第50話 2度目の青空市の準備と、戦闘訓練に追われる件



 7月に入って、完全に梅雨明けして気温もグッと上がって来た。山の上の来栖邸でも、そろそろ暑くなって来たねと子供たちが騒いでいる。

 何しろハスキー軍団は、そのフサフサした毛皮がネックとなって。暑さは超苦手で、毎年そのケアに苦労しているのだ。

 早めにプールを出してあげようと、香多奈などは口にしていて。


 そんな末妹は、月曜の今日は代休で学校休みの優雅な休日。とは言え、家畜の世話もあるので、早朝から起きて仕事をこなしていたのだが。

 新鮮な食材での朝食をみんなで食べ終わって、今は一息ついている所。リビングは、香多奈が加わるだけで騒がしさが倍増している。

 今は今週末の、青空市の話題で盛り上がっている所。


「売るモノが少しは増えたけど、昨日の竹藪ダンジョンは食材が多かったからねぇ……スキル書が2枚増えたくらいで、大して商品は増えなかったね。

 目玉商品とか、そんなのが欲しかったよねぇ!」

「スキル書3枚売れれば、凄い儲かるじゃん! 充分だよお姉ちゃん、そしたらまたオーブ珠とか買って貰えるかもだよっ!」

「今回はチラシは無理でも、スケッチブックで商品案内とか前もって作っておこうね。目立つように、香多奈ちゃんに絵とか描いて貰おうかな?」


 紗良の提案に、何でも描くよと元気な香多奈の返事。次回の青空市も、野菜や漬物がメインながらも、ダンジョン産のアイテムも完売させたいと意気込む子供たち。

 そんな感じで、午前中は騒がしく過ごした姉妹。午後からは毎度のスキル訓練をしようと、盛り上がりはいささかも減じていない。

 取り敢えずは、レイジーの新取得スキルを検証すべし。


 ちなみに、昨日の夜も鑑定の書(上級)とか、新しくゲットした魔法の装備品の振り分けとかで盛り上がって。今まで結構な装備品を獲得したが、その再振り分けをする事に。

 指輪以外の首飾りとかなら、幸いハスキー軍団も装備が出来るし。今回のダンジョンで獲得した品は、幸いにも両方ともに筋力の上がる良品だった。

 それを含めて、誰が何を持つかを話し合い。


 何とか確定したのが、以下の通りである――



【護人】《奥の手》『硬化』熊革のマント(腕力中up)

【姫香】『身体強化』『圧縮』牙の首飾り(腕力・脚力小up)

【紗良】『回復』『光紡』遠見の指輪(遠見)、蛍のブローチ(暗視)

【香多奈】『応援』『友愛』蟲のブローチ(土耐性小up)

【レイジー】『魔炎』『歩脚術』蛙の腕輪(水・氷耐性小up)

【ツグミ】『闇縛り』

【コロ助】『牙突』河童の首飾り(HPオート回復)

