第35話 川辺のダンジョンに間引きに入る件
田舎町の良い所は、道端に路駐しても何も言われない所にある。特に誰の迷惑にもならないし、そもそも道の横に草だらけの空き地が結構あったりして。
香多奈がめでたく、6月の頭から小学校に復帰して。そしていきなり“カエル男”の大事件と偶然に遭遇して。それが何とか無事に解決した、最初の週末の土曜日。天候は生憎の雨、と言うか結構な土砂降りで梅雨も真っ只中って雰囲気である。
そんな中、来栖家チーム『
場所は日馬桜町に流れる川に架かる、落合橋の近くの空き地である。今度もキャンピングカーでのご出勤、ハスキー軍団もミケもしっかりスタン張っている。
ルルンバちゃんもいるが、今回はどうも連れて入るには具合が悪い様子。自警団『白桜』からの前情報では、この“落合川ダンジョン”は全層膝丈まで水が張られているそうで。
さすがに電化製品を、連れて行くのは無理っぽい。
地元の民の記憶にも薄かったこのダンジョン、丁度橋の下に入り口があるのだけれど。子供たちも気付けなかったほど、草に覆われて所在不明と言う有り様。
こんな
一言で説明すると、毎度の子供たちの暴走に他ならない。
どうやら例の青空市での、販売ブースの大成功に味を占めたようで。次の出店も当然参加、その為に売りに出すアイテムを補充したいとの思いが強いらしく。
散々に
臨時収入になるのなら、こんな労働も是非も無し。
「説明は以上、出て来る敵のデータは覚えたな? 手強い敵は大アメンボや毒ガエル位だけど、雑魚の肉食オタマジャクシも大量に襲って来るらしいから注意な。
くれぐれも気は抜かないように、洞窟の水位は深い場所もあるって話だから。みんなちゃんと胴丈長靴を着込んだかな、荷物持ちの紗良と香多奈は大変だと思うけど。
今回も無理せず、頑張って行こう」
「は~い、頑張るっ……やっぱり、ルルンバちゃんを連れて行くの無理かぁ」
「水没して壊れちゃうってば、お留守番をちゃんと言い渡しておきなさい、香多奈。それよりうちのチームに『日馬割』の名前がついての、初めての出動だからね。
頑張って魔石貯めて、私と紗良姉さんが今度はEランクに上がるよっ!」
頑張る動機が別にあるらしい姫香は、まぁチームの元気の源には違いなく。お~っと追従する末妹も、ランクは関係無いけどドロップ品獲得は大いなる原動力っぽい。
ちなみに前回の魔石とポーションの協会への販売で、護人のランクは一気にDにまで上がってしまった。大した実績も無いのに、2階級特進である。
縁起が良いのか悪いのか、
特に断る理由も無いので、カードを更新して貰った次第である。まぁ色々と特典も付くそうなので、ランクの上昇は悪い事では無いと思いたい。
そして全員が革のスーツの上に着込んでいるのは、胸丈のゴム製の防水スーツである。胴長靴とか、呼び名は色々とあるらしいのだけど。
要するに、普通の長靴では濡れる場所へ
今回の探索に当たって、自警団『白桜』から借り受けた装備の1つである。どうやら備品らしく、終わったら返すように細見団長には言われているけど。
取り敢えずは有り難い、それから割とゴツい
そんな訳で一行は土砂降りの中、川辺へと降りて行く。
幸い入り口が橋の下なので、傘は途中までで良かったのは助かった。川の水位は上昇しているけど、入り口が浸水する程でも無い。
そして子供もしゃがまないと入れない小さな穴を前に、多少げんなりする一同。それでも護人の号令に、ハスキー軍団がまず一番乗りを果たす。
彼らには丁度良いサイズ、入るのに何の
ただし、中は思い切り洞窟タイプで薄暗い有り様。そしていきなり膝丈の水たまり、ヘッドライトの灯りで見渡すも陸地など存在しない様子。護人に促されて、香多奈は光の魔玉で周囲を照らす。
