第89話 2度目のレア種を何とかチームで退ける件
一投目の投擲を失敗した姫香は、護人の腕の中で思いっ切り落ち込んでいた。巨大なレア種のターゲットは、相変わらずこちらで隙は無いように見える。
二投目を投げてみたい気もするが、これを外したらチームに顔向けが出来ない。しかし敵はあの巨体だ、向こうに避ける術は無いようにも思える。
あのブレス技、連続で使えるのだろうか?
後衛陣はなおも慌てていて、敵のブレスの効果は離れていても割と酷かった模様。追撃を許すなとの護人の叱咤に、落ち込んでいた姫香は背筋を伸ばして敵を見定め直して。
改めて『身体強化』を掛け直しての、2度目のシャベル投擲は辛うじてヒット。ただし場所は敵の左前脚で、大きく
それでも移動力は削げたかも、そして迫り来る巨大な
それを左右に転がって回避する前衛陣、巨体だけに厄介な敵は反撃の取っ掛かりが難しい。前に陣取れば
過去イチの難易度には違いなし、小山のようなレア種には痛覚の類いも無い様子。ただし怒りの感覚はあるようで、縄張りに入り込んだ虫コロに猛烈に反応している。
そしてその能力は、巨体とブレスだけでは無かったよう。
レア種の咆哮と共に震える巨大な体躯、その拍子に飛び散る腐肉が幾つか。それが地面に転がり落ちると、各々が意思を持ったように動き始める。
そして1メートル級の腐肉ゴーレムが、いつの間にか至る所で活動を始めていて。いきなりターゲットに指定された姫香は、慌ててそいつとの戦闘を始める破目に。
腐肉から生まれ立てながらも、奴らの動きは意外と素早い。
護人の方は、本体の腐肉恐竜に完全にロックオンされていて大変な目に。レア種の迫り来る顔の大きさだけでも、自分の身長より大きい有り様なのだ。
まして腐肉だけでなく、その開かれた
アレに噛まれたら身体中穴だらけは間違いない、向こうもそれを狙っていると思われて。ブレスが再びやって来ないだけマシか、護人は相手を観察しながら分の悪い戦いを続ける。
再度ブレスが来た時に、後衛陣が巻き込まれない位置取りはさすが。
一方、ブレスの被害を免れたミケとルルンバちゃんは、協力して敵の機動部隊を封じ込めていた。ちなみに小柄なミケは、ルルンバちゃんの座席の影に潜んで事なきを得て。
ルルンバちゃんの方は、その強靭なパーツでブレスの被害を耐えていた。そして3体のスケルトン騎士に、真正面からぶつかるルートを選択して。
そこにミケの『雷槌』での、痛烈なサポートが降り注ぐ。
驚いた事に、それで脱落するスケルトンはいなかった。それでも3騎の内のルルンバちゃんと激突したスケルトンは、被害甚大で腐肉ホースから転げ落ちている。
他の2騎は、左右を抜けて後衛に迫る構え。それを阻止すべく、追撃でミケが雷を落として回るのだけれど。それに構わず、後衛へと迫るスケルトン騎士たち。
そこにようやく、回復したレイジーが立ちはだかる。
実際、後衛陣のブレス被害は割と酷くて大変だった。レア種の腐肉恐竜のブレスには、悪臭と麻痺と、恐らくは腐敗とかそんな大量のデバフが掛かっていたようで。
護人のマントは、よくぞそれを単身で防いだと感心するレベル。いや、2人とも防毒マスクをしていたのが大きかったのかも。そしてレイジーを始めとする中~後衛陣は、直撃では無いにしろそれを吸い込んでしまい。
鼻の利く犬達は、特に被害甚大でのたうち回っていた始末である。
一番被害が少なかったのが、ミケと最後衛の紗良と香多奈だった。ってか、香多奈はブレスが来た瞬間に、紗良の腕を取って後方へと避難していたので。
実質的な被害はほとんど無く済んで、犬達の介護に素早く当たる事が出来た次第である。紗良の『回復』と香多奈の解毒+浄化ポーションのぶっかけで、いち早く復帰したレイジーは。
腹立ち紛れの八つ当たり、最大限の『魔炎』で何と騎士の1体を丸焦げに!
