第62話 行くか戻るか、長々と議論を交わす件



 今は姫香も意識を取り戻しており、それより重傷だったコロ助も元通りに動けるようになっていた。紗良の回復スキルと纏っているHP様々さまさまである、下手なポーションより凄い効き目だ。

 それでも戦いの傷跡は、ずっと酷く心に刻まれたのも確かで。現在は、護人と子供達でこの先に進むか戻るかの議論中だった。

 何しろたった2層進んだだけで、この有り様なのだ。


「でもアレは、変則的なトラップのせいじゃん! 通常の敵は全然大した事ないんだから、進んでも問題は無い筈だよ、護人叔父さん!」

「だがなぁ、回復して貰ったとは言え、姫香とコロ助は酷い打撃を受けたじゃないか。副作用があるかも知れないし、今日の所は引き返すのも手だぞ?

 幸い2層しか進んで無いから、戻るのは一瞬だ」

「でも逆に言ったら、肝心の間引きがたった2層しか進んで無いって事ですね。敷地内のダンジョンですから、放置は怖い事じゃないでしょうか、護人さん?」


 休憩をしながら、延々と両者の議論は交わされていたのだけれど。そこを突かれると弱い護人である、何しろ思いっ切り核心の問題なので。

 その隣では、香多奈がさっきの小部屋から探し出した収穫を眺めて嬉し気に妖精ちゃんと話し込んでいる。ちなみに、炎の魔人のドロップは1個も無かった。

 その代わり、魔人の出て来たランプは回収出来たけど。


 部屋のタンスや何かに隠されたアイテムは、鑑定の書が2枚にそれより大きな革の巻物が2枚。赤い爆破石が5個に、ポーション系の薬品が2種。

 なかなかの収穫量だが、末妹の興味はモロに魔法の品らしきランプに集中していた。護人と姫香の議論などマルっと無視して、終いには妖精ちゃんの指示で透明な魔石をランプに投入する始末。

 そして巻き起こる、周囲を巻き込むプチパニック!


 何とさっきの魔人が、小さな炎&煙の演出と共にニョキっと生えて来たのだ。ただし身体は小さくて、妖精ちゃんと同じサイズと言う。彼女の説明では、この召喚は与えた魔石サイズに準ずるそうな。

 それを召喚した香多奈は大興奮、ハローと早速コミュニケーションを取っている。向こうも割とフランクな様子で、意思の疎通は出来ているみたい。

 それを驚き顔で、見詰めている周囲の面々。


「えっ、香多奈……それってどうなってるの!? さっき倒した巨人が、小っちゃくなって復帰してるように見えるんだけど!?」

「あっ、これ? えっとね、妖精ちゃんのアドバイスで、ランプの精を復活させてみたんだけど……倒された事でダンジョンのしがらみを破棄出来たから、今度の召喚からは召喚主の意に沿えるんだって。

 妖精ちゃんとも仲が良いみたいだし、多分いい子だよ?」


 そうらしい、小さくなった魔人はそれなりに可愛いく見えるけど。さっきの死闘があったばかりの護人は、急に仲良くとは行けそうもなく。

 どう言う事なのかと、なおも香多奈に詳しい説明を求めてみるも。戦ったのはダンジョンの意思であって、今の所有者は来栖家にあるとの事で。

 仲良くしようって言われたよと、末妹の翻訳もかなりフランク。


 それを信じて良いのかなと、姫香も少し疑わしげ。なおも喋りまくってる魔人から、何か良い情報を貰えたようで。あの部屋に隠し戸棚があるらしいよと、途端にテンションが上がっている。

 果たして、その情報は本当だった。家族全員で調べに向かったところ、壁に隠された戸棚からは立派な朱色のサーベルが発見されて。割と上位の魔剣だよと、ちっちゃな魔人の注釈が。

