第123話 迫力満点のジェラシックパークを満喫する件



 難敵だったプテラノドンのドロップは、魔石(中)に飛竜のくちばしだった。ついでに先ほどの戦闘で、翼竜の被膜やら恐竜の皮やらも数枚ずつ入手。

 みっちゃんの話だと、これらは結構なお金になりそう。


 これらは企業が高く買い取ってくれるそうで、換金率も良いとの話だ。探索者の防具にも利用されるようで、地区を問わずに人気なのだとか。

 そしてモアイ像の上にあった巣からは、鑑定の書が2枚に魔結晶(中)が4個、それから虹色の果実が2個にくすんださび色の魔玉が4個出て来た。


 虹色の果実は大当たりだし、魔結晶もこのサイズだと1個で10万以上は軽くする。その報告に、物凄く嬉しそうな香多奈とみっちゃんである。

 香多奈は割と儲けにうるさい印象はあるが、みっちゃんもこんな自由なチーム探索は初めてらしく。いつもは漁師のおっちゃんに付随しての探索の弊害か、タガが外れている感じ。

 少女と共に、変な踊りを舞い始める始末。


「ちょっと、みっちゃんまで変なノリになるの止めてよね……それでなくても、リーダー役やってる護人叔父さんの負担は大きいんだからっ!

 香多奈もいい加減にしときなさいよ、今後探索に連れてって貰えないよ?」

「わ、分かったよぅ……ゴメンなさい、叔父さんっ」

「わっ、私もスミマセンでしったっ! いつもはむさ苦しいおっちゃん達とばかり潜っていて、こんな楽しいチーム探索なんて研修以来で舞い上がってました!

 以降は気を引き締めて、決してリーダーに迷惑は掛けませんっス!」


 本音がダダ洩れのみっちゃんは、基本素直な性格なのだろう。宴会で親しくなった漁師のおっちゃん達を、護人は多少気の毒に思いつつも。

 ウチはハスキー軍団が優秀だから、滅多に奇襲など受けないけれども。それでも完全に気を抜くのは自身の命に関わるからねと、優しくお説教に留めておいて。


 それからチームに対する気配りに、成長した感のある姫香を護人は頼もしく思ってみたり。少女は自分より余程リーダー役に向いているのかも、何より人見知りしない明るい性格がとても良い。

 ただし、田舎の人特有の人を簡単に信じてしまう所がちょっと怖いけれど。こんな時代になっても、いや生き難い今だからこその、人間の悪意は何処にでも存在する。

 保護者としては、最低限そんな害悪からは守ってあげないと。



 などと考えてたら、紗良の恒例の怪我チェックは終了していた。今回はルルンバちゃんも空中戦で破損したようで、その修復にちょっと時間が掛かった模様。

 それでも機械の破損を、スキルで治せるのは凄い事ではある。もっともこの事実は、チーム部外者には徹底して秘密にしてあるけれど。


 もしこんな便利な能力が漏れたりしたら、些細な怪我や病気や物の修理で、来栖邸の外に行列が出来てしまう。優しい性格の紗良の事だから、面と向かって断るのも無理だろうし。

 そんな判断での苦肉の策だが、今の所は幸いにも秘密は保たれている。香多奈などは、これで商売すれば儲かるよと呑気な物言いだったりするけど。

 スキルだって有限だし、回復出来ない場合だってきっと出て来る。


 今後はどうなるかは不明だが、探索活動を続けるならやっぱり秘密にしておくべきか。とにかく来栖家としては、農業で稼ぎながら探索も程々に頑張る構えを崩したくない。

 最近は青空市と言うスパイス的なイベントも定期的に開催されるし、地域貢献も出来ているし。子供たちの探索欲求を適当に満たしながら、そちらにかたより過ぎないように操作をして行くのが良いのだろう。

 ただまぁ、護人の思い通りには行かない気配も大いにあるけど。


 ここの探索くらいは、無事に切り抜けたいなと護人は休憩を終えての探索再開の合図を出して。4層も海側のルートを経て階段を無事に探し出す事に成功。

 海側の海岸エリアでは、やっぱりサハギンの集団がお出迎えとなって一波乱あったけど。罠含みの乱戦とは違って、しっかり戦線を構築しての安定した戦いをする事が出来た。


 そしてドロップした、“半魚人の肉”で一波乱……果たしてこれは食べても大丈夫なのかと、みっちゃんに問い掛けるも。美味しくて滋養もあるっスよと、平然と答えが返って来る始末。

 話によるとこのダンジョンは、“恐竜の肉”も稀にドロップするらしく。そちらは少し筋が硬いモノの、栄養満点で調理次第では癖になるそうな。

 どちらのお肉も、協会に高値で売れるとの事である。


「それは……話としては面白いけど、知らずに半魚人の肉とか食べちゃったら混乱するかもなぁ」

「確かにそうですねぇ……確か伝説では、人魚の肉を食べたら不老不死を得られるんでしたっけ?」


 そんな効果は無いけど美味しいよと、地元名産の半魚人の肉を推すみっちゃんである。香多奈は呑気に、恐竜のお肉もゲットしたいねと前向きな姿勢だけど。

 護人と紗良は、どちらかと言えばゲテモノを勧められた感じのリアクション。姫香は売っちゃえばいいじゃんと、余り頓着していない様子。

 犬達は……恐らく、差し出せば美味しく頂きそうな雰囲気か。


 取り敢えず魔法の鞄にそれを収納して、その件は一旦封印する事に。そしてようやく辿り着いた階段前に、今回は門番染みた敵影は無し。

 ラプトルの群れと再び遭遇するも、特に時間を取られず撃破に至って。MP回復ついでの休憩を取りながら、ここまで掛かった時間を確かめてみると。


 確実に2時間以上は経過していて、まぁ難易度に比例しているのは確実である。さすがの元気娘たちも疲労の色は隠せず、姫香も5層の中ボスをもうでてから帰るので文句は無いそうだ。

 それは香多奈も同様で、それはまずまずのドロップ率に所以ゆえんしているのだろうけれど。確かに金策に潜るダンジョンとしては、ここは優秀なのかも知れない。

 魔石や革やお肉類、ドロップ率さえ良ければの話だが。


 とにかく一行は5層へと突入し、定番となったいきなりの乱戦をこなし終え。ラプトルの群れも8匹となれば、倒すのにもなかなかの労力を必要とする事態に。

 怪我人もぼちぼち出るし、せっかく回復したMPも再び消費する始末。それでも大怪我をする者が出るよりは、遥かにマシと言うしか無く。


 毎度のルートで、敵を駆逐しながら移動を果たすと。問題の地点にモアイ像の影は無し、ホッとしながらその場を通り過ぎる来栖家チームであった。

 ただし海側の軍隊は、結構な密度で出迎えられて。アロマカリスや三葉虫の雑魚モンスターも数は増えていたが、サハギン群を率いる武将のような存在が1匹。

 そいつは明らかに豪奢な装備で、飛び抜けて強そうな風貌をしていた。


 その武将率いるサハギン群は、パっと見15匹程度はいただろうか。これは手強いと踏んだ護人は、隊列を保っての殲滅戦を選択する。小型ショベル形態のルルンバちゃんが懐かしいが、いないのはもう仕方が無い。

 とにかく護人を中心に前衛陣が壁を作り、固まった個所にはレイジーやミケに魔法を撃ち込んで貰い。廻り込もうと別行動を選ぶ奴は、ハスキー軍団に処理して貰う。


 戦力的には倍の軍勢だが、この戦法でなら何とでもなる。みっちゃんも後衛の護衛にへばり付きつつ、弓矢での援護に余念が無い。

 陽菜も最近の訓練で身につけつつある二刀流で、敵に攻め込まれないように華麗に立ち回っている。反撃は最小で、敵の動きを少しずつ阻害するように傷を加えて。

 チーム的には、止めは他の者に任せれば良いのだ。


 そして今回、その役目を担っていたのはコロ助だった。普段はこんな場面では、コロ助は後衛の護衛役で余り前には出張って来ないのだけど。

 今回はその役をみっちゃんがしてくれて、従ってフリーになったコロ助は大いに張り切っていた。体勢を崩したサハギンの足に噛み付き地面に引き倒したり、或いは隙を見て『牙突』で止めを刺したり。


 割とやりたい放題で、敵の数を積極的に減らしている。その反対側では、姫香とツグミの主従コンビが、派手な大立ち回りを繰り広げていた。

 とにかく姫香の一撃は決定力は抜群だが、武術の心得のある敵軍も簡単には貰ってくれない。そこでツグミが足元にちょっかいを掛けて、敵の隙を作り出す役目を担っていて。

 さすが長年のパートナー、戦闘でも息はピッタリ。


 そして中央の護人だが、四腕モードでサハギン武将と雑魚2匹を相手に、対等以上の戦いをこなしていて。同時に集中力も高まっていて、《奥の手》の必殺モードを発動させる!

 途端に切れ味を増す、黒い腕の手刀での一撃に。左右にいた雑魚サハギンは、あっという間に血祭りに上げられ。この辺は旅行前に、真面目に理力の特訓をした成果かも知れない。


 面前の敵の奇妙なパワーアップに、慌てふためくサハギン武将だけれども。時すでに遅しな感じで、標的は残った己へと向けられており。

 異質な腕が天高く振り上げられたと思った瞬間には、その一撃は綺麗に武将サハギンの首筋へ吸い込まれ。悲鳴を上げる暇もなく、首と胴体は泣き別れの憂き目に。

 それが戦闘の流れを、完全に決定づけた模様。



 残ったのは掃討戦で、完全に腰の引けたサハギンの群れは、ハスキー軍団に追い立てられる破目に。護衛役のみっちゃんも、リーダーに許可を得てこれに加わって束の間の破目外しなど。

 武将サハギンは魔石(中)と、割と豪華な軽鎧をドロップしていた。それを嬉しそうに眺める香多奈、妖精ちゃんが何か喋っているので魔法の品の可能性が高い。


 中ボス戦前に、良い拾い物をしたなと休憩に入りながらの話し合い。みっちゃんもようやく落ち着いたのか、ハスキー軍団と共に戻って来た。

 各層の階段の場所はだいたい決まっているので、後はそちらへと進むだけだ。なるべく速攻で倒したいねと、得意戦法に絶対の自信を持つ姫香だけど。

 物凄い大きな恐竜が出たら、シャベルごときじゃ無理だよねと末妹の混ぜっ返し。


「そりゃまぁ、確かにそうかもだけど……みっちゃん、そんな恐竜が出て来る可能性はひょっとして高い?」

「えっと、はぁ……一般的に言うと、低くは無いかも。凄くでっかい首長竜とか、後は尻尾がハンマー状の鎧竜とか、出現する恐竜は様々ですけど。

 倒す労力は、昔のクジラ漁並みに大変っスねぇ」

「ああっ、昔の時代のクジラ漁かぁ……話には聞いた事はあるけど、それは割と壮絶だなぁ。取り敢えずは今持ってる総戦力で、可能な作戦は前もって立てるとして。

 ちなみに、草食恐竜も襲って来るのかな?」


 みっちゃんの話では、草食恐竜は先制はして来ないけど、攻撃を当てればその巨体で反撃に転じて来るらしい。その迫力の凄まじさは、まさに陸のクジラと言っても過言は無いそうで。

 そんな圧力に晒されたくない一同は、必死に皆で作戦を考案する。何しろ今は海岸から既に移動を果たして、中ボス部屋……と言うか、丸太で組まれた砦を目の前にしているのだ。


 その高さ3メートルはあろうかと言う丸太の塀を、完全に無視して視界に入る首長竜の勇姿に。どんな巨体だよと、呆れて眺める面々であった。

 アレに確かに、正面から突っ込むのは強靭な肉体が幾らあっても足りない。そんな訳で、来栖家チームとしては珍しく10分以上に渡る作戦会議を敢行して。

 何とか纏まった作戦を胸に、いざ中ボスの間へ!



 改めて近付いた首長竜は、確かに大きくてビビるターゲットではあったけど。予想に反して、最初に向かって来たのは護衛役のラプトルが3匹だった。

 これを護人を中心として足止めからの、アタッカーの止め差しでサクッと倒して。その合間に、勇ましく首長竜に向かって飛んで行くドローン形態のルルンバちゃん。


 彼は紗良が『光紡』スキルで創り出した、光り輝く細い糸の端っこを携えていて。それを首長竜の長い首に、何度も巻き付ける作業に余念が無い。

 途中で脚の下を潜ったりなんかしちゃって、それが攻撃とみなされないモノだから割とやりたい放題。これが駄目なら別の方法を考えていたけど、無視されて本当に良かった。

 これでこちらの安全度が、恐らく40%以上高まったかも?


 静かで地味な作戦だけど、紗良の光糸は彼女のMPが尽きない限りは、切れたり消滅する事は無い。これは割と強力な特性だから、恐らく例外もあるのだろう。

 ただし、単純な力比べでは切れない事は何度も実証して判明済みである。だから姫香や子供たちも、この作戦を推したのだった。

 それから、首長竜が呑気な性格って点も含めて。


 それはまるで、蜘蛛の巣に突っ込んだ事を知らずにいる昆虫みたいだ。情けを掛けると潰されるのはこちらなので、間違っても手など抜けないけれど。

 それにしても、ちょっと間の抜けた情景かも。陽菜とみっちゃんも、ポカンとした顔でこの作業を眺めている。そして仕上げに入ったルルンバちゃん、隣の木々なんかも巻き込んだりして。

 護衛を片付け終わった一行は、ただその時をじっと待つのみ。


 そして戻って来たルルンバちゃんから光糸を受け取り、四腕で乱暴に手繰り始める護人。さすがに巨体はそんな事では揺るがないが、光糸は首や脚や尻尾に、幾重にも絡まり始める。

 それを側の木に括り付けたり、動きを混乱させたり。《奥の手》と薔薇のマントの腕力は常人の軽く3倍以上あるが、それでもあの巨体を翻弄するのは無理。


 ただ、攻撃を受けたとやっと理解した敵の中ボス、咆哮を上げて抗い始めた。そして光糸は更に絡まりを見せ、無理に移動しようとした首長竜は見事に転倒。

 『糸紡』を操っていた紗良は軽くガッツポーズ、地面の揺れる振動の中で作戦は次の段階へ。護人が巨大な頭に駆け寄って、四腕で強引に封じ込めを敢行。

 そして『身体強化』と『応援』を貰った姫香が、強化鍬で首切りに挑む。


 丁度特訓で扱っていた、大型トラックのタイヤほどの首の太さに斬り付けた姫香だったけど。残念ながらその試みは失敗、半分も斬れずに逆に暴れ出した中ボスに吹っ飛ばされる姫香と護人。

 これは不味いなとチームに不安がよぎった瞬間に、ミケとレイジーが行動を起こした。まずは束のような落雷が暴れ回る首長竜の太い首を強引に沈め。

 極めつけはレイジーの異様な行動、あぎとを閉めたままの《魔炎》の実行で、紅い炎は牙の隙間から横へと帯のように流れ出て行く。


 それが徐々に、まるで長大で波打った刃先の様な形状になって行き。それを動物特有の超ダッシュから、姫香が傷付けた首長竜の傷口へと猛アタックを敢行する!

 そのたった一撃で、途端に静かになる首長竜。横たわった姿勢から持ち上げた頭が、傷口から自重でゆっくりとへし折れて行く。そして眩い光と共に、ドロップ品を落として消滅。

 ただしかし、他のチーム員はレイジーの突然のパワーアップに唖然とするばかり。





 ――しかしまぁ、さすがエースの風格だと褒めるべき?







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る