第11話 初のダンジョン探索に向かう件
大揉めに揉めた末、香多奈の我が
腰に抱き着かれて大泣きされた日には、前言を撤回しない訳にも行かずな模様。そして泣いたカラスがもう笑うの、末妹のパターンも毎度の事。
そんな訳で、家族総出で昨日出来たばかりのダンジョンに挑む事に。
「ルルンバちゃんも連れてって、叔父さん! ほらっ、この子は自分で改良が出来ちゃうの……凄くない、武器と照明をくっ付けて自在に操るんだよっ!?」
「これ、本当にくっ付いてるのかい? ……あぁ本当だ、何か凄いと言うよりユーモラスだなぁ。ってか、妖精に次いでお掃除ロボともコミュニケーションを取れるのか、香多奈は」
「それもある意味、不思議系のスキルだよね……しかも割とチート、あんた知らない内にスキル書使ったんじゃないの?」
そんな覚えは無いよと、チート呼ばわりされて憤慨する末妹だったけれど。その肩には妖精ちゃんが乗っかっており、足元には電動のネイルガンと電気スタンドをくっ付けたお掃除ロボが控えている顛末。
そして手にはスマホをセットした盾を携え、上機嫌で撮影の準備に余念が無い。さすがに武器の類いは持たせたくない護人だったが、何も持たないと言うのも逆に怖い気がして。
姫香に相談したら、少女は何かを思い付いた様子。
そして納屋にダッシュして、彼女が手に掲げて持って来たモノは。何と強力ジェット式の殺虫剤、果たしてそれが蟻型とは言えモンスターに効果があるのか。
でもまぁ、何も持たないよりは遥かにマシかも?
当の香多奈も、それを手に勇ましいポーズを取っているから良いのだろう。とにかく末妹は、相棒のコロ助と一緒に一番後衛に陣取って貰うとして。
問題は自ら改良を施したと言うお掃除ロボだが、どうやら野外でも自走は可能っぽい。そして武器としてのネイルガン(電動釘打ち器具)だが、その威力はかなりのモノ。
実際、壊れて転がっていたブロックを釘で粉砕する程度には強力で。
「こりゃ凄いな、これもスキルの恩恵なのか……? 『吸引』系って事だったけど、まぁ吸い込むのも吐き出すのも似たような動作ではある……のかな?
上手く犬達と連携を取れれば、戦力にはなりそうだな!」
「そうでしょ、凄いでしょ……最初はこの子に、電動ノコを装備させようと思ったんだけど。スキルの関係か、上手く使いこなせない事が分かって。
苦肉の策で、ネイルガンにしたんだよ!」
そうらしい、どうも姉妹は日課の家畜の世話の後に、色々と試行錯誤を繰り返した模様である。そのお陰でルルンバちゃんは、戦力に数える程の補強が出来た。
苦労は見事に報われた訳だ……そのお掃除ロボだが、最初は取り敢えず様子見で中衛に控えて貰う事に。前衛でない理由は、レイジーたちハスキー犬に較べると経験も実績も無いからだ。
こればかりは仕方が無い、戦闘は信用が第一なのだし。
そして前衛は、護人と姫香とレイジーで担う事に決定して。ツグミは予備戦力として、少し後ろに控えて貰う予定。もっとも、どこまで犬達がこちらの意図を汲んでくれるかは不明だけれど。
レイジーはハスキーと思えない程に賢いが、一度戦闘に突入すると理性が吹っ飛ぶ可能性も無きにしも非ず。そもそも護人も、そこまで冷静に指示を飛ばせるかも不明だし。
ちなみに紗良も、香多奈と一緒に最後衛にいて貰う予定だ。
その当人だが、何故だか緊張の類いは一切窺えずほんわかした佇まい。まるで家族で、今から行楽に出掛けるかのような感じ。姫香と共に、持って行く品をチェックしている。
姫香は武器に、愛用の備中鍬を選択した様子。まるで畑作業にでも出掛ける雰囲気、革の繋ぎのレーサースーツがやや不釣り合いだけど。
こっちの娘は、テンション上がりまくりで勇ましい感じ。
昨日と同様に、ハスキー軍団には大きく期待を寄せている護人。間違いなく、戦闘においては頼りになる相棒達ではある。狭いダンジョン内では、やや動きを制限されてしまうかもだが。
