第147話 日本古来の鬼の知識を深める件



 休憩を取りながら、ボスドロップの確認作業などを進める一行だけど。何と中ボスのオーガは、ドロップが魔石(中)×1個のみと言うお粗末さ。

 ただし、武器持ちホブゴブリンも魔石(小)をそれぞれ1個ずつ落とし、武器も少々入手出来たので。全くの大外れと言う訳では無かったが、それでも寂しいドロップ率ではあった。


 その上、隅っこに置かれていた宝箱も木製で、シケてるねぇと香多奈の呟き。中身を見ると鑑定の書が2枚に青い魔玉が3個、薬品がMP回復ポーション800mlにエーテルが500ml。

 普通の金貨が10枚程度に魔石(小)が6個、それから矢尻が骨製の矢束が40本入っていた。矢束の回収に嬉しそうな護人と、MP回復に早速薬品を使う紗良。

 こうして中ボスの部屋での、休憩時間は過ぎて行く。


「念の為にと転移の魔方陣持って来たけど、これだと使う必要も無いかもね、護人叔父さん。3時間程度だったら、歩いて帰った方が勿体無いから良いかもね?」

「まぁ、そうだな……予行演習も大事だけど、本番の明日に疲れを残すのも良くは無いしなぁ。難しいけど、まぁ姫香の言うラインで取り敢えずは決めておこうか。

 潜るタイムリミットは、そんな訳で3時間な?」


 は~いと元気に返事する子供たち、相変わらず従順だけどこの鬼の住処に潜る経緯は子供たちの我が儘と言う。力関係でどっちが強いのかなど、言わずもがなである。

 今回の戦闘でも、ハスキー軍団に怪我の類いは全く無し。隠れ特訓の成果が、充分に出ている結果と言えるだろう。それはともかく、休憩を終えて全員で6層へと向かう事に。


 そこもエリア的には遺跡型なのだろうが、雰囲気は上のそれとは全く違っていた。日本的な壁と瓦型の、日本家屋の外壁の様な通路が続いている。

 いや、どちらかと言えば江戸時代とかそんな感じの通りと言うか、時代劇のセットみたいな感じ。通路は戦うには充分な広さはあるが、空は無く天井が高い位置に存在している。

 その為なのか、やはりどこか撮影のセット感が溢れ出ている感じが。


 香多奈などは張り切って撮影し始めているけど、ハスキー軍団はやる事は同じと割り切っている感じ。さっさと偵察に出てしまったけど、出て来る敵の種類位は知っておきたい。

 またゴブリン種ならば、それほど心配する必要も無いだろうけど。何だかフィールドが変化して、出て来る敵も違って来る予感がヒシヒシ。


 そしてその結果は間もなく判明、ハスキー軍団を追って小柄なモンスターが一行の前に出現する。それは確かに、額に角のある鬼のような生物だった。

 腹が異様に脹れていて、ぱっと見“餓鬼”を連想させるけど。実際にそんな系統の鬼なのかも、全然強そうには見えない。現にハスキー軍団が、片っ端から噛み殺して行っている。

 絵面は酷いが、それも次々に魔石に変化して行って一応はセーフ?


「アレは多分だけど、日本の伝記にある“餓鬼”じゃないかなぁ? 飢えとかで亡くなった人の死霊的な鬼とか、元は罪人で死んだ後もずっと飢えと渇きに苦しむとか、色々と解釈はあるそうだけど。

 見た感じ、あんまり強そうな敵では無さそうですね、護人さん」

「そうだな、アレがこの層からのメインの敵なのかな? こっちも探索しつつ、層の変化に慣れて行こうか、みんな?」


 は~いと子供達から元気な返事、紗良の説明にはなるほどと頷いて聞いていて、勉強熱心ではある。紗良はいつも先生役をしているので、姫香などはつい熱心に耳を傾けてしまうのだろう。

