第86話 有り難くも無い場所の間引きを依頼される件
8月頭の青空市と、その後の家族のキャンプ旅行(但し日帰り)を楽しんだ夏のある日。まだ香多奈の夏休みも、たっぷり3週間は残っている8月の上旬の日の朝に。
既に定例となった、自治会からのダンジョン間引き依頼が来栖家に届いて。町に2組目の探索チームが居付いたとは言え、町のダンジョン情勢は相変わらずみたい。
何しろ他の町から“魔境”と言われる立地だ、そこは致し方ないのかも。
とにかく時間があれば、協会の方に来てくれとの自治会長の言葉に。隣で聞き耳を立てていた香多奈が、姉の姫香と紗良を呼び寄せて家族行事にしてしまった。
これもまぁ、毎度の事と言うかお茶目な少女の為す悪戯と言うか。とにかく家族揃って、おまけにハスキー軍団も車に乗せて、麓の町まで20分後には降り立つ事態と相成って。
これも家族サービスかと、無理やり納得する護人である。
「毎回済まんの、護人……おまけに今回は、ちょっと問題のあるダンジョンでな。山の上にゴミ焼却施設があるじゃろ、あそこがダンジョン化しとってな。
出て来るモンスターも、ネズミとかゴキブリの類いなんよ」
「えっ、それは……俺は別に構いませんけど、子供たちが何て言うかな。犬達も戦った結果、病気とかになったら嫌だな……」
今回の依頼先は、どうもゴミ山で形成されたダンジョンらしい。今も安全を確認しつつ、そのゴミ焼却施設は定期的に稼働しているらしいのだけど。
人口減と物資減のお陰もあって、ゴミの総量も減って来ている昨今なので。稼働する日も月の半分程度で済んでいるらしい。良い事なのか、悪い事なのかはともかくとして。
しかしそんな場所にも、ダンジョンは遠慮せず生えて来るらしい。
子供たちに伺ったところ、別にいいよと気楽な返事で。本当にいのかなと、内心ではこの暑さの中での探索業に疑問がありまくりの家長である。
そして同伴していた自警団『白桜』の団長、細見の後ろめたそうな申し出。何なら交代するし、胸丈ゴム長靴やガスマスクや簡易火炎放射器の貸し出しもすると。
……どんだけな場所なんだ、その目的のダンジョンはと内心で護人。
「臭いが酷過ぎる場所だと、ウチのチームはちょっと……主力のハスキー軍団の動きが悪いと、探索に思いっ切り支障が出ますからねぇ」
「うん、まぁ……そこまででは無いけど、途中の個所にそんな場所もあるのは確かだ。ちゃんと人が通れるルートは存在するから、寄り道さえしなければ大丈夫」
「道がちゃんとあるなら、ルルンバちゃんは今回は主力になれるかな? それなら大丈夫、受けようよ護人叔父さん」
元気な姫香の一言に、末妹の香多奈も明るく同意して。実は既に、探索道具一式をキャンピングカーに放り込んで来ていると言う周到さ。
そのままの勢いで、依頼を受けて探索に乗りこむつもりの姉妹である。それに折れて、護人も渋々同意する流れに。嫌な予感を押し隠しながら、ダンジョンの場所確認などを始める。
そして再び、キャンピングカーでの移動を果たして。
昼前には目的の場所“ゴミ処理場ダンジョン”へと到着、キャンピングカーの中で軽く腹ごしらえをこなして。お弁当持参は、紗良のアイデアと言うかお手柄である。
それだけでお出掛け気分で、お裾分けに与ったハスキー軍団のテンションも大幅にアップ。施設の周囲に人影はなく、どうやら今日は稼働日では無いらしい。
そして肝心の入り口も、呆気無く見つかり突入準備は完了。
「みんな準備はオッケーかな、忘れ物は無いな……?」
「大丈夫だよ、叔父さんっ! 暑いから、早くダンジョンの中に入ろうっ」
ダンジョン内は決して、冷暖房完備の施設とは違うのだけど。こんな炎天下でボーっと突っ立っていても、良い事など何も無いのは確かである。
そんな訳で、施設の建物の横に繋がるようにして出来ている大穴へと、皆で緊張しながら突入して行く。ハスキー軍団もそれに付き従い、ルルンバちゃんもサポートを貰って階段を下る。
ちなみにルルンバちゃんだが、今回は残念ながら乗用草刈り機モードのまま。キャンピングカーに搭載となったら、このサイズが限界なのだから仕方が無い。
それでも皆から期待しているよと言われ、彼のテンションは上がりまくりな様子。元気に先陣を切ろうとして、階段の段差に
とにかく来栖家チームの、何度目かの探索の開始である。
そしてその中の構造に驚く一同、コンクリの打ちっ放しの広い室内には。床に四角い大穴が、ブロックごとに整然と並んで奥まで続いている。
その間には、人の通れる通路が升目上に通っていて。
「うわっ、マスクとゴム長靴を勧められた時点で覚悟してたけど……やっぱりゴミだらけの廃棄場だね、護人叔父さん。でもゴム長靴は暑いし動き辛いから、装備は出来ないかなぁ。
敵は何処だろう、確かネズミとかゴキブリが出るんだよね?」
「叔父さん、ハスキー軍団もミケさんも暑さなのか臭いなのか、元気がない感じだよっ? これは困ったねぇ、せっかく紗良姉さんが新しい装備作ってくれてるのに」
「そうだな……色々と制約は多くなるけど、ここは動ける人間で対処して行くしかないな。姫香、負担は大きくなるけど頑張って行こう。
今回の探索は、無理しないで進もうな」
はいっと元気な子供たちの返事、それに反応する様にゴミの山からゴキブリと大ネズミの群れが、こちらに気付いて近付いて来た。
早速の戦闘だと張り切る姫香と、立ち込める臭いでイマイチ気概の上がらないハスキー軍団。それでも雑魚に後れを取る者はおらず、敵の群れは順調に駆逐されて行く。
最初の遭遇戦は、2分と掛からず勝利で終了。
初のゴキブリ相手だったが、姫香も護人も特に思う事は無し。後ろで紗良が息を呑んでいたか、その程度の反応だ。レイジーに至っては、踏み潰して殺していたし。
まぁ、A4用紙のサイズなので強力な攻撃力などは無いだろうけど。数は多いようで、あちこちからガサガサと嫌な音が聞こえて来る。
一同は、改めてダンジョン内を見渡してみると。
体育館のように、2階の壁際に細い
敵の姿は見えないが、ひょっとしたら何か置かれているかも。そう言う末妹だが、確認に向かうのはやつぱり機動力に優れている姫香だったり。
ただし本当に確認のみ、チラッと見てすぐ戻って来た。
「何もナシ、敵もいないし宝箱も置かれて無かったよ、香多奈」
「それじゃあ進もうか……ゴミの山の近くを通る時には、皆ちゃんと注意するようにな。ほれ、ここにもスライムが隠れていた。
死角も多いし、犬達の鼻も利かないからな」
「スライムいるのっ? わおっ、私が倒して良いっ、叔父さんっ!?」
何故か盛り上がる末妹と、スライムと言う存在にこれまた興味津々の紗良。両者が進み出て、予備の武器のスコップを取り出して、初のモンスターを直接倒す経験を踏んでいる。
それを温かい目で見守っているレイジーとミケ、香多奈など完全に狩りの初心者認定されている風だ。それが無事に終わると、チマチマと出現する雑魚を狩りながら奥へと進み。
そして下へ降りる階段と、右手には小部屋に続く通路が。
そこの扉は壊れていて、中で巨体が動き回っているのが遠目からも窺える。どうやら腐肉で出来たゴーレムらしい、前情報で存在は確認されているのだけど。
対面すると、異臭も凄いらしい……そんな訳で、自警団も大抵は素通りして行くとの事で。ただし来栖家チームでは、子供の我が儘がまかり通る確率が非常に高い。
何か部屋に落ちてるかもと、案の定の香多奈の言葉に。
こればっかりは、嫌そうな顔で本気なのと妹の言葉に反応する姫香。眺めていた護人も、蛆虫の大きいのもいるねと余計な情報を付け加えている。
ここは離れて焼却かなと、持参した簡易火炎放射装置を紗良から受け取る護人である。借り物だけど、自警団から効果のほどは保証されている。
レイジーのMP節約に、ちょっと試して来ると進み出て。
「おっと、これはなかなか……うわっ、酷いな! あんな暴れ回るのか、部屋がコンクリで助かったな。
……うん、そろそろ静かになったかな?」
「もう入っていい、叔父さんっ?」
ワクワクしながら、部屋のチェックを待ち構えている香多奈である。一緒にコロ助とルルンバちゃんも控えていて、何と言うかサポートは万全の様子。
一応確認に覗き込んでみてオッケーを出すも、部屋の中には目ぼしいモノは見当たらない。ガッカリしつつも、次は何かあるよねと元気な末妹である。
そんな訳で、皆で2階層へと移動を果たす。
そこも似たような、と言うか全く同じ構造で臭いも相変わらず。そして大ネズミやゴキブリの気配も、そこら中から漂って来ている。姫香が面倒臭そうに、近くのゴミ山を殴って大きな音で敵に存在を知らせる。
そして集まって来た敵を、前衛陣で駆逐して行く作業。ルルンバちゃんも大活躍で、チェーンソー攻撃で大ネズミを屠り、タイヤで大ゴキブリを踏み潰し。
それを後ろで、熱狂しつつ香多奈が応援している。
「ねえ、護人叔父さん……香多奈の応援って、ルルンバちゃんにも効果があるのかな?」
「どうだろうな、効いている気はするけど。まぁ、暑さにも悪臭にも性能が落ちないルルンバちゃんは、ここじゃエースになる可能性もあるよな」
「だよね……ってかルルンバちゃんにも、ちゃんと応援は効いてるよっ!」
そうらしい、大活躍の彼はご機嫌で先頭を進む勢いだ。もちろん倒した敵の魔石の回収も、滞りなく済ませている万能振りで。未来のネコ型ロボより、ある意味優秀かも知れない。
周囲の警戒をしながら、それに従う来栖家チーム。そしてこの層でも、スライムをゴミの中に見付けてちょっかいを掛ける後衛組。討伐初心者には丁度良いよねと、姫香もそれを優しく見守る構え。
その服の裾を引っ張るツグミ、どうやら何か発見した模様だ。
どうしたのと付いて行くと、何とゴミ山の一角に小さな宝箱が埋まっていた。大声で発見を知らせる姫香、それを切っ掛けに新たな敵が寄って来ると言う事態が。
慌てて戦闘をこなしつつ、雑魚の大ネズミを倒し終わって。改めてゴミの山から宝箱を引きずり出して、開封からの中身の確認など。
中には見慣れぬ色合いの薬品と、鑑定の書が4枚と魔玉が3個。
これは何の薬品かなぁと、首を傾げてチェック中の姫香に。妖精ちゃんが覗き込んで、何事か言葉を発した。それを翻訳する香多奈、中身は“浄化ポーション”らしい。
ゲームで言う聖水みたいな感じとの説明に、一同はもっとハテナ顔。つまりは不浄なモンスターに対して効果が高いのだと、補足の説明にようやく腑に落ちた表情の護人である。
つまりこれは、ゾンビ的な敵に特効な感じ?
「どの敵に効くのかな、ゾンビが出るとの前情報は聞いてないけど。さっきの腐肉ゴーレムになら、ひょっとして効果があるのかもな」
「これをあの敵にぶっ掛ければいいの、護人叔父さん? それはちょっと勿体無いな、私の鍬の先に浸してみようか?
それで効果があるのなら、これからの攻略も楽になるかも!」
姫香の発案に、それでも効果はあるでショと請け負ってくれる妖精ちゃん。ちなみに彼女も、このダンジョンの臭いにやられて飛翔する姿は元気がない。
それを尻目に、武器に液体を塗って準備万端の姫香である。何しろこの2層も、前の層と同じく突き当りに小部屋が存在していて。
中にはさっきと同じく、腐肉ゴーレムが待ち伏せているのだ。
そこに果敢に突っ込んで行く姫香、サポートにレイジーとツグミも付き従う。そして浄化効果の武器の威力と来たら、一撃で相手のお肉を弾けさせる勢い。
危うく腐肉を浴びる所だった前衛陣は、揃って絶叫を上げそうに。次の一撃で止めを刺した姫香は、恐らく我慢の限界に達したのだろう。
絶叫しつつ、部屋の外でスタン張ってた護人に抱き着いて来た。
「うわ~っ、嫌だヤダっ……弾けるのは無しだよっ、酷い目に遭った!」
「あぁ、そうだな……でも浄化ポーションの効果は分かったし、無駄じゃなかったぞ。次からは、無難に焼き払う事にしようか」
「あ~っ、家に置いて来た強力水鉄砲を持ってくればよかったね? ほら、蟲のモンスターに効くって薬品の入ったの、青空市で買った時の!
アレに入れて撃ったら、凄く面白そうだったのに」
確かにそれは凄そうだ、絵ヅラ的には全く面白くは無いだろうけど。恐らくやっぱり破裂して、凄惨な感じになってしまうのだろう。
ポーションの残りは約500mlで、乱暴に実験してたらすぐに無くなってしまうだろう。とにかく残りの薬品は奥の手に取っておくねと、紗良の手の元に渡って行って。
ここまでおよそ40分、まあまあのペースである。
――そして一行は、いつもの足取りで3層へと降りて行くのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます