1年目の秋~冬の件
第103話 4回目の青空市で、予期せぬ来訪者が現れる件
青空市への参加も4回目となると、段々と慣れと言うモノが芽生えて来る。当然初回から売り子として頑張って来た紗良と姫香も、出店に余裕が生まれて来ており。
今回は売れ残った品物がはけるといいねぇとか、探索で得た品を完売しようと意気込みつつ。客層をしっかりと見据えて、野菜以外の品物のアピールも挟んでみたり。
実際、野菜は黙っていても売れるのは織り込み済み。
ナスやトマトやトウモロコシは、地元のスーパーにも出荷しているので。ここのブースに並ぶのは、少々形の悪い非正規品だったりする。
それでも朝から飛ぶように売れて行き、香多奈も手伝っての3人体制の売り子業務に。嬉しい悲鳴は、たった1時間程度で商品売り切れで終了となった次第。
それじゃあ遊びに行くねと、香多奈はとことん元気だったけど。
お小遣いを貰ってご機嫌な末妹を見送りつつ、激戦で息も絶え絶えな姫香と紗良である。それでも売り物を並び替えながら、午前中はスキル書が売れれば万々歳かなと紗良の胸中。
それでも4回目の青空市は、前回に負けず劣らずな混雑模様。
「今回は解毒ポーションや木の実も売る予定だっけ、それなら探索者チームの人の気も惹けるかな? 探索者以外の品物だと、今回は木彫りの彫刻とか木製品だねっ。
けん玉とか立体パズルは、高額商品のおまけにしても良いかもね?」
「そうだねぇ、あとは好きそうな子供に配るとか……白木の椅子とか凄く立派だけど、置く場所無くて困っちゃうよね、姫香ちゃん。
どうやってアピールすべきかな、割と控えめな値段だから売れそうなんだけど」
持って来るのは魔法の鞄に収納で、そんなに苦労はしなかったのだけど。売り場のスペース的に、大物は設置場所に困って知恵を出し合う2人だったり。
何よりこんな大物、持って帰って家に置いておくのも場所取りで嫌だ。デザイン的には工芸品みたいで優れているのだ、4脚もあるのだしこれだけは今日中に売ってしまいたい。
そんな思いで、闘志を燃やす売り子姉妹であった。
そんな子供たちをいつもの離れた席で見守る護人だったが、この日は朝から訪れる客が多かった。つまりは護人に挨拶に訪れて、同席して軽く話して行く人々と言う意味的に。
朝から自警団『白桜』の面々だとか、神崎姉妹&旦那さんの3人組だとか。それから自治会の知り合いの老夫婦だとかが、秋祭りについて喋りに訪れたり。
ここ数年は“大変動”のせいもあって、そんな地域行事も止まってしまっていたのだけれど。そろそろ復活させたいなとの、恐らくは根回し的な挨拶なのかも。
そもそも秋祭りは、氏神様に収穫の感謝を告げる儀式なのだし。
収穫だけを喜んで感謝はしないってのが、老人たちはどうも許せないようで。とは言え、やはりそう言う行事には若い力が必要なのも確か。
そんな訳で、真っ先に目をつけられるのは決まって護人だったりして。それより前の自警団の若者の挨拶も、どうやらそれに関する前触れのようでもあったりして。
夏を過ぎても、忙しくなりそうな気配がチラホラ。
一方の香多奈だが、今回もお小遣いを貰って上機嫌である。しかも売り子を手伝っていたら、毎度の様に地元のおばちゃん達にお菓子の差し入れをたくさん貰って。
家に戻ればそれも食べれると言う、幸せの相乗効果とでも評しようか。そしてつい先ほど、小学校の友達とも合流を果たしてこれで遊びの体制は万全だ。
コロ助をお供に、さて何して遊ぼうかと
「あれっ、あそこを歩いている人とか探索者なのかな……最近の青空市ではよく見るよね、香多奈ちゃんのお姉さんがアイテム販売しているせいかもね?
結構売れるんでしょ、ダンジョンから持って帰ったアイテム」
「そうだね、大変な事も多いけど……この前なんか、ゴミ処理場のダンジョンに入って間引きしたんだから! 犬達とか鼻が利き過ぎてすっごい大変そうだった!」
「へえっ、そうなんだ……でもお金が儲かるんなら、将来は探索者になるのも悪く無い選択肢かもなぁ」
お転婆リンカがそう言うが、キヨちゃんはお仕事でモンスターを倒すのは怖そうだと眉を
香多奈も割と乗り気だが、もし家族が辞めてしまったら、自分も探索者とかしない気がしている。アレは家族で潜るから楽しいのであって、知り合いがいないと怖いだけだ。
少女にだって、怖いとか辛いと言う感情はしっかりあるのだ。
普段はコロ助や、叔父や姉たちに守られていてそんな事は感じないけど。やはり一番怖いのは孤独なのかも、置いて行かれる恐怖に較べたら探索で敵に遭遇する事など何でもない。
そしてキヨちゃんの言うように、今日は探索者っぽい鋭い眼光の人々を良く見掛ける気がする。来栖家の販売ブースが噂になっているのなら、それはそれで喜ばしいのだが。
今日に限って言えば、何だか厄介事も含んでいるような?
香多奈の単なる勘なのだが、これがまたよく当たると家族では噂になっていたり。お姉ちゃん達は大丈夫かなと、ちょっとだけ心配する少女だったけど。
友達が屋台に誘うと、綺麗サッパリその心配事は忘却の彼方へ。意外と薄情な香多奈は、コロ助をお供に友達の指し示す方向へダッシュ。
こうして月1のお祭りを、とことん楽しむ子供達だった。
「やった、また木彫りの像が売れたっ。たった今観音様が売れて、さっき阿修羅像と龍の彫刻が売れたから、彫刻系は完売かな?
1万円は高いかなって思ったけど、3つとも売れて良かったね!」
「そうだねぇ、彫刻付きの宝箱2個も縁起がいいって売れたし、けん玉も百円で4個とも売れたし。木工品系は順調かな、後は椅子が売れてくれればいいんだけど。
でもまだお昼前だし、気楽に行こうか姫香ちゃん」
そうだねと、テンション高く姫香が返事をして商品を綺麗に並べ直す。ただここでお昼の時間になったので、皆でお昼を食べに離席する流れに。
午後からが勝負だねと、張り切り模様の売り子さんズはともかくとして。護人はイマイチ顔色が冴えない、さっき自治会と自警団の面々がやって来て、相変わらず山で野良の目撃情報が多いと告げて来たのだ。
事によると、大掛かりな山狩りを行うかも知れなくて。
前回頑張って野良狩りしたと言うのに、この騒ぎはちょっと不味い。どこか山の奥に新造ダンジョンがひょっこり出来ているのかも知れないのだ。
話によると、10月ごろに町の狩猟会と一緒に山狩りを企画するかもとの事なので。またもや来栖家に、出動の要請が掛かるかもと言われてしまった。
結構な厄介事だが、断る訳にも行かずな状況。
そんな報告も、あまり興味無さそうに耳を傾ける子供達である。ちなみに香多奈も、いつの間にか合流して買って来た屋台のお好み焼きを食している。
コロ助と他のハスキー犬も、香多奈からフレンチドッグを分けて貰って満足そう。山狩りについては、面倒そうだけど叔父さんが行くなら子供たちもついて行くとの元気な返事で。
ハスキー軍団も当然同行するし、まぁ家族行事の1つ程度の認識っぽい。
そんな話を挟んでの午後のブースで、早速商品の売れ行きに動きがあった。すっかり常連になった若い探索者の2人組、彼らがギルドの知り合いを連れて来てくれたらしく。
どうやら彼らは、西広島のギルド『羅漢』に所属しているらしい。その数7名と大所帯の探索者たちは、周囲のお祭り雰囲気も手伝って財布の紐も緩やかで。
スキル書2枚と、何とミスリル防具をお買い上げ!
高価過ぎて売れなかった防具一式を、ポンと現金で買い取るとは侮れないギルド能力ではあるが。彼らもこれで生存率が上がると、買い物自体には満足げで何より。
それからスキル書の相性チェックから、妖精ちゃんの鑑定まで一連のサービスを堪能して。要するに、4枚置いてあった内の2枚にしか7人のメンバーで反応しなかったのだ。
それでも取得した2名の探索者は、飛び上がる程の喜びよう。
こうして7人の若い探索者たちは、満足してブースを去って行き。紗良と姫香は笑顔でハイタッチして、大口の販売成功をお祝いする。
ミスリル防具は“配送センターダンジョン”の秘密の宝物庫で獲得した、かなり前の商品である。これが売れたのは、結構大きなイベントである。
手元には既に数百万の現金、これが喜ばずにはいられようか?
その後も、同じく配送センターで入手した眼鏡や時計がちょこちょみ売れて行き。樹上型ダンジョン入手の木製の立体パズルや木皿の類いも珍しがられて全て捌けて行って。
調子の良さはなおも続き、これも常連さんのニコルがチームでブースへと訪れて。今回初出品の、チムソーの実(HP上昇)とルキルの実(スタミナ&パワー)を全部買い上げてくれた。
そして本物である事を示す、鑑定プレートを珍しがられる始末。
ただ、その鑑定プレートを巡ってまさかあんないざこざが起きるとは、その時の2人は思ってもいなかった。その後も順調に木製品が売れて、売り子の紗良と姫香は気を良くして接客をこなしていたのだが。
うっかり薬品と木の実の鑑定も出来ますと、ブースに張り出し宣伝したのが不味かったのかも。ガラの悪い探索者風の若者数名が、そのサービスはどうやるんだと絡んで来て。
鑑定プレートを見せつけた、姫香の手からそれは瞬時にして奪われてしまって。
「ちょっと何するのっ、返してよっ!」
「へへっ、これも売り物なんだろっ……ほれっ、2万もあればいいか? これで商談成立だ、こんな屋台市じゃ掘り出し物なんかねぇって思ってたが、回ってみるもんだな!
なあっ、みんなっ!?」
わざと仲間の数をアピールするあたり、用意周到と言うか手慣れた犯行である。仲間にはガタイの良い荒くれ者も混じっており、周囲に威圧を放っている。
文句を言う奴はタダじゃおかないと、ヤクザの手の口を地で行く若者達だったが。護人が近付いて行くのと同時に、その後ろから強烈なプレッシャーを感じて黙り込む破目に。
そこには広島市の探索チーム『ヘリオン』の翔馬と、A級探索者の甲斐谷の姿が。
「鑑定プレートが欲しいなら、桁が2つ違うぞ……? 売って欲しいなら俺のチームも持ってるから、広島まで金を持って来ればいい。
俺が直に相手をしてやる、そっちにその気があるのならな?」
「ひっ、えっ……あっ、ぐうっ!?」
プレートを持って
どうやら完全に腰が抜けていたようで、確かに放たれた殺気は物理レベルだったと護人も思う。お陰で自分の出番は無くて済んだ、荒事が苦手な性格の護人はホッと胸を撫で下ろす。
姫香と紗良も、顔見知りらしい甲斐谷と翔馬に礼を言っている。
それどころか、2人は客として余っていたスキル書2枚を買い取ると言ってくれて。他にもダンジョン産の万年筆や、魔法の消臭の置物を追加で購入する太っ腹ぶり。
その後はチームリーダの護人に挨拶をして、そこから奥の机で何やら話し込む素振り。探索関連だと思われるが、売り子の姫香には内容は全く聞き取れなかった。
やきもきしながら、時折後ろの模様を眺める少女だったり。
幸い、その会合の間の3人の表情は、終始穏やかで世間話でもしている風だったけど。話し合いの最期に、辛うじて姫香が聞けたのは“四腕”の来栖と言う動画で付けられた二つ名だった。
何か格好良いねと姉の紗良に振ると、動画のコメ欄では護人の活躍は有名らしい。それから例の“四腕”の通り名も、ちょっとずつ定着して来ているとの事。
知らなかった姫香は、ただ感心するのみ。
夏の研修で知り合った『ヘリオン』の翔馬と甲斐谷は、姫香と紗良にも頑張れよと声を掛けて去って行った。その顔はどこか満足げで、目的を果たしたような満ち足りた表情に思えて。
本当に何を話したんだろうと、気もそぞろな姫香である。そしてそんな混沌の場をかき乱すように、香多奈がお客さんを連れて戻って来た。
お姉ちゃんの知り合いらしいよと、その言葉はどこか呑気そう。
その言葉に驚いて、改めて妹の側に立つその姿を見詰める姫香。セーラー服姿で小柄な体格、整った顔付きだがどこか無表情で生気のない容貌である。
姫香はもちろん知っていたし、最初に声を掛けたのは紗良の方だった。さっき教官役の人も来てくれたんだよと、どこか親し気なその口調。
もちろんそうだ、夏の研修旅行で一緒のチームだった少女。
「陽菜っ、久し振り……遠いのに、わざわざ遊びに来てくれたんだっ!?」
「あれっ、ねえっ……陽菜ちゃん、確か地元は尾道だったよね?」
その質問に頷きを返した少女は、お土産だと『はっさく大福』をブースにデンと置いた後。改めて頼みがあると、姫香と紗良に深々と頭を下げる。
それから思い詰めたように、頼み事を2人に向けて口にした。
「この地まで、はるばる修行に来た……悪いが
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます