第54話 ダンジョン内で、宝の地図を発見する件



 新生ルルンバちゃんのお披露目となった、今回の間引き依頼の探索だけれど。実は新生ルルンバちゃんの凄い所は、戦闘の点だけでは無かったりする。

 乗用草刈り機とは、人が乗って運転しながら草を刈る機能がある訳で。ハンドルも付いていれば、当然人が乗れるシートもある。つまりその気になれば、人も載る事が可能なのだ。

 もっともそれは、一緒に前衛に出張るって事を意味していて。


 後衛の香多奈なんかがうっかり座るのは、全く推奨はされない。ただし荷物を置いたり、万一怪我人が出た際に運べるのは凄い点ではある。

 それから《合体》のスキルだが、どうやら細かい部分の調整が効くようだ。例えば乗用草刈り機は、その作業目的から車高と言うか機具が物凄く低く設定されている。

 ただ、ダンジョン内での移動ではそんな機能は必要なくて。


 特に階段を降りる際には、デメリットでしかない。そこを見越していたのか、ルルンバちゃんの車高は割と高く設定されていた。ただし、護人が覗いた車の底部には凶悪なギミックが。

 雑草どころかちょっとした枝木すら切り倒せそうな、チェーンソーが仕込まれていたのだ。これならパペットが接近して来ても、余裕で足を切り刻めそう……。

 新生ルルンバちゃんは、結構な凶悪仕様らしい。



 そんな感じで第3層へ、相変わらず倉庫内は大きな棚が通路を作って視界は悪い。棚には全て奥に仕切りが入っているので、反対側は見渡せないのだ。

 そして罠をクリアして突破した2層だが、他は特に厳しい仕掛けは無し。追加で倒したゴーレムが新たに鉱石を落とした位で、入手アイテムにも変化は無かった。

 ただし、チームの面々には以前には無かった緊張感も。


「罠が仕掛けられてるダンジョンって、やっぱり怖いね~? 後ろに気を付けて歩いてても、上から棚が倒れて来たら巻き込まれちゃうもん!

 叔父さんっ、どうしたらいいかなっ!?」

「そうだな、前方の罠は俺たちが気を付けてるけど……上と背後は、紗良と香多奈に頼むしか無いかな? 頼めるかい、2人とも?」


 それじゃあ上は任せてと、元気な香多奈の返事。背後からの万一の襲撃は、護衛に下がっているコロ助に任せれば良いだろう。そんな取り決めを新たに決めて、いざ探索の再開である。

 相変わらず、硬いゴーレムを何事も無いように粉砕するルルンバちゃん。パペットも楽勝なのだろうが、ハスキー軍団を気遣っているのか余計な手柄には走らない。

 或いは、リーダーの取り決めを律儀に守っているのかも。


 3層の異変は、割と早いうちに目にする事が出来た。床のコンクリが柔らかく変化したと思ったら、丸太の様な生き物が飛び出て来たのだ。

 ただ、このモンスターも事前情報では確認済み、ロックイーターと言う肉食ミミズである。奇襲からの噛み付きは厄介だが、事前に振動音がするので比較的に察知し易い敵ではある。

 そしてソイツに、ルルンバちゃんのチェーンソー攻撃がヒットする。


 何と言うか容赦が無い、真っ二つになった敵はすぐに消滅してくれたけど。凄いね~と呑気な末妹の呟きはともかく、頼れる仲間には違いないと護人は思い直して。

 良くやったぞと、取り敢えず褒めて伸ばす方法を選択。彼は嬉しそうに、自分が倒した敵の魔石を律儀に拾っている。その姿が、急に地面に半分めり込んでしまった。

 慌てた護人は、周囲を観察しながら近付いて行く。


「あっ、これって……多分だけど落とし穴の罠かな、ルルンバちゃんが大き過ぎて片輪しか落ちなかったけど。それほど深くは無いけど危なかったね、護人叔父さん。

 人間だったら、足とか挫いてたかも?」

「確かにそうだな、よし引き上げよう……そっち持って、姫香」


 どうも敵が近くに出没しないと思ったら、落とし穴トラップが仕掛けられていたとは。2人で何とかルルンバちゃんを助け出して、護人はその奥の通路を伺う。

 そこにはちゃっかり、パペットの集団が配置されてはいたのだが。ハスキー軍団が素早く駆逐、あっという間に安全は確保された様子。

 後衛も合流して来て、落とし穴の深さを確認している。


「怖いっ、こんなのに落ちたくないよっ! さっさと進んで、次の……あっ、あそこに置いてあるのは何だろう、叔父さん」

「えっ、どれどれ……ああっ、確かにプラかごが置かれてるな。あんな棚の上に放置されてるとか、何とも意地悪な仕掛けだな。

 中に何か入ってても、回収が大変だ」


 通路を作る棚の高さは、実は3段仕様×2棚で結構高い。その上に放置されてる、プラ籠を香多奈は良く見付けたと思う。上方の確認は、真面目にこなしていたっぽい末妹。

 何か入ってるかもとの言葉に、反応した姫香が棚の段に足を掛けて。器用に素早く登って行く、まるでお猿さんのように。そして掴んだプラ籠を、ゆっくり下で待ってた護人にパス。