弱点属性だったのかも知れないが、それにしても凄い威力である。なおも近付く1騎だが、これも復帰した巨大化コロ助が体当たりで接近を阻止する。
香多奈の『応援』効果は、『魔術の才』のお陰なのか威力も効果時間も跳ね上がっていて。これも八つ当たり気味の攻撃で、落馬したスケルトンは『牙突』の追撃でボロボロに。
そして間を置かず、腐肉ホースも後を追う破目に。
これで後衛の安全は、取り敢えずは保たれた感じ。ホッとしながらも、前衛の2人の攻防に改めて目をやる紗良と香多奈だったけど。
向こうは相変わらず苦戦中で、そもそもあの巨体を2人で足止め出来ているだけで凄いレベル。頑張れお姉ちゃんと、香多奈の精一杯の支援が飛ぶ中。
腐肉恐竜の咆哮と、今度は牙の数本を振るい落とす暴挙!
それは地面に落ちるとともに、またもや段々と姿を変えて自立して動き始めた。今度は強そうな獣スケルトンで、四本足でいかにも獰猛そうだ。
何とか10匹近くの腐肉ジュニア達を、単身
これは本体を始末しないと、エンドレスの苦行が続く予感。
その時、姫香の側に突然ツグミが湧くように出現した。驚く姫香だが、
そして彼女が口に咥えていたのは、ご主人の姫香が最初の投擲で失敗したシャベルだった。でかしたと思わず小声で叫ぶ姫香、それを受け取って再度の浄化シャベルを投擲の構え。
『身体強化』込みのそれは、狙い違わず腐肉恐竜の体の中央にヒット!
位置的に敵の長い首や顔を狙い難かったのもあるが、慎重になった結果狙ったのが的の大きな体である。それでも今度の攻撃で、向こうの巨体は大きく震えてくれて。
ダメージが通ったのは確実そう、お陰で今度は姫香がタゲを取ってしまったけど。慌てた護人は彼女を呼び寄せながら、《奥の手》使用で自前のシャベルを投擲する。
それが見事、レア種の左目にヒットする。
再び絶叫を上げる腐肉恐竜、大暴れを始めて接近など自殺行為の状況に。痛覚など無さげなんだけど、とにかく間を置けと護人は慌てて姫香に指示を飛ばす。
その瞬間、天から炎の塊が降って来た。
いつの間にか『歩脚術』で天井に張り付いていたレイジーが、『魔炎』を最大出力で放ったらしい。質量さえ備えていそうなその炎の束は、一気に腐肉恐竜を圧し潰して行く。
いち早く避難していた護人と姫香は、ひたすらその光景に驚くのみ。チームで一番最強だとは認識していたけど、まさかこれ程スキルを操る能力を持っていたとは!
その圧力に圧し潰された巨体のレア種は、地に首を伏せ青色吐息。
出現していた獣スケルトンも、半数以上は炎の余波に呑まれて沈んでいた。残りの敵は、コロ助とルルンバちゃんが向かって相手をしているようだ。
後は本体に止めを刺すべきなのだろうが、レイジー程の火力を持たない前衛陣は、取っ掛かりを探して戸惑うばかり。そこにツグミが、またしても『闇縛り』で武器のシャベルを回収して来てくれた。
何というサポート能力、2人はそれを手に取って1度後衛と合流する。
「紗良、もう一回浄化ポーションを両方のシャベルに掛けてくれっ! 大急ぎで頼む、レイジーの作ってくれた流れを無駄にしないぞ、姫香!」
「はいっ、護人叔父さんっ……今度こそ、奴の顔に命中させてやるよっ!」
慌てつつも丁寧に
3度目になるその投擲は、勢い良くレア種の肩口にヒット。大きく腐肉が弾け飛ぶが、まだ消滅には至らず。さすがにしぶとい、そして護人の愛用のシャベルも処置が終わって。
護人も同じく、助走をつけてそれを投擲。
今度こそ、ようやく腐肉恐竜の顔面に当たってくれた浄化シャベル。その瞬間に、巨大な敵の体躯が大きく震え出して。パアンッと大きな音を立てて、レア種はその場から消滅。
予備の槍を取り出して、念の為の準備をしていた紗良はその作業を中断。その隣では、香多奈が大喜びで飛び上がっている。犬達も順次戻って来て、良い狩りが出来たと満足そう。
ルルンバちゃんが、早速ドロップ品を回収して回っている。スケルトン騎士も何か落としたようで、その数は結構多かった模様。
一緒に回収した香多奈も大満足、何しろスキル書も落ちていたのだ。
「いや、予定外のレア種との遭遇だったな……これ以上は無理だし、戻ろうか?」
「了解、早く戻って思いっ切りシャワー浴びたいよっ!」
「そうだねぇ、悪臭にはいい加減慣れちゃったけど……みんな凄く汗を掻いてるし、戻ってすぐお風呂は沸かそうね!」
そんな訳で帰還の話はすぐにまとまって、戻り支度を始める来栖家チーム。帰り道も気を抜かないようにとリーダーの指示の下、しかし道中は何事もなく入り口までに到達して。
数時間ぶりの外の空気に、思い切り解放感を満喫する人間と犬猫たち。それもその筈、あの悪臭エリアは当分嗅ぎたくないし行きたくも無い。
そして早々に、キャンピングカーに乗り込む面々。
全員が探索着を脱ぎ捨てて、ひと風呂浴びてようやく寛げたのは、それから約1時間後の事。今は全員がリビングに集合して、今回の探索の反省やドロップ品について語っている。
明日は朝一で、犬達にシャンプーするよと姫香の言明。とは言え、ミケを嗅いでみるに変に臭いは移っていない様子。それでも気分的に、やっておきたいのは皆一緒である。
探索着の洗濯も、念入りにしようと紗良は考えてるし。
大半が革仕様なので、本当は水洗いは駄目なのだけれど。何とかしなければと、妙な使命感に燃えている紗良であった。それに引き換え、香多奈はドロップ品にウキウキ模様で。
最後に戦ったレア種だが、酷く悪趣味な形の剣と腕輪をドロップ。それから拳大の魔石と共に、30センチサイズの牙を大量20本近く落としての大盤振る舞い。
そしてスキル書も1枚と、スケルトン騎士からもドロップ品が。
こちらは例の石の結晶がそれぞれ3つと、動物の牙を使ったような槍が3本。触った限りでは、骨製なのに鋼製のよりも硬いし強そうな気もする。
そこはまぁ、素人鑑定なので良く分からないが。今回は他にも色々と回収品があるので、姫香や紗良も楽しそう。紗良は特に、異世界語の小冊子×3冊が気になる様子。
それを含めても、今回は金箱のアタリが多い。
香多奈は妖精ちゃんと魔人ちゃんに、今回の探索で鑑定すべき魔法の品の選り分けを頼み込んでいる。その間に、スキル書の相性チェックをしようと家族に提案して。
それはいいねと姫香が乗って、早速のスキル書4枚とオーブ珠を贅沢にも4人で回して行く事に。そして1人5回の相性チェックが、全員とも見事に裏切られる顛末に。
騒然とする場であるが、確率からすればそんなモノ?
「神崎姉妹も、確か3つ目のスキル書を覚える確率はグッと下がるって言ってたしな。こうなるのは当然なのかも、後はミケとルルンバちゃんとハスキー軍団かな?
香多奈、ブー垂れてないでチェックしてあげなさい」
「は~い、叔父さん……ミケさんっ、何で逃げようとするのっ!?」
こんな末妹へのからかいは、ミケの
そんな香多奈の労力は、ルルンバちゃんを含めて報われず。ってか妖精ちゃんが、このスキルを何で誰も覚えないのと、スキル書の1枚を振り回してお怒りの様子。
少なくとも、香多奈の通訳によるとそうらしい。
「香多奈っ、ハスキー軍団を縁側に呼んであげたよ、さっさとみんなの相性チェック済ましな。……んで、妖精ちゃんの振り回してるスキル書が何だって?」
「アレだけは、妖精ちゃんも見覚えのある魔方陣なんだって。『錬金術』を覚えられるスキル書らしいから、薬品とか色々作って異世界交流に貢献しろだって!
言ってる意味分かる、お姉ちゃん?」
サッパリだよと、寄って来たハスキー軍団を順に撫でている姫香である。香多奈も試してダメだったら仕方が無いよねぇと、半分諦めて残りのスキル書を運ぶ作業。
そんな中でも、妖精ちゃんの抗議はヒートアップ。バンバンと何かを叩く音が聞こえて来て、癇癪を起してスキル書の上で暴れる小さな淑女。それを傍で宥める魔人ちゃん、成果はまるで上がっていないけど。
そして不意に、妖精ちゃんを承認の光が包み込んで。
あ~あと言う声が各所から、案の定スキル書は塵と消えていて、妖精ちゃんが『錬金術』らしきスキル書を覚えてしまった模様。優しい面々は、その失態には敢えて誰も触れず。
魔人ちゃんも、やっちまったなぁって顔で明後日の方向を眺めるのみ。肝心のハスキー軍団の相性チェックの結果だが、こちらは何と2つの承認を確認出来た。
コロ助がスキル書で、レイジーに至ってはオーブ珠である。
――レイジーってば、どこまで強くなるのと家族全員が思った瞬間だった。
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