 だから仲良くしようよと、役に立つアピールが逆にウザい。


 ただし、彼が姿を形作るには透明な魔石が常時必要らしく。雑魚から得られる小粒サイズ程度だと、姿も小さく時間も数十分が限界らしい。

 妖精ちゃんの立場からすると、コイツに勝ててラッキーだったねとの事。早い時期に下僕に出来たのも、これからの探索と成長を考えれば幸運以外の何物でも無いと。

 つまりは今後、下僕扱いで良いらしい。


「召喚魔法的な感じなのかな、動画でそんなの見た事ありますけど……扱ってたのは、ベテランの強豪チームですよ。恐らくレアな魔法か、道具が必要なのかと。

 それを考えれば、確かにラッキーではありますね?」

「それじゃあソイツにちょっと聞いてみてよ、香多奈。この先の層に、アンタより強い敵が潜んでいるかどうかをさ」


 紗良の言う召喚魔法は、使用者こそ少ないが確かに存在はする。それを今後、来栖家チームで使えるなら確かにラッキーではある。

 そんな事よりも、先に進む許可が欲しい姫香である。ある意味反則の、敵対していた魔物にこの後の仕掛けを聞きに掛かると言う。

 ところがその魔人、そんな訳無いジャンと肩を竦める素振り。


 自己評価が高いのか、自分より強い敵などそうそういる訳無いよとの言葉。さっき負けた癖に、何と言うか強気である。ただそれを聞いて、凄く嬉しそうな姫香。

 それなら進んでも問題無いよねと、護人を強引に説得にかかって。危なそうならすぐに引き返すとの約束を言質に、取り敢えずは進む許可をもぎ取る事に成功する。

 そして休憩の後、再び進み始めるチーム『日馬割』なのであった。




 炎のチビ魔人の言った言葉は、あながち間違いでは無かった様子で。3層も4層も、出て来る敵は2層までとほぼ変わらない雑魚敵ばかり。

 つまりは大鶏に角兎、それからコボルトが少々混じって来たけど。持ってる武器は棍棒や小剣程度、護人と姫香のコンビは危なげなく対処する。

 それを眺めるチビ魔人は、ちょっと不満そう。


「武器の使い方も、理力の扱い方もまるで駄目だって魔人ちゃんが言ってるよ? レイジーやルルンバちゃんの方が、まだ見込みがあるって。

 ダンジョン出たら、コーチしてくれるって!」

「余計なお世話よ、だいたい気とか理力を扱うってカンフーやSF映画じゃないんだから。普通の人間は、そんな事言われても対応出来る訳ないでしょ!」


 確かに姫香の言う通り、ただし探索者に関してはどうなのだろうか? 上級鑑定書で知る事となった、理力やSPの値はもしやそれを意味するのでは?

 などと思う護人だったが、あのチビ魔人に教えを乞うのも確かに腹立たしい気も。それでも強くなれるのなら、その案は一考の余地はあるのかも知れない。

 ってか、普通に地上まで付いて来る気満々の魔人ちゃんである。


 3層と4層の支道では、やはり影魔人の待ち伏せが一番の脅威だったけど。ツグミとミケの連携で、何事も無く排除が可能となっていて。

 追加の雑魚のパペットなど、物の数では無くコロ助の餌食に。本道も支道も順調に踏破出来たのは、ルルンバちゃんの罠発見能力の恩恵も大きかった。

 さすが《床マイスター》である、肩書通りのその実力。


 ちなみに宝物だが、3層の本道でツグミが兎穴を発見して。香多奈がチェックしたところ、アイテムが色々と紛れ込んでいた。

 鑑定の書が2枚に緑色の魔玉が3個、どこの国のか不明の銀貨が24枚に兎の意匠のブローチが1つ。巣穴から入手にしては、たくさん取れたと満足そうな末妹である。

 そしてツグミは、何気に発見率が高い気も。


 4層では支道の小部屋に、壊れかけた納屋が存在して一同ビックリな展開に。置かれていたのも使われていない瓦が100枚以上とか、板材や角材が数十枚とか。

 植木鉢や漬物石まであって、完全に農家の納屋である。一体どこで拾って来たのかと、ダンジョンの節操の無さに呆れかえる護人である。

 ただ使えそうなモノを、探し出す子供たちの執念もこれまた凄い。


 妖精ちゃんとチビ魔人の助言もあって、探し出せた良品は何とか数点に及び。丈夫そうな草刈り鎌とか短弓と矢束のセットとか、変わり所では鬼瓦おにがわらとか。

 護人もつい欲が出て、木板や角材が魔法の鞄に入らないかお伺いなど。実際農家では、獣除けやら柵作りなどで結構よく使うのだ。

 紗良は充分入るから持って帰りましょうと、笑顔で返答。


 彼女も元は農家の娘である、そして護人の修繕やDIYを目にする機会も多々あって。その辺の理解もバッチリで、護人にしても大助かりである。

 瓦も持って帰ろうと言う香多奈を軽くいさめ、取り敢えず1ダースずつ板材を確保して4層は終了。そして5層も、中ボス部屋まで万事良好に辿り着く結果に。

 護人が心配する程も無く、イレギュラーの気配は無し。


「チビ魔人の話は置いといて、ここまでは順調だったよね、護人叔父さん。中ボス部屋の作戦だけど、今まで通りで良かったかな?」

「そうだな、いつも通り姫香と香多奈で速攻の投擲攻撃をして……ミケも参戦頼むな、MPの回復はバッチリ出来ているかな?

 他の者は壁役になって、押し上げて行く感じでな。もし硬い敵が混じってたら、ルルンバちゃんの出番だな」


 任せてとの勇ましい返事と共に、投擲武器を手にする姫香。紗良は銀の槍も取り出したのだが、少女が選んだのは安定と実績のシャベル2本セットだった。

 香多奈も、さっき入手した赤の爆破石を選択して。チビ魔人が言うには、それには炎ダメージが封じられているらしい。本道に出没する、動物系の敵が相手なら相性は良さげとのアドバイス。

 ストライクを投げてやると、末妹のやる気もみなぎっている。



 そんな訳で、毎度の速攻を念頭に中ボス戦に挑む来栖家チーム。硬質な木製の扉を開け放ち、いざ戦いの幕は切って落とされる。そして目にする、巨大な中ボスの姿に吃驚ビックリ

 それは3メートルサイズの雄鶏の姿をしていて、何故か尻尾の方には蛇の鎌首もうかがえて。チビ魔人の注釈を、素早く翻訳して注意を促す香多奈。所謂いわゆるアイツは、コカトリスらしい。

 石化ブレスは怖いから注意と、恐ろし過ぎる言葉セリフと共に。


 翻訳ついでに、末妹の見事なフォームでの投擲攻撃。それに負けじと、姫香も中ボスへとシャベルを矢のように投げ付ける。ちなみに敵の前衛にいるのは、コボルト3匹と大鶏が5匹である。

 ハッキリ言って、ボス以外は雑魚に等しい。ミケの雷槌とレイジーの魔炎で、あっという間に駆逐されて行く哀れな壁役モンスターの群れ。

 そしてボスのコカトリスも、炎の魔玉とシャベルの投擲で大ダメージ。


 石化ブレスとやらを見舞われたら、来栖家チームに防ぐ術など皆無なのは当然である。かと言って、子供達をあせらすのも悪手には違いなく。護人が悩んでいると、姫香の2本目のシャベル投擲が見舞われた。

 更にはルルンバちゃんの、砕石チャージがコカトリスの足元に。完全にバランスを失った中ボス、これでブレスの心配は半減した。

 敵は姫香の投擲で、首筋から大流血している模様。


 それでもしぶとく生きているのは、鶏の持つ生命力故だろうか。何しろ奴らは、首をチョン切っても走り続けると言われている生物なのだ。

 ってか、先行し過ぎたルルンバちゃんが鶏の脚に捕まれてピンチ。それを救うべく、香多奈の応援を貰ったハスキー軍団とミケが駆け寄って行く。

 護人と姫香も、覚悟を決めて前進を選択。


 とにかく奴のくちばしには細心の注意、ブレスの兆候があったら潰すぞと姫香に声を掛けて。少女の返事より先に、ミケの再度の雷落としが敢行されて。

 鶏の首より先に、尻尾の蛇の鎌首がダウン。完全に落ちた様子で、項垂れたままピクリとも動かない。コカトリスの鶏頭は、最後の悪足掻きと大きくその嘴を拡げて。

 凶悪なブレスの準備中に、その喉元へ噛み付きに掛かるレイジー。


「よくやった、レイジー……姫香っ、止めを刺すぞ!」

「はいっ、護人叔父さん……!!」


 苦しみ藻搔くコカトリス、ツグミとコロ助も別々の場所に噛み付いて、向こうは思うように動けない状態に。そこに『身体強化』で走り込む姫香、巻物で強化された鍬を思い切り敵の胸元へと撃ち込む。

 絶叫はしかし、レイジーのせいで血に塗れたくぐもった吐息にしか聞こえなかった。同じ個所を護人の《奥の手》が貫き手攻撃、これが止めとなった模様で。

 コカトリスは黒い粒子となって消え、後にはドロップ品が。


 安堵の吐息と共に、額の冷や汗を拭う護人。圧勝に見えたが、石化のブレスとやらが通っていたらと思うとゾッとする。取り敢えずは、助言をくれたチビ魔人に感謝しつつ。

 香多奈が嬉しそうに、ルルンバちゃんと一緒にドロップ品を拾っている。彼も大きな故障個所は無い様子、ってかポーションでは恐らく治らない気も。

 紗良なら治せるのか、その辺も不明である。


 ハスキー軍団も全員無事な様子、近付いて来たレイジーを撫でながら再び安堵の表情を浮かべる護人。それでも紗良は、怪我が無いかのチェックに余念が無い。

 本当に有り難い限りだ、そしてドロップ品は魔石(中)とスキルの書が1枚、それから尾羽根のような飾り羽根が3枚だった。用途は不明だが、綺麗ではある。

 そして部屋の奥に、木製の宝箱が1つ。





 ――それを見て嘆く子供たち、箱の種類で贅沢になってると感じる護人だった。







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