第149話 久々にヤバい敵とばったり遭遇してしまう件



 11層ともなると、ドロップする魔石に小粒より大き目なのも混じって来るようだ。確かにホブゴブやゴブの魔術師は、他の雑魚たちより飛び抜けて厄介だ。

 ハスキー軍団も多少の手傷を負ってるし、何より一撃で倒せないタフさを持ち合わせ始めていて。自然と進むのにも、慎重にならざるを得ず。


 1~5層はあんなに楽に通り抜けていたのに、結局この層を踏破するのに30分近く掛かる始末。それでも護人としたら、誰かが大怪我を負うより数段マシな案件で。

 休憩をしながら、次の層の想像を脳内で膨らませてみたり。言ってみたら、香多奈の口から出た言葉に対する答え合わせを、これからする感覚である。

 それを本人も感じているのか、いつもの元気少女にしては口数は少な目。


「さあっ、次がお待たせの12層だよっ……香多奈っ、準備はいいよねっ!?」

「う、うん……お姉ちゃん、さっきの約束は冗談だよね?」


 ここに来て怖気付く香多奈は、傍から見てると年相応でちょっと可愛いけど。我が儘でチームをここまで連れて来た、責任と言うかそんな雰囲気を少しは感じても良いかも知れない。

 そんな砕けた会話をしながら、遺跡のエリアを進む来栖家チームだけど。違和感は1分も進まない内に、全員が感じ取る事が出来てしまった。

 何と言うか、ここまで雑魚のお出迎えが皆無の状態。


 それどころか、気配も雑音すら感じない12層の遺跡内である。先行していたハスキー軍団も、チームから距離を置こうとしない警戒レベルを見せ。

 これは不味いんじゃないのと、チーム内でひそひそ話を始める姫香と香多奈。アンタやったねと、冷たい視線が姉から降り注ぐのを顔を逸らしてやり過ごし。


 ただまぁ、相手はそんな事では待ってくれない……遺跡の通路が拓ける場所に、ちょうど部屋のような場所が何か所か存在しており。

 何かを確信しながら進む一行は、そこに巨大なうずくまる影を発見する。それも1つでなく2つ、色合い的には赤と青でそれがゆっくりと立ち上がる。

 2体の鬼だ、それぞれ4メートルを超す巨体である。


「あれは……西洋ファンタジーでは定番の、オーガって奴かなぁ。俗に言う“人喰い鬼”で、本当に人を食べちゃう設定も良く見掛けるね。

 2体いるけど、多分あれってレア種だよね?」

「だとしたら、相当手強い筈だな……作戦はボス戦に準ずるぞ、俺とルルンバちゃんでとにかく足止めするから。無理せずに、アタッカー達で削って行ってくれ。

 とにかく全力で当たろう、みんな怪我だけは気を付けて!」

「「「了解っ!」」」


 子供達からの元気な返事、姫香は紗良に素早く近付いて、金と銀のシャベルを受け取りに掛かる。それと同時に、向こうもこちらの接近を見初めた様子。

 2体の鬼の、激しい咆哮が周囲の壁を震わせて行く。


 それは物理的な衝撃すらまとっていて、或いは戦い開始のゴング代わりだったのだろうか。後衛2人は明らかに腰が抜けてしゃがみ込むが、ハスキー軍団は逆に闘志に火が付いた様子。

 弾丸のように敵に突っ込んで行って、護人とルルンバちゃんが敵に対峙する時間を稼いでくれている。敵の2体は、小柄なハスキー軍団に素早く反応。

 いや、大型犬が小さく見える程な巨体だから、そう見えるだけなのだが。


 赤肌のオーガは、どうもスピードタイプのようだ。逆に青肌オーガは、体格が示す通りにパワー型の戦士の様子。大槌を持つ赤肌オーガに較べて、更に一回り大きくて巨大な棍棒を軽々と振り回している。

 これに直撃されると、さすがのルルンバちゃんも危ういかも? それを見越してか、護人が進んで青肌オーガの前へと進み出ている。


 それから巨体へと強化シャベルで一太刀、あっという間に青肌オーガのヘイトを取って斬り結び始める。ルルンバちゃんも同じく、敵の大槌攻撃をアームで上手くいなしながらの攻防。

 お互い足止めには苦労しているが、サポートのアタッカーがその補佐を頑張ってくれている。特に敵の巨体が災いして、どこからでも狙い放題と言う。

 そんな訳で、姫香の投擲攻撃が青鬼の首筋にヒット!