とにかくこれで、大まかな突入の準備は整ったと思いたい。そんな護人の武器候補だが、昨日は紗良が使っていた根切りシャベルを選択。
色々と考えた末、
奴らは力持ちで、噛みつく攻撃やら蟻酸の放出攻撃は確かに要注意ではあるが。節足動物の弱点と言うか、首や脚などの関節部分は意外と脆い。
そこをシャベルの刃先でピンポイントに狙えば、戦闘時間は短時間で済むはずだ。理想はそうなのだが、向こうも動き回るのでなかなかそう上手くは行かないと言う。
とにかく昨日のように、チームワークがモノを言うだろう。
念の為にと、買ったばかりの“魔素鑑定装置”と“変質チェック装置”をリビングの縁側に持って来て使用する護人。2台で14万もしたのだし、使わないと損だなとか思いつつ。
反応は低いに越した事は無いのだが、残念ながらこちらの期待には両機具とも沿ってくれなかった。“魔素鑑定装置”によると、ハリバリ生活空間の縁側近くの魔素濃度は結構高いそう。
少なくとも、以前に較べると無視出来ない数値の気が。
それに伴って、“変質チェック装置”の結果である。苦労して説明書を読み解いて使用した末に、何と家族全員が“軽度の変質”に該当してしまっていた。
香多奈の提案で、ハスキー軍団も唾液を採取して確認したのだけれど。こちらも3匹とも、家族と同じ結果を導き出されて。
何となく、皆で黙り込んでしまう破目に。
「……まぁ、なってしまったモノは仕方が無いな。幸いにも、気分が悪いとかそんな症状は、まだ誰にも起きてないみたいだし。
そこに出来たダンジョンを活動停止にすれば、少なくともこの周辺の魔素の数値は下がる筈だしな……」
「そうだね、ダンジョン攻略頑張ろうっ……引っ越しなんて絶対に嫌だし、愛する我が家を守るためだもんね!
私もスキルを覚えたし、ガンガン敵を倒しちゃうよっ!!」
相変わらず勇ましい姫香の台詞に、妹の香多奈もオーッと追従の構え。4人とも装備は万端、そして侵入すべきダンジョン入り口はすぐ目の前と言う。
ハスキー軍団も、主人のテンションを感じて既に狩りモードへとスイッチが入っている感じ。頼もしい事この上ないが、狭い地下ダンジョンでは多少の不安が。
それは護人も同様で、何しろダンジョン突入など初体験なのだ。
それでも不安な顔など、一回り以上年下の子供たちには見せられないと。気合いを入れ直して、護人はそれじゃあ行くぞと号令をかける。
元気な返事と、ハスキー軍団の追従する気配。そして何故かルルンバちゃんも、家長の後ろを厳かについて行く構え。妖精ちゃんも、香多奈の肩の上にちゃっかり居座っている。
それをリビングから見送るのは、ネコのミケただ1匹のみ。
空気の変化は、入り口の階段に足を掛けた途端にはっきりと認知出来た。或いはそれは、魔素の濃度の違いなのかも知れないけれど。
護人とレイジーを先頭に、狭いダンジョン入り口を潜って階段を降りて行くと。程無く洞窟仕様の空間に出て、そこは既に地上の明かりも届かない暗闇の中。
その代わり、広さは入り口より2倍はあるだろうか。
「それじゃあ、灯りは姫香と紗良が担当な。姫香は、戦闘になったら補助を頼むとして。後ろの安全は頼んだよ、紗良」
「はいっ、任せて下さい」
「……ルルンバちゃんの灯りも、結構役に立ちそうだね。さすがに階段は降りられなかったけど、この位滑らかな床だったら動き回るのに不自由は無いかな?」
「そうだねっ、ルルンバちゃんも初陣だから頑張るって言ってる!」
果たしてお掃除ロボに、モンスターの相手が務まるかどうかは別として。彼の提供する灯りは、足元を適度に照らしてくれて都合が良くはある。
護人が見る限り、ダンジョン1階の道は真っ直ぐ1本のみ。シャベルを構えて、用心深く奥へと進み始めると。レイジーも同じく、獲物を探す構えで隣を歩き始める。
敵の気配だが、今のところは皆無である。
緊張しながら進む一行だが、それから10分間は何事も無い時間が過ぎて。そしてさらに下に降りる階段と、大型ダンゴムシの
