第107話 栗林ダンジョンの中層に足を踏み入れる件
中ボスのドロップには、残念ながらスキル書の類いは見当たらず。ピンポン玉サイズの魔石とちょっと豪華な矢束数十本のセット、それから棘付きの首輪の3点セットを回収。
そして宝箱は木製で、明らかにガッカリした表情の子供達だったのだが。その中に待望のスキル書が入っていて、一転して声を出して喜び始める始末。
ただし、その他は全然大した物は入ってなかったけど。
その他はポーション800mlに鑑定の書が2枚、『風林火山』と達筆で書かれた竹製の
ダンジョンは四文字熟語が好きなのかねぇと、良く分からない香多奈のコメントはともかく。この凧は部屋に飾ると映えるかなぁと、同じく良く分からない趣味の姫香と言う。
姉妹揃って、目の付け所が少し変。
とにかくそれらを紗良が回収して、暫しの休息時間に突入。ここまで1時間半程度で、まだまだ全員が元気である。スポット参戦の陽菜も、まだ大丈夫と返事をして。
そんな訳で探索は続く、6層に降り立った一行はコボルト達の襲撃に備えるけれど。栗林を飛び回る大トンボや大カマキリが、この層のメイン敵の様子。
数もそれなりで、特に鎌を振るうカマキリが結構強い。
さすが昆虫界の暗殺者と、対峙する姫香は何故か嬉しそう。護人の盾も、コイツとの対戦で結構ボロボロにされてしまった。それでも大きな事故は無く、一行は探索を続けて行く。
そして山道を登った中腹あたり、今日既に何度も対戦しているコボルト軍と鉢合わせ。待ってたよと嬉々として前に出る姫香とハスキー軍団、向こうも獣人と野犬の混成軍らしく。
その数何と20匹近く、栗林で大激戦が開始される。
山の下の陣と言う不利も、特に感じさせない来栖家チームの攻勢振りは凄まじく。ハスキー軍団は野犬を率先して駆逐して行き、前衛はコボルト集団の勢いを完全に封殺して行く。
弓使いと魔法使いも混じっているが、向こうは連携もなっておらず脅威度は薄い感じ。って言うか、『隠密』を利用したツグミが、厄介な魔法使いを早速1匹
こちらの連携は、かなりのレベルに達している様子。
厄介者の敵の後衛が姿を消すと、集団の攻略はあっという間に楽になった。素早い動きの野犬は、レイジーとコロ助が全て始末してくれて。
本体は姫香と陽菜がメインに、普通に退治し終わった。激しく感じた集団戦だが、時間にするとほんの数分で片付く結果に。それでも護人は、階層を降りるごとに熾烈になるこの連中に危機感を覚えてしまう。
この層は大丈夫でも、もっと深く潜ると敵の集団も増えるのでは?
「どうしたもんかな、今の集団程度ならまだ余裕はあるだろうけど。これが段々増えて行くとしたら、ちょっと大変かもな……」
「う~ん、3倍くらいなら平気だと思うけど。ツグミの不意打ちは強いし、レイジーは丸焼き出来るし……問題は、私達の前衛ラインが抜かれた場合だよね。
後衛を守る人がいないと、確かに不味いかもね?」
「確かに、向こうの野犬とかスピード速かったもんね……ハスキー軍団より数が多かったら、こっち来られちゃうかもっ!」
慌てた様子の香多奈だが、危機感はまるで無い表情だったり。代わりに紗良が、状況を見て危なそうなら魔人ちゃんを召喚するのはどうかと提案した。
それなら後衛の安全も保障されるし、動く要塞と化しているルルンバちゃんが前に出張っても大丈夫。実際、集団戦の場合は彼が前の方がこちらの戦線も安定するし。
話し合いはそれで決着、そして6層の探索は
宝物の類いも見当たらないし、一行は7層への階段を発見して直ぐに降りる事に。ここも初っ端からのコボルトのお出迎えは無し、その代わり大トンボと大カマキリが結構多い。
更に崖側に小さな洞窟を発見、防空壕のような野菜の保温庫のような構えである。ハスキー軍団が早速チェックに向かい、それからひと吠えして戻って来た。
何かいるらしい、それを受けて前進する護人と姫香。
「熊かな、この層だと出て来そうだよね、護人叔父さん。パワー勝負になるかもだったら、ルルンバちゃん呼ぼうか?」
「そうだな、野生の動物を刺激すると怖いからな……ルルンバちゃん、前に来てくれるか?」
リーダーの言葉に素直に従う元お掃除AIロボ、その姿は明らかに頼られて嬉しそう。アームを前へと伸ばして、まるで勇ましい騎士のようだ。
その先端が暗い穴に入り込むと、途端に劇的な変化が舞い降りた。アームに絡みつく大きく長い物体、巣にちょっかい出されて怒れる大蛇が反撃して来たのだ。
藪では無く、一行は巣を突いて蛇を出してしまう結果に。
そして護人からの鋭い注意喚起、ハブ(毒持ち)だから気をつけろとの事なのだけど。自然界には、こんな胴も太くて10メートルを超す毒蛇は存在しない筈!
