第55話 中ボス部屋のゴーレムと、秘密の宝部屋を発見する件



 中ボス部屋の相手だが、撃破する度に変化をするらしい。前情報では、『白桜』の時には巨大なゴーレムが居座っていたとの話なのだが。そうなると、チームお得意の速攻は使えないかも。

 姫香のシャベル投擲と、香多奈の爆破石がどれだけダメージを与えられるか。相手は岩の塊なので、ちょっと難しいかも知れないねと前以まえもってのミーティング。

 まぁその時は、プランBを発動するのみ。


 つまり今回も、硬い敵とそうでない敵を相手取るチームを、あらかじめ分けておく作戦である。中ボスがゴーレムだったら、護人チームがそれを抑えに前に出る形だ。

 雑魚がいれば、レイジー達に抑えて貰う事になる。簡単な作戦だが、中の詳細が分からないので仕方が無い。後は臨機応変、出たとこ勝負とも言うけれど。

 そんな意気込みで、いざ突入を果たす。


 そして開け放たれた扉の向こう、待ち構えていたのは想像通りのゴーレムだった。但し今までの奴より大きくて、その体長は3メートルに届くほど。

 威圧感は凄いが、スピードは伴わないので何とかなりそう。そしてその前面に、コンクリ色のロックが3体、コイツ等もバランスボールサイズの雑魚より少し大きい。

 中ボスを守る動きをされると、少々厄介かも?


 さらに前方にはロックイーターが5匹ほど、半身を床から出してウネウネと通せんぼをしていた。コイツ等はまぁ、ろくに動けもしないし平気だろう。

 ただし邪魔には違いなく、最初の姫香と香多奈の投擲攻撃は、柔らかい巨大ミミズが標的に。シャベルと爆破石が、速攻で容赦なく襲い掛かり。

 それが中ボス部屋での、戦闘開始の合図となった。


 姉妹の速攻で、ぱっかりとゴーレムへの道は開けたのだが。そこを転がり進んで来る、次なる敵のロック3体。それを抑えに、護人とルルンバちゃんが進み出る。

 その後方では、ハスキー軍団とミケが、残ったロックイーターに魔法での攻撃を仕掛けている。地面から生えて敵を待ち構える巨大ミミズは、何と言うか良い標的でしか無く。

 あっという間に、魔法に晒され次々と倒れて行く始末。


 そして硬い表皮で魔法すら弾く、難敵ロックの群れに対して。まずはルルンバちゃんの削岩機でのチャージ、これがロックのほぼ中心に決まって敵は真っ二つに。

 凄い威力に、隣の護人は思わず目を丸くするけど。そんな技能の無い彼は、『硬化』に加えて《奥の手》を発動させる。そしてガッチリ、転がる岩を黒い巨大な掌がキャッチ。

 日頃の訓練で、割と自在に操れるようになった恩恵である。


 特殊スキルだけあって、その威力もかなりなレベルな黒い甲殻のその腕は。爪をロックに突き刺して、ひょいっとソイツを持ち上げてしまった。

 出来るかなと言う護人の疑念は、呆気無く達成されてしまった。そして隣を転がるロックに向けて、そいつを思い切り振り下ろしてやると。

 目論見通り、両者は互いの硬度に耐え切れず粉々に。


「おっと、やり過ぎてしまった……まだまだ操作が甘いのかな、ボスのゴーレムに叩きつける予定だったのに。姫香、仕方ないからいつも通りのやり方で行こう」

「了解っ、護人叔父さん! さあっ、ルルンバちゃん……予定通りに、奴の足から崩して行くよっ!」


 それに呼応するように、中ボスの右側に回り込むルルンバちゃん。姫香はその反対側へと、勇んでハンマー持参で進み出て。中央は護人が、黒い拳で敵を挑発しながら居座って構える。

 ゴーレムは余り賢くないようで、ひたすら真っ直ぐ護人へと向かって行く。そしてお決まりの様に、拳を振り上げての殴り攻撃。

 今までの雑魚ゴーレムと同じ、ワンパターンの遣り口である。


 それを黒い拳で受け止めて、左右の仲間へと合図を送るリーダー。まずはルルンバちゃんの突貫攻撃が、ゴーレムの左足に。見事命中して、ボスの足に大きなひびを入れる。

 そして姫香も、同じく足元から敵を崩すべく。巨大なゴーレムの死角へと滑り込み、相手の弁慶の泣き所へとスキル込みのハンマー攻撃。

 3メートル近い巨体が、これで大きく揺らいで行く。


 そこからは、割と両者はやりたい放題だった。何しろ護人が、上体の動きをガッツリと封じ込めていたのだ。ゴーレムが足を粉々にされて崩れ落ちるまで、さほどの時間は掛からず。

