第18話 中ボスと言う存在と初対面する件
実力的にキツイかなと思われた第4層だったが、序盤のミケの無双もあって、実は皆の体力は温存されていたりして。そんな訳で、本道を埋める大ネズミの掃除は順調そのもの。
数だけは多いけれど、一度対処法を覚えてしまうと後は機械作業で殲滅出来る。結果的には姫香の示した動きが正解で、
買い揃えた頑丈なブーツは、酷使に充分耐えてくれそう。
「うへぇっ、さすがに4層まで降りると雑魚の数も多いねぇ……大蜘蛛の数がそんなに増えてなかったのが、まぁ唯一の救いかな?
でもまだ突入から、1時間くらいしか経ってないし順調だよね!」
「4層も、無事に端まで来れたねぇ……ちなみに、ここの脇道は3つだったかな?」
「それじゃあ覗きに行こうよ、またアイテムが見付かるかも知れないよっ!」
ダンジョン探索を、宝探しゲームと思ってる節のある香多奈の発案に。進んで乗っかる姫香と言う構図、これはもうどうやっても
敵はしかし、もちろん各部屋にそれぞれ待ち受けていた。大ムカデと大蛭は前の層でも見ていたので、同じ対処法で無事にクリアに至ったけれど。
最後の1部屋には、問題アリの敵が待ち受けていて。
大カメムシである、それが3匹地面と壁に貼り付いていて。思わず鼻をつまんで、入室にたじろぐ面々。殺傷力で言えば恐らくは最弱、ただし奴らには恐怖の特殊能力がある。
放屁と言うか、これも田舎あるあるなのだが。コイツ等は平たいフォルムを利用して、平気で窓の隙間から室内に侵入を果たして来るのだ。
張り倒そうにも、その後の悪臭を思うと手が
「ど、どうしよう、護人叔父さん……倒すのは簡単だろうけど、逆襲を喰らわないかな? 殴ってすぐに引き返せば、オッケーかなぁ?
だったら、覚悟を決めて私1人で突っ込むけど」
「でも姫香お姉ちゃん、あの古惚けた冷蔵庫が気にならない? あれって宝箱かも、中に何か入ってるか確かめたいよっ!
何とか、奴らが悪臭を出す前にやっつけられない?」
「無茶言わないでよ、香多奈……奴らは刺激を与えたら、まず間違いなく放屁するんだから。……でもひょっとして、倒しちゃえば魔石になって臭いも消える?
どう思う、護人叔父さん?」
敵を倒せば臭いも消える可能性は、まぁ無くはないかなって程度かも。奥に放置されている冷蔵庫だが、確かに中に何か入っていても不思議では無さそう。
ってか、明らかに不自然な配置に感じてしまう。ダンジョンの常識ってのを、段々と理解し始めている駆け出し探索者の身としては。
別の自分は、山の中に廃棄するなと大声で怒鳴ってるけど。
それは置いといて、さて作戦である……結局はレイジーに頼んで魔法での遠隔攻撃か、前衛陣が飛び込んでの直接攻撃かの二択なのだが。
MP切れのミケの例もあるので、ここはレイジーには休んでいて貰う事に。そんな訳で、護人と姫香で調子を合わせての、飛び込み&一気に殲滅作戦に。
なお、念の為にと2人とも簡易マスク着用済みである。
「やあっ、たあっ……!!」
姫香の勇ましい掛け声が響くが、護人も手前の1匹を見事な手腕で倒していた。相手からの反撃の様子も一切無し、姫香もスキル使用で奥の2匹を連続で倒して行って。
ただ残念な事に、危機を感じた2匹目がこちらの攻撃に敏感に反応。案の定の悪臭を放って、それはさほど大きくもない小部屋を満たして行く。
もちろん人間たちも、その被害には均等にあった訳だけど。犬達ほどには悲惨な目には合わなかった模様、何しろ基礎能力が全く違う。
護人と姫香も、慌てて悪臭の中心点からダッシュで逃げて行く。程無く4層の大通りまで、全員が避難を果たして一息ついて。
各々が、服に臭いが染み付いてないかのチェックに余念が無い。
「ふうっ、酷い目にあったな……ちょっと犬達を休憩させよう、皆も休んでてくれ。俺はちょっと、冷蔵庫の中身を確認して来るよ。
敵は全部倒してるから、危険は無い筈だし」
「う、うん……気を付けてね、護人叔父さん」
私も行くと言う香多奈を何とか宥めて、護人は単独で小部屋へと向かう。忠犬のレイジーも、さすがに悪臭トラウマのせいか追従する気配は無し。
その小部屋は、しかし敵の姿も悪臭も消え去って静かなもの。取り敢えずは安堵の吐息をつきながら、ゆっくりと小部屋の様子を確認する。
古びた冷蔵庫は、変わらずそこにあった。
そして中身も大当たり、いやアイテムが当たりかどうかは鑑定してみるまでは不明だけど。とにかく数だけは多く、色違いのポーション類が4本と水色の石ころが2個ほど確認出来た。
それから、これも以前に見た事がある木の実が3個と、割と良さそうなマスク装備が1つ。最後に、謎の石炭が数本ほど入っていた。
何だろう、防臭剤の代わりだろうか?