来栖家チームの隊列は大きく変わらないが、今回の前衛2人は武器に銛を選択している。護人は片手に丸盾を装備、前回の探索の戦利品である。
水場の対策は、取り敢えずはバッチリ。
不安があるとすれば、ハスキー軍団の機動力だろうか。こんな水場では、思い切り削がれてしまうのも道理。今はまだ脚で歩けているが、泳がないと駄目な場面も出て来るかも。
そうなると、もう戦闘どころでは無くなってしまう。その辺も念頭に入れて、護人は今回の探索の難易度は決して低くはないと想定している。
相棒が頼れないとなると、前衛の頑張り次第になる可能性が。
じゃぶじゃぶと音を立てて進む一行は、やがて円形の小部屋に辿り着いた。そしていきなり深くなる水深と、黒い波の様に押し寄せる敵の群れ。
話に聞いた肉食オタマらしい、それにしても数が多い。慌てる姫香だが、隣の護人の掛け声で冷静さを取り戻す。そして敢えて前に出ず、通路側で迎撃態勢に。
敵は密集体形、突けば必ずどれかに命中する。
「ミケさん、手伝いはまだいらないってば……ミケさんの雷は、水を伝ってみんなにダメージが伝わるんだから! コロ助、代わりにちょっとだけ頑張って来て!」
「香多奈っ、ミケだけはちゃんと手綱を握ってなさいよ! 味方からダメージとか、間違っても喰らいたくないんだからねっ!」
分かってるよとの元気な返事、だがミケを抱えて下がって行くのは紗良だったり。カオスな戦況に、満を持してのコロ助が参加。香多奈からちょっとだけ応援を貰った彼は、スキルの恩恵で3割方のパワーアップを果たしていた。
その恩恵でもって、壁役を買って出るモノの。水中の敵に噛み付く訳にも行かず、己の『牙突』スキルで目の前の黒い物体を穴ぼこにして行くのみ。
ハッキリ言って非効率だが、噛み付けないのだから致し方が無い。
そんな最初の遭遇戦は、割と短時間で収束となって。護人と姫香は、慣れない銛でとにかく突きまくっての戦闘終了に。息は荒いが、幸い怪我は負っていない。
何度か足元に噛み付かれた感触はあるが、ゴム長も丈夫で破れてはいない様子。ひたすら残念そうなのは、魔石を回収出来ないと嘆く香多奈のみ。
確かに澄んで綺麗な水とは言え、水底に沈んだ粒を回収するのは難儀かも。
ところがそこに、意外な救いの神が降臨。何とツグミが、闇の触手を伸ばして沈んだ魔石を回収してくれたのだ。驚く姫香と大喜びの香多奈、そしてそれを丁寧に回収する紗良。
スキルの多様性は、実は子供たちが思うより奥深いのかも。とにかくナイスと、相棒を褒めそやす姫香だったけど。レイジーはやや不満そう、何しろ活躍の機会が全く無い。
そう言う事もあるさと、護人は相棒を慰める。
今回は、そういう意味ではミケも出番は無い。ってか、極端に活躍の機会は限られて来る。何しろ、水が一面に張り巡らされているダンジョンなのだから仕方が無い。
それに水の中も視界が通り難くて、紗良の魔法の目も宝の持ち腐れ。そもそも洞窟仕様なので、灯りの類いがほとんど無いと来ている。探索も自然と、慎重にならざるを得ず。
そんな訳で、チーム『日馬割』は慎重に次のエリアへ。
水の中を進むのは、結構体力を消耗する。小さい香多奈は大変そう、それでも文句は一切言わないけど。そして次の小部屋で、また別の敵と遭遇した。
今度はゲンゴロウらしい、サイズは大き目のクッション程あるけど。
「コイツは硬いだけの敵だ、ただし食い付かれたら体液を吸われるそうだから気を付けて、姫香!」
「はいっ、護人叔父さんっ!」
大ゲンゴロウは数こそ少ないが、硬くて肉食オタマジャクシよりは手応えがある。そして相変わらず水中からの攻撃、こちらも銛で突いての応酬の果て。
2個目のフロアの制覇には成功、ここまで結構苦労しているように感じるけど。慣れない水没ダンジョンなので仕方が無い、探索自体は怪我も無く順調。
ダンジョンの大きさも、他よりも小さ目かも?