 倒れた相手の止めは、毎度の姫香のお得意戦法で。ゴーレムの巨体にひらりと舞い上がり、妹へスキル頂戴のアピールをかまして。

 自身のスキルも上乗せしての、敵のうなじへの強烈な一撃。


 これにてボス部屋の敵は、全て殲滅が終了して。お楽しみのドロップは、スキル書とピンポン玉サイズの魔石が1個ずつ。それから平たい板状の石も、2枚ほど転がっていた。

 それが何かは不明だが、スキル書が出ただけで有り難い。大喜びの香多奈と、嬉しそうにそれを拾い集めるルルンバちゃん。そして今回は、木製の宝箱が部屋の端っこに1つだけ。

 中身を期待しつつ、それに歩み寄る子供たち。


「えっと、鑑定の書が2枚とポーションっぽいボトル瓶が2本と、後は武器が入ってるね。黒い石の斧と槍かな、それからこの箱は……わっ、眼鏡と腕時計と万年筆が入ってた!」

「それで全部かな、まぁ木製だし大当たりでは無いね……腕時計とか万年筆って、普通に売れば高いのかな?

 仕方無い、8階のお宝ポイントに期待しよう!」


 子供たちの勢いは、宝の地図の存在もあって留まる事を知らずな勢い。護人もこれには駄目とは言えず、MP使った人はポーション飲みなさいと告げるに留め。

 ハスキー軍団も疲労の色は窺えないようなので、もう少し進んでみる事に。間引き依頼も、もう2~3層潜れば充分だと判断されるだろう。

 そんな訳で、休憩を挟んでいざ6層へ。




 この層も、基本的な構造は今までと一緒だった。つまりは大きな倉庫フロアに、棚で造られた廊下が続くと言う。ただ少し、フロアが広くなっている気もする。

 そして出て来る時も、硬い肌のゴーレムとロック、雑魚感が漂う作業着を着たパペットがメインな様子。ただし、それに加えて空を飛ぶドローンが初参戦。

 コイツは棚を超えて奇襲して来るので、普通なら要注意なのだが。


 ミケの雷撃で、簡単に墜落してくれると言う……そして同じく6層から出始めた、革装備を着込んだタヌキの獣人。コイツの方が、剣を振り回してきて厄介だった。

 剣技はそれ程では無いのだが、小兵の癖に力が強くて思い切りよく突っ込んで来るのだ。幸い数は多くなくて、今の所は助かっている感じ。

 そんなタヌキ獣人だが、ショートソードをドロップ。


「おおっ、タヌキから剣のドロップ……化かされてないよね?」

「多分大丈夫……鞄の中に入れておくね?」


 姫香のお茶目な呟きに、鞄に入れたら無くならないよねと、変な緊張感を覚えてしまう紗良だったり。他にもゴーレムから、鉱石が2つドロップして。

 価値があるかは不明だが、何となく喜んで集める子供たち。前回のガマの油の件もあるから、何に高値が付くかは実はドキドキ物である。

 そうこうしながら、チームは第7層へ。


 ここも構造は前と同じ、更に言えば棚で造られた通路のルートも一緒と言う。少しは凝ればいいのにねと、妙な助言を誰かに送る末妹。

 ここでも出現する敵はほぼ一緒、そして硬い敵に無双するルルンバちゃん。まさか彼がこんなに活躍する日が来るとは、スキルを偶然呑み込んだあの時は誰も想像しなかっただろう。

 隠れたミケの、ファインプレーだったのかも知れない。


 そんな話は置いといて、雑魚に混じって妙な敵が中盤過ぎのフロアに出現した。大型のドローン兵器……いや、こいつも立派なモンスターらしいのだが。

 そいつもやはり、空から奇襲をかけて来てミケに撃墜されかけたけど。しぶとく持ち直して、後衛の紗良と香多奈へと襲い掛かる素振り。

 香多奈の護衛に下がっていた、コロ助の『牙突』が追い打ちを掛ける。


 それでもその大型ドローンは、かたくなに墜落するのを拒否していた。しかし2度目のミケの雷槌に、とうとう煙を噴き出して側の棚へと激突する。

 他の敵と戦闘中だった前衛陣は、慌てながらも2人に声を掛けるけど。無事だよ~との末妹の返事に、安心したように戦いを継続して。

 程無く全て始末し終わって、後衛と合流を果たす。


「中ボス程じゃないけど、ちょっと強い敵だったねぇ。ほらっ、魔石も碁石位の大きさだし……あれっ、スキル書も落としてるっ!?」

「あっ、本当だっ! ラッキー、やったねっ♪」


 思わぬ棚ぼたに、大喜びの香多奈である。強敵の出現は、さすがに深層だねって事で簡単に片付けられて。タヌキ獣人が、今度は槍を落としたよと姫香のついでの報告。

 今回は、宝箱とドロップの収入が凄い事になっている。今回もと言うべきか、これで宝の地図が本物だったら、一体どうなってしまうのだろう。

 捕らぬ狸の皮算用で、盛り上がる子供たちだが。


「タヌキ……狸っ? ひょっとして、次の層で化かされて夢落ちとかなのかなっ?」

「姫香ちゃん……ひょっとして、過去に狸に化かされた事があるの?」


 そんなの無いよと、途端に挙動不審に陥る姫香であった。過去に何かがあったのかもだが、優しい性格の紗良は敢えてそこには触れない事に。

 それより突入して、そろそろ結構な時間が経過している。もうすぐ2時間といった所か、帰りの道のりを考えると引き返す事を考えるべき。

 まぁ、子供たちの熱意を考えて8層が限界かも。


 それを聞いて、絶対に8層のお宝をゲットするぞと盛り上がる子供たち。そして階段を降りると、地図を広げて頭を寄せ合い議論を交わし始める。

 紗良も魔法の指輪で視線を飛ばして、地図とこのフロアの整合性を真剣にチェック。敵は普通に出現するので、仕方なく姫香は戦闘に向かうけど。

 ×バツの示された場所は何処かと、気もそぞろな様子である。


「えっと、なるほど……フロア真ん中の右側の壁、そこに入り口があるのかな? どうだろう、それらしい場所はここからじゃ分からないかなぁ?」

「まずはみんなで行ってみようよ、紗良お姉ちゃん……ハスキー達が、匂いで入り口を見分けてくれるかもだし!」


 それはありそうだねと、割と他力本願な思考でその案に乗っかる紗良である。8層はモンスターの間引きから、完全に宝探しへと目的がすり替わっていて。

 とにかく早く進んでと、後衛の末妹からの無茶振りが発動して。文句言うなと、前線で奮闘中の姫香の返し。そんな時に限って、嫌な足止めが相次いで発動する。

 妙な場所にある落とし穴とか、ついでに強そうな6本腕パペットとか。


 ついでにフル装備のタヌキ獣人が、2体もお供に付いていて。強敵パペットは棍棒や盾や短剣を持っていて、腕には何故かチーフの腕章を付けている。

 風を巻いて襲い掛かるハスキー軍団、相手が強そうだとかは関係ない様子。罠に気を取られて初動が思い切り遅れた姫香の、サポートを完全にこなしている。

 そしてその後ろから、チェーンソー攻撃でルルンバちゃんも参戦。


 威力のある横槍で、瞬く間にタヌキ獣人が戦線を離脱して行く。チーフ腕章のパペットは、実際に他の雑魚よりは数段強かった様子で。

 乱入したルルンバちゃんの座席に飛び乗り、ハスキー軍団を相手にも怯まず対応している。そしてツグミとコロ助が剣技で負傷、銀色の毛皮が血で染まっていく。

 ルルンバちゃんのネイルガン攻撃にも、全く怯んでいない様子。


 それでもレイジーの魔炎に晒されると、パペットの各腕が炎上を始めて。痛覚こそ無いっぽい相手だが、動きはかなり鈍って来ていた。

 そこに復帰した姫香の一撃、ハンマーを振りかぶってチーフの頭を粉砕する。これで完全に敵の息の根は止められて、魔石を残して6本腕パペットは消滅。

 ホッとする一同、これで周囲に敵の姿は完全に無くなった。


 代わりに香多奈が、棚の上に置かれている木箱を発見。ここは通路の突き当りみたいな場所で、宝の地図で怪しいチェック印が描かれていたポイントでもある。

 突き当りに落とし穴を作らないでよとは、それに引っ掛かりそうになった姫香の弁。それより木箱を確認してよとは、容赦の無い末妹の言葉。

 喧嘩になりそうなのを宥めるのは、いつもの護人の役目。


 それでも棚の上の木箱に向かうのは、素直な性格のせいなのかも知れない。そしてそれを留めるのも、毎度の保護者役のミケの役割らしい。

 ちょっとは学習しなさいよと、横槍を入れての木箱への攻撃。それで判明、木箱は何と再度のイミテーターだったと言うオチで。バカッと急に空いた上蓋で、姫香に食い付こうとする。

 棚に張り付いた不利な姿勢だったが、姫香は慌てない。


 新しく取得した『歩脚術』で、重力を無視して壁を伝って来たレイジーの見事なサポートが功を奏し。先ほどと同じように、動く木箱を焼却処分してくれた。

 危機は脱出出来たが、木箱イミテーターが残したのは小さな魔石と鑑定の書が2枚のみ。こうしてはかなくも、宝の地図の取っ掛かりは全て消え去ってしまう事態に。

 これには地図を持つ、香多奈も半泣き状態に。





 ――果たして、地図はインチキだったのかと悩む一行だった。









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