 再び咆哮を上げる青鬼、腕を振り回して痛みに暴れ回る。それを器用に避ける護人だが、その巨体の突進を止める手立ては持っていない。

 知らずに壁際に追いやられ、その壁もオーガの一撃に酷い有り様に。ダンジョンの構造物は破壊不可能なんじゃと、転がって逃げながら慌てまくる護人。


 そんな彼のサポートに、今度はレイジーが躍り出ての『魔炎』のブレス。かなり効果があったようで、顔を手で覆いながら仰け反って苦しむ青肌オーガ。

 押せ押せのムードだが、そこからの反撃はある意味エグかった。青肌オーガがその手に持つ棍棒で、地面を思い切り殴っての衝撃波の発生に。

 抗い切れない護人とレイジーは、後方まで吹っ飛ばされる破目に。


「もっ、護人叔父さんっ……大丈夫っ!?」

「ぐっ、俺は平気だ……時間を稼いでくれ、姫香。何とか立て直す、後衛に奴を近付けさせるなっ!」

「了解っ、行くよツグミっ!」


 その言葉と共に、今度は銀のシャベルを投擲する姫香。それも見事にヒットして、その勢いのままツグミと一緒に風を巻いて突撃を敢行する少女。荒ぶる巨大な青鬼の、まずは武器を持つ腕を攻撃する。

 強化された鍬の威力は凄いが、向こうの防御力とタフさも負けてはいない。レイジーも同じく吹っ飛ばされており、姫香のサポートは相棒のツグミのみ。


 敵の挙動は暴風を纏うかの如く、ちょっとした動きに巻き込まれてもバランスを崩して直撃を喰らいそうになる。それでも姫香は焦らず、その場の思い付きでその暴風を受け入れてみる。

 それが思わず、自身の『旋回』スキルと上手くかち合って。


 身体ごと『旋回』しながらの、『身体強化』込みのスピン攻撃が青鬼の利き腕に見事にヒット! 堪らずに武器の棍棒を手放す青肌オーガ、三度目の絶叫はしかし短かった。

 四腕を発動させた護人が、自身へのダメージ無視で相当な速度で突っ込んで来て。それを感じた姫香が、去り際に膝裏に鎌の一撃を見舞う。


 思わず体勢を崩した青鬼に、護人が勢い良く四腕を掲げて突っ込んで行く。その衝撃にも、相手の青肌オーガは全く怯んだ様子は見せないけれど。

 身体に突き刺さった2本のシャベルと、今しがた護人が差し込んだ武器の傷からは紫色の血が流れ出ている。それでもさすがのレア種、タフさ加減ではどの敵より抜きん出ている。

 青鬼はさほど弱ってる感じも無く、護人に反撃の張り手を敢行。


 それをガッシリ、盾でのガード……も虚しく吹き飛ばされる護人。想定外のパワーは、さすがにレア種と言う他ない。その隙に体勢を立て直そうとした青鬼を、今度はツグミが『影縛り』で翻弄する。

