種』など、果たしてどれだけの価値になるのやら。もっとも、紗良の持つ鞄の中には魔結晶(特大)が12個も入っているのだが。

 これは1個が百万にもなる、今回の超目玉回収品の1つでもある。


 やっぱり秘密の宝物庫って、儲けの桁が違うなぁと驚いている仁志支部長だけど。護人が覗き込む赤いマントだけは、偽物表示でちょっと笑える。

 これって最後の敵が落とした奴だっけと、姫香も話題にあげるけど。あの敵は凄かったねぇと、香多奈も戦いを思い出して興奮している模様。


 『魔法の鏡』に関しては、来栖家の面々は誰も突っ込まず。あまり興味が無いのかも知れないが、これも相当レアな魔法アイテムな気もする。

 ひょっとしたら、協会に売ってくれるかなと仁志が算段していると、能見さんが査定結果を手に戻って来た。今回は魔石(大)を除いた魔石と魔結晶を売って、98万円程度に。

 これに協会からも手当てが出るそうで、まぁタダ働きよりは断然良い。


「能見さん、ほら早くこっちに座って! 6層からの探索動画のスタートだよっ、8層で凄いことになるんだからっ! あと10層のボス戦も、みんな頑張って凄かったんだよっ!」

「あらあら、それはしっかり観ないと……それじゃあ8層の場面は、適当に修正入れた方が良いですかね? あんまり儲けた場面をアップすると、嫉まれる事もあるでしょうし」

「どうかな、動画の書き込みには豪運パーティとかって言う人も結構いるし……別にそこまでしなくても、大丈夫多とは思うけどねぇ?」


 姫香のふんわりした対応に、能見さんは動画ファンがしっかりついてますねと笑顔での受け答え。夏のキャンプ参加以来、来栖家の子供達と能見さんの距離はしっかり詰まっている様子。

 それは置いといて、後は一緒に動画を観て編集アップ依頼を出せばここでの用件は終了である。仁志も動画視聴を一緒にするそうで、例の探索者カードの調査は後回しらしい。


 確かにアレは、恐らく全て終わった後の残骸に過ぎないのだろう。確かな確信こそ無いが、あのダンジョンで出て来たゴーストの正体は、子供達も気付いた通りだと思う。

 それが移動ダンジョンになった経緯までは、とんと判断もつかないけど。それを解明するのは、自分の担当では無い事だけはハッキリ分かる。

 それは例えば、この町に居着いた小島博士みたいな人がすれば良い事。





 ――こちらは一介の探索者、言われた場所を間引いて行くだけだ。





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