第34話 カエル男を捕獲しようと、探索ごっこを始めた件
まずは事前準備、これを怠るととんでもない事になるよと、探索経験者の香多奈の弁に。武器とか必要かなと、野球バットを持ち出すリンカはある意味勇ましい。
他に何が必要かなと、恐らくこの中で一番冷静なキヨちゃんの言葉に。家に魔素探知機があったっけと、親に内緒で持ち出す気満々の太一の追従。
子供チーム、侮りがたしである。
「家の奴、結構大きくて重い奴だけどどうしよう? 持ち歩くのは、かなり大変だよ……でも、確か『白桜』の団員たちも野良の追跡にアレ使うんでしょ?」
「太一っちゃん、良く知ってるねっ! ウチではハスキー軍団が、野良モンスターの追跡とかしてくれてたけど。コロ助はそう言うの苦手かも、リーダー犬のレイジーは凄いんだから!」
ご主人の評価の低さに、コロ助ってば可哀想と内心でキヨは思いつつ。家にお婆ちゃんのお出掛け用の乳母車があるから、それに載せようと提案する少女。
それは良いねと、テンションの高い太一の相槌。楽しくなって来たなと、簡易子供チームはノリノリである。他に何か武器になるモノ探そうと、リンカの掛け声に。
こっちこっちと、自宅の納屋に皆を連れ込むキヨ。
学校の先生どころか、家族にバレでもしたら折檻モノなのは皆が重々承知している。だから行動もなるべく目立たなく、こっそりが信条での皆の行動振り。
いつの間にか雨が降って来ており、これは逆に有り難いねと太一の言葉。全員が傘を差せば、手にしている怪しい武器の数々も誤魔化せるに違いないと。
なるほど頭いいと、他のメンツはこの作戦を大絶賛。
とは言え、どちらにせよ雨が降れば傘を差すのは当然なのだけど。一行はキヨの家の納屋で、自衛に使えるアイテムを物色し始める。
太一が手に取ったのは、草刈り鎌だった。間合いは短いが攻撃力は抜群、来栖家では何故か不採用で誰もオーバーフローの時には使わなかったけど。
やはり柄が短いのが、使い勝手の悪さに繋がるのだろう。
リンカはキヨに勧められて、ポンプ式の液剤銃を手にご満悦の表情を浮かべていた。それって蟲型のモンスター専用だよと、助言を飛ばすのを
まぁいいかと、香多奈は諦めてカッコ良いねとヨイショを飛ばす。潤滑な友達付き合い術は、やはり再登校初日の少女には必須項目ではあるようだ。
私がカエル男をやっつけるからと、お転婆リンカはテンション高め。
「後は何が……あっ、こっちの野菜の虫よけ剤は、確か唐辛子入りで凄かった筈! こっちの高威力の殺虫スプレーは効果あるかな、香多奈ちゃん?」
「ありそうだよね、特に唐辛子の奴は凄く効きそう……それは取り扱い注意だね、私は素直にこのゴルフのクラブでいいや。
キヨちゃんは、護身用の武器は殺虫スプレーでいいの?」
最初の探索の自分みたいだと、何となく照れながら友達に確認する少女。キヨは満足げに、唐辛子入りのスプレー瓶と殺虫スプレーの二刀流を披露。
太一が納屋の棚から、強力ネズミ捕りシートを発見した。これを顔とかに貼り付ければ、凄い嫌がらせになるかもと興奮してるけど。発想が悪戯っ子である、何と言うか容赦が無い。
まぁ、香多奈の提案に乗った、ここにいる全員がそうなのだが。
そして子供たちは、防具については完全に放棄している模様である。探索経験のある香多奈でさえ、敢えてそれを知らせようとはしない有り様。
いざとなれば、スキルも使うしコロ助に助けて貰う気満々の少女である。久々に皆で盛り上がってるのに、雰囲気に水を差すなんて下策でしかない。
――そんな子供たちを、コロ助はなんだかなぁって顔で眺めていた。
来栖家の面々は、昼を仲良く揃って食べて午後の予定伺いなど。護人は外の天気を見て、キャンプ道具の陰干しと洗車をキャンセルするかなと愚痴模様。
ミケがキッチンテーブルに飛び乗って、誰か構えと鳴いている。それに素早く反応する姫香、雨が降る前に外仕事は全部終わらせたいねと口にして。
手ではミケを抱き寄せて、優しく撫で繰り回している。
「あっ、そう言えば護人さん……私の実家のスキル修繕、もう少しで終わりそうです。それが終わったら、隣の2軒目に移りますね?