 そして大江戸風の遺跡を、やや慎重に進み始める一行である。たまに先行したハスキー軍団が、敵を引き連れて戻って来る。

 分岐はたまにある程度で、複雑な造りでは無さそう。


 それは助かるが、雰囲気はバリバリ出ていて薄暗い路地に気味の悪い鬼の姿はかなり怖い。香多奈などはワーキャー言ってるが、何だか楽しんでいる感じでもある。

 お化け屋敷を家族で楽しむ感覚だろうか、スマホ撮影しながら細やかな解説で雰囲気を盛り上げていて。たまに映る敵影に、勝手に盛り上がっていたり。

 少女も場数を踏んで、撮影技術を向上させている模様。


 そんな6層も無事に通り過ぎ、7層へと到着。ハスキー軍団の動きも、少しずつ慎重になって来ている。彼女達も気配を読む能力には長けているので、厄介な敵の出現に備えているのか。

 それを感じて、護人も本格的にチームの指揮を執り始める。前衛を護人と姫香、それからレイジーで支えてまずは軽く戦闘をこなしてみるけど。


 やはり餓鬼の群れを相手にしても、それ程に手応えは無い感じ。ほぼ一撃で相手を葬れるし、向こうは武器さえ手にしていない有り様である。

 ただし、それに混じって黒いガス状のモノが、途中から出現し始めて。コイツをうっかり吸い込んだ姫香が、顔を蒼褪めさせて片膝をつく非常事態に。

 レイジーがブレスで焼き払うが、直接攻撃は効かない敵のよう。


「姫香、大丈夫かっ……紗良、治療を頼むっ!」

「はっ、はい……姫香ちゃん、どこが痛いの……っ!?」


 どうやら瘴気の類いを、姫香は思い切り吸い込んでしまったらしい。妖精ちゃんが、エリクサーも飲んだ方が良いぞとアドバイスをしてくれている。

 香多奈も姉の弱りように、大慌てで鞄から薬品を取り出して治療に向かう。その甲斐あってか、数分後には姫香の顔色は元通りに回復した模様。


 経緯を見守っていた家族も、ようやく安堵の表情を浮かべて体の力を抜いて行く。逆にスッキリした表情の姫香は、何事も無かったように既に元気に動き回る始末。

 それからあの黒い霧に触れた途端、風邪を引いたかのような倦怠感と気分の悪さに陥ったそうで。対抗策を考えなくちゃと、紗良と相談し始めている。

 結果、アレも魔法か浄化ポーションが効くのではないかとの結論に至って。


 早速、自分のと護人の武器を受け取って、お薬を塗布して行く行動力。こんな経験をしても探索意欲が萎えないのって、本当に素晴らしいと護人は感心するけど。

 少しはお淑やかさとか、そう言うのを身につけても良いんじゃないかなとか余計な心配をしてみたり。とにかく7層は、それ以外の波乱は特に無かった様子。


 ただし突き当りの小部屋に、木桶の様な物が置かれていて。その中から大豆が1袋と鑑定の書が3枚、それから綺麗なかんざしと大き目の巾着きんちゃく袋が出て来た。

 香多奈が無邪気に、この豆をぶつけたら鬼もいなくなるかなぁとか言ってるけど。そんな都合良く行かないでしょと、姉の姫香は懐疑的。

 それより、巾着袋は魔法の品だよと妖精ちゃん。


「わおっ、ウチのチームでこれで何個目になるかなっ! 凄いね、100万円の価値だよっ……この柄とか綺麗だから、売るのはちょっと勿体無いねぇ」

「取り敢えず、皆に行き渡るまでは売らずにチームの所持品で回して行こうか。前衛もいざと言う時に、持っておいた方が便利には違いないしな。

 そんな訳で、それは一応姫香の専用にしちゃっていいからな」


 そんな護人の台詞に、嬉しそうにはいっと応える姫香であった。階段前で小休憩して、それから一行は迷う事無く第8層へと降りて行く。

 そこも同じく、伝記に載っている類いの鬼たちがたくさん。更には昔話に出て来る、赤鬼やら青鬼まで出て来る始末。コイツ等は体格も良く、金棒を持っていてパワー系の戦士だった。


 餓鬼の数も増えて来て、途端に前衛のお仕事は大忙しに。それでも新調した甲殻の装備品は、割と頼もしくて乱戦でも安定感は以前より増している気が。

 護人も同じく、試しに乱戦の敵に四腕での殴りつけを実行してみた所。薔薇のマントが凶悪な棘を生やしての、殴り威力の倍増に驚いてしまったり。

 考えてみたら、成長系の装備品って割とチートかも?


 それを隣で見ていた姫香も、特訓の成果を見せてやると張り切り出していた。そして新スキルの『旋回』を、少しずつ織り交ぜながら敵と斬り結び始め。

 今や鎌状の武器のくわが、クルリと旋回するのはまだ可愛い方で。時には姫香自身が旋回しながら、武器の先端の速度と威力はとんでもない次元に突入していたり。


 それはまるで移動するミキサーの様で、しかもそれに合わせてツグミが抜群のフォローを行う始末。敵を誘導したり足止めしたりと、抜群のカップリングである。

 その点だけは、護人&レイジーのペアより能力が上かも知れない。


 そして気が付いたら、鬼の群れを殲滅しながら時代劇風のエリアを端まで駆け抜けていて。9層への階段を発見、ここまで2時間とちょっとである。

 ただし一行はすぐに降りて行かずに、途中の分岐の小路へと引き返す事に。ルルンバちゃんが何かを発見したらしく、香多奈がそれを家族に報告したのだ。


 発見したルルンバちゃんは得意満面、先頭に立って一行を先導する。そして突き当りの小部屋には、スライム数匹と朱色の大きな宝箱が。

 香多奈が喜んで開封すると思いきや、紗良と小さなスコップを手にスライム討伐に向かってしまった。そんな訳で、姫香が人が入れそうな大箱の蓋を開け放つ。

 そしてビックリ、中から大き目のたらいが出現。


「うわっ、木のたらいが入ってた……昔のお洗濯用かな、護人叔父さん?」

「昔はこれで、赤ん坊とかを湯浴みとかさせてたんじゃなかったかな? 良く知らないけど、確かに今の時代じゃあ使い道は微妙かもなぁ」


 造りは立派な大たらいだが、持って帰っても使い道は微妙かも。ただし魔法の鞄にはスルッと入ったので、一応は持って帰るねと姫香の言葉。

 他には漆塗りの立派なお椀とお箸が半ダースずつと、これも立派な漆塗りのお重箱が3つ。それから綺麗な打ち出の小槌に、上等そうな矢弾が20本ほど。


 矢弾を護人に手渡しながら、何となく小槌を弄り始める姫香だが。そこにスライム討伐を終えた香多奈が合流、妖精ちゃんの通訳を華麗にこなした所。

 小槌のみが魔法の品らしく、しかも結構な代物らしい。試しに姫香が悪戯して、妹の香多奈の頭にポンと軽く打ち付けてみると。

 何と衝撃の事実が発覚、香多奈の額から角が生えて来た!


「わわっ……なんかすごい力が湧いて来たよっ、姫香お姉ちゃん! 見てみてっ、ジャンプ力もこんなに上がってる!」

「う、うん……どうでもいいけど、アンタ額から角が生えてるよ?」


 今度は自分の頭を小槌で小突いてみる姫香だが、どうやら再使用時間の設定でもあるようで。角も生えなければ、ステータスアップの恩恵も起きないようで、そこは残念な結果に。

 階段へと移動しながら、香多奈は尚も上機嫌なまま。角が生えたのは気にしていないようだ、ぴょんぴょん飛び跳ねながらコロ助とじゃれ合っている。



 そして9層へと到達、ここまでの道のりは約2時間半といった所。エリアに格段の変化は無く、相変わらず不気味な雰囲気に餓鬼や瘴気の存在がマッチしている。

 それをレイジーの『魔炎』や前衛陣の頑張りで、いつものペースで攻略して行く来栖家チーム。犬達の着込んでいる新装備(紗良お手製の犬用ベスト)も、調子は良さそうで乱戦でも犬達に目立った怪我は発生していない。


