第56話 苦難の果て、宝の部屋を探し当てる件



 穴が開くほどに地図を眺める子供たち、時間を気にしながらも護人は周辺の警護に当たりつつ。それを眺めて、まぁ気の済むまでは付き合うかなと覚悟を決める。

 紗良もハスキー軍団の治療を終えて、その輪に参加して悩んでいた。姫香も同様で、何としても秘密のお宝を見つけ出してやると意気込みは凄い。

 宝の地図を持つ、香多奈の気力は言うに及ばず。


 ルルンバちゃんが近付いて来たので、護人はその座席に座って休憩をするかなと思っていたら。香多奈が寄って来て、ルルンバちゃんに壁に穴を開けてと頼む始末。

 しかしその案は、1分で敢え無く頓挫とんざする破目に。


「ああっ、ダンジョンの壁は、滅多な事じゃ傷つかないって言われてるからねぇ……壁の向こうに隠し部屋のパターンは、無いみたいだね香多奈ちゃん。

 諦めて、他の場所を探そう?」

「え~ん、もう探す場所が無いよっ……あの木箱が違うなら、どこに秘密のお宝が隠されてるのっ? 教えて、妖精ちゃん!」

「木箱は別に、棚に置かれてて隠されても無かったじゃん。人に頼らず、もう少し自分の頭を使わないと馬鹿になるよ、香多奈」


 お姉ちゃんはうるさいと、癇癪を起す幼い末妹。振られた妖精ちゃんも、地図に書いてある以上の事はトンと分からない様子でお手上げの仕草。

 ところが、そのどん詰まりの状況を覆したのは、姫香の相棒のツグミだった。彼女が最初に落ちそうになった、何故か端っこに設置されていた落とし穴。

 アレの底に、何かの仕掛けが埋まっているのを発見して。


 ひと吠えと尻尾振りで、ここに何かあるよとご主人の気を引いて来て。近くにいた護人が、ツグミの声に反応して穴の中を覗き込んでみると。

 確かに何か、取っ手のようなモノが壁と底の部分に存在している。しかも壁の部分は板張りで、どうも何かが隠されている感じがプンプン。

 わずか50センチの穴なのに、そんな仕掛けがあったとは。


 この発見には、驚きと喜びで舞い上がる子供たちであった。そしてまずは自分がと、姫香が穴の中へと舞い降りて。突き出た取っ手を引いてみると、案の定発見される秘密の通路。

 底の部分も同じく、板をはがすと出て来たのは手狭な階段だった。下へと降りる構造になっていて、灯りをともして調べると突き当りには小さな扉が窺える。

 それじゃあ行って来ますと、勇ましく先陣を切る姫香。


 それを引き止め、危ないからと護人が先陣を替わろうと申し出るのだが。背後からの奇襲も怖いからと、意外と常識的な言葉を返す姫香である。

 確かにそうだなと迷っていると、姫香は相棒のツグミを携えて穴の中へ。それに続こうと、香多奈もコロ助と落とし穴へ飛び込んで行く。

 こうなるともう、収集などはつく筈もなく。


 仕方無く、その場で経緯を見守る護人だったり。やがて遅れて入って行った紗良が、中は安全て宝の部屋に間違いありませんと報告しに戻って来てくれた。

 それを受けて、ようやくレイジーと一緒に確認に降りるリーダー。そしてその中は、物凄く豪華絢爛ごうかけんらん……とは言えず、ちょっとしたカオスに包まれた小部屋だった。

 しかし、それを眺める子供たちはとても満足そうな雰囲気。


「これ見て、護人叔父さん……凄く強そうな剣と鎧の一式が置かれてるよ、まるで勇者の装備みたいじゃない? ほらっ、大きな盾もあるし弓もあるし。

 多分だけど、これだけでひと財産だよっ!」

「何でか分からないけど、部屋の隅に高級ベッドとタンスのセットがあるんです。後は羽毛布団とか、高級ティッシュやトイレットペーパーなんかも……。

 持って帰れるのは、高級ペーパー類だけですね、護人さん……」

「紗良お姉ちゃん、こっちには高級そうなタオルとシャツのセットもあるよ? 何で生活用品が、こんなに混じってるんだろうね……あっ、歯磨きセットも山盛りで発見!

 この山は……シーツかな、凄くたくさんある」


 まるでホテルのアメニティみたいだ、確かに秘密の宝部屋に入って、こんなのを山盛り発見したら戸惑うだろう。ただし、物資が不足気味の昨今では、こんな生活用品も超有り難い。

 紗良もそれに気付いていて、魔法の鞄2種を取り出して満面の笑み。羽毛布団は無理でも、入るだけの生活用品は持って帰りましょうと妹たちに告げて。

 さあ持って来てと、一番容赦の無い盗賊バンデット振りを発揮している。


 それに素直に従う姫香と香多奈、どの道品数が多過ぎて探し難くて仕方が無いので。そしてある程度片付いた後にも、それ以上の目ぼしい発見は無いと言う。

 さて、これで満足と思うのか、それともまだ隠されていそうと思うのか。子供たちは後者だと思ったようで、こんな程度では無い筈とさらに探索を続ける構え。

 護人は時間を確認、ここのチェックが終われば後は帰るだけだ。


「だからまぁ、思う存分探しても構わないけどな。ただし、だらだら探索しても時間の無駄だ。1人1か所に絞って、そこに無ければ素直に諦める事。

 ここの探索が終わったら帰るから、そのつもりでな」

「ええっ、1人で1か所しか探したら駄目なのっ、叔父さんっ!? そっ、それじゃあミケさん……どこにお宝が隠されていると思う?」


 回数設定を告げられると、途端に弱気になる香多奈である。そして姑息な手段、ミケに応援を求めると言う。ところが頼られたミケは、満更でも無さそうで。

 ふわりとベッドに飛び乗って、豪奢な枕を爪でカリカリとし始める。何かを察した香多奈が、それを手に取って捲り上げると。何とその下から、魔石がゴロゴロと出て来るでは無いか!

 これには頼った本人の、少女もビックリ仰天。


 しかも中には、テニス球サイズの魔石も混じっている始末。5万で売れるピンポン玉サイズも、軽く5個以上はありそうだ。碁石サイズの奴も、軽く20個程度はあるみたい。

 つまり、魔石だけで少なくとも50~100万円以上が確定と言うビッグボーナス。これには香多奈も大喜び、ミケを抱き上げて踊り始めている。

 それを受けて、途端に姫香も張り切り出して。


 ただし、たった1度で当たりを引くプレッシャーは、相当なモノであるらしく。あちこちに視線を彷徨わせて、結局はベッドの次に怪しいタンスへと向かう事に。

 それから護人に、引き出しはやっぱり1つだけしか開けちゃ駄目なのかとお伺い。


「そっ、それは可哀想だよっ……だってお姉ちゃんは、いつも物凄く頑張ってくれてるし? 全部開けさせてあげて、お願い叔父さんっ!」

「香多奈……アンタ、こういう時だけ私をヨイショするんだね」


 何故か険悪になる姉妹だったけど、護人もそこまで意地悪するつもりも無い。全部試して構わないと告げると、明らかにホッとする姉妹であった。

 何と言うか、こんな時だけ仲が良いのは考え物だけど。とにかく取引した甲斐あって、引き出しの1つから見事に豪奢な宝石箱を発見する姫香。

 これには抱き合って喜ぶ姉妹、本当に現金なモノである。


 そして最後の紗良だが、物凄く素直な解答と言うか推理を示してくれて。物を隠すなら、ベッドの下しかないでしょとの名探偵振り?

 誰もが思い付く隠し場所なので、逆に盲点でもあるとも言える。ってか、レイジーがここにあるよとベッドの下に口を突っ込んで教えてくれる始末。

 そこには青くて華奢な、小さなサイズの宝物箱が置かれていて。


 中には何と、オーブ珠が1個とスキルの書が2枚入っていた。これも超大当たり、秘密の宝部屋の面目躍如な品揃えである。ここまで来ると、喜びが爆発して騒がしいったらない子供たち。

 それじゃあ帰り支度をしなさいと、告げながら護人もベッドの頭部分の支柱と板をチェック。このベッドは木製で、飾りの彫刻がとても複雑で綺麗ではあるのだが。

 護人にはどうも、それがパズルのピースの様にも見えてしまって。


 隠し扉の細工の仕掛けでも、あるんじゃないかとの疑念が芽生え。無いなら無いでいいやと弄っていたら、1か所横にスライドする木枠を発見。

 それをいつの間にか一緒に見守る子供たち、何が出て来るのか興味津々の様子。果たして中には、魔方陣の描かれた金属のプレートがめ込まれていた。

 そのプレートは、実は一番の値打ち物だとこの時点では誰も知らない――





 “配送センターダンジョン”をパーティが抜け出したのは、既に夕方近い時間で。今日は協会には寄らずに、家に帰ろうと話はすんなりとまとまって。

 何しろ8層まで降りての探索だったのだ、疲労は結構溜まっているのも事実。取り敢えずは協会と自治会長、それから細見団長には結果報告の電話を入れて。

 護人の運転で、家族は帰路につくのだった。


 車内がとても賑やかになるのは、まぁいつもの事ではあるのだけれど。今回は特別感も凄い、何しろ秘密の宝部屋での大収穫があったのだ。

 子供たちのテンションは、いつもの倍は高かっただろうか。賑やかな車内の雰囲気のまま、家族は家に辿り着いてもその勢いをキープ。

 そのテンションは、入浴と夕食を終えても保たれていた。


 そしてお楽しみの鑑定の時間である、今回は鑑定の書は7枚回収出来たとの事で。更にオーブ珠とスキル書4枚のビッグボーナス、ワクワクが止まらないのも当然か。

 そんな訳で、まずは恒例のスキル書の相性チェックから。真っ先にオーブ珠へと手を伸ばす香多奈だが、それは全く反応せず。ただし、4枚あったスキル書の内の1枚が少女に反応。

 これには両手を上げて、大喜びの香多奈である。


 早速、妖精ちゃんにスキルの概要を訊ねての、己の成長チェックをするのだが。妖精ちゃんが申すには、『魔術の才能』が上がる系のスキルじゃないかなとの事で。

 ふんわりし過ぎて良く分からないが、そう言う補助系のスキルなのかも知れない。そして他の家族の相性チェックは、結局は全て空振りに終わる破目に。

 悲しい事実だが、確率的にはまぁ仕方の無い事だ。


 むしろ、3つ目のスキルを覚えた香多奈が凄いとも言える現状に。つけ上がるからその事実は口にしない姫香、さあ次はペットたちの番ねと既に立ち直っている。

 そしてペットとの相性チェックで、驚きの光景が連続で発生する事態に。何とミケがオーブ珠をゲット、その事実に本人は全く動じた風も無し。

 もう1匹、ツグミがスキル書の1枚をゲット。


 こちらも既に慣れたのか、光の奔流にも少し嫌な顔をしただけと言う。コロ助だけは、大袈裟にその場を逃げ出していたけれど。

 こちらは妖精ちゃんの助言で、恐らく『隠密』系のスキルを得たと判明した。ツグミの2つ目のスキル取得に、主人の姫香は大喜びで彼女をモフモフしている。

 スキル取得より、そっちの方が嬉しそうなツグミである。


 そして残念ながら、ミケが取得したであろう特殊スキルは何なのか分からないと言う事態に。妖精ちゃんが、頑としてミケに近付かないのだから仕方がない。

 この2匹の緊迫状態は、一向に改善される気配は無い。ミケは妖精ちゃんを、家に迷い込んだ小煩こうるさい羽虫か何かだと思っている様で。

 妖精ちゃんは相変わらず、ミケを天敵扱いしている模様。


「もうっ、仕方無いなぁ……ミケさん、何か出来るようになった事ある? 叔父さんとルルンバちゃんの覚えたスキルみたいな、超凄い技をミケさんも使える可能性があるんだよ?

 それが分かったら、ちょっと使ってみて?」

「まぁ、それが無理なら鑑定の書で調べる方法もあるからね。そんなに急いで確定しないでいよ、明日の午後にでもツグミと一緒にスキルの訓練しようね、ミケ?

 ……あれっ、ミケの尻尾……護人叔父さんっ、これ見てっ!」


 果たして、姫香の指摘通り……ミケの尻尾に、鋭利な刃物がニョキっと生えていたのだ。それをユラユラと揺らすミケは、毎度のドヤ顔を披露していて。

 何と言うか、哺乳瓶がまだ離せない赤ん坊に鋭利な凶器を渡してしまったような、そんな背徳感に苛まれる護人。香多奈も新たなスキルを取得してしまったし、カオス感が半端ない。

 果たして正常な舵取りが出来ているのか、心配で仕方の無い護人である。


 子供たちは相変わらずのテンションで、秘密の宝部屋からベッドとタンスや大きいモノ以外は持って帰れた事を素直に喜んでいる。魔法の鞄の威力は凄い、今回も結構な利益を見込めそう。

 香多奈がドロップ確認表を持ち出して、魔石(大)の値段を皆に知らせて興奮気味。これだけで何と50万円の買い取りだそうで、今回の獲得品の中でも大物である。

 まぁ、スキル書4枚やオーブ珠も結構なモノだけど。


 ミケの攻撃力の上昇? は兎も角として、明日は協会に魔石を売りに言ったり動画の編集依頼をしたり、後は新取得のスキルの検証をしたりと忙しくなりそう。

 ルルンバちゃんの時の失敗があるので、その辺は抜かりなく実行したい。


 それから子供たちの興味は、獲得品の鑑定結果へと向かって行った。その中の一つ、護人が最後にベッドの隠しギミックから発見した魔方陣入りのプレートが、物議をかもす事に。

 大きさは鑑定の書と同じ位なのだが、銅色の金属のプレートで出来ていて。それの鑑定結果が、一同の度肝を抜く事となった。

 何と木の実専用の鑑定プレート、しかも効果は永続らしい。





 ――とんでもない高額アイテムの予感に、再び盛り上がる子供達だった。







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