もしあそこに探索者が民泊で入ったら、一応はお隣さんって事になるのかぁ」
「まぁ、この家からは結構離れてるけどな……それなら、向こうの家の前の伸び放題の雑草も、少しは刈っておいた方がいいのかな? しかし紗良のは便利なスキルだな、俺の習得した奴なんて発動の仕方が全く分からないよ。
何となく、背中辺りに違和感はあるんだけどなぁ」
「あっ、それは私も一緒だよ、護人叔父さん! 『圧縮』ってスキル、未だに使い方が分かんなくて困ってるんだけど……午後に一緒に訓練しようよ!」
姫香の誘いで、午後の数時間の予定は何となく埋まる事に。紗良が実家をスキル修繕している間、護人と姫香はその近くでスキル使用訓練を行う取り決めに。
護人の感じる違和感は独特で、例えば人間が耳を動かそうと、頬の辺りの筋肉をひくつかせるような感じ。どう頑張っても、耳は動いてくれずにもどかしさだけが募ると言う。
訓練次第で、どうにかなるかは全くの不明と来ている。
紗良の修繕は、1日で全てやり切るにはとても無理だと聞いている。何しろ凄く疲れるそうで、手の平サイズの修理でもMP枯渇に追いやられるとの事。
一度には無理ってのが分かって、こうやってちょくちょく仕事の合間に姫香とここに通っているそう。お隣と言えど200メートル以上離れているので、護衛は常に必要との判断で。
毎回、姫香とツグミがお供を申し出ている状況らしい。
そんな感じの取り決めで、取り敢えずは草刈り機も持参しての離れの民家へと向かう一行。レイジーとツグミも一緒で、周囲に目を光らせて警備はバッチリの様子。
ただし空模様は悪化の一途を辿っていて、これは草刈り作業は無理っぽい。傘も持って来ているので、帰りにずぶ濡れの目には遭わないだろうけど。
ここは素直に、スキル練習をしようと姫香の言葉。
「実際、何度か試しているとスキルの作動がスムーズになって行く感覚がありますよ? 消費する気力も、何となく少なくなって来てるし、実戦練習は大事ですね!
護人さんも、是非ともチャレンジして下さい」
「私も頑張るよっ、まずは発動からだけど……護人叔父さんのはオーブ珠で覚えた奴だから、やっぱり普通のスキルよりは難しいのかなぁ?
とにかく、まずは色々と試してみよう!」
そして実戦練習は開始され、紗良は毎度の壁の穴塞ぎへと去って行った。姫香はまずは『圧縮』って何だろうと、疑問を護人へとぶつけてみる。
丸投げされた護人だが、彼が思い浮かぶのはタイヤとかの空気入れ。圧縮された空気は、思いのほか強固で実用性に富んでいる。
あれを魔法で実践出来れば、それは凄い事じゃ無いだろうか。
そう口にすると、姫香は途端に考え込む素振り。タイヤの空気圧縮をエアで体感したいのか、両手でグッと丸い塊を作る作業を繰り返している。
その程度で上手く行くのかなと、護人は見守りながらも疑心暗鬼な気分である。自分で提案しておいてアレだが、その程度で発動すれば誰も苦労はしない。
とか思っていた、過去の自分を蹴り飛ばしたくなる護人。
何と言うか、若者の脳の柔らかさって素晴らしい。アドバイスを自分の中に呑み込んで、すぐに応用出来るなんて……つまりは、姫香の挑戦は一度目で大成功!