 本人は何事も無く、元の場所へと降りて行く。


 プラ籠の中には、予想通りにアイテムが入っていた。まずは鑑定の書が2枚に爆破石が3個、それから何かの地図の様な皮の用紙が1枚。

 良く分からない記号が端に書かれているが、誰も読み取れず。何だろうねと喋っていたら、ここの8階層のお宝のポイントじゃんと妖精ちゃん。

 どうやら偶然、宝の地図を見付けたらしい。


 凄いと途端にはしゃぎ出す子供たち、さっきまで罠が怖いと言ってたのに何て現金な。それはそうと、今まで8層まで潜った実績はこのチームには無い。

 それでもこの雰囲気では、行かずに戻る選択肢は無い様子。幸い今回は、MP回復ポーションをたんまりと持って来ているし。何とかなるかと、慎重な護人も宝の地図には前向きな姿勢。

 それも当然、宝の地図にワクワクしないなんてオトコじゃない!


 などと盛り上がりつつ、この層の残りは何事も無く制覇して。敵の数も種類も、前の層とさほど変わらず殲滅も段々と慣れて来ている来栖家チーム。

 前もって決めた、戦いのフォーメーションが上手く嵌まっている感じだ。この調子で行こうと気を引き締めて、さて次は第4層である。

 そしてここにも、ちゃんと罠は待ち構えていた。



「あっ、そこの棚の上に段ボール箱がおいてあるよっ! また宝物が入ってるかも、お姉ちゃん取って来て!」

「えっ、どこ……あっ、本当だ。割と大きい箱だね、何が入ってるのかな?」


 基本が素直な性格の姫香は、末妹の我が儘にもすんなりと従ってしまう傾向が。そしてさっみたいに、棚の中断に置かれた段ボール箱に手を伸ばそうと、棚に足を掛けて登って行こうとする。

