第87話 臭いの酷いダンジョンを奥へと降りて行く件



 3層も構造的には大きな変化は無し、ゴミの質が多少違うかなって感じではある。そして出て来る敵も雑魚の大ネズミとゴキブリが大半で、それをあっという間に蹴散らして行って。

 本当に今回の探索では、ルルンバちゃんがキル数が断トツに一位かも。みんなに褒められて、浮かれた様子の彼ではあるけど、2階の渡り通路は確認に行けず、そこは姫香が向かう事に。

 そして新たな敵に、大慌てする破目に。


「わっわっ、大きな蛾が飛んで来たっ! 助けて、護人叔父さんっ!」

「慌てて落ちたら怪我するぞ、姫香っ! 登り切って対処して、今レイジーが応援に行くからっ!」


 梯子を登り切る寸前に襲われて、パニック模様の少女だったけれど。リーダーの声掛けで、その通りに梯子を登り切っての応戦に。

 レイジーも『歩脚術』で垂直の壁を簡単に登って、姫香の戦闘サポートに余念が無い。出て来た大蛾はたった2匹で、冷静に対処されると1分と持たずに魔石に変わって行く破目に。

 そして苦労の甲斐あって、通路の端に怪しいゴミ袋を発見する姫香。


 真っ黒な昔風のゴミ袋だが、レイジーがついでにと咥えて来てくれたので宝物確定である。それを下に待つ妹に向けて放り投げる姫香、慌ててキャッチ……は、ツグミが『影縛り』の影の触手でしてくれた。

 ツグミにお礼を言って、早速中身のチェックを始める末妹である。そして下手に掴まないで良かったと安堵、何しろ中には瓶の類いが、何本も入っていたのだ。

 杜撰ずさんな姉に文句を言いつつ、それらを全て出して行く香多奈。


「わっ、ハンマーみたいなのも入ってた……お姉ちゃん、投げるなら中身をちゃんと確認してよっ! 怪我するところだったよ、本当にいい加減な性格なんだからっ。

 そんなだから、彼氏とか出来た事無いんだよっ!」

「余計なお世話だよ、あんたこそいっつも一言多いよっ!? 大体、アンタの我が儘で私や護人叔父さんがいつも苦労してんじゃんっ!

 アンタはもっと、私達に敬意を払うべきでしょっ!?」


 その通りであるが、下手に片方の味方をすると破綻が訪れるのは目に見えているので。護人は両者を宥めながら、紗良のアイテムチェックの報告を聞く。

 ポーション類が3種あって、その中の1本はMP回復ポーションらしい。それから蛆虫をかたどったイヤリングと、片手持ちのハンマーが1本。

 確かにこれを投げ落とすとは、危ないにも程がある。


 そう護人が口にすると、さすがに姫香もシュンとなってしまった。それ見ろと言わんばかりの香多奈だが、危険を承知でこれを取りに向かったお姉ちゃんに、感謝が足りないのも事実。

 喧嘩両成敗と言うか、お互い思い遣りが足りなかったねと家長が仲直りを促すと。謝り慣れている香多奈が、最初にゴメンなさいの一言を告げて。

 姫香も謝り返して、ホッと胸を撫で下ろす護人と紗良。


 犬達も、姉妹の関係の修復に尻尾をブンブン振り回して歓迎の素振り。その辺は、ハスキー軍団も家族の一員だけはあって本当に嬉しそう。

 そして再開される探索業だが、階段までは上の層と全く一緒で。管理人よろしく小部屋に詰めている、腐肉ゴーレムの配置まで寸分換わらず仕舞い。

 そいつを、今回はレイジーの『魔炎』で試しに倒して貰って。


 検証の結果、一番短時間で倒せて効果が高かったのは、レイジーの『魔炎』スキルだった。その次が浄化ポーションだが、直接浴びせればもっと劇的な効果が望めた可能性は高い。

 簡易火炎放射装置は、簡易だけあって炎の勢いがイマイチなのは否めない感じ。向こうが燃えやすいので、辛うじてって感じだろうか。

 とにかくこれで3層は終わって、次は4層の攻略へ。



 ここも途中までは構造も敵の配置も、上の層と全く同じで何の変化も見られず。今回は2階の通路ギャラリーのチェックは放棄、護人の言葉に大人しく従う子供たち。

 その代わり、宝物は意外な場所から見付かった。何とゴミの山からはみ出した、捨てられたとは思えない綺麗なシステムキッチンをルルンバちゃんが発見して。

 その開きの1つから、何とスキル書を1枚ゲット!


「やったぁ、他にも色々と入ってるね! えっと、鑑定の書が2枚と木の実が4個、それからナイフと変な置物が出て来たよっ!」

「でも、何で宝箱の代わりがシステムキッチンなんだろ? 粗大ゴミっぽい入れ物って、ダンジョン探索してると結構あるよね?

 リサイクル好きなのかな、良く分かんないな」


 姫香の当惑ももっともだけど、それを見つけ出して来るハスキー軍団やルルンバちゃんは凄いかも。雑魚の殲滅以上に、助かっている部分は多い気がする。

 そんな感じで宝物を回収して、気が抜けていた場面にそいつ等とは遭遇した。襤褸ぼろを纏った小柄な人型のモンスター、しかし顔はハエ男と言う連中だ。

 それらがゴミの山の影から、一斉に襲い掛かって来て。


 注意喚起も既に遅く、完全に囲まれての接近戦。敵の数は半ダース以上で、手にはそれぞれ鋭利な武器を構えている。ひ弱そうな体型だが、そのスピードと組織力は侮れない。

 前衛陣は咄嗟に応戦出来たが、詰められた後衛陣はパニック模様。鼻の利かないハスキー軍団が、慌てた感じでフォローに回っている。そこにミケの雷槌の乱れ落ち、咄嗟ながらも先制の攻防は制する事に成功。

 後はハスキー軍団が、それぞれ蹴散らして行くパターンに。


 護人と姫香も、鋭い切っ先の武器に慌てながらも何とか取り付いた敵を撃破。身体に一撃入れれば、やはり脆い感触が伝わって来るのだが。

 攻撃力とスピードに関しては、大ネズミなんかの雑魚とは較べられない程で。コロ助がその身に刃を受けていて、香多奈が驚いて声を上げるシーンもあったり。

 ただし今回は、紗良の用意した犬用ベストが活躍してくれた様子。傷の絶えないコロ助用にと、防御力アップの石を編み込んだベストが効果を発揮して。

 何と鋭利な刃物を弾き返し、無傷で状況を切り抜ける事に成功!


 これには製作者の紗良もニッコリ、そしてレイジー用の攻撃力アップのベストも地味に効いている様子。少なくとも、ハエ男を雑魚扱いするそのパワーは、前より格段上がっている気が。

 少々不安だったが、試運転は上々だったようだ。


 そして4層も、小部屋を含めて順調にクリア。間引きの点でも、結構な数のモンスターを倒せている。後は5層の中ボスを倒して、余力があればもう少し潜るか相談する感じだろうか。

 などと思いながら、護人は5層の構造を伺ってみる。ゴミ山は相変わらずで、どうも奥の階段の場所に中ボス部屋があるみたいだ。

 雑魚を倒しながら、一行はそこへと向かう。


「ルルンバちゃんが大活躍だね、中ボス前に補給してあげようっ! えっと、給油口からポーションと魔石を入れてあげればいいんだっけ?

 魔石は何色が良いの、黄色?」

「そうだな、突入前に少し休憩しようか……ハエ男は全部倒せたかな、奴らに奇襲されるのはもうこりごりだ。

 紗良、ハスキー達にMP回復ポーション飲ませてあげて」

「分かりました、護人さん」


 そんな感じで5層フロアの探索も、中ボス戦前の休憩も終えて。作戦も一応は織り込み済み、強敵が出て来た場合はレイジーとミケの魔法の火力に頼ると。

 それに加えて、毎度の姫香の遠投攻撃も合わされば、大抵の敵は瞬殺が可能だ。ボス級をあっという間に片付けるとは情緒も無いし酷い話だが、強敵相手に戦いが長引くのは怖過ぎる。

 やはり最善の策は、速攻で相手を片付けるに限るのだ。



 そして扉を潜って侵入した中ボス部屋だが、意外と広くてここにも至る箇所にゴミ溜まりが。そこで活動しているのが、何と軽トラほどもある大蛆虫と言う。

 それが3匹、その奥には3メートルを超す腐肉ゴーレムのおデブさんが1体。おそらくコイツがボスっぽいが、太り過ぎて動きは物凄く緩慢なのが見て取れる。

 護衛役の5体のハエ男の方が、余程強そうに見えるのが不思議。


 来栖家チーム的に、護人の立てた作戦は絶対なので。まずは姫香の投擲シャベルが一番奥のおデブさんにヒット。しかし勢い良く肉に呑み込まれるだけで、シャベルの投擲に大したダメージは無い様子。

 慌てた紗良は、姫香の再投擲前のシャベルをひったくるように受け取って。浄化ポーションを塗布してから、再びエースへと手渡し作業。

 そして今度こそと、香多奈の応援込みの投擲攻撃が中ボスにヒット!


 その一撃で、パンッと派手な炸裂音が部屋の中に響き渡る。ちなみに前衛の猛威も酷い、レイジーとミケの魔法の乱舞でハエ男は近付く事すら儘ならず。

 護衛に構えていた護人も、出番の無いまま戦いの成り行きを見守るのみ。そしてついでの様に、倒されて行く巨大な蛆虫……こいつも大きいだけで、出番は全く無かった。

 かくして中ボス戦は、5分と掛からず終了の憂き目に。


 そして張り切ってドロップ品を回収する、香多奈とルルンバちゃんのコンビ。活躍の無かった中ボスは、ピンポン玉サイズの魔石とスキル書を1枚、それらか妙に濁った薬品を落とした。

 これでスキル書は2枚目だ、喜びながらも今度は部屋の隅に置かれた宝箱の前へ。紗良と姫香も合流して、その宝箱の色に驚いている。

 何と金色だ、つまりは大当たりと言う事になる。


 喜びながらも、その中身を確認する子供たち。目立つのは古臭いマントと、同じ色合いのグローブだろうか。金箱からの入手なので、見た目と違って何らかの魔法の品に違いない。妖精ちゃんも、香多奈にグッドのゼスチャーを送っている。

 それを鑑定しろと言わんばかりに、上級の鑑定の書が7枚も入っていた。それから魔石とも違う、何やら結晶のような綺麗な透き通った小石が3つ。

 そして以前見た事のある、虹色の果実が2個。


 香多奈がそれらを取り出して行き、姉に次々に報告する。紗良が気になったのは、その中に小冊子が3冊混じっていた事。試しにめくってみるが、書かれてある文字が解読不明で全く読めない。

 異世界文字だと、隣の姫香は盛り上がっているけど。本当にそうなのかも知れず、突っ込む者はこの場にはおらず。そして一番奥には、オーブ珠が1個転がっていた。

 それを発見した香多奈は、やったねと狂喜乱舞している。


 さすが金箱だと、他の家族も驚きを隠し切れない様子。アイテム数もそうだが、質もこの上なく高い感じを受ける。この分だと、薬品や魔法の装備品らしき物も期待出来そうな予感。

 ちなみに薬品はどれも2ℓのペットボトルに入っていて、うち2つはMP回復ポーションとエーテルだと判明した。しかも両方とも1ℓ以上入ってて、量的にも嬉しい限り。

 それから最後に、美術品のような丸いオブジェが4つ。


 どれも不揃いだが、設置型の照明器具の様に机に置くように作られている。大人の顔程のサイズで、見た目はゴミと針金で造られた精密な美術工芸品のような感じ。

 これも恐らくは魔法の品か、もしくはそのまんま美術品なのだろう。芸術よりも実用が大事だと、香多奈は勝手にオーブ珠との相性チェックを行っているけど。

 姉の姫香に頭を叩かれ、またも姉妹喧嘩一歩手前の雰囲気。


「これこれ、喧嘩しない……香多奈も勝手しちゃ駄目だ、そう言う大事な事はお姉ちゃんか俺に確認を取らないと。

 危ない事をするなら、今後は探索に連れて行けなくなるぞ?」

「は~い、叔父さん……あっそうだ、魔人ちゃんを召喚してもいい? 透明な魔石も幾つかは集まってるよね、紗良お姉ちゃん?」

「う~ん、大きい魔石で透明のは無かったかなぁ……小粒のなら何個かあるね、召喚しても大丈夫ですか、護人さん?」


 アレは口煩くちうるさいから、本当は探索中はご遠慮したいのだけれど。しかも小柄サイズだと、戦力にはなりようも無いのだし。

 それでも子供の提案を無碍むげには断れず、護人は仕方なく了承の合図を末妹に送る。嬉々として魔法のランプをリュックから取り出して、その中に紗良から手渡された魔石を放り込んで。

 みんなの師匠、魔人ちゃんがようやく出現。


 そして早速、香多奈に向かって文句を並べ立てている様子。どうやらここが5層なのに気付いて、もっと早く召喚すべきだろうととがめているらしいのだが。

 小柄な癖に、妖精ちゃんよりお喋りである。香多奈はその文句を軽く受け流し、小っちゃいけど戦闘に役立ってねと無茶振りを返している。

 それにはフランクに、肩を竦めて応じる魔人ちゃんである。



 10分程度の休憩を終えて、臭いにも慣れて来たしもう少し潜ってみようとの意見で一致した家族チーム。金の宝箱を引いて、収入的には充分なのにこの勢いである。

 取り敢えず前回と同じく、8階層当たりを目処に進もうとリーダーの護人の意見に。時間的にも2時間とちょっとの探索になる筈で、何の文句も子供たちからは出ず了承の構え。

 ハスキー達は、やや不幸そうな顔色だけど。


 そんな訳で第6層へ、そして相変わらずのゴミ山の数と臭いが待ち構えていて。違う点と言えば、やや臭いが薄らいでいる点だろうか。

 或いは慣れのせいかも知れないが、敵の種類が変わったのは間違いは無い様子。頭上から、いきなり大蛾が数匹舞い降りて来ての鱗粉りんぷん撒き攻撃。

 これを吸った前衛陣、身体に痺れを感じて途端にピンチ!





 ――それに応じる様に、無数の敵がゴミ山の影から出現して来た。






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