蛇に嫌悪感が無くても、これに近付くのには相当な勇気が必要かも。そしてルルンバちゃんのリアクションも面白い、ビックリしたのか慌ててアームを振り回している。
鋼の肉体を持つ割には、心臓は柔らかいのかも?
「ルルンバちゃん、取ってあげるからアームを振り回さないでっ! そうそう、そのままでストップしといてねっ!」
面倒見の良い姫香が、ルルンバちゃんが嫌がってるのを知って大毒蛇の駆除を大急ぎで敢行している。それを手伝う護人と陽菜、結構な大作業である。
何しろ怒れるハブの牙先が、近付く人間にロックオンして行くので。これに咬まれたら、ちょっと大変な事になるのは目に見えている。
慎重に気を散らしつつ、チームは何とか退治に成功する。
最後は三角形の頭に、コロ助の『牙突』が決まっての終焉である。そしてこのお騒がせ大蛇、最後に魔石以外もドロップして。その名も蛇の毒袋、直接触るのも怖そうなアイテムである。
それでも一応、紗良が持って来たタッパーにて回収してのお持ち帰り。それから慎重に先を進むと、熊笹の群生地帯に出てしまった。
視界は悪いが、ハスキー軍団が吠え立てると釣られて敵が出現。
これまたコボルトと野犬の集団だが、
前の層より、簡単に20匹の集団を壊滅させる事に成功。
ただし、この層も宝物の類いが見付からない事態に子供たちは不満そう。毎層で見付かる訳ないぞと、陽菜などは宝物に全く幻想を抱いていない様だけど。
香多奈に限っては、次こそ大物が見付かるよと自信たっぷりなのだけど。当然ながら、根拠の類いは全く無かったり。そんな感じで、第8層へと辿り着く一行。
来栖家チーム的には、割と深層にチャレンジ的な雰囲気だ。
時間も既に2時間半が経過、このエリアも熊笹の地域と栗林の地域に大きく色分けされていて。先行するハスキー達は、迷った末に熊笹エリアに突っ込んで行った。
何かあるのかもと後に続くメンバーたち、護人が先頭で草漕ぎをして、その後をチーム員が一列になって進んで行くと。
不意に開けた視界に、小さな池と古惚けた一軒家が出現。
ここまで、大トンボと大カマキリの襲撃は数度あったモノの。敵の大集団とは、全く遭遇せずの現状である。いかにも罠のありそうな物件の出現に、一行は騒然とするモノの。
ハスキー軍団は呑気に周囲を嗅ぎ回っていて、危険は今の所無さそうだ。
だだし妖精ちゃんに限っては、目の前に広がる20畳程度の濁った池の方に興味が向いている様子で。古いボロ納屋に特攻掛けようとしていた香多奈を引き止めて、その池を覗き込んでいる。
それに何の意味があるのか、保護者の護人にはとんと理解不能で。
家長が動かないモノだから、姫香たちも進めずに末妹と一緒に池の中を覗き込む羽目に。前回のフィールド型ダンジョンでも、水場で不意打ちを喰らった覚えがあるので、水際の一行に油断は無い。
その内に妖精ちゃんが、香多奈に向かって水面を指し示して何か言った。通訳した末妹によると、何かを放り込むと泉の精が良品に交換してくれるかもとの事。
それを受け、マジかと信じていない者と何を放り込むか探す者の二択に。
それでも特に信じていない姫香が、まずは最初にリアクションを取った。紗良から予備の投擲用のシャベルを取り出して貰って、それを思い切り池(泉?)の中央に放り込んだのだ。
その行動を呆れて見ている護人だったが、その反動はもっと苛烈だった。全く同じ勢いで、投擲されたシャベルが少女目掛けて放り返されて来たのだ。
運動神経の良い姫香は、それを平気で避けてたけど。
「危ないなぁ、もう……私でなかったら、ぶつかってたよっ!? 泉の精って、案外乱暴なのかな? 姿位見せればいいのに」
「あっ、でも凄い……見てっ、お姉ちゃん! 戻って来たシャベル、金色になってるよっ。まるで金の斧と銀の斧の童話だねっ、シャベルだけど……」
ああっ、成る程と手を打ち叩いて納得する護人。そんな仕掛けがダンジョンの泉にあったとは、妖精ちゃんで無ければ気付かなかっただろうけれど。
調子に乗った姫香は、もう1本のシャベルも同じ場所に投げ込んでみる。そしたらさっきと同じ現象が、ただし飛んで来たシャベルは銀色だった。
おおっと感心する一同、これは意外と美味しいかも?
試しに近くの地面を掘ってみた姫香が、その威力に驚きの声を上げる。金も銀も、普通の奴に較べると驚きの土掘り能力を有していた様子。
ただし、武器に使うとどうなるかは不明だが。それを見てテンションの上がった香多奈は、自分も試すと鞄やらボッケの中身を探り始めて。
結局見付かった、犬用のジャーキーをえいっと泉に放り込む。
これには呆れ返る一同、そして泉の精(?)も暫くの間ノーリアクションだった。もうお願い交換タイムは過ぎたんだよと、香多奈を慰める姉達だったけど。
いきなり飛んで来た球体に、油断していた来栖家チームはビックリ仰天。何故かナイスキャッチで受け止める姫香は、手の中のモノを見て二度ビックリ。
何とそれは、ジャーキーより数万倍高価なオーブ珠だったと言う。
太っ腹な泉の精の計らいに、狂喜乱舞の子供達だったけれど。妖精ちゃんが言うには、もう勘弁してくれとの波動が泉から漂って来ているそうな。
とにかく柏手でも打ってお礼だけはしなさいと、護人の号令でお辞儀と柏手でその場はお開きに。また来るねとの香多奈の言葉を、泉の精はどう受け取ったかは定かでは無いけど。
とにかく一同は、揃ってその場を立ち去るのだった。
そうして立ち寄った、泉の隣に建っている超みずほらしい一軒家。最初は納屋かなと思っていたが、どうも古民家みたいな造りである。扉は引き戸で、昔ながらのガタ付き様。
それから見事に土間があって、そこを上がった板間には
陽菜はその後ろで、ちょっと引いている模様。
「アンタもがめついね、さすがにこれは無理でしょ……ってかこんな民家みたいな場所だと、幾らダンジョン内でも荒らすのは抵抗あるよね」
「確かにそうだねぇ、あそこに着物みたいなの飾ってあるけど……荒らさずにおこうか、いかにも探索用のアイテムだけ貰って行こうね、香多奈ちゃん?」
「分かった、それじゃあ妖精ちゃん……何か魔法の品が無いか、一緒に探そうっ!」
魔法の品など、一目見ただけでは判別はかなり難しいので。妖精ちゃん頼りなのは仕方ないが、最初にアイテムを発見したのはツグミだった。
部屋の隅の小物入れに、木の実と魔玉が4個ずつ。それを回収しながら、姫香が思いっ切り褒めてあげている。それを見た香多奈と妖精ちゃんコンビ、こっちも見付けるぞと意気盛んではあるのだが。
見付かるのは編笠とか竹の背負い籠とか、昔話に出て来そうな小物ばかり。
最終的には、飾られていた着物と一緒にあった、紺色の帯から魔力を感じると断言した妖精ちゃんによって。向こうのチームも、何とか面目躍如を出来た模様で何よりである。
そして一行は一軒家を後にして、9層への階段を探し始める。
今回はレア種とも遭遇しないし、ここまでの道のりは順調ではある。罠も思ったほどは凶悪でも無いし、今まで怪我人も幸い出ていないし。
階段前に居座っていたのは、今回は栗の大木の怪物だった。下層で出て来た、イガ栗を落とすタイプの木がモンスター化した感じだろうか。
その威力は凄まじく、お供のウッドゴーレムも数が多くて侮れない。
「みんな、イガ栗の落下圏内から離れてっ! 俺とルルンバちゃんであの大木モンスターを足止めするから、姫香と他の者はウッドゴーレムを引き離して始末して行ってくれ!
後衛の守りもしっかり頼んだぞっ!」
「はいっ、護人叔父さんっ! 陽菜とコロ助が後衛の護衛役をお願いねっ、レイジーとツグミはウッドゴーレムを釣って来て!
無理しないでいいよ、護人叔父さんに向かわない程度で良いからねっ!」
そんな感じでの局地戦が開始され、戦線の維持に前衛陣は大わらわ。今回は紗良の装備が大幅に更新され、獣の尻尾と鬼面で動きは格段に良くなっているとは言え。
後衛に敵が取り付く事態は、何としても避けたいと奮闘する護人と姫香。その意図を汲んで、レイジーやルルンバちゃんも頑張りを見せる。
特に小型ショベルの機体を得た、ルルンバちゃんの猛威が酷い。
チェーンソー攻撃とアームのダブルアダックで、栗の巨木のモンスターを文字通り粉砕して行くその勇姿。護人は隣で、《奥の手》と薔薇のマントの疑似四腕でのサポートに徹して。
とにかくイガ栗の落下範囲を、後衛に近付けさせないのに必死。時折魔法なのか、石礫が飛んで護人とルルンバちゃんの体にぶつかって来る。結構痛いが、まだ我慢は出来るダメージ度だ。
そして先に音を上げたのは、チェーンソーで切り刻まれた敵側だった。
護人も《奥の手》で、敵の枝をへし折って顔の洞穴に突っ込んだりとの嫌がらせは充分だった気も。それと同時に、姫香たちもウッドゴーレムの軍団を始末し終えたらしく。
やったねと勇ましい声を聴きながら、皆の安全を確認する護人。紗良が怪我を負った者がいないかと、ハスキー軍団を中心に見て回ってくれている。
どうやら怪我人はいない模様、居候の陽菜を含めて。
――もうすぐ目標の10層、このまま順調に進む事を願うのみの護人だった。
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