それは目に見え難い変化だったが、確実に2人の目の前に存在していた。恐らくは圧縮された空気の塊、魔法で創り出された姫香の取得した2つ目のスキル。
それは結構な質感と、それから可能性を秘めてそこにあった。
雨の中、元気に川辺の土手を歩く小学生と1匹の大型犬。子供の1人は乳母車を押していて、傍から見ると割と
それを注意されないのは、ひとえに周囲に誰も人影がないから。田舎の大人たちも、こんな雨の中で農作業はさすがにしない。
そんな訳で、即席小学生パーティは誰にも
「ちょっとドキドキするね、いきなりカエル男に出会ったらどうしよう? 殴り掛かっても怒られないよね、でも反撃されたら怖いかなぁ?」
「モンスターは獰猛だから、人を見たら襲い掛かって来るんじゃ無いかなぁ?」
「やっぱり怖いね……太一っちゃん、私の前歩いて?」
一番大人しいキヨが、やや怖気づいた感じで太一を盾にする構え。太一も勇ましいって性格では無いので、腰はかなり引けている。前を進むリンカだけ、最初の勢いを外さない。
香多奈はコロ助を信頼してるので、特に不安は感じないけど。さっきから押している、乳母車に搭載した魔素探知機の使い方がイマイチ分からない。
さっきから、マイクの様に突き出たセンサーがピーガー言ってるけど。
何らかの魔素の痕跡に反応してるっぽいけど、そもそもこの辺りにダンジョンは生えていたっけ? キヨに訊ねても、あったかなぁと首を傾げられる始末で。
そうすると、目撃されたカエル男はどこから流れて来た野良なのだろう?
そこら辺の疑問は残るが、腕白少女リンカを先頭に河原の探索は続く。伸び放題の草むらを掻き分けて、目撃多数のエリアを隈なく見て回る。
コロ助も香多奈の隣を、雨の中ながら呑気に進んでいる。濡れるのは構わないけど、子供のお供は大変だなぁとか内心では思っているのかも。
コロ助の胸中は不明だが、周囲には段々と薄闇が迫って来ている模様。
そろそろ10分は過ぎたかと思われる頃、その遭遇は不意に起こった。子供たちも段々と飽き始め、もう切り上げようかと相談し始めたころ。
心の空隙を突くように、先頭を行く2人の少女が奇抜な色合いの動く物体を発見して。思わず絶叫するリンカ、同時に近付いて来る派手なスーツを着込んだカエル男。
パニックが、あっという間に子供チームを襲う。
「やっ、ヤバい……みんな、逃げろっ!」
「わっ、わあっ~!?」
途端に反転して、川岸から土手の道路へと逃げ始める子供たち。一方の香多奈は、乳母車に搭載された魔素探知機が高価なのを知っていて、思わず
隣のコロ助に目をやると、護衛犬は子供たちのパニックにも全く動じていない様子。とは言え、遭遇したカエル男に襲い掛かる素振りも無い。
何しろいつもと状況が違う、彼にとっては散歩の途中との認識で。
その途中にうっかり、相手のテリトリーに侵入してしまったって感覚だろうか。つまり悪いのはこっちで、敵対もしてないのに攻撃する理由もない。
匂いも微妙で、スーツからは人間の香りが漂って来ていて。そんな相手を攻撃出来ない、彼は護衛犬なのだ。直接的な被害が襲い掛からない限り、反撃など不可能。
ところがソイツは、子供の大声に反応して襲って来た。
歩みは決して速くは無い、ってか香多奈が見た限りカエル男は靴を履いていなかった。蛙の脚では、恐らく革靴が装着出来なかったのだろう。
その代わりソイツは、水弾を創り出して飛ばして来た。香多奈の周辺にも被弾して、ここまで押して来た乳母車が派手に宙に吹っ飛んで行く。
思わず叫ぶ香多奈、その瞬間にコロ助のスイッチが入った。
少女の前に飛び出して、唸りを上げての臨戦モード。なおも飛んで来る水弾は敢えて無視、1発が身体に直撃するが構わずこちらも『牙突』スキルを飛ばしてやる。
向こうは少し怯んだが、まだまだ倒れる様子は無い。なかなかの強さを備えているのかも、コロ助の闘志に再度
一気に膨れ上がるコロ助の肢体、漲る気力と共に再度の牙突!
2撃目もソイツは耐えたが、既にボロボロで反撃する気力は失っている模様。止めの3撃目で、哀れな野良モンスターは派手なスーツを残して消え去って行った。
いや、どうやらスキル書とピンポン玉サイズの魔石も、一緒に残した様子。つまりは中ボス程度の強敵だったらしい、良く見れば蛙の意匠の腕輪も側に落ちていた。
危機を脱した香多奈だったが、落ち着くまでに暫し時間が必要で。
――ドロップ品より高価な機械が壊れてないか、ひたすら心配する少女だった。
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