第12話 何とか最終層まで辿り着く件



 ここまでは割と楽勝な道のりで、ルルンバちゃんの戦闘参加も紗良の回復魔法も、ほぼ出番は無かったのだが。この地下4層はそうもいかずで、強敵もぼちぼち混ざり始めた感じ。

 その代表格が、本道にいる蟻の団体に混ざっている、一際大きな体格の戦闘アリである。数は少ないのだが、フロアも広くなっていて遭遇率も高くなっている。

 つまりは、自然と戦闘時間も伸びて来て。


 ここに来て、ハスキー軍団が大活躍……もちろん、護人と姫香もシャベルと鍬を振るい続けているけれど。そしてルルンバちゃんも、2層以降満を持しての戦闘参加。

 奴らの足元にこっそり忍び寄って、痛烈な釘の一撃をお見舞いしている。


「おおっ、相変わらず凄いな……奴ら意外と足元がお留守だから、あの戦闘方法は有効だな」

「何かアリの癖に、アイツら全員立ち上がった格好してるもんね……アイツらの頭が、あまり良くないのって地味に助かるよね、護人叔父さん」


 割と痛烈な姫香の批評だが、まさしくその通りだと護人も思う。敵の群れに知恵が備わっていたらと思うと、かなりゾッとする事態には違いなく。

 所詮は昆虫、こちらを侵入者とみなしてただ闇雲に突っ込んで来るばかり。そこには連携も何も存在せず、こちらは逆に人間とハスキー軍団のチームワークで対処出来ていて。

 そんな訳で、4層の本道もほぼ攻略と相まって。


「ふうっ、あの赤紫色のアリは手強かったな……姫香、怪我はしなかったか? 香多奈、犬達のチェックも頼む」

「りょうかいっ、叔父さんっ! ルルンバちゃん、魔石の回収お願いねっ?」

「私も怪我は負ってないよ、護人叔父さん。ここも本道はアリの群れで、支道は他の虫系のモンスターって配置かな? 護人叔父さん、支道のモンスター掃除もしとく?

 それともダンジョンコアっての壊したら、全部のモンスターはいなくなるのかな?」


 紗良が律儀にも、地下4階の脇道の本数も数えていた模様。それによると全部で3本で、敵の気配に関しては分からなかったそうな。

 香多奈が妖精ちゃんに訊ねたところ、確かにダンジョンコアを破壊すればダンジョン内の全てのモンスターは綺麗にいなくなるそうだ。

 ただし、倒しに行った方が魔石の収入に繋がる事は間違いなく。


 子供たちの意欲は留まる事を知らず、支道も全部回ろうと家長の護人に提案がなされ。多数決の原理で、呆気無くその案は実行される事に。

 そして姫香を先頭に、本道を引き返す事数分。突入してまだ1時間足らずなので、皆の疲れもそれ程では無いとは言え。ダンジョン攻略の目的に、ズレが生じているのに護人は一抹の不安を覚えてみたり。

