第106話 栗林ダンジョンを順調に降りて行く件



 特に大きな事故も無く、チームは3層へと到着した。ここまでの経緯を振り返って、取り敢えず頭上とか罠系には注意しようと全員で意思を統一して。

 出て来る敵は、幸いにしてそれ程に強敵は混じっていなさそうな雰囲気。前情報もそんな感じで、深く潜るのに障害になる感じでは無さげ。

 とは言え、追加される敵に関しては不明だが。


 とにかく罠が多いダンジョンだと言う事は分かったので、慎重に進む事にする来栖家チーム。前情報には無かったので、新しい特性が引っ付いたのかも知れない。

 そこら辺は、まぁ魔素の濃度で結構ある事らしい。頻繁に人が出入りする、人の多い町のダンジョンでは余りそう言う事は無いそうなのだが。

 この町は“魔境”と呼ばれるだけあって、ある程度の変化は仕方なし。


「とは言え、ウチの町もう少し探索者が増えてもいいよね、護人叔父さん。そしたらあの6月の新造ダンジョンとかも、食糧とポーションを定期的に取りに潜れるし、コアを壊さずに済んでだのに。

 陽菜の地元の尾道は、どんな感じなんだっけ?」

「私の地元はダンジョン数は9個で、協会認定の探索チームは6つだ。ただしダンジョン内に泊まり込むガチ勢は1チームしかない、残りは週2~3日程度の活動だな。

 私の所属チームも、浅層が専門で週2~3日探索だ」


 そうなんだと、感心した感じの香多奈の返事。陽菜はこの町の探索事情を聞いた時の、ショックの方が大きかったので。本当はそっちが普通だよとは、幼い少女には切り出せず。

 何しろ民泊で住み着いた2チームも、精々が週1程度の活動振りらしく。これは協会と自治体が、町の安全に重きを置いた結果らしい。

 つまりは最低限の間引きで、今後も回して行くと言う。


 そのサイクルに、来栖家チーム『日馬割』が組み込まれてしまったのは、まぁ致し方が無いと言う事で。子供たちに言わせれば、もっと依頼来ても良いよとウエルカムな態度だし。

 町に協会が出来てから、探索者への対応も上々である。文句を言う程の現状では無いので、護人も一応は探索業務を定期的に続けて行くつもりではいる。

 ただし、この家族チーム以外では潜るつもりは無いけれど。


 そんな会話が出来るのも、ハスキー軍団が頑張り過ぎているからに他ならない。1層から出現していた、キジやイタチ型のモンスターは彼女たちが勝手に狩って回ってくれている模様。

 お陰で手間は無いのだが、一応は罠の類いには注意を払って。まぁ、これも《床マイスター》の称号を持つルルンバちゃんの、独壇場と言うか得意分野ではある。

 ただし、床と山道は勝手が違うようで、罠は先頭で踏み潰すルルンバちゃん。


「おっと、こんな所に2つ目の落とし穴か……落ち葉の不自然にある場所は要注意だな、有り難うルルンバちゃん。

 自分で出れるかい、姫香そっち引っ張ってくれ」

「了解っ、護人叔父さん……重くなったねぇ、ルルンバちゃん。でもアームあるし旋回も出来るから、前よりは柔軟になってるよね」


 確かに今の小型ショベル型のルルンバちゃん、自在に動くアームはあるし、その上機体の下部には相変わらずチェーンソー攻撃の刃が取り付けられている。

 単純に攻撃力は倍化しているし、それは良いのだが。穴に嵌まってしまうと、幾らキャタピラの足回りでも、抜け出すのは割と大変だったり。

 重量が増えた弊害だが、そこはまぁ仕方が無いとも。


 《床マイスター》を自認する本人としては不本意かもだが、他の者が落ちるよりは数段マシには違いなく。そんな感じで進んで行くと、またもやコボルトの群れが襲い掛かって来た。

 連続で2度ほどそいつ等を退けて、意気揚々と奥へと進む一行。ハスキー軍団はチームを山頂へと導いているようで、道は段々と険しい坂になって来ている。

 そしてトラップが発動、この層は転がる巨石の罠らしい。


 その大きさは割と大きく人のサイズ、あの勢いでぶつかったら護人でもただでは済まなそう。そこに雄々しく立ちはだかるルルンバちゃん、アームの一撃で転がる岩を食い止める。

 激しい衝突音と、なおも転がろうとする転がる岩。これはおかしいと、護人は姫香を呼び寄せてマントをたくし上げる。するとそこから急に出現する、白木の巨大なハンマー。

 それと手持ちの武器を交換して、勇ましく岩へと駆け出す姫香。


「こいつを壊せばいいのねっ、それっ……たあっ!!」

「えっ、今の素早い武器交換……姫香、どうやった!?」


 陽菜が困惑するのも当然だ、近くにいても護人が急に巨大なハンマーを取り出したようにしか見えなかった筈。種明かしをするならば、実は薔薇のマントの新スキル(?)である。