 防御に関しては、姫香の新マントと『圧縮』スキルの特訓も良い感じに作用していた。割と使いこなせているようで、体格が上の青鬼との対戦も危なげない。

 そんな数匹いた青鬼を、何とか片付けて遺跡の通りの奥に目をやると。妙なつづみの音と共に、赤鬼の群れが出現した。

 それを率いるのは、鬼女と羅刹が1体ずつ。


「わわっ、爪の長い包丁を持った女の鬼と、刀を持った男の鬼が宙に浮いてるよっ! あれってボスとかじゃ無いのかなっ!?」

「部下を率いて強そうだけど、ボスとは違うかもな……ただ他の奴らよりは強そうだ、姫香は鬼女の相手を頼む」

「了解っ……行くよ、ツグミっ!」


 パートナーと共に、勇ましく赤鬼の群れに突っ込んで行く姫香。赤鬼は奥の広場に広く拡がっていて、こちらをバッチリ待ち構えている。

 前の層から出現して来た赤鬼と青鬼だが、青鬼はパワー系で赤鬼はスピード系の敵だろうか。それぞれ棍棒や三叉戟と言う武器を装備していて、攻撃力は侮れない。

 ただまぁ、防具は虎縞のパンツのみだけど。


 そこは定番と言うか、お陰で倒す手間はそれ程では無い。ハスキー軍団もスピードで勝っていて、順調に敵の数を減らして行っている。

 そして護人と姫香が、とうとう敵のボス級と対面を果たして。その後ろでは、ルルンバちゃんが通路を塞ぐように前進して来ている。


 それを突破しようとした赤鬼は、ルルンバちゃんのアームで派手に吹っ飛ばされている。その後ろにはコロ助が控えていて、防衛網は万全な様子。

 後顧こうこの憂いを断って貰って、護人も姫香も勢い付いて目の前の敵と斬り結び始め。鬼女は素早いが、リーチは完全に姫香が勝っていて押せ押せムードである。

 癇癪かんしゃくを起した包丁投げも、姫香は『圧縮』で上手にブロック!


 その後の鬼爪の攻撃も、上手くいなして結局は完封勝ち。途中の絶叫に少しビビったけど、度胸一発決め込んで押し切れたのは大きかった。

 一方の護人も、丁寧に羅刹の大剣を盾でブロックして行きつつも。四腕を発動しての、徐々に本気モードへと移行して行って。


 明らかに武器の取り扱いに慣れている羅刹だが、腕の数の差は如何ともし難いようで。頭上から振り掛かる《奥の手》と薔薇のマントの攻撃には、どうやっても抗し切れない模様。

 結局は、その手数で護人の圧勝となって。何だかんだと盾役を担っている護人だが、実は攻撃力もチームではトップレベルを誇っている。

 ちなみに防御力に関しては、スキルも踏まえると随一である。


 ハスキー軍団が残りの赤鬼を全て始末して、広場はようやく沈静化。すかさずルルンバちゃんと香多奈が、落ちている魔石を回収し始めている。

 さすがに鬼女と羅刹は、少し大きめの魔石を落とした模様。それから一緒に、般若のお面と刀身の黒い大剣をドロップしてくれた。


 大喜びでそれを回収する香多奈だが、この層はそれだけでは無かった様子。この広場は塀の側にお堀が造られていて、割と広くそれが左右に続いているのだが。

 中央の広場には柳が植えられていて、その1か所に桃が見事な花を咲かせていて。それを発見した妖精ちゃんが、大興奮してナニやら枝に取り付いて妙な行動に。

 良く分からないが、ここからも回収品が頂けるらしい。





 ――桃の木は昔から破邪の効果があるそうな、そんなパターンかも?






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