第124話 無事にB級ダンジョンを踏破し終わった件
巨大な首長竜のドロップ品は、魔石(大)に大当たりのオーブ珠、それから立派な竜骨が素材っぽい大剣が一振りだった。妖精ちゃんが興味を示しているので、これは魔法の品に間違い無さげ。
それからお楽しみの宝箱だが、何と銀色でこれも当たりな模様。喜ぶ香多奈とみっちゃん、今回は叱られないように踊り始めたりはしていないけど。
紗良が皆の怪我の確認をして回っているが、幸いにも今回は誰も傷つかなかった様子。計画に時間を費やしたのと、それがズバリ嵌まったのが原因だろうか。
とにかく良かったが、しかしあのレイジーの突然の確変には驚いた。いや、彼女たちも深夜にこっそり訓練をしているらしいのを護人は勘付いていたけど。
何しろ、ツグミの差し出す魔石の量が、最近は半端じゃないと言う。
確実に、野良を倒して得ているレベルの量では無い……ハスキー軍団で申し合わせて、恐らくは敷地内ダンジョンに潜っているのだろう。
献身的で働き者、しかもその特訓で必殺技を編み出しているその才能と来たら。さすがにウチのエースだと、姫香などは素直に喜んでいるけど。
飼い主的には少し微妙な感情、いやまぁ戦力アップは喜ばしいのだが。
とにかく宝箱の中身の確認、中からは魔結晶(中)が7個にスキル書が1枚、竜骨の大盾に竜骨のガントレット。それから素材らしい竜骨が数本と、恐竜の牙も同じく数本出て来た。
骨類はさすがに恐竜の物だけあって、どれも太くて堅そうだ。みっちゃんによると、これも良い素材として企業が買い取ってくれるのだそう。
しかも割と高額で売れるそうで、さすが難易度の高いB級ダンジョンである。後は化石みたいな木の実が4個と、エーテル1500mlが大きな卵の殻の中に入っていた。
凄い仕掛けだが、容器に移し替える手間に紗良はちょっと愚痴モード。香多奈は逆にビックリしていて、こんな大きな卵があるんだと、持って帰って良いかと護人に伺う素振り。
子供の興味って、本当にどこにあるのか分からない。
「それじゃあ、休憩を挟んで地上に戻るから準備をするようにな。香多奈、まだ歩けるかい?」
「大丈夫だよっ、たった5層までしか降りて無いじゃん!」
5層と言っても割と広域なこのダンジョン、移動距離は敷地内の遺跡や洞窟タイプより遥かに長い。しかも今回は、ルルンバちゃんはドローン形態で、帰りに座席に座るのは不可なので。
出口まで、頑張って歩いて貰うしか手は無い。帰り道も気を抜かないように通達して、休憩を終えてから帰路につく一行。
帰りの道は特にイベントも無く、難関ダンジョンを無事にクリア出来た子供たちは外に出て嬉しそう。今回は魔法の品は少なかったが、換金アイテムは結構稼げた手応えを感じつつ。
午前の割と早い時間の突入だったけど、今は既にお昼時間を過ぎている。お腹空いたと香多奈の正直な催促に、みっちゃんの案内で車に乗りこみ町中を移動。
そして協会の近くの食堂で、賑やかにランチタイム。
みっちゃんの話では、因島の探索者支援協会はそんなに大きく無いらしい。スタッフも3人程度で、規模としては日馬桜町と変わりない感じ。
ただし物販はそれなりで、お土産コーナーは割と充実しているとの事。食事をしながらの歓談で、そこら辺の情報を確認して。
午後の観光の前に、協会に寄って雑用を片付ける事に決定。因島の協会は長閑なお昼ムードで、それでも気さくに一行を歓待してくれた。
と言うか、漁師のおっちゃん達の伝手で来栖家チームの話は伝わっていた様子。間引きお疲れ様ですと、スムーズに買取ブースへと招かれて。
素早くドロップ品の提示から、買い取りに会話は流れて行く。
「いや、済みませんなぁ……ウチは田舎なもんで、職員も少なくて物販なんかも全く揃ってなくって。探索者も漁師の掛け持ちの中年オヤジしかいない状況だし、ダンジョン管理も大変なんですわ。
その代わり、査定には色をつけさせて貰いますんで」
「それはどうも、まぁウチの地元も同じく人手不足で大変ですよ。家族旅行のついでに、子供たちが色んなダンジョンに潜って回りたいって言うモノで。
そのついでなんで、気にしないで下さい」
とは言いつつ、余計にお金を貰えるのは有り難い。何しろ今回ドロップしたオーブ珠やスキル書は、全部みっちゃんの地元に置いて帰ろうと家族で話し合って決定していたので。
