第17話 ミケの暴走で、再ダンジョン突入が決定する件
皆で協議した結果、家長の護人が出した結論は。取り敢えずは“魔素鑑定装置”で用水路近くのダンジョン前の魔素濃度をチェックして、その結果で対処を考えると言うモノ。
とは言え、悪い予感と言うのは割と高確率で当たるのも事実。そして思い出す、そう言えばこのダンジョンも随分長い事“間引き”していなかったなと。
これは不味いかもと、思った護人の予想は大当たりで。
「……それを踏まえて、ミケが気を利かせて間引きをしてくれていたのかなぁ、姫香お姉ちゃん?」
「いや、違うでしょ……あれは最近私達が構ってあげて無いから拗ねてるのが半分、もう半分は子供に狩りを教えてやる的な本能みたいなモノなんじゃないの?
ミケのドヤ感が、ひしひしと伝わって来てるよ……」
確かに姫香の言う通り、息絶えて魔石になったモンスターに、今は胡乱な表情を浮かべているものの。その前のミケは、獲物を狩って来てやったぜ的な得意満面のオーラが凄かった。
猫の本能がどの程度作用しているのかは分からないが、姫香の推測は概ね当たっている気がする。とは言え、ただの猫の筈のミケが、ネズミ型とは言えモンスターを狩れるモノだろうか?
しかも当の本
そして狩りの続きを催促すべく、ダンジョンの入り口で入るぞと催促の鳴き声。香多奈に限っては、それを受けて皆の革スーツを取りに母屋へと走り出す始末。
せっかちなその行為に待ったを掛けて、護人は暫し思案する。昼からももちろん野菜の植え付けはあるが、応援に来てくれている老夫婦が危険に見舞われる事態は防ぎたい。
まぁ、放っておいて今すぐどうこうってな事にはならないかもだが。
待機中の植松夫婦に、手短に現状を報告して。念のためにと、午後の手伝いは丁寧に断りを入れる護人。いや、本音を言えば今日1日で一気に終わらせたいのだが。
安全の確保が第一なのは、“大変動”以降のこの世界では当然の行為でもある。そんな護人の
それを受けて、ハスキー軍団もヤル気満々。
愛想の良い事に、ミケは皆の準備が整うまでダンジョン前で大人しく待ってくれていた。護人達の装備や武器は、前回と同様で大きく変化は無い。
ルルンバちゃんも香多奈に抱えられ、前回と同様の付属品を携えて参加する模様。そして香多奈も、護人からスマホを受け取って撮影役に徹する様子。
心配顔の護人だが、大泣きされるので断固阻止も出来ないと言う。
「ミケが待ち
「ああ、いや……安全第一で、危なくなったら引き返す方針で行こう。特に香多奈、絶対に前に出ないようにな?」
「分かってるよ、叔父さん……盾も持ってるし、紗良姉さんの横から動かないようにするよっ!」
やる気十分の姫香にコメントを求められた護人は、取り敢えず最年少の香多奈にクギを刺しておいて。そして待ち侘びた様子のミケに視線を向け、こちらの準備は出来たよのサイン。
それを受けて、のそりと風格を漂わせて動き出すミケランジェロ。子供たち付いておいで的な仕草で、先頭をゆっくりと歩き始める。
そして始まる、来栖家パーティ2度目のダンジョン突入。
洞窟内の雰囲気は、初回の裏庭ダンジョンと大差が無いような気がする。広さや暗さも同様、唯一の大きな違いはミケが先頭を進んでいる事だろうか。
その次に護人と姫香、それからスキルを得たレイジーが続く。ルルンバちゃんもご機嫌に、後方から大きな音も立てずに付いて来ている。
そして第一層の、敵が早くもお出迎え。
ミケもとっくに感付いていて、その対応はまさに迅雷神速だった。彼女の毛が逆立ったと思ったら、地面を走り寄って来ていた大ネズミ3匹が感電したように次々と倒れて行き。
そこにすかさず近接攻撃、喉元に噛み付いて止めを刺す仕草に。レイジーとツグミも追従して、護人と姫香は武器を振るう隙も無いと言う。
ルルンバちゃんのみ、勇んで出現した魔石を回収して廻っている。
「……護人叔父さん、今のはナニ? ミケが何かこう、雷みたいなのを放った気がしたんだけど。ひょっとして、魔法系のスキルとか覚えてたり?」
