第171話 秘密の宝物庫を求めて下層へと下る件



 パンプキンヘッドは魔石(中)の他にも、スキル書を1枚と変わったオルゴールを落としていた。そして宝箱は銀色、普段なら喜ぶ場面だが一行はダメージが酷くてグッタリ模様。

 爆破石を乱発された場面では、ハスキー軍団を含めて結構なダメージを全体で負ってしまった。かなり酷い仕様の中ボスだった、雑魚との格差が激し過ぎだ。


 油断していると、本当に危ないと言う良い例なのかも知れない。取り敢えずは休息を取りながら、各自で回復作業をしつつ。紗良が皆の怪我を治そうと、頑張って回復を飛ばして回ってくれている。

 姫香は相棒のツグミを褒めながら、宝箱の回収に出向いていた。香多奈はミケとハスキー軍団たちに、MP回復ポーションを配るのに忙しそう。

 そして宝箱の中身は、これまた変テコな揃えだった。


 上級な鑑定の書が3枚と魔玉(雷)が5個や、エーテル700mlや中級エリクサー500mlはまだ良いのだが。よく熟れた大型のカボチャが5玉とか、丸いクッキー缶とかどうすれば?

 恐らく食べれば美味しいのだろうが、パンプキンヘッド繋がりと思うと手に取りたくない姫香である。あのヤンチャな暴れっ振りは、当分トラウマになりそう。


 それよりその奥に、オーブ珠が1個と塩入りの瓶らしきモノが出て来た。立派な瓶だが、中身はどう見ても塩である。舐めて確かめた姫香は、考えるのを諦めてそれも鞄の中へ。

 そして護人は、今の一戦で結構なダメージを受けていて。エーテルを使用して、もうちょっと『硬化』のスキル練習をしておくべきだったかなと後悔してみたり。

 とにかくゴースト系の敵は、今後出て来たら要注意だ。


「叔父さんっ、妖精ちゃんがもっと破邪とか光属性の武器を有効に使えって! 魔法で撃墜するより、そっち系の方がずっと効果があるって言ってる。

 例えばホラ、さっき本が落とした短剣とかそうなんだって!」

「おや、そうなのか……さすがにあんな苦労して、また被害に遭うのは勘弁だからな。対処方法が入手アイテムの中に混じってるのなら、積極的に使って行こう」

「有効アイテムかぁ……そうだ妖精ちゃん、さっきの瓶に入ってた塩とかどんなっ!? 塩って言えば、大抵が幽霊とかに効果があるじゃんっ!

 銀色の宝箱に入ってたし、ひょっとしたらゴーストに有効かも!」


 勇ましくそう主張する姫香だが、現物を見せられた妖精ちゃんも判別は難しい様子。そこで護人は、上級の鑑定の書を使ってこの2つのアイテムを調べてみる事に。

 時間は掛かったが、結果は上々で今後の探索に弾みがつきそう。



【闇刺しの短剣】装備効果:光属性&破邪硬化up・中

【聖なる塩入り瓶】使用効果:退魔&破邪素材・中



  両方とも、破邪効果がキッチリあるようで、特に塩をばら撒くのは割と効果的な気が。家族で話し合った結果、護人が『聖なる塩入り瓶』を懐に忍ばせる事に。

 それから姫香が『闇刺しの短剣』を装備して、二刀流っぽく使用する流れに決定。香多奈も引き続き、ポンプ式液剤銃――通称『水鉄砲』を持っていて良い事に。

 なにしろ香多奈は今回の殊勲者、決して無碍には出来ないので。


 長めの休憩を取って、一行は気を引き締め直して6層へと降りる事に。ここまでもうすぐ2時間と、廻った部屋数は少ないのに意外と時間を食っている。

 それは仕方が無い、情報の全くない初見ダンジョンなのだから。しかも不意を突くように、強敵モンスターが紛れて来ると言う厄介さ。


 そんな法則をなぞる様に、6層の2部屋目で白い霧のようなゴーストが再度のお目見えに。ビビりまくる一同だったが、今度は事前準備がしっかりと出来ている。

 離れた場所からの冷気攻撃は敢えて我慢して、接近戦に近付いて来たゴーストに3方向からの熾烈な反撃。真っ先に放たれた香多奈の水鉄砲に、ビビりまくって慌てて退避するゴーストに。

