第51話 2度目の青空市で大いに盛り上がる件



 日馬桜町で開催される2度目の青空市は、7月の第一日曜日に予定通りにスタートされた。来栖家のチーム『日馬割』も、前回と同様に販売ブースを1つほど借りて。

 朝から紗良と姫香が売り子を担って、まずは野菜の販売を頑張っている。青空市の客入りは、控えめに言って先月の倍に届こうかと言う物凄さ。

 まるでお祭り騒ぎの中、多忙に追われる姉妹である。


 実際、来栖家の販売ブースをピンポイントで狙って起きるイベントが幾つか。新鮮な野菜が、今時の常識では格安で売られている噂を聞き付けた客が雪崩れ込んでるのがまず1つ。

 それから町の住人の、ダンジョンの間引きに対するお礼の言葉掛け。中には差し入れを持って来る人もチラホラいて、紗良と姫香も感謝の言葉のお返しが大変と言う一幕も。

 町の住民が、ダンジョンの存在に怯えてる良い証拠だろう。


「うわあっ、護人叔父さん……知らない人から、お菓子とか野菜をいっぱい貰っちゃった。お返しとか、考えた方がいいのかなぁ?

 でも名前もよく知らないし、どうしよう?」

「今のは下条地区の伊藤さんだろ、この前のオーバーフローにウチのチームが対処したお礼かな? これもチーム名が売れてきた効果なんだろうな、自治会でも宣伝してるらしいし。

 まぁ、これも地域貢献のお返しだ、有り難く貰っておきなさい」


 それならまぁと、満更でも無さそうな姫香の返し。ってか、開始1時間で持って来た野菜と漬物は全て売り切れてしまっていて。最初手伝っていた香多奈も、毎度の如く友達と遊びに飛んで行く始末。

 今日の青空市も、快晴で梅雨も完全に抜けきったような天候である。それに加えてこの人混みである、ジメジメと言うよりも周囲は蒸し暑さが加わって大変かも。

 大盛況の人出は、昼になっても留まる事を知らず。


 昼からに備えて、早めに昼食にしようかとの護人の誘いに。姫香と紗良は、1も2も無く賛成の返事。何しろ、もうダンジョン産の品しか、売る物は無くなっているのだ。

 お昼の売り上げに期待しつつ、昼食離席しますの張り紙をブースに設置して。念の為に、売り上げや貰い物や高額な品は、校庭の端っこに停めてあったキャンピングカーの中へ。

 ミケとルルンバちゃんに留守番を頼んで、これで警備も完璧。


 食事ブースに辿り着く途中で、林田兄妹とすれ違った。今回も運営のお手伝いに駆り出された2人は、割と忙しそうに業務に当たっている。

 運営のテントは入り口にあって、チラシとか配ったり迷子や落とし物の処理をしたり、様々な雑務に追われていて忙しそう。当然、協会の支部長の仁志の姿もある。

 それから能見さんも、結構忙しそうに誰かと話し中。


 食事提供ブースには、今回初のお好み焼きの屋台も出ていた。これはさっき香多奈が報告に来てくれて、護人などは既に口がお好み焼きを迎え入れる態勢になっていたり。

 姫香と紗良も、それを食べると並ぶ前から決めていた様子。何しろ広島県民のソウルフードである、どうして初回から無かったかって話だ。

 加えてホットドッグと飲み物を人数分購入、車まで戻る事に。




 その頃、香多奈は友達と旧校舎の周辺で遊び回っていた。キヨちゃんとリンカに誘われて、毎度の出店ブース巡りを最初は楽しんでいたのだが。

 前回のとそれ程に違いは見当たらず、ほんの数十分で飽きてしまって。それなら旧校舎で、お喋りでもしていようって話になって。

 コロ助を連れて、人混みを抜け出したのだが。


 暫くして、知らない女の子がコロ助を無断で撫で回しているのを発見。驚く小学生ズだったが、質問をして行く内に何となく仲良くなって行き。

 この頃の年齢特有の、打ち解けスピードって本当に侮れない。彼女の名前は藤井ふじい怜央奈れおなと言うそうで、広島市の探索者チームに所属しているそうだ。

 歳は16歳、香多奈たちより6つも上だ。


「へえっ、広島市の探索者なんだ、凄いね……こんな田舎にようこそ、青空市を見に来たの?」

「広島市って言っても、安佐南だから外れの山の中だよ? 探索者歴は1年目で、持ってるスキルはまだ1個だけだね。ここに来たのはE‐動画を見て、気になる探索者チームと可愛いペット軍団と、あと妖精ちゃんって存在が気になっちゃってさ。

 安佐南と西広島って割と近いでしょ、チームの人に運転頼んで来たの」

「えっ、気になる探索者チームって……?」


 キヨちゃんの質問に、怜央奈はこの子と香多奈ちゃんだよと、コロ助をモフモフしながら暴露タイムに突入。えっ、香多奈ちゃんって探索者やってるのと、驚くキヨとリンカ。

 今までせっかく隠していたのに、こうも呆気なくバレるなんて。思わず顔を覆う香多奈だったが、ばらした怜央奈などは立派な事じゃ無いのとれっとした台詞振り。

 キヨとリンカも、凄いじゃんと応援する素振り。


 アレッて驚く香多奈だったが、他の人には黙ってようなとリンカの申し出には全員賛成の様子。特に先生に知られると、大騒ぎになる事間違いない。

 今後は動画のアップ時に、声とか変えた方が良いかもねと、怜央奈は冷静に助言をしてくれる。なるほどと頷く少女、幼く感じるけどさすが年上だけはある。

 そんな怜央奈から、ネコと妖精ちゃんも愛でたいとの提案が。


「あっ、私達も1回だけ見た事あるな、香多奈ちゃん家の妖精ちゃん……アレも内緒の筈なんだけど、動画に映っちゃってたのかな?」

「ううん、動画では何か光ってる飛翔体としか、判別出来なくってさ。スレ版では色々と推論が交わされてたんだけど、実際見れば分かるでしょって私は思っちゃって!

 そんでチームメイトに、朝から車を運転して貰って来たんだ!」


 凄い執念である、そこまで言われると断れない香多奈。キヨちゃんとリンカも見たいと言うので、3人を来栖家のキャンピングカーに案内する事に。

 とにかく可愛いモノが大好きな怜央奈、探索者としてはまだ駆け出しらしいのだが。光の魔法『灯明』を見せて貰ったけど、これは周囲を照らしたり敵を目潰ししたりする使い方のスキルらしい。

 話の振りで、香多奈もスキルを披露する流れに。


「……コロ助、頑張れっ!」

「わっ、コロ助の体が膨れ上がった……凄い、香多奈ちゃん!」


 これも内緒だよと、周囲の人目を気にしながらの口止め作業。今の4人は旧校舎からぐるっと廻り込んで、キャンピングカーの裏手に出た所。

 ところが表側では、護人たちがキャンプ机を出して昼食の真っ最中で。お手伝いを放り出して遊びに出掛けた香多奈としては、友達を連れて出て行きにくい環境に。

 それで仕方無く、その場で暫く待機する破目に。




 そんなキャンピングカー前での昼食のひと時、お好み焼きを久し振りに食べるテンションに皆が酔いしれていると。食事中済まないと、離席のブースに訪れる影が。

 恐らくどこかの探索者チームらしい、3人いる男の全員が立派な体形をしている。それを隠れて見ていた小学生ズ、後ろから怜央奈があれはギルド『羅漢』だねと解説を入れる。

 西広島では、割と名の知れたチームの集合体らしい。


 最初はお客かなと対応に立った紗良だったけど、どうも『日馬割』チームのリーダーに用があるらしく。代わって護人が立ち上がり、話を聞く流れに。

 怜央奈の話では、こう言った青田刈りは良くある事らしい。将来有望なチームは、積極的に声を掛けてギルドに招き入れて。横の繋がりを強固にして、オーバーフローや探索の危機に備えて行く。

 ギルド『羅漢』は、そんなチームの集合体との話。


「そんな凄いんだ、ギルド『羅漢』って……怜央奈ちゃん、よく一目で分かったねぇ?」

「あの真ん中の、背の高い角刈りの男の人とは前に何度か会った事あるから。レベル20って言ってたかな、スキルも4つ持ってるし薙刀使いで有名だよ。

 魔法も使えたかな、確か炎系で攻撃力のある奴」


 それは凄そうと、素直に感嘆の表情の小学生ズ。向こうは名刺の交換から、長話に突入する雰囲気である。それを察して、香多奈は行動を開始。

 スルッと姉たちの後ろを通って、キャンピングカーの中へと友達を招き入れる。姫香にはひと睨みされたけど、逆に紗良からはもうお昼を食べたのかとの、優しさに満ちた確認をされてしまった。

 まだだと答えると、全員の分を買いに行ってあげるねと提案が為され。


「あっ、お構いなく……猫と妖精を愛でたら帰りますので」

「……香多奈の友達にしては、ちょっと歳が離れてない? どこの人なの、この辺じゃ見掛けない顔だけど」

「ウチのチームの動画を見て、ペットや妖精ちゃんのファンになったんだって。今日はわざわざ、安佐南から来てくれたんだよ!」


 それはどうもと、余り気乗りしていない様子の姫香である。彼女はそっちより、叔父の護人の方が気になっている様子。大人同士の話し合いは、なおもブースを隔てて続いている。

 気さくな雰囲気なのか、はたまた既に破綻しているのか……離れた姫香の側からは良く分からないけど。厄介ごとを持ち込まれなければ良いけどと、少女なりに気を揉んでいて。

 食事の手を止めて、家長の戻りを待つ仕草の姫香。



 一方の小学生ズ&ゲスト陣は、車内で大盛り上がりを見せていた。単純にキャンピングカーの中身を見て興奮するキヨとリンカ、ミケを見付けて挨拶する怜央奈。

 車内はあっという間に無法地帯で、何事かとキャンピングカーの寝室に引っ込んでいた妖精ちゃんが顔を見せる。何しろ天敵がリビングにいるので、隅に追いやられていたのだ。

 それを発見して、超盛り上がる怜央奈である。


「わっ、こっち寝るところがあるよ、リンカちゃん! 凄いね、キャンピングカーって。本当にこの中で生活出来ちゃうよ、私の家にも欲しいなぁ……」

「よっ、妖精だ……本物だ、宙を飛んでるよ! 凄いっ、可愛いっ、お家に連れて帰りたいっ!!」


 連れて帰っちゃダメだよと、香多奈は1人冷静でお客さんたちのお持て成し。そんな感じでわちゃわちゃしていたら、お姉さんの紗良が全員分のお好み焼きを買って来てくれた。

 それぞれお礼を言って、ようやく落ち着いて昼食を取り始める一行。盛り上がりの余韻はまだまだ冷めず、その興奮でお話も盛り上がりを見せている。

 そんな時間が、その後も結構続いて行くのであった。




「お疲れさま、護人叔父さん……それで、結局は何の話だったの?」

「いや、まぁ……ギルドへの勧誘がメインだったけど、あとは西広島のダンジョン情勢なんかを教えて貰った感じかな? この日馬桜町の立ち位置とか、周辺の町のダンジョン数とか色々。

 やっぱりこの町が、他と較べると断トツにダンジョン数多いみたいだな。周辺の町は精々が10個程度で、探索チームの数も日馬桜よりは多いそうだよ。

 だから無理やり引き抜きとか、そんな話にはならなかったかな」

「それをされたら、本当にこの町は終わっちゃいますもんね……むしろ他から支援が欲しい位ですよ、自治会同士とか協会の話し合いで、そんな話題は無いんですか?」


 紗良の疑問はごもっとも、ただしそんな話は皆無に近いそうで。みんな自分の地区の安全を優先、ある意味当然な理論で防衛システムを構築していて。

 余所よそに回す余剰戦力など、あっても差し出したくは無いのが本音なのかも。何しろ怪我や破損の多い職業なのだ、戦力確保については自分の所で頑張って行くしか無いみたい。

 ただ今の所、民泊応募は何とか実績を作ってくれていて。


 冷めてしまったお好み焼きを食べながら、この町の情勢やらギルド『羅漢』の提案やらを2人に説明して。早急な対応の良化は無理っぽいので、今後もチーム『日馬割』の負担は変わらず重い気配が漂っている。

 姫香は全然構わないよと、相変わらず探索へは前向きだけど。地元中心だと、その内に潜る場所が無くなっちゃうかもねと変な心配を始める始末。

 とにかく勧誘などされてる場合でない事は、今の現状では確かである。


 背後のキャンピングカーの中からは、さっきから騒がしい話声が聞こえて来ている。紗良が事情を説明するに、香多奈とその友達が食事中らしい。

 地元以外の娘もいたよと、動画の反響を護人に伝えてみるけれども。そんなモノ好きもいるんだなと、彼の感想はそんなモノに留まっている。

 ところがどっこい、その後の販売ブースの反響は凄かった。





 ――それを実感するのは、午後の市場での事だった。









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