「ミケさん、凄いねぇ……妖精ちゃんも、今のは魔法だって言ってるよ? 詳しい事は分かんない、妖精ちゃんはミケさんには絶対に近付きたくないそうだから」
「うぅむ、ひょっとしてネズミ退治の最中に、偶然スキル書を入手しちゃったとか? どちらにせよ、ミケはウチの戦力として期待出来るな」
護人の言う通り、一層の通路はミケの独壇場となった。サポートにレイジーとツグミが頑張る程度で、護人と姫香は武器を振るう機会は全く無し。
ところが2層への階段が見付かった頃、肝心のミケの様子が何だかヘンに。酔ったように小さな体かふらついて、どこかエネルギー切れを思わせる。
最終的には、護人の足元に近付いて頭を擦り付ける仕草。
それから座り込んで、一歩も動こうとしなくなってしまった。どうやらMP切れを起こしたんじゃないかなとは、同じ経験のある姫香の推測である。
彼女も自分のスキルを、暇な時間に色々と試してみたようで。つまりは調子に乗って使い過ぎると、こんな風に身体に力が全く入らなくなる事態に陥るとの事。
しかしさすがにニャンコ、後は任せると気紛れな潔さは
仕方無く、護人はミケを抱え上げて後衛の紗良に預ける事に。持参のリュックに頭だけ出して、収納して貰えはそれ程には今後の探索の負担にはならないだろう。
ちなみにこの1層の脇道は1つ、覗いてみたら大蛭の巣だったので。レイジーに頼んで焼き払って貰って、ドロップした魔石をルルンバちゃんに回収して貰って終了。
厄介な能力持ちの敵は、近付かずに倒すに限る。
「そだねっ、奴らは知らない内に肌に引っ付いて血を吸って来るもんね。……ってか、レイジーと護人叔父さんって、普通に会話が成立してない?
レイジーが賢くなってるのかな、ツグミとコロ助はどうだろう?」
「……そう言われたら、そうかもな。香多奈が普通にルルンバちゃんや妖精ちゃんとコミュニケーションを取ってるから、俺も何となくそんなモノだと思っていたかも。
ひょっとしたら、これも“変質”の一種なのかも知れないな」
そうなんだと、納得した感じの姫香ではあったモノの。私もツグミと会話出来るようになるぞと、余り深く考えていない事はモロバレだったり。
それより1層では全く戦う機会の無かった前衛陣、姫香は次の層では頑張るぞと暴れ足りなさをアピールしている。確かに雑魚の大ネズミ辺りでの肩慣らしは、必要かもと護人も思う。
ミケはいきなり戦力外だし、2層からが本番か。
そんな意気込みの第2層も、やはりメインの敵は大ネズミだった。一度に出現する数もそれなりで、戦ってみてその厄介さが身に染みると言うか。
何しろ奴らは小柄で、地面すれすれを素早く駆け寄る生き物なのだ。前回闘った蟻型モンスターと、殴るべき位置と言うか高さがまるで違って来る。
蹴った方がまだ早い、実際姫香は途中からそんな対処方法に。
逆にハスキー軍団は、水を得た魚と言うか普段の狩りの方法で順応出来ていると言うか。護人と姫香が
お陰で、半ダース以上いた敵も後衛に届かず始末出来てる感じ。ワーキャー言いながら撮影している香多奈には、まるで緊張感は
そして数分後には、第一陣は全て消滅。
すぐに第二陣に遭遇するも、その頃には護人と姫香にも多少の慣れと余裕が生まれていて。器用に武器と蹴りとを使い分けて、大ネズミの群れを蹴散らして行く。
ハスキー軍団も同様、レイジーに至ってはスキルを使う素振りも見せない。雑魚と分かっているのだろうが、その姿はある種の風格すら窺わせる。
そして突き当りに到着、紗良の報告では脇道は2つあったそう。
どちらにも小部屋が1つずつあって、居座っていた敵も1匹ずつだったのだけど。いたのは大ムカデと大モグラと言う、ある意味厄介な奴らだった。
これには護人が、紗良から盾を借りての対応で乗り切って事なきを得て。その隙に姫香がスキルを使って、ほぼ一撃で始末する作戦が功を奏した感じ。
この安全策は、この後も多用しそうな定番作戦になりそう。
「あっ、モグラの巣に何か落ちてる……ツグミ、こっち持って来て!」
「おっと、これは栄養ドリンクの瓶かな? 相変わらず古い容器に入ってるな、恐らくは捨てたモノを再利用してるんだろうけど。