 『旋回』込みの、姫香の二刀の斬撃が襲い掛かる。


 絶叫は、こちらに再び少なくないダメージを与えて来たモノの。前回で多少慣れていたメンバー達は、今度は誰も倒れる事無く戦闘姿勢を維持してやり過ごす事に成功。

 それどころか、全く怯まなかった豪胆な心臓の持ち主のミケが『雷槌』での反撃。精密射撃の様な一直線の雷光が、ゴーストの頭から下半身へと抜けて行く。


 ダメージは確実に与えている筈だが、それでも弱った姿を見せないゴースト。よく見ると若い男の顔をしているが、そいつが宙で苦しむように呻き出して。

 何と口から、黒くてぶよぶよの塊を幾つか吐き出す始末。


「うおっ、これには実体があるっぽいぞ……触れると危険かも、注意しろっ!」

「うわっ、人間の姿になろうとしてる……レイジー、焼き払っちゃって!」


 狭い場所での接近戦に、ハスキー達は今回あまり活躍出来ていないのだけれど。指名された来栖家のエースは、思い立って天井に『歩脚術』で忍び歩いて行って。

 そこから真下の気持ちの悪い物体に向けて、『魔炎』の手加減攻撃を敢行する。


 何しろ接近戦なので、味方に被弾するリスクは常に存在する。それでも姫香の前の黒い敵は、生まれた数だけキッチリ退治出来た。それに満足しつつ、その場で敵を睨み据えるレイジー。

 白い霧は上方にはまるで無警戒で、やたらと香多奈の水鉄砲を警戒している様子だ。チャンスと見た彼女は、その場から炎の刃での落下斬撃攻撃を敢行する。


 思い切り不意を突かれたゴーストは、またも絶叫を放って苦しむ素振り。そこに勇ましく、姫香が同じく旋風を巻いての超接近戦を挑み掛かって行き。

 二刀流での連続攻撃で、白い霧は霧散して行く勢い。絶叫は徐々に弱まって行き、今回の止めはどうやら姫香が担った様子である。

 床に転がる魔石は、今回もテニスボールサイズ。


 そして今回もスキル書の追加が1枚、嬉しいけど怖かったねぇとは、素直な香多奈の感想である。そして恒例の休憩時間、今回は生気を吸われずに済んで被害はマシではあるけれど。

 MPはそれなりに消費してるし、ゴーストの顔がやたらと怖かった。もう出ないで欲しいよねとか言いながら、取り敢えず休憩を終えて探索を再開して。


 次の部屋の引き出しの中や棚の箱から、MP回復ポーションや木の実や魔玉をゲット。途端に元気になる、現金な子供達である。

 そして6層も何とか5部屋を踏破して終了、階段のある部屋に辿り着いて7層へ。層を下る度に膨張の風景を眺め、そして部屋のパターンを宝の地図と睨めっこする子供たち。

 そしてこの層も、違うっポイねと大いに落胆して話し合ってる。


「う~ん、家具の配置は似てるけど……部屋の繋がりがいきなり違うよねぇ。この層も外れかな、前の6層も部屋数が違ってたし」

「なるほど、それじゃあ次の層に期待だねっ、紗良お姉ちゃんっ!」


 後衛同士の話し合いを聞き終え、護人は前進を開始する。この部屋もイミテーターがいるのかなと思ってたら、飛んで来る衣装棚に紛れて何やら黒い影が。

 驚き盾で叩き落とす間に、その陰に接近を許していたと思ったら。何とツグミが、その影を自分の影で捕獲してくれていて。慌てて姫香が、闇刺しの短剣でそいつに突きを放つ。


 その攻撃で、その影兵士は呆気なく昇天して魔石になって行った。やっぱり敵だったのねと、推定シャドウの攻撃に驚きながら今後気を付けるように確認が為され。

 そして当然のように、次の部屋でもそのシャドウとイミテーターのコンビ攻撃は続く。ただし、優秀なツグミのサポートでシャドウの捕獲はほぼ完ぺきな有り様で。

 手強い暗殺者の筈が、二流の敵に成り下がる可哀想な存在に。


「凄いねぇ、ツグミってば……いつもはレイジーの影で、全然目立たないのにねっ」

「おバカ香多奈っ、本人の前でそう言う悪口言うんじゃ無いわよっ!」


 相棒の悪口に、鉄拳制裁で抗議する姫香である。実際の家族のイメージは、香多奈の口にした通りではあるモノの。ツグミは縁の下の力持ちと言うか、宝物を見付けたり不意打ちしたりと意外と得意分野の多い賢い犬なのだ。

 それはともかく、この層での変化は本型の魔物にも現れていた。相変わらず本棚から飛び出して、魔法を先制して放って来る厄介なこのモンスターなのだが。


 今回はその中の1冊が、何故か火の玉を召喚したみたいで。火の玉と言うか人魂だろうか、宙に浮いたソレからは怨嗟えんさの声や暗いオーラを感じる一行。

 ただし、香多奈の水鉄砲の一撃で呆気無く昇天してしまったけど。


 これには浄化ポーションを放った本人もビックリ、まさか一発で決まるとは思ってなかった様子である。コロ助が本体のマジックブックを『牙突』で倒して、この部屋での戦闘は終了。

 しかも倒した本の魔物は、何やら巻物を落としてくれた。喜ぶと言うより、釈然としない表情でそれを拾う少女。一方のコロ助は、褒めて欲しくて末妹に体当たりなどする始末。


 大型犬の愛情表現にダメージを受けつつ、何とか7層も終了の運びに。そして降り立った8層で、宝の地図を眺める紗良の表情が一変した。

 どうやら地図と合致する、部屋と家具と通路の配置にようやく巡り合えたらしい。それを聞いて、ひゃっほうと興奮する姫香と香多奈。

 慌てて先を急ごうとして、イミテーターにゴツかれる事態に。


 慌ててサポートに入る護人、セットで登場のシャドウはツグミが抑えてくれると信じて。後ろから香多奈の、お姉ちゃんの粗忽モノと言う悪口が響いて来る。

 二撃目は何とか盾で防げて、ついでにツグミが捉えたシャドウにも水鉄砲の攻撃が効く事が判明。三撃目の前に、イミテーターは護人のシャベルの一撃で昇天。


 闘いの後の護人の無言の視線には、さすがの姫香もシュンとした様子で。ゴメンなさいと、腰の辺りをさすりながらの謝罪の言葉。

 慌てて駆け寄る紗良だが、幸い打撲程度の軽い怪我で済んだ模様である。


 その後の探索は、ちゃんと気合いを入れ直して挑む姫香だったけど。4つ目の部屋に入った途端、突然の轟音に襲い掛かられて思わず両手で耳を覆いそうになる来栖家チーム。

 そんな事をしていたら、武器も盾も構えられないのだけれど。それ込みの罠だったようで、大量に襲い掛かるイミテーターとマジックブックの群れ。


 いきなりのピンチに、レイジーの無理やりな『魔炎』が防御としても機能して。轟音の発信源を見定めて、護人もシャベルを投げつけて棚の上のスピーカーを破壊に掛かる。

 それから反撃……の前に、マジックブックの魔法が降り注いで。慌てて後衛だけでもかばう、毎度の前衛陣のいじましさと献身で被害は最小限に。

 反撃は主にミケから、浮遊する本がぼたぼたと地に落ちて行く。


「よっし、防ぎ切ったよ……ツグミ、この部屋にシャドウはいない? 紗良姉さん、お宝はどこの部屋だって書いてあるのっ?」

「えっと、★のマークがついてるのは隣の部屋かなぁ?」

「もうすぐそこだねっ、頑張って探し出そうっ!」


 はしゃぐ子供達だが、先程の失敗もあるので移動は慎重だ。護人を先頭に、障害物の多い部屋を抜けて次の部屋への戸口へと歩いて行く。

 そして恐る恐る覗き込んだ部屋の中には、やっぱり雑多な家具と一際大きな豪奢な宝箱が。アレっと言う感じで2度見する子供達をよそに、襲い掛かって来る大ゴキブリの群れ。


 それをあっさりと返り討ちにするハスキー軍団、ルルンバちゃんがすかさず魔石回収に飛んで行く。他のモンスターは、どうやら潜んでいない様子。

 それを確認して、ようやく部屋の中に入って行く後衛陣。


「あれれっ、確かに立派な宝箱はあるけど……紗良お姉ちゃん、印の場所は本当にここで間違いは無いのっ?」

「う~ん、確かにあからさま過ぎるかなぁ……でも位置はおおむね、ここで間違いは無い筈だよっ?」

「何だろう、とにかく開けてみるね?」


 そう言って慎重に進み出る姫香と、それを後ろから見守る姉妹たち。護人も何かあってはいけないと、サポートで側に控えて伺っているけど。

 特に何事もなく、その巨大な宝箱は開封されてしまった。ただしその蓋は結構な重量があったようで、開けた姫香はゼエハァ息を切らしている。


 中からは箱の大きさと豪華さに負けないアイテムが、まず目に付いたのがミスリル製の剣や兜。ガントレットとブーツも、見慣れぬ素材でとても立派そう。

 他にもボウガンとボルト矢のセットが入っていて、武器防具の類いが多いのかと思わせといて。スキル書が1枚と魔結晶(小)が5個入っていて、儲けも期待出来そう。


 更には上級ポーション900mlに強化の巻物が2枚、それで綺麗に宝物は空になってしまった。その空になった大きな宝箱の前で佇む姉妹、納得が行ってない雰囲気を醸し出しつつ。

 時間ももう2時間半、これ以上は待てないと護人が探索の続行を口にしそうになった時。姫香が不意に何か思いついたように、その大きな宝箱を力いっぱい押し始めた。

 ただ、重過ぎる宝箱は全く動いてくれない。


 それを見て確信を得たのか、途端に笑顔になる姫香。これを動かすのを手伝ってと、護人に頼み込んで頑張って位置をずらそうと身体を張っている。

 その意図に気付いて、必死に声援を送り始める香多奈。





 ――その努力は、果たして報われるや否や!?





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