第108話 2度目の10層到達に、チーム全員で湧き立つ件
こうして来栖家チームは8層を攻略、フィールド型ダンジョンにしては素早い攻略だと自画自賛しつつ。これは素早く階段を探し出してくれる、ハスキー軍団の働きが非常に大きいのだけれど。
しかも戦っても強い彼女たち、9層の出先で待ち構えていたコボルト軍にも派手に突っ込んで行って。30匹以上の大集団が、あっという間に態勢を乱して行く。
そこに香多奈の爆裂石の投擲と、ルルンバちゃんの単騎での特攻。
護人と姫香は、隊列を崩して浮足立った兵隊を端から順に始末して行く作業を淡々とこなして行く。これまでの経験で、一番被害が少なくて効果的な戦法である。
敵の数が多いのを察知して、香多奈がコロ助に『応援』を飛ばしての援助活動。それを受けたコロ助が、巨体を活かして左辺で無双状態に突入する。
向こうの数の優位を、あっという間に覆す事に成功して。
ツグミの暗殺サポートも功を奏して、弓矢や魔法に邪魔される事もほぼ無い状態。元々最初からハスキー軍団が乱戦に持ち込んだので、それらが活躍する状況も少なかったのだが。
3倍程度の敵の集団に対しても、ほぼ圧勝してしまった来栖家チーム。その中央でアームを振り回して喜ぶルルンバちゃんと、後衛の護衛役で出番が無いままの陽菜と言う構図。
呆れた無双振りに、素直に喜べない彼女である。
「う~ん、魔人ちゃんを呼ぶまでも無かったね、紗良お姉ちゃん。陽菜ちゃんも暇そうだったし、前に出て戦ってくれても良かったかも?」
「それはさすがに怖いよ、香多奈ちゃん……私だったら、コボルト1匹相手に襲われてもパニくる自信があるよっ!
そんな訳で陽菜ちゃん、護衛は地味かもだけど大切な役割なんだからねっ?」
「う、うん……分かってる。こうして後ろで見てるだけでも、随分と勉強になるよ」
それは陽菜の、本心からの言葉だった。皆が他のメンバーを信頼して、委縮もせすに自在に動けている。そして互いをカバーして、決して致命的な穴を作らない。
香多奈の言う通り、後衛に抜けて来る敵の心配などほぼしなくて良い戦闘振りに。3倍の数の敵相手に凄いなと、素直に称賛の念が心中に湧き起こってしまう。
陽菜の目標は、いつかこんなチームを作る事だ。
戦闘の訓練やスキルの向上ももちろん大事だが、ソロで出来る事なと限られて来る。信頼出来るチームの存在、それが今後の目標と定めて。
呑気に魔石を拾い始める、最年少の香多奈について行きながら。考えてみればこの子も凄いなと、ぼんやりと考える陽菜である。案外と、この少女が家族チームの鍵なのかも。
この子は何故に、AIロボや異世界の妖精と言葉を交わせるのだろう?
興味は尽きないが、今は探索に集中しないと。そう思い直した陽菜は、一緒に散らばった魔石を拾い始める。考えてみれば、一度の戦闘でこんなに魔石を稼げた事は以前のチームでは一度も無かった。
来栖家チーム、恐るべし破壊力である。
そんな陽菜の内心は置いといて、探索は順調に進んで行った。ちょっとした変化としては、この層の道中に再び大キジと大イタチが出現し始めた事くらい。
そして大キジがお肉をドロップ、倒したツグミがそれを律儀に運んで来てくれて。キジ肉って美味しいのかなぁと騒ぎ出す子供たち、さすがに田舎育ちでも食した事は無い来栖家の面々である。
でもまぁ、その辺を走り回っているのはよく目にするが。
「
「急に甲高い声で鳴くからビックリするよね、農作業中とかさ」
子供たちにはそんな印象だが、実際食べると地鶏より噛み応えがあって美味しいらしい。紗良が空のタッパーを鞄から取り出して、いそいそとそれを詰めてお持ち帰り準備。
この層では、更に追加で宝箱も発見出来た。山中の窪みにひっそりと置かれていたが、ハスキー軍団が難なく発見して。中には解毒ポーション400mlと鑑定の書が4枚、それから魔玉(光)が4個入っていた。
小さな箱だったので、まぁ中身はこんなモノか。
あとは階段を探して目標の10層へ到達するだけだと、一行はハスキー達の先導で山道を進む。すると少し離れた場所に、先頭の護人が何か飛来する柱を発見。
田舎ではよく見る現象だが、蚊柱と言う名に反してアレ等は人の生き血を
モンスターサイズの連中に
話し合った結果、やはりレイジーとミケの魔法で丸焼きが好ましい。ってか、それ以外はあんな集団に効果は無さそうな雰囲気である。などと悠長に話し合っていたら、向こうもこちらを発見した様子。
飛翔する大集団と、絶叫を上げる子供たち。
まぁ当然だ、パニック映画によくあるシチュエーションに、自身が晒されそうになっているのだから。個別撃破などまるで意味のない大集団に、レイジーとミケの魔法が炸裂する。
そんな魔法攻撃でも、敵の数は半数に減った程度か。護人は子供たちを
ここまで大きい蚊のサイズだと、蚊の鳴く声も騒音レベル。
「香多奈っ、風の爆破石を使って蚊柱の数減らし頼むっ! 紗良はミケに、どの集団を倒すか指示出ししてやって!
他の者は防御姿勢を保ちつつ、自分と後衛のガードを!」
「「……了解っ!!」」
背中に飛翔物が集られるのを、《奥の手》で追い払いながらの護人の指示出しに。子供たちはそれぞれ従いながら、この混乱を打開しようと懸命に与えられた作業に埋没する。
風の爆破石が蚊柱を吹き払い、コロ助逃げてと香多奈の叱咤が飛ぶ。レイジーの『魔炎』やツグミの『隠密』みたいなスキルを持たないコロ助は、蚊柱に対して反撃の手段が無いのだ。
何しろこの飛翔物体、1匹がラグビーボールの大きさと言う酷さ。
それでもレイジーとミケの魔法の威力は素晴らしく、敵の集団はようやく数える程になって来た。ようやくガードを解いて、残党狩りを始める護人と姫香。
怖かったぁと呟く香多奈だが、その視線は周囲に散らばる小粒の魔石に釘付けである。ニンマリしながら、ルルンバちゃんを誘って1粒残らず拾うよと、途端に意気盛んな少女だったり。
その奥の紗良は、ミケを抱きかかえてようやく安堵のため息。
それは陽菜も同じで、信じられない思いも胸中に半分は存在していて。あんな極限のピンチを、何でも無い様に切り抜ける指示出しと対応力と来たら!
チームの絆の強さと、何より探索能力の高さを思い知らされてしまった。とても探索歴が半年だなどとは思えないと、素直に感心してしまう。
勉強になる探索同行に、陽菜も知らずにテンションアップ。
魔石拾いと休息を終えて、階段探しを続行する一行。それはすぐに見付かって、いよいよ目標の10層目である。安定の栗林を縫って、ある筈の中ボス部屋を見付けに彷徨うパーティ。
途中の雑魚の討伐も、既に慣れたモノで手間取りもしない。大トンボや大カマキリ、それから大キジを退治しつつ山の中腹辺りに辿り着くと。
砦のような物を発見、そこを守るようにコボルトの軍隊が。
「あらら、ようやく中ボスの部屋らしきものを発見したってのに。あんなにガッツリ守られていると、扉を開けるのも大変だねぇ。
さて、どうしようか護人叔父さん?」
「そうだな……今回は弓兵も魔術師も多そうだし、ただの兵隊も装備をガッツリ着込んでるな。長引きそうだし、慌てずじっくり敵の数を減らして行こう」
「了解っ、下手に突っ込まずに持久戦だねっ!」
別に持久戦をしたい訳では無いが、あんなにガッツリ守られたら下手に突っ込むのも危険だし馬鹿らしい。そんな訳で、ツグミの暗殺待ちで前衛陣は気を逸らす役目を負うべし。
そんな感じの護人の号令で、戦端は切って落とされた。敵の砦は丸太と岩の粗末な物だが、攻め落とすにはそれなりに大変そう。
それでも、レイジーとミケの魔法攻撃は派手に敵を蹴散らして行く。
向こうも飛び道具で応戦して、こちらは護人とルルンバちゃんが盾代わりで前線を構築して行く。堪え性の無いコボルトの兵士が数人、砦から飛び出て来て姫香と陽菜に倒された。
そして挑発するように、鍬を高く掲げるテンションの高い少女。これが功を奏したのか、激怒したコボルト兵士がわらわらと砦から飛び出して来た。
その数は何と10匹以上、釣りの天才姫香である。
それを護人が出張って、こっちだと挑発して誘導してやる。コロ助とルルンバちゃんも横を固めて、たちまち良く分からない乱戦が勃発し始めた。
まず相手が砦を飛び出す意味が分からない、砦の高い位置で、指揮官らしい体格の良いコボルトが、顔を真っ赤にして激怒しているのがちょっと悲しい。
その隣の術師コボルトは、乱戦で魔法が撃てずにあたふたしているし。
とか思っていたら、ツグミが『隠密』で1匹ずつ接近戦を仕掛けて始末し始めていた。それにコボルト指揮官が気付いた時には、既に手遅れ状態と言う。
前線も後衛の弓兵&術士も、半数以上が倒されている始末。頃合いを見計らって、レイジーが砦の丸太壁を突破してコボルト指揮官へと殺到して行く。
立派な鎧の指揮官も、レイジーに首を搔っ切られて没。
