第122話 恐竜の群れとモアイ像に出迎えられる件



「あっ、魔石のちょっと大きいのが落ちてた……あとはこれ拾ったよ、叔父さんっ! おっきな槍だね、恐竜の角の槍かなぁ?

 さっきは変な化石もドロップしたし、収穫はまあまあかな?」

「アンモナイトの化石だね、価値はあるかは不明だなぁ……この槍も武器としては微妙かな、威力はありそうだけど重いし大き過ぎて使う人を選びそう」


 香多奈と姫香の姉妹での会話は、このダンジョンでのドロップ話に終始していた。この層のアンモナイトを倒した際に、A4サイズの石板みたいな化石がドロップしたのだが。

 護人などは味があって良いなと思ったけど、確かに高値で売れるかは全くの不明だ。幸い来栖家チームは魔法の鞄を持っているので、持ち帰りは全然可能だけど。


 こんな石の塊、苦労して持ち帰って価値が無かったら相当ショックかも。そんな話を交えながら、階段の側で休憩を挟んでの第3層への突入である。

 ここも古代の密林がお出迎え、奇妙な甲高い獣の吠え声が鳴り響く。


 まるで映画の中に飛び込んだ感じだねと、香多奈はその雰囲気を大いに楽しんでいるみたい。先行するハスキー軍団は相変わらず慎重で、本隊から離れ過ぎないように偵察に勤しんでいる。

 そして早速、半ダースのラプトルの群れと遭遇。数の多さに、護人と姫香も勇んで前へと出る構え。少し遅れて陽菜も抜刀しての参戦、数の不利はこれで無くなったが、パワーと俊敏性は向こうが少し上か。

 誰かが瞬時にフリーにならないと、苦戦必至かも。


 何せ向こうのラプトル軍団も、1~2層と違って体格が良い。パワーも比例して上がっているので、不用意に近付いて噛み付かれると致命的である。

 尻尾の振り回しもかなり厄介で、天然の殺し屋みたいな特性をビンビン放つ古代肉食生物の群れ。ハスキー軍団も、1対1ではさすがに深く攻め入れない様子。

 スキルを使わない肉弾戦では、サイズ的に不利なのは否めない。


 それを理解して、すぐさま戦法を変える賢いハスキー軍団である。まずはレイジーが目晦ましの『魔炎』を放ち、その隙に『隠密』で姿を消すツグミ。

 コロ助は香多奈に『応援』を貰っての、ガチな肉弾戦で1匹の抑え込みに成功している。倍化した体は敵の攻撃意欲をあおるようで、隣のラプトルも突っ掛かって来た。


 そこにツグミの不意打ち攻撃、更には姫香の追い打ちの一撃で、流れるようなコンビプレーの果てに。あっという間に1匹屠って、次はコロ助の押さえている敵にターゲティングを敢行。

 レイジーは自力で1匹焼き殺して、陽菜の応援へと駆けつけている。護人は盾と四腕で、安定して2匹のラプトルの抑え込みに成功している。

 後は仲間が始末してくれるまで、落ち着いてキープするのみ。


 数分後には、無事にラプトルの群れは討伐終了の運びに。しかしさすがにB級ダンジョンである、出て来る敵がゴブリンや大ネズミの集団とは訳が違う。

 通常の敵がとにかく強いし、密度も種類も結構上である。ハスキー軍団もその辺を心得ているから、敢えて本隊から離れようとしていないのだろう。


 そして3層には絶対に宝箱があるよと、海側の探索もしたい素振りの香多奈だったり。この少女だけは、ダンジョンの難易度などは無頓着の模様で。

 それでも子供の我が儘に付き合うのが、良くも悪くも来栖家チームの特徴でもある。ハスキー軍団も心得たモノで、自然と海側のコースを辿る道順を選択。

 しかしそこに、不意に出現する不可思議な像が2つ。


「アレはナニ、何か不細工なモアイ像に見えるけど……恐竜時代にモアイ像なんか、関係してたんだっけかな、護人叔父さん?」

「いや、そんな事実は無いと思うが……」

「……スミマセン、あれって実はしまなみビーチの近くのモニュメントなんです。このダンジョンが気に入ったのか、たまにこうやって出現するんスよ。

 待ち受け型のトラップ仕様なんで、不用意に近づかないで下さい」


 そうらしい、本当に申し訳なさそうなみっちゃんには少し笑えるが。ダンジョンって何でもありだなぁって、香多奈は気にせず人間サイズのモアイ像を眺めている。

 罠と言うからには、近付けば発動するのは分かるけど。どんな罠なのかは毎回変化するらしく、みっちゃんも分からないとの事。中には結構エグい奴もあるので、気を付けてとは助言を貰った護人。

 これはもう、無視するか掛かって確かめるか二択である。


 ただし、モアイ像のちょうど中間に宝箱が置かれているのを目敏い香多奈が発見して。後はもう、子供の言いなりで護人が単独で突撃する事に。

 もっとも、護人には『硬化』と言う防御スキルがあるので、無茶振りと言う訳でも無い。宝箱は貴重な収入源でもあるので、見過ごすのも確かに面白くないし。


 そんな訳で、モアイ像の仕掛けを気にしながら慎重にスキル頼りで接近する護人。奥に控える姫香は、シャベル投擲の準備をしてサポート準備は万端である。

 それはハスキー軍団も同じ事、今はご主人の命令で姫香たちの側に待機しているけど。いざとなったら突っ込む気満々で、集中はまるで切らしていない様子。

 そして近付く護人、同時に2体のモアイ像に変化が起こる。


 ぐりんと首が動き出し、口が大きく開いて2体同時に音波のようなモノを吐き出すモアイ像。咄嗟にその大きな口に向けて、シャベル投擲を敢行する姫香だったけど。

 強力な音波に阻まれて、思い切り逸れると言う悲しい結果に。強力な音波の仕掛けに晒されている護人は、スキルの恩恵で辛うじてその場で耐えられている様子。


 ただし、その音波に反応してなのか、空から翼竜の群れが接近して来た。サイズはそれ程では無いが、半ダース程度の群れはそれなりに脅威かも。

 みっちゃんが弓矢で射かけるも、接近まで1匹片付けるのがやっと。ルルンバちゃんが飛び立って、勇ましくも5対1での空中戦に移行する。

 サポートに、ミケの雷魔法が派手に炸裂して。


 一方の護人だが、スキルの『硬化』を使っていても音波攻撃はそれなりに痛い。ってか振動が内側にまで伝わって、内臓がシェイクされて気分が悪くなって来た。

 悪辣な顔に見えて来たモアイ像だが、よく見ると耳の下に黄色いスイッチが。あんな大きな石像を壊すのは、余程の破壊力を有していないと不可能。


 ひょっとしてとの思いで、護人は苦労して前進する事に。亀の歩みだが、何とか左のモアイ像前に辿り着く事が出来た。そしてスイッチに触れると、目論見通りに音波攻撃は止まってくれて。

 内心で喜びながら、酔いに似た苦痛を押し隠して隣のモアイ像へ。同じ個所のスイッチを触って、ようやく完全に止まってくれる音波の仕掛け。

 そして振り返ると、本隊は翼竜の群れと戦闘中と言う。


 そいつ等が怖いのは、どうやら鋭いくちばしでの攻撃のみの様子。取り敢えずは宝箱も回収したいが、安全の為には残りの敵も駆逐したい。

 とか思っていたら、ミケの雷が次々と敵を駆逐して行って。ルルンバちゃんが魔銃で倒したのは、結局は1匹だけだったみたいである。


 小型ショベル形態ほどの迫力は全く無いが、まぁよく頑張ってくれている。護人はモアイ像の側に落ちていた宝箱を回収して、子供たちと合流を果たして。

 周囲の安全を確認しつつ、喜んで宝箱を開ける香多奈の側で小休憩に入る護人。心配した紗良が回復魔法を掛けてくれ、ようやくの事一息つく中。


 宝箱の中身を、高々と掲げて皆に見せびらかす少女である。中身は鑑定の書が4枚に小型のモアイ像が3体、ポーション600mlにMP回復ポーション800ml。

 そして待望のスキル書が1枚に、琥珀の宝飾品が数点ほど。琥珀は中に葉っぱや虫が封じられていて、見ているだけで楽しいかも。

 女子連中が覗き込んで、きゃぴきゃぴ言い始めている。


「うわっ、コレいいね……同じ形状のモノが1つも無い宝石だよ。琥珀で合ってるんだっけ、後でみんなで分けようよ?」

「うむっ、いいな……見ていて楽しいし、皆で分ける位の数はありそうだ。出来れば怜央奈にも送ってやりたいな、研修チームのきずな的なアイテムで」

「いいっスね、宝石って特に興味は無いけど……これは素直に、綺麗だと思えるなぁ」


 姫香の提案に、陽菜もみっちゃんも同意して。その横でようやく回復を終えて、体を解し始める護人。今回出番の無かったハスキー軍団も、欲求不満ですぐにでも動き出したそう。

 そんな訳で探索を再開、勇んで先行するハスキー軍団である。海側のエリアも変化はあるのかなと警戒する護人だが、通常の敵に混じって半魚人の群れが出現し始めていた。


 あれはゲームで言うサハギンだねぇと、予習のバッチリな紗良の注釈。その実力はゴブリンなどよりずっと上で、銛などの武器の扱いもかなり上手い感じを受ける。

 水系の魔法も使うようで、さすがB級ダンジョンに出現する敵である。それでもハスキー軍団の速攻と、護人と姫香のサポートで何とか大きな怪我もせず倒して行き。

 海側の間引きも、何とか15分程度で順調に終了。



 休憩を挟んで4層へ、ここも当然のように敵の密度は高かった。いきなりのラプトル集団の奇襲に、慌てて対応する来栖家チーム+ゲスト陣2人。

 今回も数が多くて対処に苦労したが、何とか大怪我もなく撃破しての一息。ドロップした魔石の半分が碁石サイズなので、敵の強さの上昇振りが分かろうと言うモノ。


 コロ助と陽菜が少々怪我を負ってしまったが、紗良の回復で事なきを得て。この先も慎重にを合言葉に、チームを前進させていくリーダーの護人。

 区切りと考えていたのは5層の中ボス撃破だが、それより先に撤退も視野に入れつつ。前の層と同じルートで進むと、きっかり同じ場所にモアイ像が建っていた。

 今回は1体で、しかも頭の上に鳥の巣のような物体が。


「あっ、あの巣の中に絶対何かアイテム入ってる筈っ! 叔父さん、取って来て!」

「あ~っ、まあ仕方ないか……取り敢えずまた単独で近付くけど、前みたいな呼び寄せの仕掛けがあるかもだから。

 残った皆も、充分に気を付けるようにな?」


 は~いと元気な返事が子供達から、陽菜もみっちゃんもこのノリには既に慣れてしまった様子。そしてモアイ像からの攻撃を警戒しつつ、単独で『硬化』を掛けて進み始める護人。

 ただし、今回の仕掛けは音波攻撃とも一味違った様子で。


 何とモアイ像が反応して、カパッと開いた口から吐き出されたのは、強力な粘液の塊だった。それと同時に警戒音が高らかに響き渡り、それに導かれて再び空からやって来る影が。

 あれはプテラノドンかなぁと、そのシルエットは確かに超有名な飛行型の恐竜のソレであった。一説では飛べないとも言われているが、コイツは結構な速度で襲い掛かって来る。


 危うく攫われそうになったコロ助に、姫香のサポートの鍬の一撃は大きく空振り。みっちゃんが後ろから巨大トンボも来てますと、この一連の罠のドツボに嵌まったと言うしかない状況。

 慌てず対処しろと言う護人は、スライム状の粘液に捉えられて全く動けない状態のまま。それでも《奥の手》を器用に使って、モアイ像の耳下のスイッチを押す事には成功していた。

 これで警戒音は切れてくれた、これ以上の敵の乱入は無い筈。


「また飛竜来るよっ、タッチダウンの時の衝撃波に注意してっ! 多分魔法の類いだから、後衛は身を伏せててっ! ハスキー達は攫われないようにねっ!

 護人叔父さんっ、そっちは大丈夫っ!?」

「ダメージは無いけど、粘着物質に絡まれて抜け出すのに時間が掛かりそうだ。ミケとルルンバちゃんの奥の手に頼って、とにかく切り抜けてくれ!」


 了解と元気な姫香の返事に被るように、紗良が新たな敵の接近を大声で告げた。前の層の翼竜の群れが、半ダースほどプテラノドンに従うように接近中で。

 小さく舌打ちして、護人はいったん粘液から抜け出すのを中断する。いや、薔薇のマントだけはこの不躾ぶしつけな仕掛けにかなり反抗して暴れているけど。


 とにかくマントから弓矢を出して貰って、地面に転がったまま援護射撃に徹し始める護人。巨大トンボはミケとルルンバちゃんが、何とか頑張って撃退してくれている様子。

 地面からは巨大ネズミも湧き出ているようで、その対処は陽菜とみっちゃんで忙しそう。とにかくあちこちでパニック模様の戦闘が繰り広げられていて、罠を侮ったツケの支払いに忙しい中。

 飛竜の2度目のタッチダウン、犬達は回避したが衝撃波が多大な被害を及ぼす。


 その威力は、小柄な犬達が連続で転がってしまう程。香多奈も尻餅をついていて、ルルンバちゃんも墜落しそうに。腹を立てたレイジーがブレスを吐くが、一瞬遅く敵は再び大空へ。

 ただしこの衝撃には、雑魚のトンボやネズミも少なからず被害を受けていて。いち早く回復した陽菜とルルンバちゃんで、動揺している敵陣を大きく減らす事に成功。


 一方のプテラノドンの蛮行に、心底頭に来たレイジーの狩りが始まる。『歩脚術』で犬らしからぬ木登りから、身を潜めての空中アタックの機会を伺いつつ。

 その間に、護人とみっちゃんの弓矢攻撃で、ほぼ追加で出て来た翼竜の群れは撃墜し終わっていた。しかも薔薇のマントのド根性で、何と護人は罠の粘液から抜け出す事に成功していて。

 ……ってか、粘液を“収納”してしまったっぽい薔薇のマントである。


 これには驚きを通り越して、ちょっと呆れる護人である。ただ今はそんな時では無いと、プテラノドンの標的になるべく空き地の中央に陣取る構え。

 向こうもこちらを見初めた様子、空中で反転して再度突っ込む構え。そこに木の上で潜んでいたレイジーの捨て身の特攻が見事ヒットする!


 そのまま首筋に噛み付いたまま、プテラノドンと共に地上に墜落するレイジー。驚く護人だったが、ハスキー達は全く別の感情だったようで。

 母親の孤軍奮闘に、勇んで加勢へと突っ込んで行く。遅れて姫香と陽菜が、二度と空中には逃すなを合言葉に戦闘参加して行って。

 割と巨体な飛竜の翼をまず破壊して、それから首を狙って止めを刺す。


 優秀な犬達のお陰で、厄介な難敵も無事に撃破に漕ぎつける事が出来た。呆れたモノで、プテラノドンと共に墜落したレイジーに大した怪我は見受けられず。

 これもまとったHPの恩恵か、それとも受け身が上手かったのかは定かでないけど。取り敢えず頭を撫でてあげながら、余り無茶は止めてくれと飼い主の護人の呟きに。

 当のレイジーは、もっと褒めろと言いたげな表情。





 ――狩猟本能と護衛犬の責務、どっちも大事だとその瞳は訴えていた。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る