利用する側からしたら、これに口を付けたくは無いよな」
「家から空ボトルを持って来てるから、それに移し替えておきますね? ミケちゃん、休んでる所をゴメンね……ちょっと中のモノ取り出すね?」
前衛陣が休憩している最中に、紗良がポーションの移し替え作業をこなしつつ。同じく休息中のミケは、回復する見込みは無さそうな雰囲気。
妖精ちゃんによると、回収した液体は普通の回復ポーションらしい。ダンジョン産ではありふれたアイテムだが、それでも売値は100mlが千円程度である。
残念ながら、回収出来たのは200ml足らずだったけど。
第3層も、本道は大ネズミの縄張り……と思いきや、天井から土蜘蛛が飛び降りて襲って来て。妖精ちゃんとレイジーのセンサーのお陰で、不意打ちこそ喰らわなかったモノの。
初対面の敵の登場に、一同に緊張が走ったのも事実。特に護人が、大型の蜘蛛を苦手としている事もあって。そのワサワサとした動きに、前衛の対処が一瞬だけ揺らいだ場面も。
幸いにも、姫香とハスキー軍団の働きでこちらに被害は無しで戦闘終了。
「いや、スマン……何と言うか、蜘蛛を見るだけで体に怖気が
迷惑かけるけど、後ろには通さないから安心してくれ」
「あっ、黙ってましたけど……私も蜘蛛とかムカデとか、カマドウマとか家の中に出没する虫は全般的に苦手です。毎回ほぼ全部、姫香ちゃんと香多奈ちゃんに退治して貰ってます。
2人は田舎あるあるだって、全然余裕そうですけど……」
アレは確かに嫌だよなと、全力で同意の護人だけど。そんなんじゃ田舎で生きていけないよと、5年間の半端ない対応力を示す妹分たち。
春先や秋口にありがちな、田舎ならではの嫌な恒例行事ではあるのだが。長い事田舎で暮らしていても、慣れない者もいるのは当然で。
ゴキブリと一緒だ、毒とか無くても嫌な人は一定数いる訳で。
この先も出て来ると思うと、気の重い護人ではある。半面、犬達はこの敵は苦手とか我が儘を言わないので有り難い。いや、実際は彼女たちにも苦手な戦闘相手はいるかもだが。
強心臓の持ち主のハスキー軍団は、どうも戦闘本能の方が勝っている様子。実際、この層の支道に居座っていた大蛇相手にも、果敢に攻め込んで行くその勇姿。
猛烈なアタックに、3メートルを超す大蛇も2分で昇天。
「……蛇も嫌だな、特にビッグサイズともなると」
「蛇は殺すと祟るからねぇ……あっ、でも魔石になったから関係無いのかな? 無事に成仏してくれたって事だよね、それなら安心なのかな?」
「前の部屋にいたワームよりは、手応えがあったな……段々と敵も手強くなって来てるな、次の層も行けるかな」
紗良と姫香の良く分からない遣り取りに、護人の冷静な感想が続く。確かに手応え的には、この前に潜った裏庭ダンジョンよりはありそうな気がする。
モンスターの数はどっこいだけど、通常の敵に関しては向こうの蟻型モンスターの方が強かったか。ただし今後も大蜘蛛が本道の敵に混じると、こっちの方が難易度高くなるかも。
などと思っていたら、ルルンバちゃんが何かを発見した。
そこは大蛇を退治した突き当りの小部屋で、半ば土に埋まっている状態だった。姫香が発掘を手伝ったところ、それは古びたブリキの箱だった。
まるでタイムカプセルだが、案外と元はそうだったのかも。
「やった、これにもお宝が入ってたよ……えっと、これは鑑定の書かな? 2枚あるね、後は変な尖った骨が一緒に入ってる。
素材かな、そっち系も売れるんだっけ、香多奈?」
「あ~っ、何かパンフレットにはレア素材も高価で買い取りますって書いてたかなぁ? 多分買い取って、武器とか装備にするんじゃないかな。
叔父さん、高く売れると良いね!」
そんな感じでテンションの上がった子供たち、当然のように更に下層へと降りるつもりの様子。手綱を与る護人だが、一歩引いてしまいがちな性格のせいで止める術も無し。
ハスキー軍団も疲れ知らずで、先頭を行く姫香に追従する。
――とりわけ順調に、2度目のダンジョン攻略は進んで行くのだった。
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