 自らの影に縛られて、束の間自由を奪われる青肌オーガ。


「この鬼野郎っ、いい加減やっつけられろ~~っ!!」

「姫香お姉ちゃん、頑張れ~~っ!!」


 そこに香多奈の渾身の『応援』と、姫香の度胸満点の『身体強化』込みの『旋回』斬撃が見舞われる。ガラ空きの筈の首筋は、しかし姫香のその斬撃にも耐え切って。

 ただし、逆方向からのレイジーの怒りの『魔炎』斬には、とうとう音を上げた模様。ようやくの事、淡い光と共に魔石へと変わって行ってくれた。


 一行は安堵する暇も無く、赤肌オーガと戦うルルンバちゃんの援護へ向かう。ルルンバちゃんの装甲は、半分近くボロボロでアームも取れ掛けている有り様。

 思わず息を呑む護人と姫香だったが、本人的にはまだまだ元気な様子が窺えて。体当たりからの離脱で、向こうも既に武器も落としてフラフラな状態に見える。

 どうやら援護のミケの一撃が、ダメージとして蓄積されているみたいだ。


「よく頑張った、ルルンバちゃん……加勢するぞ、もう下がっても大丈夫だ!」

「うわっ、酷い状態だよルルンバちゃん……休んでて、後は私達で始末するから!」


 護人と姫香にそう言われても、全く引く構えは見せないルルンバちゃん。彼はいわゆる、戦闘でのハイ状態に突入しており、目の前の敵しか見えない状況で。

 それでも何度も名前を呼ばれると、少しずつ正気を取り戻して来るルルンバちゃんである。最終的には、姫香の下段攻撃で赤鬼が派手に転倒した際に。

 チビッ子の香多奈に呼ばれて、後衛へと戻って行く今回の殊勲者だったり。


 そして小言を貰いながら、紗良から『回復』を受ける彼である。辛辣な末妹の愚痴だけど、心底心配されていたんだなぁとジーンと心が温まるAIロボだったり。

 そして戦闘もいよいよ佳境に突入、傷付いた赤肌オーガは炎のブレスでの反撃を試みるも。護人と姫香は、揃ってマントのガードでそれを無傷でやり過ごす事に成功。


 ここら辺は貫禄と言うか、特訓と経験値の為せる業ではある。逆にレイジーの『魔炎』で、赤鬼のダメージはとうとう佳境へと到達した様子。

 最後はミケの《刹刃》での目潰しから、護人の久々の《奥の手》の理力通しの切断技が決まって。どうもこの必殺技、護人の感情がたかぶらないと発動は難しい様子。

 とにかくこの一撃で勝利をもぎ取って、長かったレア種との戦闘は終了の運びに。




 実に30分近くも戦っていた遭遇戦だったが、何とか勝ててホッと一息の一同である。しかもドロップも凄かったうえ、最初にオーガが壊した壁から宝箱が顔を覗かせており。

 アンタの予知も大したもんだねと、逆に姉に褒められる香多奈だったり。


 レア種との遭遇には冷や冷やした来栖家チームだったが、大きな怪我人は幸い出さずに済んで何より。一番被害の大きかったルルンバちゃんだが、紗良の『回復』でほぼ元通りに。

 ただし、治療には相当な時間が必要だったし、これが人間やペット達の被害だと思ったらゾッとする。痛覚の類いの存在しないルルンバちゃん、実はそれが一番の強みなのかも。


 ちなみにドロップは、2体の大鬼から魔石(大)を2個ゲット。これだけで50万近くするが、他にも巨大な牙や首飾りや額当てなどの装備品が。

 更にスキル書が1枚と、オーブ珠より明らかに大きな珠が1つ転がっていて。妖精ちゃんが感心したように、飛び上がって何か言葉を発している。

 それを翻訳した香多奈によると、アレが噂のスキル宝珠らしい。


「うわっ、それってオーブ珠の倍の価値があるんでしょ……凄いなぁ、12層まで降りるとそんなモノまで回収出来ちゃうんだ?

 確か、誰でも覚えられるスキルが入ってるんだっけ?」

「うわっ、それって凄いねぇ! 誰が覚えるの、叔父さんっ!? 私が覚えてもいいけど、今回凄く頑張ったルルンバちゃんでもいいかなぁ?」


 アンタは少し、遠慮と言うモノを覚えなさいと姫香の鉄拳入りのツッコミに。治療とMP回復に忙しい紗良の代わりに、それらを回収して行く護人と子供たち。

 宝珠だけは、しっかり姫香が回収して末妹には決して触らせなかったけど。香多奈は少しむくれつつ、しかし次の瞬間には壊れた壁の奥の宝箱に夢中になっていた。


 それは綺麗な蒼色で、かなり大きくて装飾も立派だった。ワクワクしながら開封をせがむ少女、何しろ子供の腕力では蓋を開けるのも大変なのだ。

 そして中からは、結構な宝物が……まずは上級の鑑定の書が4枚に虹色の果実が3個、それから普通の木の実が4個に魔結晶(大)が何と7個も!

 1個50万円計算でも、これだけで350万円の価値である。


 喜び飛び上がる香多奈だが、中には更にオーブ珠まで入っていて。それからやたらと輝きを放つ宝飾品が幾つかと、強化の巻物が2枚ほど。

 最後に、この宝箱がやたらと大きかった理由が判明した。立派な蒼色の鎧兜一式が、椅子に腰掛けるように鎮座していたのだ。


 以前に秘密の宝部屋で入手した、ミスリル装備一式とどちらが強いかは不明だけど。この隠し宝箱の中身は、それと較べても遜色のないような気もする。

 それらを含めて、こんな辺鄙な場所のダンジョンで予想外の儲けを叩き出してしまった来栖家チーム。とは言え消耗も激しくて、手放しでは喜べない状態である。

 何しろ明日は、本番の大規模レイドが朝から待っているのだ。





 ――全く弾みとは恐ろしい、子供の我が儘を聞くのも程々にしないと。






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