お陰で、1層の探索も時間が掛からずにほぼ終える事が出来た。敵のいる小部屋が全部で3つ、それから大ナマズ1匹のみいた脇道の部屋と、唯一の乾燥した部屋に下層への階段が。
子供たちからも、移動は大変だがコンパクトなのは良いとの評価。そしてそれは、次の2層目に関してもほぼ同じで。メインのエリアには、肉食オタマとゲンゴロウが割とたくさん。
そして脇道の小部屋には、大ナマズと大蛍が1匹ずつ。
大ナマズの丸呑み技は、油断してるとハスキー軍団も餌食にされてしまう威力。すぐに消化はされないだろうが、それなりのダメージは喰らいそう。
そして大蛍の発光は、ただ部屋を定期的に明るくしてくれるだけと言う。たまに出現する、攻撃力を持たない敵のようだ。可哀想だがサクッと倒して、魔石に変えて行く護人。
そして小部屋を確認して、蛍の停まっていた木に驚きの声を上げる姫香。
「わわっ、護人叔父さん……この木だけど、結構たくさんの実が生ってるよ? 採っても良いのかな、毒とかは無さそうに見えるけど……」
「姫香お姉ちゃん、そこの枝のもっと上を見てっ! ちっちゃい鳥の巣みたいなのがある、何か宝物が置いてあるかもっ?」
ついでに謎の木の実も、姫香と香多奈で7個全部を回収。紗良はミケで手が塞がっていて、色々と探索に不向きな佇まいで付いて来ている。
多少不安だが、ミケが濡れても不味いし仕方が無い。
そして発光石の1つを、追加でついでに使ってしまう事に。これで前衛と後衛で2つの光源が発生、これで随分と周囲は明るくなった。何しろこの石、魔力を通して念じると、勝手に浮遊して所有者について来てくれるのだ。
魔法の品万歳の性能である、そして一行は3層へと足を延ばす。
この層も造りはほぼ同じ、出て来る敵に噂の毒ガエルが混じった程度か。細見団長に厄介な敵と認定されていたが、来栖家チームには魔法持ちが多い事もあって。
この層から大きな岩場が散見されるようになって、そこに毒ガエルが座っている場合が多かったのだが。その場合は、満を持しての登場のレイジーとミケに焼き払って貰う事に。
競い合うように活躍する両者、ハッキリ言ってオーバーキルである。
「う~ん、もう少し乾いた陸地が多ければねぇ……? そしたらミケさんもレイジーも、活躍出来る機会がもう少し増えるのに」
「そうだね、ミケなんて構ってちゃんだし……紗良姉さん、ミケの我儘に相手し過ぎてたら大変だし、ほどほどにしておいていいんだよ?」
「うん、今日は前よりは随分とマシかなぁ? さっきまで寝てたし、凄くリラックスしてる感じだね」
探索中に寝るのもどうかと思うが、こんな水場で暴れられても困るのは確か。この層も、広さ的には前の層とどっこいな感じ。ツグミの魔石集めも、慣れて来たのか順調である。
ってか、ツグミも今回の探索では魔石拾いしかしてないような。その分、護人と姫香の銛突きが、最初に較べて格段に上手くなってる気も。
出て来る雑魚たちも、すっかり脅威では無くなっている。
そしてこの層の分岐部屋は全部で2つ、最初の部屋には定番の大ナマズが待ち構えていて。それを倒して次へ向かう、一行の目の前に不思議な光景が。
いや、特に不思議でも無い……不意を突かれて、戸惑いはしたけど。一瞬足を止めた護人の脇をすり抜け、その水に浮いてる洗面器を回収したのはレイジーだった。
暇だったらしい、それを律儀にご主人に差し出して。
「おっと、有り難う……中には定番の鑑定の書と、これはポーション瓶かな? それから怪獣のソフビ人形が2つ、ウル〇ラマンの奴かな、懐かしいな」
「へえっ、何か格好良い形をしてるね……これで叔父さんの子供の頃は、人形遊びとかしてたの?」
「そうだな、これは怪獣のフィギュアで、最後は正義の味方にやっつけられるんだけどな。男の子たちは、何故か悪役の怪獣に魅せられるんだ。
香多奈はこの怪獣の良さってか、魅力が分かるかい?」
分かんないけど、コロ助は喜びそうと珍妙な回答を飛ばす末妹。確かに犬の玩具には良いサイズかも、それ以上にプレミアで高値が付く可能性もあるけど。
こんな時代になっても、金持ちの好事家は一定数だが存在している。ネット販売系は、流通の崩壊で碌に機能はしていないけれど。
上手く売れば、小銭程度にはなってくれるかも。
小判とか瀬戸物の例もあるし、その可能性は存在する。そんな訳で、このソフビ人形も香多奈のリュックの中に回収する事に。その奥の突き当りの部屋では、水カマキリがお出迎え。
初の対面だったが、姫香が銛を持って行かれそうになった以外はすんなり終了。最後はコロ助の『牙突』で、たった1匹の敵はご臨終。
これでこの層の敵は、全て倒した計算になる。
――そろそろ身体も冷えて来た、探索業も楽じゃ無い。
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