第170話 ようやく車内探索が上手く回り始める件
突入して既に20分近くが経過しているのに、未だ1層の2部屋目と言う事実に。ちょっと戸惑いながらも、この先の対応を確定させて進む事に。
姫香は武器を白木の木刀へと交換して、香多奈も浄化ポーション入りのポンプ式液剤銃を勇ましく構えている。ゴーストが出たら、これで何とか退治出来るだろうとの予想だが。
次の部屋には、そんなビックリ仕掛けは無かった様子で。大ゴキブリ数匹と、イミテーターの箱型タイプが襲い掛かって来た程度。
それも護人に倒されて、鑑定の書を1枚ドロップするのみと言う。拍子抜けしたまま、一行は何となく周囲を見回したりお互いに顔を見合わせたり。
ハスキー達も、不意打ちに警戒の姿勢を崩さない。
そしてあちこち彷徨う暇も無く、5部屋目で下へと降りる階段が見付かる流れに。この部屋も、リビングなんだかキッチンなんだか、良く分からない造りの部屋で。
ある意味、手狭なキャンピングカーの構造に沿っていて雑多そのもの。まぁ、階段がくっ付いていても特に不自然ではない感じ。
但しこれは、間違いなく次の層への到達点に間違いは無いだろう。
そう子供たちに言い聞かせて、気を引き締めての2層の探索開始である。しかしこの層も何と言うか、出て来るのは大ゴキブリやら大ネズミ、それから椅子やソファのイミテーターのみ。
3部屋目で例のトラップBoxが出て来て、姫香が木刀で倒したら再び鑑定の書を1枚ドロップした。そう言うルーチンなのか、どうも納得の行かない仕様に首を傾げる一行。
ただし、回収品には変化があった様子で。
「ほらっ、引き出しの中に魔石とか鑑定の書が入ってたよっ! 後は果物ナイフとか栓抜きとか、メモ帳もあったね。
こう言うのは、持って帰っても怒られないのかな?」
「平気でしょ、ダンジョンの生み出したモノなんだから。あっ、そっちの調味料の容器はひょっとして薬品じゃない、香多奈?」
本当だと、シンクの上に目を向けた香多奈が再び嬉しそうなリアクション。どうやらMP回復ポーションが、調味料入れに紛れ込んでいた様子で。
それを嬉々として回収する末妹、ようやくいつもの探索ペースが戻って来た感じだろうか。2層はそれ以上のアイテム回収は無く、6部屋目で下への階段を発見。
極端に下がった難易度に首を傾げつつ、ハスキー達も出て来る敵の不甲斐なさにやや不満げな中。3層へと降り立つ一行、そして目の前で膨張する部屋の景色を
不思議には違いないが、そんな事を言えばダンジョンの存在自体がそうである。そんな訳で、その現象をマルっと無視する事に決めた来栖家チーム。
探索メインにシフトして、敵の退治と宝物の回収に心血を注ぐ事に。
「あっ、こっちの開きから缶詰とカップ麺とかの食料品を発見! いいんだよね、持って帰って?」
「本当になんか、他人の家を家捜ししてる気分だよね……とは言えダンジョンだし気にしなさんな、こっちもレトルト食品を大量に発見したよ」
それにしても、香多奈が躊躇する程にドロップ品が日常品で溢れている。姫香の言うように、他人の家に押し入って物品を盗んでいる気分になるのは仕方が無いかも。
それでもポロッと、探索用のアイテムも混じっているから始末に負えないこの変テコダンジョン。強化の巻物が三段ボックスから出て来て、それを見付けたツグミも微妙な表情。
本当はこんな形で活躍したいんじゃないんだよ的な、尻尾の振りもどこか鈍くて。慰めるように、頭を撫でる姫香も今回の探索には珍しく気が乗らない様子。
ところがそれを覆す、妖精ちゃんの大発見。それは作り付けの簡易デスクの正面に貼り付けてあって、ちょっと見はただの落書きにしか見えなかった。
それを妖精ちゃんは、自信満々に宝の地図だと宣言して。
「おおっ、それが本当だったらチームで2回目だよっ! そう言えばこの四角の並び、部屋の繋ぎに見えない事もないよねっ、姫香お姉ちゃん!」
「そうねぇ、前回も部屋の発見に苦労した奴だよね。でもある場所が分かったんなら、みんなで頑張って探し出そうっ!」
そんな感じで、現金な2人のヤル気メーターはみるみる急上昇を見せ。さっさと進もうと先を急いだ途端、思わぬ強敵に被害を被る破目に。
それは最初、本のタイプのイミテーターにしか見えなかった。てっきり体当たりしかして来ないんだろうと油断してたら、ページが開いてそこから火の玉が出現。
慌てて狙われた姫香の前に飛び出して、盾でその魔法を受ける護人。そいつへの反撃は、何とドローン形態のルルンバちゃんが一番速かった。
マジックハンドに装備していた魔銃を、宙に浮いている本に向かって一発。『器用度上昇』スキルも手伝って、その攻撃で粉微塵になって行くマジックブック。
その早撃ちに、おおっと感嘆の声が子供達から上がる。
そして倒した敵から、待望のスキル書が1枚ドロップ。魔石も碁石サイズで、雑魚よりはちょっとだけ大きかった。空中で大威張りのルルンバちゃんは、余裕の飛行でそれらの戦利品を拾い上げる。
そしてそれを紗良の元へと運んで、追加で偉いねぇと褒められるサイクル。普通に優秀なこのAI戦士だが、少なく見積もってもC級ランカー程度の戦力はありそう。
そんな仲間と一緒に、探索ペースは少しずつ早まって行き。気付けば既に4層で、最初の
時間もまだ1時間ちょっと、どうやらあのゴーストは、本当の意味でイレギュラーだったみたい。そう信じつつ、探索を続ける来栖家チームである。
そしてリビングの棚の中から、ある意味禁断のアイテムを発見する護人。
「おっと、こっちの棚はDVDがたくさんある……ってか、何気に18禁のソフトも混じってるな、さてどうしよう?
一応持って帰るかな、それなりに需要はある気が……」
「護人叔父さん、サイっテー……!! そう言うのは全部捨てるからっ、表紙見るのもダメだからっ!!」
「姫香ちゃん、落ち着いて……?」
真っ赤になって過剰反応する姫香に、紗良がとりなしの言葉を掛けて行く。興味津々の香多奈がDVDのパッケージを横から眺めるが、それは護人に阻止されて。
結局この棚のコーナーは、紗良が全部調べる事に。映画だけ抜き取るねと、10枚程度を確保した模様。他にも音楽CDを数枚と、ポータブルCDプレーヤーが出て来て。
まぁ、家で使うにしても売るにしても、新品っぽいこれらの価値は結構するかも。紗良はダンジョンでのドロップ品と割り切って、鞄の中へと詰めて行くけど。
香多奈が他の戸棚から、単三電池と単四電池の束を発見して。姫香が上の棚から、調味料の容器に入ったポーションを見つけ出した。
回収品も調子が出て来て、子供達も嬉しそう。
そして4つ目の部屋に、またまた出て来る本棚の類い。これはまた厄介な襲撃があるかなと、想像した一行の予想は大当たり。今度は4冊の本が、突然飛び出てページを開き始める。
そして放たれる魔法の数々、炎の玉が3つと雷の束が1つ。慌てて盾でガードする護人と、『圧縮』を展開して防御する姫香。
部屋の入り口なので、後衛陣は射程に入っていない。そして反撃に飛び出るアタッカー陣、ルルンバちゃんとレイジーが隙間から飛び出て敵を視界に捉えたと思ったら。
容赦の無い反撃で、宙に浮く本型モンスターは丸焦げに。
そして恐らく、雷を放った敵から短剣のドロップが。その雷を盾でブロックした護人は、尻餅をついて未だ動けない状態だけど。
さすがに雷属性の魔法攻撃は、盾で全てを防げなかったらしい。慌てて治療を始める紗良と、落ちた短剣を興味深げに眺める香多奈。
そして何か思いついたのか、疑問を口にする。
「そう言えばさ、ここは新造ダンジョンなのかなぁ? 誰も入った事ないなら、もう少しドロップは良い筈なのにねぇ?」
「そう言えばそうだね、でもスキル書が既に1枚ドロップしてるよ? どっちなのかな、護人叔父さんはどう思う?」
「ふうむっ、どうだろうな……こんな変わったダンジョンなら、探索した者が噂にしても良い気がするけどな。
そんな情報が出回ってないとすると、新造ダンジョンな気もするなぁ」
それにしてはドロップ率は悪いが、初っ端からイレギュラーのあったダンジョンなのだし。良く分からないと言うのが、護人の正直な感想である。
取り敢えずの依頼内容は、この変テコダンジョンの間引きである。それで周囲の安全を確保出来れば、任務完了で万々歳といった所。
つまりドロップは二の次だぞと、子供達を諫めて探索を続ける護人である。いつもの元気な返事には、宝の地図を回収した余裕があるのかも?
とにかくそんな感じで降り立つ第5層、ここも道中は雑魚が大半で数部屋はあっという間に踏破して。トラップBoxから鑑定の書をゲット、そしてマジックブックに焼かれそうに。
定番の仕掛けをこなして、初めての閉まっている扉を発見。
ここは推定中ボスの部屋に間違いなさそうだが、出て来る敵が問題だ。もしもあのゴーストみたいなのが出て来たら、次こそスムーズな対処は可能な筈。
そんな訳で今回は、シャベルの投擲攻撃は無しの方向で。遠隔は護人の四腕での射撃攻撃のみで、あとはダブルエースでの魔法押しがメインに決定して。
レイジーの『魔炎』だが、幸いにもこんな狭い室内で使っても平気みたいである。延焼の心配が無いのは、さすが安心のダンジョン構造といった所か。
そして扉を開けての中ボス戦、出迎えたのはある意味驚きのモンスターだった。意表を突いて出現したのは、何とパンプキン型のゴーストで。
ユラユラと宙に浮かんで、楽しそうにこちらを挑発している。
「わっ、季節外れのパンプキンヘッドだっ……お菓子あげたら、ひょっとして大人しくなってくれるかなっ!?」
「これってゴーストの区分でいいのかな、護人叔父さんっ? 試しに斬撃、飛ばして攻撃してみるねっ!」
姫香の戸惑いつつの斬撃飛ばしも、護人の四腕での『射撃』攻撃も、驚いた事に中ボスのパンプキンヘッドは全て避けてしまった。そして哄笑、背後の本棚を手に持つステッキで叩いて行く。
それを合図にマジックブックが数冊、浮き上がって反撃の炎&雷飛ばしを敢行し始める。いい加減にその攻撃に慣れた前衛陣だが、完全に防ぐには骨折り作業には違いなく。
我慢を交えて踏ん張っている間に、ミケとレイジーの魔法が放たれて行く。ワンパターンのマジックブックは、その範囲魔法に呆気無く倒されて行くけど。
どっこいカボチャ頭のパンプキンヘッドは、派手なマントをたなびかせてそれらも見事に回避してしまった。恐ろしい程の回避能力、ただし攻撃力はそんなに持ち合わせて無いようで。
棚からビー玉状のモノを取り出して、ただばら撒くだけの攻撃。
「……ってアレ、ひょっとして爆破石じゃない!? ちょっとちょっと、あんな幾つもばら撒かれたらっ!」
「全員退避っ、とにかく避けろっ!」
切羽詰まった護人の叫びに、姫香とハスキー軍団は素直に従ったのだけど。運動能力の低い後衛陣は、そうも行かずで護人が『硬化』込みのマント防御で保護に
ギリギリ間に合ったようで、紗良と香多奈の悲鳴は切迫感の無い驚きに満ちたモノ。それにホッとしながら、戦況の変化を素早く確認に回る護人。
現在はドローン形態のルルンバちゃんが、向こうにおイタをさせないように接近戦を挑んでいる。そんな近距離からの魔銃での攻撃も、向こうは躱しているのが恐ろしい。
レイジーが合図の唸り声を発し、素晴らしいコンビプレーで一気に離脱するルルンバちゃん。そこに再びのレイジーの『魔炎』と、ミケの《刹刃》がヒット……したかに思えたが。
何とそれすら、紙一重で避けてしまうチート能力の回避お化け。
ムキになって炎を断続的に吐き続けるレイジーだが、スピードが素早い訳でも無いのにそれらを全て避け続ける中ボス。ミケが『雷槌』攻撃に切り替えるも、それすら避ける化け物だ。
ただし、やっぱり攻撃能力は持たないこの回避特化の中ボス。今度は別の棚へと飛んで行き、その中身へとステッキを叩いての攻撃指示を出す。
その瞬間、棚に飾られていたお皿や壺が物凄い速度で飛んで来た。
これにはさすがのハスキー軍団も被弾したようで、先程の魔法攻撃より被害は甚大。護人と姫香のみが、防御を万全にして防ぐ事が出来た。
とは言え、意識が守りに入ってしまって勢いよく殴りには行けないジレンマに陥っており。皿をぶつけられて怒り心頭のコロ助が、『牙突』での反撃に打って出るも。
これもダメージは与えられず、何とも強敵の風格を醸し出し始めるカボチャ頭。
その流れを断ち切ったのが、『隠密』でずっと機会を伺っていたツグミだった。後方から襲い掛かり、あれほど回避を見せていたパンプキンヘッドを、見事地面に叩き落とす。
そして香多奈のポンプ式液剤銃が、何故か最後の止めとなって。あれほど強敵だった中ボスは、幻のように溶けて魔石へと変わって行ってしまった。
恐るべし浄化ポーション、敵の弱点を突くって大切だ。
――そして部屋には宝箱と下層への階段が、この探索はまだ続くらしい。
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