 ただし、2本の脇道の突き当りに明確な危険は存在せず。


 と言うか、上の層とほぼ同じで巨大ダンゴムシと巨大ゲジゲシの巣みたいな造りだった。数匹ずついたソイツ等を退治し終えて、後に残った魔石を喜んで回収して。

 そして残りの1本で、ちょっとした異変が発生した。そこに巣くっていたのは巨大オケラで、ソイツ等は見た目に反して割と凶悪だった。

 何しろ土掘りに適した前脚は、物凄いパワー。


 危うく、武器の鍬を壊されそうになった姫香は大慌て。レイジーとツグミのサポートが無ければ、一撃喰らっていたかも知れない。

 それにはもちろん、隣で戦闘を行っていた護人も肝を冷やして大慌て。敵2体に囲まれていなかったら、すぐにでも駆けつけていただろうけれど。

 しかしその後の姫香の反撃で、巨大オケラは無残に散りゆく破目に。


「オケラの癖に生意気なっ、たあっ、やあっ……!!」

「うわっ、お姉ちゃん……またスキル使ったんだ、凄いパワー!」


 『身体強化』のスキルは、ここでも大活躍の様子を見せ。その突然の凶悪なパワーアップに、逆に敵の群れに哀れみを覚えてしまう程だったり。

 犬達も多少引いていて、この娘っ子に残りを任せても大丈夫かな的な態度で見ている様子。護人も同じく、瞬く間に残りのオケラは姫香の鍬捌きでミンチになって行く。

 そして残された魔石を、ルルンバちゃんと香多奈で仲良く回収。


「姫香、大丈夫だったか……頼むから、あまりこっちの心臓に悪い事はしないでくれよ?」

「うん、御免なさい護人叔父さん……やっぱり強いモンスターもいるんだね、初めて戦う奴との戦闘は気を引き締めて行くよっ!」

「……あれっ、ツグミ? そこはオケラの掘った巣穴じゃないの?」


 不意に、落ちていた魔石を拾っていた香多奈が言葉を発した。どうやらツグミが、壁にあいた横穴に首を突っ込んで、何かを嗅ぐ仕草をしている様子。

 確かにオケラのモンスターは、床や壁の穴からこちらに襲い掛かって来ていた。ただしツグミが興味を示している穴は、ちゃんと綺麗に整備されているダンジョン仕様で。

 代わりに覗き込んだ香多奈だが、何とその横穴の奥深くに宝箱を発見!


 興奮する少女だが、何とか灯りに照らし出されたその宝箱は、結構な穴の奥に配置されていた。子供の体型なら、何とか這って奥まで届くかなって絶妙な位置である。

 大人はちょっと無理、ハスキー軍団も這って進めば何とかって感じ。そして護人が制止する間もなく、香多奈はその穴に這って侵入を試みる。

 そして中ほどまでで断念、宝箱の回収までは無理なよう。


「あ~んっ、私じゃ届かない……ルルンバちゃん、お願いっ!」

「アンタで無理ならもう駄目でしょ、香多奈。勿体無いけど、諦めるしか……ええっ!?」


 妹の無茶振りに、呆れた表情の姉の姫香のツッコミ。彼女もしゃがみ込んで、ライトで照らされた細い穴の奥の宝箱を確認してみたのだが。

 思ったより奥に配置されていて、しかも箱は穴にみっちりと詰まっている感じ。つまりは、箱ごと回収しないと開ける事は出来そうにない。

 お掃除ロボなら眼前まで到達は可能だろうが、回収までは無理そう。


 箱の回収は不可能だと、本人も思ったのだろう……静かに、任務を遂行しに向かったお掃除ロボだったけど。不意に釘を射出したかと思ったら、箱を破壊して中身の回収へと切り替える優秀さを発揮して。

 誰も思っていなかった行動に、一行は言葉も無く成り行きを見守るのみ。そしてゆっくり穴から這い出たルルンバちゃんは、香多奈の前で収穫品を吐き出した。

 そして湧き上がる歓声、複数のアイテムが地面にばら撒かれる。


「凄いっ、ルルンバちゃん……わっわっ、大収穫だよっ! 見て見て叔父さんっ、スキル書も1枚あるよっ! 後はブローチみたいなのと、メモ帳の切れ端みたいなのかな?

 妖精ちゃん、コレは何だろう?」

「ブローチみたいなの、ちょっと可愛いね……虫の形、カナブンか何かかな?」


 妖精ちゃんの簡単な説明によると、『蟲のブローチ』は魔法の品じゃ無いかなって事で。スマホサイズのメモ用紙×2枚は、どうやら噂の『鑑定の書』のようだ。

 へえ~っとか驚きながら、子供たちはそれらの品を熱心に眺める素振り。一方のスキル書だが、こちらは大当たりだと確定しているけど、即使用でパーティ強化が望ましそう。

 そんな理屈で、姫香が家長の護人に厳かに差し出した。


 早速使えとの事なのだろうけど、習得する自信の全く無い護人にとっては躊躇ためらう事案でしか無く。それでも子供たちの手前、弱気な所は見せられない。

 促されるまま、護人はスキル書を開封して手の平をあてがってみる。そして案の定の無反応、ガッカリした反応が周囲に微妙に漂う。

 そして気を取り直した子供たちが、順次その儀式に取り組むも。


「あ~ん、今度は絶対に私の番だったのに! でも売るのは勿体無いよね……叔父さん、コロ助たちに使ってみてもいい?」

「アンタ、自分の犬ばっかり贔屓ひいきにするんじゃ無いわよ……試すなら、お母さん犬のレイジーからでしょ!」


 姫香のたしなめで、香多奈はレイジーを招き寄せての実験タイム。ってか、何か美味しいモノが貰えるのかと、ハスキー軍団全員が寄って来て急な密状態に。

 誰がナニに接触しているのか、傍から見ても分からない状態の中。そもそも末妹の香多奈は、犬からの序列が著しく低い立場にあるのも一つの原因かも。

 そして巻き起こる、プチパニックの嵐。


 承認の光は、果たして誰が巻き起こしたモノか……犬達に圧し掛かられて、その場にひっくり返った香多奈には全く見定める事は出来なかったのは確かで。

 姫香に助け起こされた時には、既に護人がレイジーの様子を確認にしゃがみ込んでいた。肝心の彼女だが、以前と違う箇所が明らかに一つあって。

 フサフサの喉元の毛が、灰銀色から朱色に変わっていたり。


「香多奈の持ってた、スキル書は無くなってるな……って事は、レイジーがスキルを覚えたのか。どんなスキルだろう、試しに使えるか、レイジー?」

「どうなんだろうね……私のとか紗良姉さんみたいなスキルだと、効果が分かりにくいかも? そうだ香多奈、妖精ちゃんは何て言ってる?」


 そうだった、こちらには特殊スペシャルな方法での、多少チートな鑑定カードがあったのだ。利口だが言葉を喋れないレイジーに問い質すより、ずっと確実な方法が。

 ところが妖精ちゃんの解説より早く、レイジーが自身に起きた変化に反応した。突然に短く遠吠えしたかと思ったら、宙空に向けて真っ赤な炎を吐き出したのだ。

 これには一同、ビックリ仰天!


 どう考えてもスキルの効果には違いなく、恐らくは炎系の魔法の書か何かだったのだろう。妖精ちゃんは『魔炎』系のスキルだろうねと、特に驚いた風も無く解説してくれたけど。

 残りの面々はそうもいかずで、犬もスキル書を使えるんだと今更な感想。お掃除ロボも覚えてるしねと、姫香のツッコミはまさにその通り。

 それに較べれば、はるかに常識的に思える不思議である。


 とにかく、4層の突き当りの探索で大いに戦力増大に漕ぎつける事が出来た来栖家パーティである。宝箱って夢があるよねと、香多奈のテンションは高めを維持していて。

 残りのアイテムは、ポーションや魔石と同じく紗良が鞄に入れて持ち歩く事に。詳しく調べるのは後回し、何しろダンジョンの中は魔素の濃いエリアには間違いなく。

 一般人の長居は、推奨などされない場所なのである。


 軽度の変質を認定された、来栖家の面々には今更な気もするけれど。その変質が進んだ結果が、どうなるのかは未だ不明なのがちょっと怖い所。

 進んで危ない橋を渡る危険を冒したくない護人は、皆が落ち着いたのを見計らって奥へと進むのを家族に促す。幸いな事に、ここまでそれ程の疲労も無く来れたのは大きい。

 後どれ程で、最終層なのかは全く判然としないけど。


「休憩はもういいな、みんな? それじゃあ次の層に進むぞ……レイジーが炎を使うようになったから、戦闘フォーメーションには気を付けて、姫香」

「分かったよ、護人叔父さん……でもいいなぁ、魔法ってちょっと憧れるよね!?」

「私が覚えたかったのに、狡いよねレイジーってば! でも次のスキル書は、絶対に私が覚える番だと思うんだ……!」


 はいはいと、香多奈のいつもの台詞を軽く受け流す姉の姫香と。危ない真似だけは許さないからねと、いつもの護人の小言を受けて。

 全くいつもの調子で、来栖家パーティは再び行動を開始する。スキルを覚えたてのレイジーも、それを受けて普段通りの護衛犬の所作を崩さない構え。

 ツグミとコロ助も同じく、1時間を超えた探索に特に疲労の影も無し。



 後ろから付き従いながら、紗良は思う。何と言うか、こんな探索者パーティも珍しいのではないかと。多少の緊張感の欠如は、ハスキー軍団もいるし大丈夫だろう。

 まぁ、誰かが怪我を負っても、自分が治してあげられるという思いはある。こんなホンワカとした、ペット同伴の家族パーティが1つくらいあっても良いではないか。

 そして願わくば、このまま何事も無く探索は終了して欲しい。


 一夜漬けの動画での情報収集だったが、それなりに役に立つ場面もあった。例えばダンジョンの雰囲気だとか、モンスターの出現位置のパターンだとか。

 それから宝箱から出現する、アイテムの種類なんかもそう。実際、今回箱の中に入っていた、鑑定の書の束にはバッチリ見覚えがあったし。

 他のダンジョンでも、この類いの品は結構回収出来るようである。


 今後もこの家族チームでダンジョン探索を行うのなら、自分は情報収集で役に立とう。紗良は秘かにそう考える、元より荒事にはまるっきり向いてないのだから。

 それが家族の絆だと思う、例え血が繋がっていなくとも。





 ――このチームの一員の座は、手放さないぞと紗良は強く誓うのだった。








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