ダンジョン内での初戦闘を、護人と姫香でサクッとこなす事2分。
綺麗に丸まる敵に、さすがのハスキー軍団も手足は出来ずな結果に。精々が、レイジーが頭突きを喰らわせて憂さを晴らす程度だったり。
こんな弱いモンスターもいるんだねと、逆に大活躍だった姫香は肩透かしを食ったような言葉使い。同意を口にする護人も、一息ついて周囲を伺うも。
他に敵影は存在せず、部屋には地下への階段があるのみ。
「あっ、ルルンバちゃん何して……おおうっ、床に落ちた魔石を拾ってくれてるんだ! 凄いね、叔父さん……こんな機能もあるんだね!」
「機能と言うよりは、本能じゃ無いのか……?」
大型ダンゴムシの落とした魔石は、屈んで見ないと分からない程の小粒だったけれど。お掃除ロボは、自走しながらそれを苦も無く吸引して行く。
程無く全部の散らばった魔石を回収したのか、そのままの勢いでお掃除ロボは香多奈の元へ。少女が興奮しながら、しゃがみ込んでその成果を確認する。
隣の紗良が、持参したビニール袋を差し出してくれて。
たった数個の小粒な魔石だが、これでも合計で数千円の稼ぎである。田舎のあるあるなのだが、山菜やら葉っぱやらが道の駅とかで結構売れたりするので。
子供の良い小遣い稼ぎになったりと、幼少期から経済に触れる機会も多いのだが。これはちょっと桁が違う、テンション爆上がりの子供たちである。
そんな訳で、護人が再度気を引き締める破目に。
そして地下2階層へと、同様のフォーメーションで降りて行く一行。どうやらオーバーフローを起こしたばかりのダンジョンは、浅層の敵の配置はスカスカの傾向があるらしい。
肩透かしの1層と較べて、2層目には敵はちゃんといた。地上に出て来た例の蟻型のモンスターが数匹、本道を塞ぐ格好で散見された。
そいつらを、細心の注意で倒して行く護人パーティ。
敵の行動パターンは、昨日の夕方の戦闘で織り込み済みである。向こうの本拠地のせいか、ダンジョン内の敵の方が動きにキレがある気もするけど。
こちらも
犬達も同じく、集団での狩りは彼らの本能に違いなく。
意外だったのは、自動お掃除ロボのルルンバちゃんだった。子供たちのゴリ押しで、護人的には半信半疑で同行許可を与えたのだけど。
何と、全く期待していなかった戦闘シーンでも活躍してくれて。ハスキー軍団が気を逸らしている隙に、背面に回って精密射撃でのネイルガンの急所への撃ち込みと来たら!
角度の都合で上半身は狙えないが、蟻モンスターの脚の関節を吹き飛ばす程。
「うわっ、ルルンバちゃんの戦い振りも凄いね、護人叔父さん……犬達も張り切ってるし、これは案外ダンジョンの攻略も思ったほどに大変じゃないかも?」
「油断するのはまだ早いぞ、姫香……でもそうだな、俺が思っていたほどには苦労せずには済みそうな雰囲気かもな。
少なくとも浅い層の敵には、余裕をもって対処出来てるな」
「この層には脇道が2本ありましたね、護人さん。念のために覗いてみますか、突き当りに次の層への階段が見えますけど……?」
紗良の言う通り、この層には支道が2本ほどあった模様。本道もそれ程の距離は無かったので、引き返して確認するのもそんな手間では無い。
一行は相談して、念の為にと脇道の確認も行う事に。そこは両方とも、別の蟲型モンスターの巣になっていた。とは言え、巨大ダンゴムシと巨大ゲジゲジが数匹ずついただけ。
巨大な虫は気持ち悪かったが、強さはアリほどでは無かった。
倒した敵の姿が、ダンジョンルールで消えてくれるのに子供たちは安堵の表情。虫とは言え、やはり潰れた巨大な死骸は見ていて気持ちの良いモノでは無い。
そして出現する、ドロップ品に一喜一憂の声が上がる。
「あぁん、ちっちゃい魔石ばっかり……スキル書出ないかな、今度は絶対に私の番なのに」
「アンタの番って事は無いでしょ、あれは資質とか相性が関係してるんだから。それより護人叔父さんに、何か強いのを覚えて貰わないとね?
