第19話 初の中ボス部屋をクリアする件



 取り敢えずは適性と練習だ、それから本当にこんな石っころにそんな能力があるのかの実験も。何しろぶっつけ本番など、あらゆる面で怖過ぎる。

 この役をこなすのは、当然ながら後衛の2人のどちらかである。紗良に投擲能力があれば良いが、無ければ香多奈に頑張って貰うしかない。

 まぁ、末妹の戦闘参加は褒められたモノでは無いが。


 それでも皆が生き残る確率が上がるのなら、何でも試すべきなのも事実。全員がこの、中ボスの部屋と言う物騒な場所に入るのは初めてなのだ。

 その類いの保険は、幾らでもあった方が良い。


 そんな訳で、その辺に転がっていた石ころを、両者に渡して投擲の実力を較べてみる事に。香多奈の実力は、護人もある程度は分かってはいたけど。

 少女は家の中庭でも、姫香や護人とキャッチボールをする程に、スローイングには慣れている。小学校でも、男女混合でのソフトボールで放課後とか遊んでいるし。

 そして結構な名選手なのも、家族の知る事実。


 一方の紗良だが、試しに投げて貰った石ころは方向も威力もてんで駄目。新たなダメージ役の任務を、とても任せられるレベルには無い。

 一般の女の子なら、こんな感じかなぁってな具合である。護人の定めた標的から、まるで見当外れの方向に飛んだ石を全員で眺めながら。

 ってか、律儀にコロ助が投げられた石を取りに走るのが和む。


 念の為に2~3度練習したけど、案の定と言うか香多奈の方が圧倒的に上手い。その件に関しては姫香も同意、後方からの投擲役は妹にやって貰おうとの決議がなされ。

 後は本当に入手した石っころが、妖精ちゃんの言う通りの殺傷能力があるかだけれど。勿体無いけど、実験に1個使ってみようと言うと。

 概ね賛成の意見が、チームからも上がって。


「それじゃあ、この尖った黄色い石を投げるね……お試しスロー、行きま~すっ!」


 3つある黄色の石の1つを取り出し、叔父の護人が定めた壁際の的へと、香多奈は勢い良く石っころを投げつける。それは狙い違わず、って言うかなんて美しい投擲フォーム。

 壁の下側に当たった瞬間、は勢い良く破裂音を発した。それから派手に飛び散る石礫、それが壁の至る所に当たって物凄い事になっている。

 どうやら心配された、攻撃の威力は軽く合格レベルかも。


「す、凄い威力だねぇ、護人叔父さん……全部で何個あるんだっけ、これならボスが出て来ても楽勝かもねっ!」

「えっと、今日の探索で回収出来たのが、残り4個だったかな? この黄色い石があと2個で、赤い奴が2個ほど残ってるね。

 香多奈ちゃん、大役だけど頑張って!」


 頑張るよっ、と姉の紗良に元気良く返事をする少女。4つの石を受け取って、これを爆発石と名付けようとはしゃいだ声を上げている。

 実際に探索者の中で広まっている名前は、実は『爆裂魔玉』と言うのだが。それを知らない来栖家での呼び名は、以降末妹命名の『爆発石』で定着する事に。

 ちなみに一部のベテラン勢も、これを定番ダメージ源に使っている。



 とにかく香多奈の準備は整った、そして姫香も最初から投げる用の大小シャベルを受け取って準備万端。前回の経験を活かして、速攻で敵を沈める気満々である。

 そんな感じでいざ入室、護人と姫香の2トップが扉に手を掛けて押し広げて行く。普通の四角い部屋を想像していた一行だったが、しかし肩透かしを食らう破目に。

 そこは自然洞窟のような、割と広い空間で。


 つまりは今までの本道と、そこまで代わり映えが無いって事で。ただ中ボス部屋との皆の予像は、どうやら間違いは無かった様子。

 何しろ洞窟の奥に、下へと降りる階段がはっきりと窺える。と同時に、部屋の奥に木製の宝箱が置かれているのも発見して。張り切る子供たち、ボスは何処だとテンションアップ。

 そして目的の影は、天井近くに隠れていた。


 それは今までの奴とは比べ物にならない程の、巨体を誇る大蜘蛛だった。至る所に蜘蛛の巣も張られていて、下手に動けば絡まって悲惨な目に遭いそう。

 リーダーの護人から注意が飛ぶが、姫香と香多奈の返事は「まずは投擲で攻撃!」と同一の口調。それに反応して、雑魚の蜘蛛の群れがわらわらと寄って来る。

 それを迎え撃つは、レイジーとミケのダブル魔法だった。


 派手な炸裂音が、あっという間にボス部屋に響き渡り始める。ボス大蜘蛛も降下を開始しているが、それを狙った姉妹の投擲攻撃はエグかった。

 実は2人とも、学校で遊ぶソフトボールではピッチャー経験も豊富だったり。とにかく投擲シャベルの一撃は、見事にボス蜘蛛の巨躯に大穴を開けて。

ついでに香多奈の魔玉の威力で、地面に放り出される哀れな大蜘蛛。


 速攻で倒すぞとの言葉は、どうやら伊達や酔狂では無かった様子。もう1本のシャベルは、狙い違わず敵の顔面をえぐって行き。

 堪らずギチギチと絶叫を放つ敵ボス、その頃にはレイジーとミケの活躍で雑魚の蜘蛛もほぼ一掃されている始末。ボス部屋だと気張っていた一行だが、何とも拍子抜けの結果に。

 ダメ押しのミケの落雷が、シャベル伝いに大蜘蛛の体内を焦がして行き。


 突き刺さったままのシャベルは、割と悲惨な形状になってしまったけど。程無くボスの巨体は消滅して、後にはドロップ品が3つほど転がっていた。

 同時に、周囲に張られていた蜘蛛の巣も消滅したのは、モンスターの一部だった為か。良く分からないが、これで部屋の中を動き廻るのに無用な心配は無くなった。

 そんな訳で、勇んでアイテムの回収に走り出す子供たち。


 ボスの大蜘蛛のドロップは、ピンポン玉大の魔石と束ねられた蜘蛛の粘糸、それから蟲の目玉をかたどった指輪だった。美しくは無いが、リアルで芸術的価値は高そう。

 それから木箱の宝箱の中身は、多くは無かったけど当たりがしっかり入っていた。古い牛乳瓶に入ったポーション薬はともかく、箱からスキル書を取り出した香多奈は狂喜乱舞。

 これは絶対私のだと、相変わらずの不明な自信を発していて。


 それは置いといて、他は鑑定の書×5枚とかさっき使った爆発石×4個とパッとせず。でもまぁ、最初の目的であるモンスターの間引きは充分に果たせたと思う。

 護人はそう思いつつ、寄って来たミケを優しく撫でる。いつの間に魔法を覚えたのかは不明だが、ミケの戦闘能力はレイジーに引けを取らない感じだ。

 それを確認出来たのも、今回の探索の大いなる収穫だろう。


 ここまで既に2時間近く、先に進むルートは確認出来たけど、引き返す時間を考えれば戻るのがベストだろう。宝箱を漁って満足した子供たちも、この案には賛成の様子。

 そんな訳で、余力を残しつつ一行は帰路に就く事に。





 無事に家に戻れた事を祝いつつ、皆でお風呂に入って夕食を済ませて。それからひと騒動、何しろ今回も結構なアイテムを持ち帰って来れたのだ。

 その中で一番子供たちのテンションが上がったのが、スキル書を誰が覚えるかという事。毎度のいい加減な順番で、年長者たちが反応無しの中。

 何とスキルをゲットしたのは、予告通りの香多奈だった。


「やった、これで私もみんなの役に立てるよっ! どんな効果だろう、教えて妖精ちゃん!」

「妖精ちゃんは教えてくれるだろうけど、今回も鑑定の書は結構回収出来たんだから。使ってみればいいじゃん、いいでしょ護人叔父さん?」

「構わないよ、好きにしなさい……」


 最年少の少女のスキル所有に、何とも言えない表情の護人である。今までうやむやに許可していた探索の同行に、これで断る理由が潰えてしまった。

 妖精ちゃんは律儀に、『応援』系の能力かなぁと無料の鑑定をほどこしてくれて。鑑定の書でも、それはちゃんと記されていて少女は有頂天。

 これで家族に、スキル無しは護人のみに。



【Name】来栖 香多奈/10歳/Lv 03  


体力 F  魔力 E-

攻撃 F  防御 E-

魔攻 E+  魔防 F+

魔素 E-   幸運 C+


【skill】『友愛』『応援』



 微妙な立場の家長だが、今回は鑑定の書も使ってみる事に。7枚の書の内訳だが、護人とミケと香多奈の鑑定に3枚。魔法アイテムかも知れない、指輪とマスクの鑑定に2枚。

 それから残り2枚は、ダンジョン放置の冷蔵庫から入手した薬品に使用する事に。4種あるうちの2種類は、色の具合で何となく効能が分別されているのだが。

 残りの2種は、妖精ちゃんも思い出せないそう。


 他人の行儀にとってもうるさい、ミケの唾液採集でひと悶着あったけど。何とか香多奈がその身を犠牲にして、これで3枚分の鑑定の書を使用出来た。

 その間に、姉2人が末妹の鑑定済みの用紙をチェックして騒いでいる。ステータスとレベルは、運だけ高い程度でこんなモノかなぁって感じ。

 それが、スキル欄を見た途端に驚き声を発する破目に。




【Name】来栖 護人/37歳/Lv 04  


体力 D-  魔力 E-

攻撃 E+  防御 D+

魔攻 E+  魔防 E

魔素 E-   幸運 E


【skill】なし



【Name】ミケ/12歳/Lv 05  


体力 F+  魔力 C-

攻撃 E+  防御 F

魔攻 D+  魔防 D+

魔素 E  幸運 B+


【skill】『雷槌』



「香多奈っ、アンタってばスキル2つも持ってるじゃん……! こっちの『友愛』ってスキル、一体いつ覚えたのよっ!?」

「えっ、私……2つもスキル持ってるの?」


 本人も全くの無自覚だった様子、『友愛』と言うスキル所持が鑑定の書の使用で白日のもとさらされる事になって。姉と一緒に驚いている様子は、恐らく嘘では無いのだろう。

 妖精ちゃんは、最初からスキル持ちの人も少ないけどいるよと、ビックリ発言を繰り出している。初めて聞いたよと、そんな希少人物の妹をマジマジと眺める姫香。

 当人も、いきなりのヒエラルキーの逆転に戸惑っている様子。


 何しろ、家族で2つもスキルを所有している人物は少女だけなのだ。有頂天になるのも、まぁ仕方が無いと思われる。そしてその『友愛』スキルのお陰で、香多奈が妖精ちゃんやルルンバちゃんとコミュニケーションが取れるのではとの推測が為され。

 なるほどと、何故か本人も納得すると言う珍事。


 お陰でそこそこ優秀な護人の鑑定結果も、それ以上に抜け出たミケのステータスも、家族にはほぼ弄られずに済むと言う。ミケなど、BやC判定が普通に混ざっていると言うのに。

 その点で言えば、F判定の無い護人の結果も割と凄いかも。家長の面目躍如である、スキル無しを改めて通達されるのはアレとして。

 そしてリビングでは、香多奈の暴走が止まらない。


 『友愛』はともかく、スキル書で覚えた『応援』はどんな効果があるのかサッパリ分からないので。今から実験しようと、取り敢えず「頑張れ!」を連呼する少女。

 その結果、何か力が湧いて来たかもとの、素直な姫香の反応に加え。紗良もそれに同意して、どうやらこのスキルは対象を強化する効果があるらしい。

 ミケに至っては、何と尻尾が2本に増える現象が!


「ミケさん凄いっ、猫又だっ!」

「凄いねぇ、私と姫香ちゃんの身体能力も上がってるポイし、結構使えるスキルかも?」


 その紗良の言葉を聞いて、増々有頂天になる少女。今度はコロ助に掛けてあげようと、縁側から扉を開けて夜の中庭へと声を掛ける。

 夜の見回り中だったハスキー軍団は、何事かと全員が呼び声に集まって。毎度の実験に晒されるコロ助と、その結果に驚く家族と言う構図。

 何とコロ助の身体が、いきなり2倍程度に膨れ上がったのだ。





 ――そして肝心の香多奈は、突然MP切れで派手にぶっ倒れるのだった。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る