コボルト兵士団を全て倒し終わった来栖家チームだが、目立ったダメージは誰も負っていなかった。ほぼ完勝の一戦に、大喜びの子供達である。
そしてそのままの勢いで、扉を開けて中ボス戦へ。本日2度目のこの戦いの、相手はどうやらコボルト将軍という敵らしい。お供に体格の良いコボルト従者5匹と、双頭の野犬が1匹。
ところがこの将軍、姫香の速攻アタックに見せ場も無く倒される破目に。
早速役に立ってくれた、金&銀のシャベルの投擲攻撃だったけど。威力は確かに、2段程度は跳ね上がっているかなと呑気な姫香の使用報告だったり。
従者はレイジーとミケの魔法攻撃に、やっぱり為す術もなく倒されて行き。双頭の犬は、応援を貰ったコロ助とそこそこ良い戦いを繰り広げたモノの。
ものの2分で始末され、これにて中ボス戦は終了である。
ドロップは双頭の犬がビー玉程度の魔石1個、中ボス将軍がピンポン玉サイズの魔石とスキル書が1枚、それから双小剣のセットだった。
出番の全く無かった将軍コボルトは、二刀流使いだったらしい。立派な双剣で、恐らくだが魔法の品のよう。それから砦内の部屋隅に、銅の宝箱が1つ。
その色を見て、明らかにガッカリする子供たち。
中身も平凡で、薬品2種と上級の鑑定の書が2枚、魔石(小)が7個に防具で白銀の額当てが1つ。それから何故か、栗の入った小袋が1個入っていた。
栗はどれも立派でつやつやしているが、子供たちの興味は高価そうな魔法の品にしか向いていない様子。それを鞄に仕舞い込みながら、探索はこれで終了なのかと家長に伺う紗良。
護人は頷いて、それじゃあ帰ろうかとチームに声を掛ける。
今回の探索は、前回の虹色の果実やコア破壊でのレベルアップの効果を割と体感出来ていた気がする。そう姫香が口にすると、護人も薔薇のマントの有用性を実感出来たかなと返答。
何しろ白木のハンマーなどの持ち運びに不便な武器を、頼めば瞬時に手元に出してくれるのだ。便利と言う他ない機能である、今後も活躍に期待大である。
それにしても、どこまで機能を充実させてくれるのやら。
そんな事を話しながら帰路につく一行、帰還の魔方陣も一応は手元にあったのだが。使用にイマイチ不安もあったし、それ程疲れてないので歩いて帰ろうとの声も香多奈から上がったので。
元気に山道を戻る作業を、計10回ほどこなす事に。今回はルルンバちゃんが、階段で
ちょっとした登山並みの労力、それでもへこたれない子供たちの体力。
それでも無事に地上に出た時には、割と全員へとへとになっていたのは当然の結果か。余力があったのはペット軍団&ルルンバちゃん位のモノ。
ミケと香多奈は、後半ルルンバちゃんの座席にお世話になっていたけれど。とにかく夕暮れ過ぎにダンジョンを脱出、それから狩猟会や自警団と無事に合流して、その日は素直に帰宅する事に。
協会への報告は、どうやら明日以降になりそう。
帰りのキャンピングカーの車内も賑やかで、今回はゲストの陽菜もいるので取り分を考えなきゃねと姫香の言い分に。それは考えなくて平気と、ひたすら遠慮をする陽菜である。
それでも今回取得したスキル書とオーブ珠の相性チェックは、一番先にさせて貰ったり。良さそうな双剣がドロップしたから、これあげるよと言われたり。
良く分からないまま、優遇される彼女であった。
そんな中、空気も読まずにやらかすのはやっぱり香多奈だった。何と泉の精から貰ったオーブ珠、これが少女に反応したのだ。何となく察していた姉たちは、それを生温かい目で見つめるのみ。
そして同じく空気を読まない妖精ちゃんが、これは《精霊召喚》系のスキルだねと太鼓判を押してくれて。大喜びの末妹だが、やっぱりすぐの使用は無理みたい。
とにかくこれで、香多奈のスキルは何と4つ目と言う!
――最年少の少女だが、その成長は一体どこまで続くのやら?
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