私達のリーダーなんだから、しっかり強化はして貰わないと!」
姫香の妄想爆走トークに、護人は曖昧な返事を返す。確かに強力なスキルはダンジョン探索には助かるが、普段の生活に限っては無用の長物でしかない。
いや、姫香も紗良も微妙に生活に役立つスキルを獲得出来ていて、その点は運が良かったとも言えるけど。特に強さに憧れを持たない護人にとっては、超欲しいアイテムでも無し。
しかしまぁ、子供たちのテンションは収まる気配も無し。
3層には絶対、優良なアイテムが転がっているに違いないと。ともすれば先頭に立ちそうな子供たちの、手綱をしっかり握りつつ階段を降りる来栖家パーティ。
そして3層の蟻モンスターの数は、上の層の倍以上の有り様。とは言え、既に見慣れたモンスター……ハスキー犬のサポートを受け、早期の殲滅に勤しむ一行。
前夜の情報を元に、色違いの蟻には細心の注意を払いつつ。
「赤い奴が混じってる……注意してっ、姫香! 正面に立たないようにしろ、蟻酸が飛んで来るぞっ!?」
「分かってる、護人叔父さんっ……スキル使って、一気に首を落とすねっ!」
「頑張れ~っ、姫香お姉ちゃんっ!!」
香多奈の声援を背に受けて、宣言通りに姫香が初めて戦闘にスキルを使用。そのパワーと勢いは凄まじく、踏み込んでの一撃で赤蟻モンスターの首と胴体は泣き別れに。
その勢いのまま、別の蟻に突っ込んだのはご愛敬。助っ人に入ったツグミの一撃で、何とか体勢を立て直す事に成功した姫香だったり。
護人は肝を冷やしつつ、残りの蟻モンスターを駆逐して行く。
そして戦闘後には、小言を口にして子供たちの気を引き締め直す護人。姫香は一応反省している感じだが、香多奈に関してはいつも通りの大らかな表情。
ダンジョン内にいる緊張感も窺えず、はしゃぎ過ぎな気がしなくもない。
そしてこちらも普段と変わらずな紗良が、この層の脇道も2つあったと報告して来て。上の層に
そして見付かる、雑魚っぽい虫型モンスターと土に半ばまで埋まっているペットボトル風の何か。それを発見したのは妖精ちゃんで、後衛の紗良と香多奈に掘り起こすように指示を出す。
前衛陣は、何事も無く順調にゲジゲジの群れを殲滅し終わる。先ほどの小部屋はダンゴムシだったけど、ゲジゲシも強さに関しては似たようなモノだった。
気持ち悪さは、こちらの方が上だったけれど。
「うわ~っ、まだ肌がゾワゾワする……田舎住まいでも、さすがにゲジゲジとかムカデとかは慣れないなぁ。しかもモンスターサイズは、結構来るモノがある……」
「まぁ、そうだな……ハスキー軍団も積極的に噛み付きに行かないし、皆して思いは同じなんだろう。向こうの戦闘力が、ほとんど無いのが助かってる感じだな」
「わっわっ、ゴミかと思ったら……叔父さんっ、コレって中に入ってるのポーションだって、妖精ちゃんが言ってる!」
戦闘そっちのけで、アイテム回収に勤しんでいた後衛の面々だったけれど。何と発掘したペットボトルの中身は、噂のダンジョン産『
泥に汚れた2ℓのペットボトルの、中身は半分程度だろうか。一応、中の液体は澄んでいて汚れてはいない感じは受けるけど、これに直接口を付ける勇気は出ない気も。
そう言えば、昼間の販売員にも容器の携帯を勧められたっけ。
つまりは、使用するなり売りに出すなら、綺麗な容器に移し替えろってアドバイスらしい。どうもダンジョンには、地球の土中に捨ててあるゴミを再利用する習性があるようで。
探索者は、そんな光景をしょっちゅう目にするとの事だ。ネット動画で仕入れた情報だが、いざ目のあたりにするとトホホな気持ちになってしまう。
何しろ見た目は廃棄ゴミ、アイテムを得られたと喜ぶ気持ちも半減だ。
――それでもこれで1万円の価値があるとの事、ダンジョンって本当に不思議だ。
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