 その瞬間、後衛にいたミケが素早く反応した。紗良の腕から素早く隣の棚に飛び乗って、姫香より先に段ボール箱へと近付いて行って。

 雷撃一閃、そして悲鳴を上げる段ボール箱。


 いや、そいつはイミテーターだと、思い出したように護人が叫ぶ。驚いた姫香は棚から転げ落ちそうになり、サポートに回っていた護人に抱き留められる。

 そのお陰で無事だったけど、イミテーターはそうでは無かった様子。蓋の口の部分を開閉させながら、せめて一太刀とミケに迫って行くのだが。

 これまたサポートに回っていた、レイジーの魔炎で丸焦げに。


 フンって顔でそれを見終わったミケが、護人目掛けて飛び降りて来る。そちらもしっかりと抱き留めて、子供を守ってくれたお礼をしっかりと述べて。

 香多奈はやっちゃったと言う顔付きで、神妙に叱られるのを待ってる風で。それが可笑しくて、護人は厳格な表情を作るのに苦労する。

 まぁ結局は、自分も軽率だったと姫香が先に謝ったのだけど。


 それに便乗して末妹も御免なさいして、この件は恙無つつがなく終了に。以後は気を付けるようにと、釘を刺しておくのは忘れなかったけれど。

 そしてモンスター退治については、本当に順調にこなす事に成功して。ほとんど時間を取られる事無く、フロア内の敵を全滅させるに至ってしまった。

 ただし、イミテーターはもう1匹潜んでたけど。


 鼻が良いのか勘なのか、ミケが簡単に暴いてくれるので助かっているけど。ついでに落とし穴もあって、それはレイジーが見破ってくれた。

 ってか、普通に空中を歩いて罠を避けていた気が。さっきのイミテーターを焼いた時もそうだったが、どうやら『歩脚術』スキルを使いこなし始めているらしい。

 覚えて間もないと言うのに、凄い適応力である。


「……今度のは、ミケさんが反応しないね? 段ボールじゃ無くて木箱だし、中に何かあっても不思議ではないパターン?」

「どうだろ、用心して覗いてみようか?」

「いや、今度は俺が行くから。一応『硬化』を掛けて、木箱を落とすから下にはいないように」


 5層へと降りる階段近く、またもや棚の上段に今度は木箱を発見して。物欲しそうな視線を向ける末妹に折れて、護人がそれを取りに行くと断言。

 とは言えミケも反応していないし、安全だろうとは思いつつ。棚を登って、割と大きな木箱に手を掛けて。半ば放り落とすようにして、何とか回収に成功。

 それは床に落ちても、派手な音を立てるだけで他の反応は無し。


 つまりは普通の木箱だった模様、いや中身が盛大にはみ出していた。中にはポーションも入っていたので、紗良が心配そうにチェックしていたけど。

 何とか無事だった様で何より、他にもMP回復ポーションとエーテルが各500ml回収出来た。ちなみに容器は、お揃いの新品ペットボトルだった。

 それから飲み物で言えば、缶ビールのケースが段ボールで1箱。


 他にも何故か、段ボールでカップ麺のケースが2箱分。戸惑う紗良だったが、姫香は魔法の魚籠びくに入るなら持ち帰ろうと、あっけらかんとしている。

 それから、蓋の空いているカップ麺が5個。中には麵ではなく、大き目の木の実が1個ずつ入っていた。どういう理屈なのか、紗良は考えるのを放棄。

 何も考えず、カップから木の実を取り出す作業を計5回繰り返す。


 他にはフライパンや包丁と言った調理器具が幾つか。包丁の1本はかなり立派で、妙な光沢を放っていた。変質してる魔具なのかもと、推測するが確信は無し。

 後は家電製品で、照明器具が幾つかと新品の炊飯器が1つ。壊れてはいない様だが、これも持って帰るべきか紗良が悩んでいると。

 青空市で売ろうと、姫香が魔法の鞄に放り込んでしまった。


 商魂たくましいが、ダンジョンで得たモノは基本が発見者に帰属する。新品のようだし、売れるなら使って貰った方が製品も嬉しいだろう。

 そう思い直して、妹の姫香に微笑みかけると。向こうもヒマワリの様な笑みを返して来て、何だか探索中にもかかわらずほっこりしてしまった。

 何ともチーム名にピッタリな、極上の笑顔である。



 アイテムの回収が終わったと告げると、それじゃあ5層に降りようかとリーダーの言葉。本当ならMP回復休憩を取る時間帯だが、意外にも今回は誰もそれ程にMPを消費していない。

 新生ルルンバちゃんの恩恵が大きいのか、ダンジョンのエリアがいつもより狭かった為か。原因は色々あるけど、本格休憩は中ボス部屋の前で取る事にして。

 もうひと踏ん張り頑張るぞとの声に、元気な追従の掛け声。


 そうして辿り着いた5層だが、基本的な敵の種類は一緒だった。ただし、あれだけあった通路の棚が綺麗に無くなっていて、見晴らしの良い事と言ったら!

 お陰で敵も、集団でこちらへと襲って来る始末。それもその筈、視覚を遮る障害物が何も無いのだから。お陰で前衛は大忙し、壁を作って敵の群れを通せんぼの構え。

 後方から、香多奈の頑張れの声援が響く。


 その甲斐もあってか、戦闘は終始こちらのペースで怪我人も無く終了。ホッと胸を撫で下ろす護人と、その横で撃ち洩らした敵が無いか確認する姫香。

 ハスキー軍団も、未だ警戒は解いていない様子。何故かなと思って周囲を眺めていたら、ポツンとフロアの中央に、寂しそうに置かれた段ボール箱が1つ。

 姫香はレイジーを呼び寄せて、その箱へと慎重に歩み寄る。


 案の定のイミテーターの罠に、レイジーの魔炎が放たれて。それにて戦闘は終了、残された魔石とドロップした鑑定の書×1枚を拾い上げる姫香。

 ご苦労様とレイジーの頭を撫でて、仲良く一緒にチームの元へと帰って行く。リーダーの護人もねぎらわれ、何となくご満悦の1人と1匹。

 それから皆で、MP回復ポーションの回し飲み。


 輪になって座り込んで、通達されていた中ボス戦前の休憩に入る一行。香多奈などはルルンバちゃんの座席に座り込んで、さっき拾った宝の地図を妖精ちゃんと眺めている。

 紗良と姫香は、ハスキー軍団に怪我が無いかのチェックをしつつ。既に結構な収穫があった事を、2人で楽しそうに話し込んでいる。

 ミケは護人の膝を占領して、MP回復をのんびりと行っている。





 ――休憩が終われば、さてお楽しみの中ボスへの挑戦である。








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