 って言うか、前回入手した『蔦編みの魔法の小袋』を、薔薇のマントが勝手に食べてしまったのだ。そしてその性能を吸収、頼めばアイテムを出し入れしてくれる便利機能が追加した次第である。

 そんな訳で、戦闘中にこんな感じで武器の出し入れが可能に。


 望んで得た能力では無いけど、まぁ便利だし今回は不問に付す事にしたのだが。勝手が目立つ薔薇のマントに関しては、一応は護人が厳重に注意しておく事に。

 マント相手に何をしているんだかって話だが、案の定シュンとされてしまった。護人も叱るのが苦手なので、今後は勝手をしないように言い含めてこの件は終了に。

 ただまぁ、探索中は護人の言う事は良く聞いてくれるのに間違いは無く。


 そして魔法のハンマーの一撃で、木っ端微塵に壊れて行く巨大岩石であった。その後魔石に変わったので、やはりアレはモンスターだったみたい。

 とにかく罠の多いダンジョンだと、認識を新たに進んで行くと。前方から虫の羽音に似た嫌な響きが、思わず反射で頭を低くする田舎育ちの一行である。

 近くに蜂の巣の気配、その想像は間違っていなかった模様。


 しかもモンスターサイズ、1匹が2ℓのペットボトルの大きさである。こんなのに刺されたら、痛いでは済まなそう。香多奈は小さく悲鳴を上げて、ミケさんに退治を頼んでいる。

 子供の言う事は、割と素直に聞き届けてくれるミケのスキル技執行。それと同時に、レイジーが巨大な巣に向けて炎のブレスを放った。

 相変わらず容赦の無い2匹である、飛び交う敵の群れは大打撃。


 香多奈は慌てて、爆破石での追撃を敢行しているけど。他の面々は、とばっちりを喰らわないように姿勢を低くして敵が墜落して行くのを待つのみ。

 護人だけは、いつ敵が接近しても良い様に、盾を構えて防御姿勢を崩さない。ルルンバちゃんも絶好の防御壁である、チームに欠かせない頼もしい存在と化していて。

 そして耳障りな羽音は、約5分後には消沈していた。


「ミケさんっ、ありがとうっ! ああっ、あんなのに刺されなくて良かったよ……MP回復ポーション飲む、ミケさん?

 レイジーも呼んであげなきゃ、あんだけ火を噴いたんだから」

「確かに盛大な火葬だったねぇ……しかし大きな蜂の巣だよね、中に何か入って無いかな?」


 半分焦げて崩壊していた大きな蜂の巣だが、大木にくっ付いていた部分に洞を発見。そこに幾つかのアイテムが、ぞんざいに置かれていた。

 内容は黄色い魔玉が5個と鑑定の書が2枚、それから古い瓶入りの蜂蜜が2個。大した稼ぎでは無いが、それでも香多奈は大喜びである。

 その隣では、嬉しそうに魔石を拾うルルンバちゃん。


 MP回復の休憩を挟んで、一行は階段を目指して進む。ハスキー軍団が先行して発見してくれて、無事に第4層へ。そしてコボルト集団のお出迎え、戦闘も段々と熾烈になって来た。

 今回もコボルトの中に、魔法使いや弓矢使いが紛れていた様子で。それをハスキー達との連携で、被害を最小限に食い止めての殲滅戦である。

 しきりに感心する陽菜だが、これは他のチームには無理な戦法である。


 暫く進むと、この層の罠の種類が判明した。どうも弓矢の罠らしく、何かを踏むと飛来する仕掛けらしい。ハスキー達が少々怪我を負ったが、ルルンバちゃんは矢を受けても全くの無傷。

 そして待ち伏せしていたウッドゴーレムも、全員が弓矢装備と言う嫌らしさ。その布陣の中央には、猪サイズのヤマアラシが針を逆立てて待ち構えていた。

 護人は一言、ルルンバちゃんに先頭をお願いする。


「香多奈はミケとコロ助に手伝って貰って、爆破石での遠隔攻撃で右側の敵を頼む。ルルンバちゃんの影からは、絶対に顔を出さないようにな。

 左側は俺が盾で突っ込むから、残りのメンツは俺の後ろについて来て。中央のヤマアラシは、ルルンバちゃんとレイジーに頼もう。

 各自、手傷を追ったら無理せず、紗良の所まで下がるように!」

「「了解っ!!」」


 勇ましい返事が子供達から、そしてペット&AIお掃除ロボも、護人の指令を完全に理解した様子。激しく降り注ぐ矢弾の雨に怯む事無く、号令と共に前進を始めて。

 程無く、右辺から激しい爆破音が鳴り響いて来た。それでも感情の無いウッドゴーレムは、弓矢攻撃を止める気配は無し。左辺では、《奥の手》を発動した護人が矢弾の雨を完璧に防ぎながら敵の陣地へと突っ込んで行く。

 その後ろには、姫香と陽菜とツグミが続く。


 中央では、ヤマアラシを挑発しながらじっと盾役をこなすルルンバちゃん。下手に動くと香多奈が丸裸になるので、止むを得ない戦法なのだが。

 相手は全く構わず、針を逆立てて突っ込んで来た。それをアームでいなした所に、レイジーの《魔炎》が炸裂する。負けずに相手も、何と針飛ばしの凶悪スキルを敢行!

 被害に遭ったのは、ルルンバちゃんの影に隠れ損ねたレイジーだった。


 これには大慌ての香多奈と紗良である、幸い急所には喰らわなかったようだが。ルルンバちゃんに前進をお願いして、倒れ込んだレイジーの救出作業。

 仲間を傷付けられたAIロボも、怒り心頭でアームを振り上げる。器用にそれを避けて、再び針飛ばしをして来るヤマアラシ。後方の子供達から、慌てたような悲鳴が上がる。

 それを見兼ねたミケが、ひょいっとルルンバちゃんの屋根に降臨。


 そこからは、相手が可哀想になる程の暴虐が敵陣に降り注いだ。《刹刃》と『雷槌』のコンボスキルで、ヤマアラシはずたずたに引き裂かれ落雷で感電して瞬殺されて行く。

 右辺の弓兵たちも、何とかコロ助の奮闘でようやくの沈静化。その間、紗良が傷ついたレイジーを癒している。レイジーの戦闘ベストは攻撃力特化にしたのが、今回は仇になった模様。

 紗良は防御って大事だなと、治療しつつも反省してみたり。


 そして左辺の鎮圧も、護人の指示のもと滞りなく終了の運びに。弓矢攻撃は厄介だが、こうやって砦を築かれて待ち伏せされると格段に難易度は跳ね上がってしまう。

 それを難なく攻略した護人の手腕に、陽菜はやはり感心している模様。それを感じ取って、何故か姫香も得意げと言う。そしてレイジーの治療も無事終了、敵の簡易砦の隅に打ち捨てられた風呂釜を発見する。

 姫香が何気なく覗き込むと、アイテムが数点入っていた。


「おっとラッキー、ってか栗が袋に詰まって入ってる……他は笹の葉の束とMP回復ポーションと、これは火吹き竹かな?

 結構使い込まれてる感があるね、何でだろう?」

「ああ、昔はこれで薪を焚いてお風呂を沸かしてたからなぁ……ウチも爺ちゃんが生きてた頃は薪風呂だったよ、懐かしいな」


 護人のコメントはともかく、変テコなアイテムが報酬に混じっているのは既に慣れっこなメンバーである。それより思わぬ負傷をしたエース犬に、護人は神経を尖らせているけど。

 どうやら特に後遺症の類いは無さそうで、治療を受けて元気を取り戻したレイジー。ホッと胸を撫で下ろしつつ、休憩を挟んで再び探索を開始する。

 そして4層を踏破して、いよいよ中ボス部屋の存在する5層へ。



 ここも定番通りに、コボルトの集団がまずは襲い掛かって来た。その数は順調に増えていて、軽く2桁の大群である。前衛にルルンバちゃんや陽菜も出張って、来栖家チームはこれに対応。

 5分以上の熱戦で、チームはこれに勝利して中ボス部屋を探しに向かう。前のフィールド型のダンジョンにも扉があったので、今回もそれを探せばよいとの思いで。

 雑魚敵を蹴散らしつつ、栗林の山を登ったり下りたり。


 そして見付かる大扉、それは山の麓近くに砦の様にそびえ立っていて。扉を守るように、ウッドゴーレムの集団が多数うろちょろしていた。

 ただし弓持ちは極僅ごくわずか、大半は棍棒と大斧持ちで割と雑魚認定である。紗良の提案で、一行はこの戦闘前に木の実の強化を敢行する。

 それから、ルルンバちゃんと盾持ちの護人を先頭に進撃開始!


 木の実での各種ステアップ効果は絶大で、その後の戦闘は蹂躙と呼ぶに相応しい様相で。物の数分で、門を守っていたゴーレムたちは蹴散らされて行き。

 来栖家チームはそのままの勢いで、門を開け放って中ボス戦へと挑んで行く。作戦はもちろん、得意戦法の中ボスへの速攻アタックである。

 ドーピング効果も相まって、その威力は相手を憐れむほどに。


 中ボスに出て来たのは、例のヤマアラシの大型タイプだった。コイツに好き勝手暴れ回られたら、幾らルルンバちゃんが前に立とうが危なかったかも。

 しかし姫香の投擲攻撃は、『身体強化』と香多奈の『応援』、更には木の実の強化で過去最高のレベルに。投げられたシャベルは矢弾の如く、その小型車サイズの体を貫いて。

 あの厄介な針飛ばしスキルを使う事無く、見事にお亡くなりに。


 前衛にいたウッドゴーレムの群れは、完全にオマケ扱いの有り様である。香多奈の爆裂石の後に突っ込んだ前衛陣に、あっという間に蹂躙される破目に。

 過去最高かも知れないタイムを叩き出し、中ボス部屋をクリアに至り。そんな事はまるで無関心に、ドロップ品と宝箱の存在に湧くメンバーたち。

 それを回収すべく、子供たちが走り回っている。





 ――取り敢えず5層までは順調、この後どうなるやら?






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