まぁ、これだけあれば子供たちも喜ぶだろうと、護人はアイテムを抱えて道を戻って行く。案の定と言うか、香多奈はそれを見て大喜び。
ハスキー軍団も、何とか体調を復活させている模様。
それを踏まえて、一同はこの後の層も進むかどうかを話し合う。被害も体力の消費も少ないが、精神的なダメージとミケの脱落は痛いかも。
ただ、子供たちはそうは思わなかったみたいで。もう1層だけでも進もうよと、意欲は減じていない様子。ここまで1時間、まだ余力もたっぷりとあると。
そう言われると、護人も応じるしか無く。
試しにもう1層を合言葉に、一行は5層目へとチャレンジ。一度は新造ダンジョンでも到達した事のある階層なので、まぁそれ程に不安は無いとも言える。
ところがこの鼠ダンジョン、5層目からまた別の側面を見せ始め。本通りの大ネズミの大群には、一際大きなボス鼠が何匹か混じり始めて。
ついでの様に、天井からは大蜘蛛の襲撃が。
「皆気を付けて、敵の数が一気に多くなってるぞ! 紗良と香多奈はもっと下がって、階段近くまで退避してくれ!
ツグミとコロ助も、2人の護衛で一緒に下がってくれ!」
「わわっ、暗がりから一気に集団で襲って来るのはズルいよっ!!」
文句を言いつつも、大人しく護人の指示に従う香多奈と姫香。ツグミとコロ助も、言いつけ通りに階段まで護衛する構え。そして襲い来る大ネズミは、何と30匹以上!
こんな大群の対処は、さすがに前衛2人+レイジーだけでは無理。護人と姫香も奮闘するものの、何匹から身体を駆け上がられたり噛り付かれたり。
幸い防具がしっかりしているので、大事には至ってないけど。
パニック模様は伝播していて、後衛の2人も相当な慌て具合。幸い、ツグミとコロ助とルルンバちゃんが近場で頑張って、たまに前線を抜けて来るネズミを退治してくれている。
それはともかく、かなり離れてしまった前衛の2人がヤバい。レイジーは孤軍奮闘してくれているが、素早いネズミ相手に炎のブレスは何匹も範囲に巻き込めずにいる。
どうしようと慌てる香多奈の視界に、鞄に収まったミケが映る。
それからさっき、護人が持ち帰ったポーション類。この中にひょっとして、MP回復ポーションは無いだろうか? すがる思いで、香多奈は妖精ちゃんにそう訊ねると。
この赤いのがそうと、あっけらかんとした返答が彼女から。それを受け、大急ぎで小皿を用意する香多奈。それを鞄から取り出したミケに差し出して、戦闘復帰を必死に願う。
出来れば苦戦中の、護人と姫香を助け出して欲しい。
「お願い、これ飲んでミケさんっ……ほらっ、ミケさんの好きなネズミが向こうにいっぱいいるよっ!?」
「ミャ~~」
返事をしつつ、差し出された液体を舐め始めるミケ。それを前にして、必死に回復を祈る香多奈と紗良。果たしてその効果は、すぐさま如実に現れた。
ミケの髭がピンと伸び、尻尾もシャキッと元気を取り戻して。近くでドタバタと走り回っていた敵をひと睨みしたかと思ったら、電撃一閃で吹っ飛ぶ数匹の大ネズミ!
そこから少女2人+キジトラ猫の、怒涛の反撃が始まる。
MPを棚ぼた式に回復したミケは、何と言うか半端無かった。それを大事に胸に抱えた紗良と、あそこの集団やっつけてと的確かは不明だが指示を出す香多奈。
敵を雷でなぎ倒しながら、2人と1匹は再び前線へと近付いて行く。
傷つきながらも闘志は衰えず、武器を振り回していた姫香は、いち早くその接近に気付いた。足元の気配を蹴飛ばしながら、近付く2人に声を掛ける。
元気な返事は、つまりはミケさんが復帰したよとの通達だった。それを隣で聞いていた、同じく戦闘中の護人も状況の打開に安堵の表情。
兎にも角にも、これで戦況も好転しそうな雰囲気。
数匹いた厄介な大蜘蛛も、レイジーとミケの魔法で全て焼き尽くしてくれた様子。怪我をしてませんかとの紗良の問いにも、何とか答えられる余裕は出来て来た。
敵の数は、ようやく全て消え去ってくれた感じである。同じく、前衛まで出張って活躍していた、ルルンバちゃんが魔石の回収に乗り出して行く。
実際、彼のネイルガンで倒された敵も数匹存在していて。
「本当にヤバかったね、護人叔父さん……ちょっと雑魚しか出ないって、ダンジョンの本通りを舐めてたよ。私のスキルも、小さい敵がたくさんの場合はあまり役に立たないし。
ミケがいて良かったね……どうやって回復したの、香多奈?」
「さっき叔父さんが回収したポーションの中に、MP回復の奴が混じってたの! 我ながら凄い閃きだったよね、私がいて良かったでしょ?
だからこの先も、仲間外れにしたらダメだからねっ!?」
仲間外れとは人聞きが悪いが、少女からしたら同行の拒否はそうなのだろう。護人は唸るように返事をしつつ、周囲を伺っての安全確認。
奮闘していたレイジーも戻って来たが、どうも先ほどと違って様子がヘン。これはさっきのミケの症状に似ていると、香多奈がMP回復ポーションを分け与える。
これでもう少々、継続して戦闘能力が確保出来そう。
紗良が会話の合間を縫って、護人と姫香、それからハスキー軍団の回復を行っている。この先はどうしようの話し合いは、やはりもう少し進んでみようで決着がつきそうな気配。
何より、ミケの復帰が大きい……彼女の使う雷魔法は、文字通りに雑魚など軽く蹴散らす威力を秘めている。これさえあれば、今後また数のパワーで押されても大丈夫だろう。
そして単体の大きな敵は、姫香が何とかする作戦で。
今回は、前回の反省と経験も踏まえて、シャベルを2本とスコップを半ダース追加で持って来ている。荷物運びの紗良の負担は増えるが、ボス級の敵に手も足も出ない事態は避けたいし。
って言うか、今回は香多奈も荷物運び役を買って出ているので。少女の背のリュックは、持って来た荷物や回収したアイテム類で割とパンパンに。
それでも家族の役に立つなら、何の文句も無い香多奈である。
最終的に、もう少し進もうの意見に押されて本道を進んだ来栖家パーティ。小休憩を挟んで元気を取り戻したハスキー軍団と、姫香が先頭に立って暗い通路を進んで行くと。
程無く大きな扉に突き当たって、これは何だろうと護人に報告する少女。犬達も、他に通路は無いかと周囲を嗅ぎ回っている。そこに背後から、控えめな紗良の意見が。
つまりこの扉の類いは、E-動画でも何度か見掛けたそうで。中ボス部屋が、この先に控えているとの事。これを突破しないと、更に奥の階層には辿り着けない仕様らしい。
ダンジョンには良くある構造で、引き返すタイミングでもあると。
「この扉の先が、中ボスの部屋なのかぁ……でも、レイジーもミケも回復ポーション使っちゃったし、今引き返すのは勿体無いよね。
私ももう少しスキル使えるし、速攻で畳み掛ければ何とかなるんじゃ?」
「そうだねぇ……実はさっき妖精ちゃんに、他に有効なアイテム無いかなって訊いたんだけど。そしたらこの石ころ、実は魔力を込めて投げれば爆発して敵にダメージを与えてくれるんだって!
これが護人叔父さんが冷蔵庫から回収したのと、さっきの戦いで魔石と一緒に回収したのとで、全部で5個あるよっ!
との位強いのか分かんないけど、これで私も援護するよっ!」
――それは初耳だが、ぶっつけ本番は流石に怖いなと思う護人だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます