第105話 9月初めの景気づけに、探索依頼を受ける件
9月の頭に大きな台風がやって来て、稲の心配をしつつ何とかそれをやり過ごし。秋冬野菜の苗の植え付けも段々と忙しくなって来た、ある週末の事。
香多奈も2学期が始まって、少なくとも家の生活は元のルーチンワークへと戻って行った感はある。ただし、弟子入り志願の陽菜は未だに居候を決め込んでおり。
何と言うか、朝晩の賑やかさと華やかさは上昇中。
そんなに喋る性格では無いのだが、やはり食卓や農業仕事で人数が増えると違いに実感が湧く。香多奈が学校に行ってる昼間はそうでも無いのだが、どうしてこうなったと護人の胸中。
しかしまぁ、彼女の頑張りは尊重するし素直に凄いなとは思う。自分の探索者としての技を磨き、チームの為にと修行に出るなど若い娘としては立派だと思う。
本当に、姫香の友達にはピッタリかも知れない。
そんなプチ騒乱中の来栖家の週末に、いつもの様に探索間引き依頼が舞い込んで来た。すっかり定例行事になってしまったが、地域貢献的にも断る訳に行かず。
つまりは毎度の自治会案件で、日馬桜町にあるダンジョンの内の1つを指定された訳だ。その名も“栗林ダンジョン”と言うらしく、名前通りに栗の木の山中に出来たダンジョンだ。
間引き案件としては、他と同じく約半年ぶりとの事。
出て来る敵や中の構造も情報は揃っていて、協会の話ではD級程度でそれ程の心配も無いそうな。しかも今回は、居候中の陽菜も同行を願い出て。
特訓の一環とか思っているのかも、それはまぁ良いのだが。姫香も簡単に許可を出すし、今回も10層まで潜るよと血気盛んで困ったモノである。
子供たちを仕切る立場の護人としては、
何しろ香多奈まで、ルルンバちゃんの新型お披露目にハイテンションなのだ。小型ショベルと草刈り機モードを併せ持つ機体を車で運ぶのは大変だったけど。
護人の所有するキャンピングカーが、改造ベースで本当に良かった。後部がバカっと開くタイプで、そこから強引に乗せてからの固定作業に。
ちょっと大変だったのだが、その分のパワーアップに期待である。
「陽菜も前衛だから、私と交替で戦列の役割しよっか? 護人叔父さんは盾役でリーダーだから、しっかり指示に従ってね、陽菜。
それからハスキー軍団は割とフリーダムに動き回るから、こっちで動きを合わせて。向こうは私達をフォローしてくれるけど、陽菜は新参だし無視されるかも?
まぁ、私や護人叔父さんがフォローするよ!」
「わ、分かった……なるほど、長年
それを学ぶのも、結構大変そうだ」
「う~ん、ウチみたいに犬猫含んだチームも珍しいそうだし、それを参考にしても難しいんじゃないかなぁ? でもまぁ、一緒に探索する中で学べることも多いのかな?
私達も、探索ごとに色んな事を学んでは反省の繰り返しだもんね」
紗良の言葉に、本当にその通りだねと年少組の同意の言葉。探索へと向かう車内でも、このチームは賑やかで緊張感など欠片も無い様子。
犬達もリラックスして座席の下で、のんびりと寛ぎムード。ミケに至っては、姫香に抱かれて熟睡している有り様だ。ミケの特技、どこでも眠れる力は一種のスキルであるのかも。
そんな感じで車内で各々に過ごしつつ、現場に到着。
とは言っても、キャンピングカーで行けるのは山の麓まで。そこから栗林を、10分以上歩かないとダンジョン入り口には到達しないので。
ルルンバちゃんを降ろしたり、荷物を取りまとめたりと忙しく準備に奔走するメンバーたち。ハスキー軍団はようやく車外に出られて、伸びをしたりその辺の臭いを嗅いだり。
陽菜だけは、やや神経質にダンジョン情報を
今回突入する予定の“栗林ダンジョン”だが、情報によると割と深いらしい。タイプは野外フィールド型で、出て来る敵は動物や昆虫型や獣人などと、バラエティに富んでいるそう。
来栖家チームは野外タイプに潜るのは、坂下ダンジョンを含めて2度目となる。それ程に得意とは思わないが、ハスキー軍団の機動力は活かせそう。
つまりチーム的には、特に不得意ではないダンジョンではある。
持って来ていた『魔素鑑定装置』で計測した数値は、相変わらず他のダンジョンと同じく高めだった。と言うか、町のダンジョンで弱い場所は間引き直後の場所以外は無いのかも。
それ程の綱渡りでの管理体制で、今まで維持して来た訳でもあるので。来栖家チームが月1での参加は、自治体にとっても有り難いには違いなさげ。
そんな感じの依頼の受諾なので、間違っても手抜きなど出来ない。
そんな訳で、姫香の10層潜るよの合言葉は割と的確なのかも知れない。余りにも時間が掛かるのなら、前回の探索でゲットした『帰還の魔方陣』で戻れば良いし。
今回はゲストに陽菜もいるし、新生ルルンバちゃんのデビューもあるし。少々広いダンジョンでも、何とかなりそうな雰囲気もある。
そんな訳で、来栖家チームは準備も万端で探索開始。
「わっ、フィールド型って聞いてたけど、やっぱり洞窟を潜ってこんな場所に出ると戸惑っちゃうねぇ。栗の木林が拡がってるね、そこは情報通りかな?」
「今回も食糧とか取れそうかな、前情報ではそんなのは無かったけど」
「栗を持って帰っても、山の持ち主に怒られないよね? ちょっと時期は早いけど、たくさん取れるといいなぁ」
自分たちは栗拾いに来たわけじゃないと、陽菜は心中で少女にツッコミを入れるけど。他の家族は特に言う事も無いのか、探索に集中し始めている。
特にハスキー軍団は、素早く周囲の安全を確認し始めて。そして早くも、前方に敵の気配を察知した様子。鋭く吠えながら、3匹で固まって突進して行く。
それに続く護人と家族、敵はバランスボールサイズの鳥だった。
犬達に噛み付かれて、為す術もなく倒されて行く鳥型のモンスターだけど。キジか何かかなぁと、田舎住まいの姫香はその正体に気付いた様子。
サイズが違うので、エミューに見えなくも無いその鳥型モンスター。
ソイツ等も、簡単にハスキー軍団の牙の餌食に。
「ハスキー軍団が強いから、暫くは私達の出番は無いかもね、陽菜。心配しなくても後で活躍出来るから、周囲の変化にだけは気を付けて」
「わ、分かった、姫香」
まだ緊張気味の陽菜に声を掛けつつ、前衛を歩く姫香はリラックス模様。周囲は栗の木林が続く山間の風景で、空も窺えるし
ただし、山の道は平坦な場所が無くて歩きにくい事この上ない。山の起伏も不規則で、油断すると崖にぶつかったり急な斜面を転がり落ちそうになったり。
これは次の層への階段を探すのも、結構な苦労かも。
そうこうしている内に、来栖家チームの前に新たな敵の集団が出現した。コボルトが6匹ほど、内2匹は弓矢を装備している。そいつ等相手に、風を巻いて襲い掛かるハスキー軍団。
慌てる向こうの集団は、既に前衛と後衛の連携など無い様子。それを見越して突っ込んで行く護人と前衛陣、陽菜もようやくの見せ場に張り切って武器を振るう。
もっとも1匹倒した時点で、既に他の敵は全て倒されていたけど。
そして大きな機体を操作して、器用に魔石を拾うルルンバちゃん。自分の見せ場はここだと言わんばかりに、何となく得意げでその上にご機嫌そうである。
香多奈も操縦席にミケと一緒に乗りこんで、イエ~イとか言って
実際、前回のアスレチックコースを経験していると万倍マシである。
あれ以降の特訓の成果も、微妙に出ているのかも知れない。例えば体力アップとか、そんな感じの方向に。広いと言っても、所詮は普通のダンジョンだ。
恐れる程では無い、そして見付かる2層への階段。
ここまで約20分と、まずまず順調な道のりである。今回からは、ルルンバちゃんも自分で階段を降りれるようになっているし。疲れも無いし、一行は続いて2層の探索を始める。
そこも似たようなフィールドで、いきなりコボルトの群れに出くわすハプニングがあったモノの。いつもの手順で蹴散らして、今回も前衛陣で綺麗に片が付いた。
特に魔法を使う事も無く、ここまではMPも節約が出来ている。
そしてしばらく歩いた拍子に、姫香が舗装こそされていないが山道を発見。幾分か歩きやすくはなるが、これがどこに続いているかは全くの不明と来ている。
協議の結果、楽に進めるルートは活用すべしとの事で。念の為にルルンバちゃんを先頭に、道を辿って進んでみる事に。もっともハスキー軍団は、道などはなから無視しているけど。
そして急に立ち止まるルルンバちゃん、案の定の罠があったらしい。
「やっぱりね、急に道とかおかしいと思ったんだよ……ふむふむ、古典的な落とし穴の罠かぁ。うわぁっ、これも結構深いね!
穴の底にはご丁寧に栗のイガが敷き詰められてるよ、護人叔父さん」
「うむっ、これは何とも……竹槍よりはマシだが、これも地味に痛そうだなぁ」
前回のダンジョンも、落とし穴には苦しめられた面々。それぞれ覗き込みながら、勝手な感想を漏らしている。発見したルルンバちゃんは、楽しそうにアームを伸ばして端から壊し始めている。
遊び感覚で、完全にそれを埋め立てたい様子なのだけど。香多奈が行くよと声を掛けると、名残惜しそうにそれをスルーして再び先頭で進み始める。
そして次の罠も、ある意味この地形を存分に利用していた。
一際大きな栗の木の下で、陣を構えて待ち構えるウッドゴーレムの集団。対戦経験のある姫香などは、見た瞬間に雑魚だなと気を緩めているけれど。
彼らと接近した途端に、嫌な気配が頭上から発されて。そして
これの直撃を喰らうと、大人でも泣いてしまう攻撃である。
周囲は途端に、阿鼻叫喚の地獄絵図と化してしまって。冷静に楯を傘代わりにした護人はともかく、子供たちは悲鳴を上げて逃げ惑う有り様である。
逆にウッドゴーレム軍団は、まるで平気な顔をして襲い掛かって来る。ブチ切れたレイジーの《魔炎》が、一瞬周囲を炎の色に染め上げる。
彼女もどうやら、イガ栗の直撃を受けたらしい。
幾らHPを纏っていても、痛い物は痛いのだ。姫香も何と革のスーツ越しにもダメージを受けてしまった模様。どうやらこのイガ栗、普通のモノでは無いらしい。
貫通力と言うか、当たると麻痺効果まであるみたいで前衛陣は大わらわ。後衛は何とか範囲に入って無いけど、助けにも行けず狼狽えてしまっている。
ルルンバちゃんのみ、元気に敵をアームでノシて行っていると言う。
そのパワーは凄まじく、ほぼ一撃で人間サイズのウッドゴーレムは破壊されて魔石に変わって行っている。向こうの攻撃は、当たってもほぼノーダメージ。
鉄製の機体はさすがの硬度を誇っている様子、もちろんイガ栗の落下も痛痒すら与えられていない。護人の指示で、そんな小型ショベルの屋根の下へと慌てて避難する姫香。
陽菜もそれに従って、簡易シェルターの役割すら果たすルルンバちゃん。
敵の姿はなおも栗の大木の後ろから出現しており、手に竹槍を持つウッドゴーレムが半ダース追加された。その頃にはハスキー軍団は栗の木の下から避難を終えており、前衛陣もルルンバちゃんの元で態勢を整え直していて。
慌てずに対応出来た上に、香多奈の応援の効果も相まって。追加で出て来た敵は、それ程苦も無く倒す事に成功。全ての脅威が去ってから、危険なイガ栗落下ゾーンを抜け出して。
一息つきながら、紗良が治療に走り回る事に。
「栗のイガが当たった場所、物凄く痛かった! 革のスーツあるし、HPもあるから大丈夫って思ってたけど、全然効果ないじゃんっ!
おかしい、詐欺じゃんっ!」
「レイジー達も痛がってたし、普通のイガ栗じゃ無かったのは確かだな。麻痺効果もあったのかな、当たった後の動きが皆おかしかったぞ?」
HPを過信していた姫香だが、どうもダンジョン内においてはその効果は万能では無いらしい。新人探索者の来栖家なので、まだまだ知らない事はたくさんあるのだけれと。
そう言えば前回も大蛾の麻痺で死にそうになったし、HPは全く万能では無いようだ。それに気付いただけでも大きな進歩かも、下手に手遅れになる前に。
ハスキー軍団も同じく、最近は過信と言うか調子に乗り過ぎな傾向が出てるので。
ただし今回は、ツグミとコロ助の被害は微小で済んでいた気が。紗良お手製のベストの効果かも、イガ栗の凶悪な罠に対してほとんどダメージが入っていなかった。
魔法強化の防御力って凄いのかもねと、姫香が感想を漏らしているけど。そっち系の魔法アイテムが見付かったら、チームの皆に分配すべきかなと護人も乗っかって。
陽菜もそれを見て感心している、仲の良さと対応力は抜群なチームだと。
それから休憩後に、治療の済んだハスキー軍団の活躍で下りの階段とアイテム入りの
無駄に迷う事は無いかもだが、今後もルート通りに進むべきかは悩むところ。それでも大瓶の中身を次々と取り出して、子供たちは大喜びである。
とは言え、薬品2種と何故か竹とんぼか3つと言う結果だったけど。
――取り敢えず幸先は良い様子、このままの調子で探索は進めて行く所存。
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去年は小説の更新にお付き合いくださり、たくさんのフォローと応援有り難うございました。お陰様で過去の作品より、評価が段違いに高くて嬉しい悲鳴を上げている毎日です。
『現代ファンタジー』部門での評価が50位前後で落ち着いているようで、自身の作品では最高位となっております。これもひとえに、応援して下さる読者の皆様のお陰です。
今年も何卒、宜しくお願いします。
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