第61話 敷地内3つ目のダンジョンに、チームで挑む件
子供たちが良く分からないノリなのは、敷地内3つ目のダンジョンに挑むからだろうか。自治会や協会からの依頼ではなく、チームで自主的な探索である。
その目的は、姫香と紗良が不在の間にオーバーフローなど不測の事態が起きないように。前もっての間引きである、そんな訳で5~8層あたりを目安に踏破したい。
護人のその言葉に、頑張るよとの元気な返事が。
ってか、敷地内の3つ目のダンジョンだが、装置での鑑定の結果は割とシビアだった。魔素の濃度が思っていたよりも濃い、つまりは危険度も上昇している訳で。
これはオーバーフローの危険もそうだが、一般的に魔素の濃いダンジョン内の敵は強化される傾向があるそうで。突入前の鑑定は、今や探索者にとっては常識となっている。
そして無事に帰還後の、変質の度合いチェックも同じく。
そのどちらの装置も購入済みだが、護人はケチらず高級品を買えば良かったと後悔し始めていた。何しろ頻繁に使うし、オプションも違って来る。
お金は探索の成功で、割と貯まって来ている現実を鑑みて。機会があれば買い直そうかなと、最近は思い始めている次第である。
まさか今後、自費でオーブ珠とか買う事も無いだろうし。
お金を生活の、利便化に使うのはまぁ普通ではある。それとは別に、探索者としての強化に使うのはどうかなとは思うけど。無事に帰還するためと考えれば、浪費では無いのかも。
子供たちはお金を儲けるとか、強くなるとか単純な指針に、盛り上がりを見い出している感があるけど。護人にとっては家族の安全が第一で、それはずっと変わっていない。
今回の探索も、趣向は違うが無理せず行きたい所。
そんな護人の想いとは裏腹に、敷地内3つ目の“裏山ダンジョン”は1層目から結構手強かった。タイプは恐らくは遺跡っぽいけど、障害の無い真っ直ぐな通路はまるで洞窟だ。
壁や天井は、それなりに凝った人工物には見えるのだけど。その副産物と言うか、遺跡探索にありがちなトラップが、随所に仕掛けられているみたい。
このダンジョンの、いやな特徴の1つみたいだ。
「う~ん……この仕掛けを、HPを
でも引き返すとオーバーフローに繋がるし、困ったな」
「出て来る敵は、大きな鶏とかウサギで怖くは無いのにね? ハスキー軍団だと、ほぼ一撃で倒してるよ……あの子たちも、今やみんなHP纏ってるし。
多少の罠なら平気だよ、護人叔父さん」
「罠は確かに怖いよねぇ……さっきの槍が降って来るの見た時、心臓が飛び出しそうになっちゃったもん! 探索者のスキルには、それを見分ける便利な奴もあるそうなんだけど。
無いと本当に、作動させるまでは分かんないもんねぇ?」
のんびり口調の紗良でさえ、やはり罠の作動は怖いようだ。そして姫香の言う通り、本道に出て来るモンスターは大鶏と角兎の2種類のみ。
飼っている人々は勿論知っているが、鶏って結構気性が荒くて好戦的だ。
ただまぁ、変質したハスキー軍団には良い狩り対象でしかなったけど。
角兎も同じく、鋭角な角をこちらに向けての飛び掛かり攻撃は、それなりの脅威だ。ただしレイジー達は、これをひと噛みで処理出来る戦闘能力を有していて。
護人と姫香の前衛陣は、ほとんど戦闘をしないで済むと言う。ただその分、初めて対する本格的なタイプの罠の仕掛けに、細心の注意を払う破目に。
今の所は被害は無いけど、肝が冷えたのは確か。
「……あっ、落とし穴の罠が閉じて行く。凄いねダンジョンって、罠の再設置も全部自分で処理しちゃえるんだぁ」
「ああっ、魔石が勿体無いよ……でも、敵が落ちてくれて良かったね、お姉ちゃん」
香多奈の言う通り、この落とし穴の罠は角兎が作動させてくれたのだった。そして落下しての槍襖で、勝手に魔石になってしまうと言うパターン。
回収はモチロン不可能で、少女は勿体無いと呟いてるけど。当然だけどルルンバちゃんも、さすがに穴の中までは拾いには行かない様子。
ところがその新生ルルンバちゃんが、予想外の行動に打って出て。
「……えっ、本当に大丈夫なの? 叔父さんっ、ルルンバちゃんが罠の感知を先頭でしてくれるって! 床の事なら任せとけって、凄い自信ありげなんだけど。
大丈夫かな、まかせちゃって?」
「へえっ、確かにルルンバちゃんは、床のスペシャリストなのかも知れないけど……取り敢えず試してみようか、フォーメーションを少し変えよう。
犬達も、ルルンバちゃんより先行しないようにな」
そんな訳で、意外なところで見せ場を作るお掃除ロボだったり。そしてその性能は、罠発見にも優れていると証明して。有言実行、男前なその性能には家族で絶賛。
とは言え、第1層にはそんなに罠の数は多くなかったのだけど。最初に見付けた2つ以降は、本道に1個と支道に1個のみ。そして支道の部屋の罠は、床ともう1つ別の個所にも。
モンスター自身が、影が実体と言う厄介さで攻撃して来て。
しかしこれも、ツグミの『影縛り』によって未然に防がれると言う体たらく振り。いや、護人としては大助かりだったのだけど。姫香も凄いと絶賛し、相棒をこれでもかと誉めそやす。
影が実体のこのシャドウ、どうも普通の武器では倒せない様子で。ツグミの影に囚われて、ジタバタする中子供たちの実験が行われる。
結局武器で倒すに至ったのは、前回の探索でゲットした銀製の銛だけだった。
「あっ、これは先端が銀か何かで出来てるのかな? 設定ではありがちかも……護人叔父さんも、もしもに備えて1本持っておく?
この手のタイプのモンスター、また出て来るかもだし」
「そうだな、出来れば持っておきたいけど……今回はシャベルの代わりに、コイツをメイン武器に持って歩こうかな?
さっきの奴が大量に襲ってきたら、後手に回る可能性もあるからな」
慎重な護人は、そんな感じでメイン武器の交換を選択。姫香は妹の香多奈に、持って歩いて貰う事に。そしてシャドウのいた小部屋には、他に目ぼしいモノは無し。
そして1層の探索は終わり、階段で次の層へ。いつもより時間は掛かってしまったが、罠の設置場所を確認しながらの探索なので、まぁ仕方が無いとも言える。
ちなみに灯りだが、今回の遺跡も松明で割と明るい仕様である。
所々に暗闇があるので、各自灯りは用意してはいるけれど。そもそもそれこそが、罠の可能性もある。さっきのシャドウ型の敵を見るに、そんな疑念も払えない。
とにかく2層だ、ここも真っ直ぐな洞窟に見える通路がメインで。壁に描かれた紋様の様な絵画が、どこかへ誘う魔方陣に見えたりもする始末。
出て来る敵は、前の層とほぼ同じなのは助かる点だが。
本道の敵を全部掃除して、ついでに支道の小部屋の敵も掃討へと向かう一行。ところがその作業の2つ目、小部屋の造りと言うか飾りに違和感が。
部屋の中央に小さな机が置かれていて、隅の方にも古惚けた家具が幾つか。宝物の気配を感じて、途端にテンションの上がる子供たち。
一番怪しいのは、机の上に置かれた金色のランプだろう。
「あれっ、さっきの部屋には影の敵がいたのに……ここにはいないの、ツグミ?」
「両方の壁際のランプのお陰で、潜める影が無いせいかな? さて、敵が全くいないってのは、ちょっと考えにくいしな……俺とレイジーで先に入ろう、皆は変化があったらサポートを頼む」
了解と、元気な姫香の返事。ツグミが反応しないって事は、確かに潜む系の敵がいない可能性は高い。ただし、何か別の罠の可能性は捨て切れてはいない。
それを暴くため、護人はレイジーと共に部屋へとゆっくりと侵入を果たして。周囲に気を配りつつ、あちこち怪しい個所を見て回る。
一番怪しいのは、机の上のランプだけど。
いや、違った……壁に飾られて光を放っているランプが、一瞬にして眩い光を放ったかと思ったら。そこから
護人とレイジーに襲い掛かり、虚を突かれながらも護人は盾で何とかブロック。レイジーは炎を吐きながらそいつに噛み付き、あっという間に動きを封じ込めている。
やはり待ち伏せトラップだ、待機組からも支援の魔法が飛んで来て。
「叔父さんっ、机のランプが……!」
とうやら3つ目の、灯りの灯っていなかった奴も待ち伏せタイプだったらしい。そちらに目を向けると、何故かアラジン型の炎の精霊がこちらを見下ろしていた。
デカくて強そうなその精霊は、
子供たちの悲鳴と、ハスキー軍団の威嚇の唸りが交差する。
熱さはほんの一瞬だったが、そのパワーは侮れない。最初の炎トカゲは、ミケの雷槌で倒されて行くのを確認はしたのだが。この巨人に、果たしてそれが通用するだろうか。
ってか、やはり駄目だったらしい。腰溜めの姿勢の護人に、再びメガトン級のパンチが打ち下ろされる。武器を構えて跳び掛かって行った姫香は、呆気無く部屋の反対に吹き飛ばされて。
ルルンバちゃんのネイルガンも、コロ助の牙突も効果は薄い様子。
そこに炎を纏ったレイジーが、宙を舞って跳び掛かって行った。後ろから巨人の首筋に噛み付き、その鋭い牙を喰い込ませている。
苦しみ
冷たい予感が、チームに浸透して行く。
香多奈の応援を貰ったコロ助が、レイジーと同じく噛み付こうと跳び掛かって行った。その攻撃は敢え無く撃沈され、鈍い打撃音が部屋中に響く。
レイジーも、首根っこを掴まれそうになって
サポートにツグミの闇の触手、しかしそれは呆気なく燃え尽きてしまう破目に。
しかも護人の奥の手の打撃も、そんなに効いていない様子。とんでもない強敵が、こんな浅層エリアにいる事にショックを感じつつ。
動けない者の回収とサポートを子供たちに命じつつ、護人は単身で魔人に圧力を掛けて行く。被害だけは意地でも出さない、幸いコイツはランプから離れられない仕様みたいだ。
その発見に、多少は気が楽になりつつも。
「護人さんっ、姫香ちゃんは気絶しているだけみたい……コロ助ちゃんの方が重傷かも、離脱の準備しますねっ!?」
「頼む、紗良っ……こいつは意地でも追わせない、何とか本道まで下がってくれ!」
分かりましたと切羽詰まった紗良の返事、ルルンバちゃんの座席に何とか姫香を担ぎ入れて。その間もレイジーの空中殺法と、護人の黒く巨大な拳が見舞われる。
特にレイジーの噛み付きは、炎の魔人の体力をガンガン削っている様子。その見返りとして、完全に敵のヘイトを稼いでしまった様子。
熾烈な攻撃が、レイジー目掛けて見舞われる。
護人にしてみれば絶好の攻撃機会なのだが、どうも通常の武器ではダメージが通らない様子。かと言って、他の武器に交換は出来ないし苦しい戦いは続く。
奥の手頼りの現状なので、レイジーの援護くらいしか取れる戦術が無い。そのレイジーも、相手に目の敵にされては近付く事も
手詰まり感が漂う中、何とミケと共に香多奈が乱入して来た!
「香多奈っ、危ないから下がってなさい……!!」
「叔父さんっ、これ使って……妖精ちゃんが、奴の弱点は冷たい魔法だって!!」
冷却系の魔法など、チームの誰も所持などしていない。ただし末妹が渡して来た魔玉は別だ、確かにこれなら魔人相手にもダメージを与えられるかも。
部屋の入り口に目をやると、紗良の救助活動は全て終わっていた。今は恐らく、安全な場所で回復スキルの作業中なのだろう。少女を背後に庇いながら、護人はホッと安堵の一息入れ。
そしてミケのスキル乱舞に、思わず戦況を二度見する破目に。
その刃の乱れ咲きと来たら、全く容赦の無い非道振りである。或いはミケの怒りの主張なのかも、敵の顔面からパンプアップされた胸部まで、至るヶ所から鈍い色の刃が生えている。
まさかこんな活用の仕方があるとは、全く知らなかった飼い主の護人である。やられた方は当然の苦しみに見舞われており、どうやらダメージは充分以上に通っているよう。
このチャンスを逃すと、ミケに笑われてしまう。
香多奈から受け取った氷の爆破石は、全部で3つあった。使用方法は簡単だ、魔力を通して敵に放り投げれば良い……だがしかし、この接近戦で投擲は逆に難しい。
護人は深く考えず、それを奥の手でぎゅっと握りしめ。相手の顔面を目掛けて、張り手の要領で思い切り殴り掛かって行く。狙い違わず、魔玉の1つが絶叫を放つ魔人の口の中へと侵入を果たす。
そして吹き荒れる氷の吹雪、炎の魔人の体内を容赦なく凍てつかせ。
――長かった闘いの、ようやく終止符へと漕ぎつけたのだった。
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