他の魔法の装備品は、割と要相談ではあるモノの。みっちゃんが欲しがれば、これも融通する予定ではある。護人としても、余り他の地域のダンジョンを荒らして、ガメつく儲けたくないのも事実。
姫香と紗良の友達も同行しているし、今後の潤滑な友達付き合いの為にも投資は必要だ。別にモノで釣るって訳では無いが、探索で必要なアイテムの遣り取りは命にも繋がるし。
変にケチるのは、ハッキリ言って得策ではない。これには末妹の香多奈も承知しているので、後は向こうが素直に受け取ってくれるかどうかである。
そんな訳で、協会で換金した品と鑑定済み魔法アイテムのリストは以下の通り。
換金アイテム:魔石(大)×1個、魔石(中)×2個、魔石(小)×4個
魔石(微小)×89個、魔結晶(中)×11個
:ポーション600ml、エーテル1000ml
:MP回復ポーション400ml、翼竜の被膜×4、恐竜の皮×4
:半魚人の肉、飛竜の嘴×1、竜骨×4、恐竜の牙×8
【モアイ像】設置効果:監視効果・周囲10m
【古代の軽鎧】装備効果:水耐性&防御ステup・中
【竜骨のガントレット】装備効果:水耐性&腐食耐性up・中
【竜骨の魔剣】装備効果:振撃効果・大
【竜骨の大盾】装備効果:特になし
【古代のレグの実】防御力&理力&パワー・30分up
換金は取得した魔石と魔結晶、それから薬品類も全部する事に決定。地域貢献の意味も込めて、ついでに素材の骨やお肉の類いも売り払ってしまう事に。
ここの協会には、残念ながら女性の事務員はいない様子。さっきの事務員さんも、よく日に焼けているし島の人なのだろう。
豪快さと愛想の良さを兼ね備えた、護人より年配の男性事務員である。
彼はお肉を始めとする結構な量の販売品に、驚いた様な顔をしたものの。10分余りで戻って来て、換金結果を護人へと告げる。その額何と235万円だそうで、その査定額に驚く一同。
どうやら魔結晶×11個が大きかったようで、これだけで110万円以上あるそうだ。他にも魔石(大)が30万に竜骨が1本10万円と、高額商品も多く存在したようで。
香多奈ばかりか、ゲスト陣も驚きの声を発している。
「うわぁ、ほんの3時間程度の探索でこのお給料……みんなで分けても、結構な分け前ですよ? 姫ちゃんのチーム、いつもこんなに儲けてたんっスね」
「う~ん、ウチのチームは魔石とかの大きいのは売らずに取っておくからねぇ。でもまぁ、スキル書とかオーブ珠の儲けも考えたら、結構行くかもねぇ?
ウチは農家だから、探索で生計を立てようとは思わないけど」
姫香のさっぱりとした言葉に、思わずポカンとしてしまう陽菜とみっちゃんだが。とにかく彼女の、地元に貢献する心意気は理解してくれている模様で。
地元のおっちゃん達に、オーブ珠やスキル書を寄付する案件には概ね賛成して貰えて。それから彼女たちの取り分だが、虹色の果実やら鑑定済みの魔法のアイテムやらを勧められ。
完全に戸惑って、辞退するべきかと2人で話し合っていたようだけど。強くなるのが恩返しだよと、元リーダーの姫香に強く言われたら断る事も出来ず。
結局は虹色の果実をそれぞれ1個と、みっちゃんは『古代の軽鎧』を融通して貰って。陽菜は迷った末に、『竜骨の魔剣』を貰う事に決めた様子。
どうやら彼女は、生粋の魔剣フェチらしい。
それからお金だが、人間の数の6人で割る事で滞りなく決定した。香多奈も人数に含める事に、護人は申し訳ない思いを2人に告げたのだけれど。
むしろハスキー軍団やミケやルルンバちゃんを、人数に含まない方が不平等である。もっともハスキー軍団は、旅行中に変わった食事にありつける事の方が嬉しいようだけど。
とにかく難関だと思われた配分は、何とか滞りなく終了した。今夜の宿は既に昨日と同じ場所に決まっているので、後は適当に島を散策して戻るだけ。
探索の疲労も特に見せない子供たち、護人もHPを纏ってからこちら、疲労に対しては耐性みたいなモノが出来てしまった。そんな訳で、子供達だけ普段着に着替えて観光に出向く事に。
ちなみに、動画依頼は事務の人が不慣れで時間が掛かるとの事で。それなら旅行から戻って、地元で能見さんに頼む事になった次第。
因島は『因島水軍城』とか『本因坊秀策囲碁記念館』などが、観光地としてまだ稼働しているらしいのだが。子供たちはお城も囲碁も、特に興味は向かないようで。
仕方無く、海沿いをキャンピングカーでドライブする事に。
「あっ、護人さん分かってるっスねぇ……この因島は『ポルノグラフィティ』のメンバーの、生まれ故郷でもあるんっスよ!
自分も母ちゃんのCDで、子供の頃からポルノの曲聴いてます!」
「あぁ、彼らの曲はヒット曲も多いし、テンポの良い曲が多いよねぇ。ウチの姫香も香多奈も、子供の時から聴いてるから知ってる曲はいっぱいある筈だよ」
みっちゃんが護人の選曲したBGMに、すかさず反応して因島出身のバンドの話で盛り上がる。釣られてお調子者の香多奈も、歌うから曲を掛けてよと叔父に催促。
そこからは、良く分からない車内大合唱で盛り上がりを見せ。姫香やみっちゃんどころか、紗良や陽菜まで陽気に合唱に参加する始末。
ハスキー軍団は驚きながらも、自分達も参加すべきか迷う仕草。ミケは完全に知らん顔、助手席に避難してシートの上で丸くなっている。
そんな風変わりな光景は、宿に戻るまで続いたのだった――
宿では連日の宴会ムード、夕食のメニューは昨日より豪華な気も。それは良いのだが、護人の心配していたオーブ珠やスキル書の寄付は、この歓待のお礼と言う事で簡単に受け取って貰えて。
内心ホッと一安心で、注がれた酒を飲み干す護人である。みっちゃんによると、島の者にあまり遠慮と言う悪習は無いらしいそうで。
例えば漁に出て、高級な魚が釣れたらそれは売って客人には価値の低い魚を出すとか。そう言う区別をしないのが、島の漁師の矜持らしい。
ダンジョンのドロップ品も同じで、地元で取れたモノを地元で消費してくれとの気遣いは良く分かるそう。そんな訳で、宴会に混じってスキルの相性チェックが各所で行われ。
破廉恥な程の盛り上がり、オヤジ達の絶叫があちこちで響き渡る。
結果、オーブ珠1個とスキル書2枚の所有者は、全て無事に漁師のおっちゃん連中の所有となって。さすがに酔っ払い相手に、妖精ちゃんも鑑定をしようとはしなかったけれど。
物凄く感謝され、その度に護人のグラスに注がれるビール。断る訳にも行かず、自然と彼の酒の量も夜が更けるに従って増えて行き。
ついでに贈与された『恐竜の角の槍』も、好評なようで取り合いが巻き起こっていたり。これは魔法の品でこそ無いが、品質は一級品でバランスも良い武器である。
そんな波乱含みの宴会も、何とか終焉に漕ぎつけて。って言うより、眠くなった子供たちから順に抜けて行く形で床に入って行って。
最終的に、残った護人も何とか脱出に成功した次第。
そして次の朝も、昨日と同じく二日酔いからのポーションにお世話になるパターン。子供たちは朝から元気なもので、お昼までは海辺の散策を楽しもうと盛り上がっている。
陽菜とみっちゃんとは、残念ながら今日の午後でお別れだ。そして家族旅行もお終い、明日からはいつもの日常が待ち構えている。
帰りの道中も、ひょっとしたら野良モンスターに襲われるかも知れないけど。何にしろ、2回の探索行を含めて今回の旅行を無事に終えられて良かった。
海岸で波と戯れる子供たちをぼんやり眺めつつ、年に最低1度は家族サービスはするべきかなと。こんな時代になっても、やっぱり仕事の合間に適度な息抜きは必要には違いなく。
のんびりとした雰囲気を、心から楽しむ護人である。
――秋の海岸線は、それでもある種の行楽の名残を感じさせてくれていた。
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