【ミケ】『雷槌』鬼の首飾り(MPコスト減)、

【ルルンバちゃん】『吸引』《合体》



 ついでに、チームの現在取得しているスキルも掲載してみた。まだまだ全員に魔法の装飾品は行き渡ってないが、前衛陣の腕力強化は嬉しい改革である。

 香多奈の持っていた鬼の首飾りは、MPを毎回容赦なく使うミケの専属アイテムに。それから怪我を負いやすいコロ助には、オート回復機能の付いた首飾りを渡す事に決まった。

 これでペット軍団も、少々の無茶が利くように。


 無茶をさせる気は全く無いが、彼女たちが無鉄砲に敵に突っ込むのは紛れもない事実。そこをサポートするのは、主人で飼い主である護人の役目だ。

 今も厩舎裏にみんなで集まって、スキル検証の時間だと張り切る子供たち。ペットもルルンバちゃんも勢揃いで、古タイヤや土嚢どのうのセッティングに余念が無い。

 護人としては、余り香多奈を訓練には参加させたくは無いのだが。


 微妙な感情である、生き残るには当然強くあるべきなのは分かっているけど。まだ幼い末妹に、その“強さ”を求めるのは間違っているのではとの疑問が。

 それはまぁ、当然だ……護人は今でも、香多奈をダンジョン探索に連れて行くべきでは無いと思っている。だけど、姫香については既に諦めの心境の護人だったり。

 彼女については、家族を守れるほどに強くなって欲しい所だ。


 それはレイジーについても、護人は全く同じ考えである。そのハスキー軍団のリーダー犬は、香多奈のスキル見せての要望に応えて。華麗に地面を駆けた勢いのまま、厩舎の壁を登って行く。

 そして途中でピタッと止まって、重力を無視してパウッとひと吠え。尻尾を振って、物凄い跳躍力で護人の隣へとジャンプを果たす。

 忍者犬もビックリ、子供たちも唖然とした表情である。


「……凄いね、レイジーってば! 本当に、どこまで強くなるんだか!」

「忍者犬みたい、凄いよねぇ……さすがハスキー軍団のボスだよっ、コロ助も頑張れっ!」


 自分のパートナー犬に無茶振りの香多奈、それをコロ助は無難に尻尾を振ってやり過ごすのみ。少女は気にせず、古タイヤに棒で殴りかかっての戦闘訓練など。

 威勢はとても良いが、ハッキリ言ってお遊戯以外の何物でも無い。相棒にも手伝ってと指示を飛ばすけど、コロ助は何の遊びだろうと反応はいま一つ。

 それならばと乱入のルルンバちゃん、持参のチェーンソーでタイヤを真っ二つに!


「うわっ、やり過ぎだよルルンバちゃん! これじゃ殴る的が無くなっちゃうじゃん、反省してっ!」

「……レイジーだけじゃなくて、こっちも凄いね、護人叔父さん」


 確かにその通り、支部長の仁志にも一度どういう経緯でこうなったのかを根掘り葉掘り訊かれた事があったけど。護人に訊かれても、本当の事など全く分かっていないのが事実なのだ。

 ペットの探索への同伴にしても、仁志からは動物の変質の狂暴化について説明されて。将来的に、野生化して裏切る可能性について示唆されてもいたりして。

 ただ、そんな助言は的外れだと護人は思うのだ。


 何しろ探索で、ダンジョンで敵と対峙するだけで既に命懸けなのだ。味方のペットの裏切りなど、考えていても埒が明かない問題でしか無く。

 逆に、それならそれで本望だとも思う次第。ただし子供たちは守り抜いては欲しいけど。今の所はそんな兆候は見受けられないので、心の隅に留めておくだけにして。

 そうなった時は、もうどう仕様も無いと割り切るしか。


 いつの間にか、紗良と姫香もスキルの訓練を始めていた。紗良は『光紡』の発動を、姫香は『圧縮』を組み込んでの戦闘練習で古タイヤをボコ殴りしている。

 タイヤを取られた香多奈は、仕方が無いなぁとミケを抱えて観戦模様。近付いて来たルルンバちゃんの座席に座って、たまに『応援』を姉に飛ばしている。

 そんな姉妹の、何とも長閑のどかな戦闘訓練だった。




 その数日後の平日の夕食だが、来栖家はちょっと早めに食事の準備をして。中庭でのバーベキューを開催、食材は例のダンジョン産が多数を占めている。

 お昼に自宅の魔素鑑定装置で、日曜にゲットした食材をチェックしたところ。ほぼ全部の魔素が、綺麗に良い具合に抜けていたのだ。

 それで調理法を募ったところ、バーベキューが良いとの声が多数で。


 夏も間近なこの時期、夕方過ぎでもまだ日差しは充分に明るい。そして来栖家の中庭は、調理をするのに適したスペースと機材を兼ね備えていて。

 机も椅子も、炭火用のコンロもバッチリ揃っている。元々は護人が、キャンプが好きだとの理由もあるのだけど。子供たちも、この手のイベントは大好物と来ているので。

 使用頻度は、実は割と多かったり。


 側にはハスキー軍団も陣取っていて、おこぼれが貰えないかと目を光らせている。狙い目はもちろん末妹の香多奈、ガードが薄くて絶好の突破口なのだ。

 姫香は逆に、夕食の当番役なので食べすぎ注意と、犬達に夜食はあげない傾向に。護人も基本は甘やかさない、子供が甘やかす分は何も言わないけど。

 紗良もどちらかと言えばガードが甘く、香多奈寄りの分類かも。


 現在はその紗良が、食材を切り分けての準備に忙しくしていて。炭火の調整は、家長である護人の役目。それをテンションの高い、香多奈がすぐ側で見守っている。

 姫香は虫除けの線香の設置をしたり、メインの牡丹肉を切り分けるのを手伝ったり。その間もお喋りに興じたり妹をからかったりと本当に騒がしい。

 それも食事のスパイスと、護人などは割り切っているけど。


 騒がしさにつられて、厩舎からヤギの鳴き声も聞こえて来る。今年めでたく子供も産まれて、繁殖に成功してその分手間も増えているけど。

 彼らも雑草の駆除役として、さらにお乳の供給役として、この農園の一員である事に変わりはない。ちなみに新しく産まれた仔ヤギは、香多奈が茶々丸と名付けていた。

 オスの元気な盛りで、この仔も脱走の常習犯ではあるのだが。最近はレイジーやルルンバちゃんが確保して知らせてくれるので、変に探し回る必要も無いので助かっている。

 ちなみに、脱走の経路は未だに分かっていない。


 まぁ、厩舎からは脱走は不可能なので、今はその心配はする必要は無し。それより火加減はもう良いそうで、紗良と姫香が食材を網の上へ並べて行く。

 その隣では、大鍋で煮立っているキノコ鍋が良い感じに。


「焼きおにぎりもバンバン焼こう、もう待ち切れないよっ……! お肉は別にいいや、こっちのお野菜はウチの畑のやつでしょ、叔父さん?」

「そうだよ、今年もナスとピーマンの出来が良くて助かるな。こっちの筍のホイール焼きも、そろそろいい感じかな? 

 筍とキノコは、思いっ切りダンジョン産だな」

「お肉いらないの、香多奈? いっぱい用意したから、犬達にもあげようか。今日はハスキー達に夕ご飯あげてないから、お肉とかあげちゃっていいよ」


 そうは言うものの、まずは自分たちの腹ごしらえが先と姫香。その食欲は、間違いなく家族で一番で間違い無い。その次が護人で、紗良と香多奈は割と小食。

 もっとも、香多奈は割と間食が多いのが問題なのかも。今日はおやつを抜いているので、腹ペコ魔人に変貌しているけれど。

 それに触発されて、妖精ちゃんも欲張りモードに。


 お肉には見向きもしないが、野菜や果物にはこだわりの強いこの不思議生物。今は紗良に取り分けて貰った、焼きキノコセットに大口で噛り付いている。

 キノコの種類もしめじに舞茸、椎茸に松茸とバラエティに富んでいる。それに順番に噛り付いて、とても満足そうな妖精ちゃんであった。

 香多奈からは、デザートもあるからねと食べ過ぎ注意の助言が飛ぶ。


 お肉の焼ける臭いは、今や破壊力抜群で周囲に蔓延していて。ハスキー軍団も待ち切れないと、じりじりと香多奈へと迫っている。

 焼きおにぎりとキノコのスープを満喫した少女は、焼き上がったお肉を犬達に振る舞い始める。それを物凄い勢いで、咀嚼そしゃくにかかるハスキー軍団。

 野菜も食べなさいと、姫香の言葉には反応は薄かったけど。


「山芋の炭火焼も美味しいね、お肉の油を綺麗に取ってくれるよ。松茸は1本残して青空市で売りに出して良い、護人叔父さん?

 目玉商品が欲しいよね、今の時期なら売りに出てるのこれ1本でしょ?」

「あっ、それなら……熊の手も売りに出していいですか、護人さん? ネットで調理法を調べたけど、イマイチ美味しく料理する自信が無くて」

「別に構わないよ、香多奈も熊の手の味には興味ないだろ……?」


 全然無いよと、末妹の答えはあっけらかん。そんな訳で協議は終了、ここからはデザートタイムである。牡丹肉も良い感じに消費し終わって、人も犬達も満足げ。

 アケビやビワやブルーベリー、季節外れの果物もあるけどそこは気にせず。妖精ちゃんは、大蜂の落とした蜂蜜がいたく気に入った様子。

 口元をべったり汚して、スプーンを舐め取っている。



 さて、食事中の話題は多岐に渡っていたのだが、どうしても外せない話が1つだけ。上級の鑑定の書の使用によって、HPやMPの仕組みが少しずつ分かって来たのだ。

 上級の鑑定の書は、人物やアイテムの詳しい情報が把握出来るそうなのだが。派手にチーム全員に使おうと思っても、たった2枚しか手元に無いと言う。

 なので、前回鑑定した護人とレイジーは除外して、姫香とルルンバちゃんの鑑定をしてみる事に。ルルンバちゃんが選ばれたのは、オーブ珠で特殊スキルを取得しているから。

 それからお掃除ロボも、HPを纏えるかの確認である。



【Name】来栖 姫香/Age 15/Lv 08


HP 38/38  MP 12/16  SP 06/06

体力 D+ 魔力 F+  器用 D  俊敏 D-  

攻撃 C  防御 E+  魔攻 F+ 魔防 E-

理力 E   適合 E  魔素 E  幸運 D+

 

【Skill】『身体強化』『圧縮』

【S.Skill】なし

【Title】なし



【Name】ルルンバちゃん/Age 8/Lv 05 


HP 48/51  MP 04/04  SP 14/20

体力 C  魔力 F  器用 E+ 俊敏 E  

攻撃 C- 防御 C+  魔攻 F  魔防 C

理力 E+ 適合 E+  魔素 D  幸運 E


【skill】『吸引』

【S.Skill】《合体》

【Title】《床マイスター》




 こんな感じで、詳しい鑑定結果には色々とツッコミ処が満載。姫香はまぁ良い、レベルが8に上がってステータスも以前よりは成長が窺える。

 上級の鑑定書だと、器用や敏捷値が追加で記載されるのは新たな発見だった。そして実験の結果である、HPやMPもちゃんと載っててその存在が明らかになったのは喜ばしい真実だ。

 ただし、新たに分からなくなった点も幾つか。


 まずSP値ってなんだろう、それから理力とか適合値ってどう言う意味だろうか。妖精ちゃんに訊ねても、ちゃんと人間にも備わってるから心配するなと諭されてしまう有り様。

 別に心配はしてないし、意味が不明な方が混乱してしまう。まぁ、今度協会の支部長に訊ねてみようと、そんな感じで話は落ち着いて。

 そして問題が満載な、ルルンバちゃんの鑑定結果に。


 レベルが5しか無いのは、連れて行けなかったり魔石拾いがメインのお仕事のせいだろうか。それよりやはり、スキル書とオーブ珠で覚えたスキルは別枠だったみたいである。

 疑問だったHPだが、お掃除ロボにもちゃんと纏えていてその点は良かった。それどころか、彼にも少ないけどMP記載があるのに驚きの一同。

 そして何より、ルルンバちゃんが“称号”を持ってるなんて。





 ――《床マイスター》……お掃除AIロボに、何てお似合いの称号なのだろう。









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